海外不動産投資の節税対策規制、今後はどの国でどう投資すべき?
海外不動産を利用した節税スキームが、2019年12月に発表された税制大綱で規制される方針であることがわかりました。政府は、海外不動産の運用で生み出した赤字を国内所得と合算できないよう法改正する予定で、節税目的で購入予定だった方は今後影響を受ける可能性もあります。
そこでこの記事では、2021年(令和3年)から適用予定の海外不動産に関する規制内容や、今後の海外不動産投資の運用方法、おすすめの投資先をご紹介します。節税規制について詳しく知りたい方や、今後の運用の仕方で悩んでいる方は参考にしてみてください。
目次
- 海外不動産を利用した節税対策の規制内容とは
- そもそも海外不動産が節税対策として利用される理由は?
2-1.不動産所得は他の所得と損益通算ができる
2-2.海外不動産には中古でも価値が高いものがある
2-3.今後は減価償却費の計上で赤字を作れない - 規制後の海外不動産で期待される投資国は?
3-1.新興国でのキャピタルゲイン狙いが主流に
3-2.タイ・ベトナムの値上がりに期待 - まとめ
1 海外不動産を利用した節税対策の規制内容とは
海外不動産投資における節税効果の高さについては、独立行政法人の会計検査院がその問題性を指摘しており、2019年12月に発表された「令和2年税制改正大綱」のなかで、海外不動産を利用した節税対策の規制につながる内容が盛り込まれました。
その結果、2021年(令和3年)以降は、海外不動産の所得を計算する場合に、その経費と所得の合算が損失額となった際、建物の減価償却費は経費として計上できないようになります。つまり、決算上の海外不動産の赤字を他の所得と損益通算できないので、これまでよりも所得税の圧縮効果を望みにくくなります。
なお、その代わりというわけではありませんが、不動産を譲渡した際、取得費から控除する償却費の累計から、新制度によりなかったものとみなされた上記の償却費分を除くことができるようになります。
このように、2021年以降は確定申告時の赤字申告による節税はできなくなりますが、譲渡所得税の算出時に経費計上するべき減価償却費を除けるようになるのが、今回の海外不動産に関する規制内容です。
2 そもそも海外不動産が節税対策として利用される理由は?
不動産投資は事業であることから、様々な経費を計上できます。例えば物件の管理をする不動産会社に支払う管理費や物件のメンテナンスのために要した修繕費や、固定資産税などの税金などが経費となります。
このほか、物件を購入する際に組んだローン返済のうちの金利部分や、不動産の建物部分における減価償却費も毎年経費として計上するのが通常です。
2-1 不動産所得は他の所得と損益通算ができる
日本国内に居住する人が、海外不動産を購入した場合も日本の税制が適用されます。そして、不動産所得は給与所得などほかの所得と損益通算することができます。損益通算とは、不動産投資により収入よりも経費のほうが多くなった場合、その赤字分をほかの所得と合算できるという制度です。
そのため、不動産の運用で生じた赤字を給与所得等と合算して申告すれば、課税所得を引き下げ、所得税と住民税を小さくすることができるので、不動産投資には節税効果があると言われています。
2-2 海外不動産には中古でも価値が高いものがある
欧米の住宅などの建物は、日本の住宅とは異なり築年数の経過による価値の劣化が少ないという特徴があります。そのため、購入金額のうち減価償却の対象となる建物分の割合が多くなり、耐用年数を過ぎた築古物件なら減価償却期間も短くなるので、経費計上できる減価償却費が大きくなります。
なお、減価償却とは、「時間が経つごとに減少していく資産の価値を、その資産の取得費を耐用年数で按分して毎年費用計上することで表す会計制度」です。
減価償却費が大きくなれば、それを加味しない場合には黒字になっていたとしても税務申告上の赤字を作り出せることもあるので、国内所得との損益通算による所得税の圧縮効果が期待できます。
このように、海外不動産は国内不動産よりも高い節税効果を期待できるケースもありましたが、会計監査院を含め各所から「特殊な節税対策であり、税負担の公平性を欠いている」との指摘をされていました。
2-3 今後は減価償却費の計上で赤字を作れない
今回の税制改正により、海外不動産投資では赤字となる場合に減価償却費を計上できなくなります。しかし一方で、不動産を売却する際に取得費から「差し引かない」という形で会計処理できるようになる予定です。
そのため、投資家にとっては、毎年の節税による税金還付から、売却時の税金負担を減らすほうにシフトされたと言うことができます。
3 規制後の海外不動産で期待される投資国は?
これまでは減価償却費や不動産会社に支払う手数料などの経費が収入より多ければ、赤字として申告できましたが、今後は給与所得から赤字分を差し引いて税金の還付を受けることはできなくなります。
一方、赤字に相当する減価償却費は、譲渡時の取得費から除けるようになるので、譲渡所得を圧縮することができます。これは、転売による譲渡所得税の節税効果が大きくなることを意味します。
3-1 新興国でのキャピタルゲイン狙いが主流に
所得税の圧縮効果が狙いにくくなる今後の海外不動産投資では、物件売却時のキャピタルゲイン(値上がり益)を狙う投資法に注目が集まるでしょう。売却時の譲渡所得は、次の計算式で求めることができます。
譲渡所得=譲渡金額-(取得費+譲渡費用)
譲渡金額は売却した時の価格で、譲渡費用は売却に伴う経費のことです。また、取得費は物件購入金額から減価償却費を差し引いて求めることができます。購入してから売却するまでに確定申告で計上した減価償却費が多くなるほど取得費は少なくなるので、譲渡所得が大きくなります。その結果、譲渡所得税も多くなるという仕組みです。
例えば、アメリカの中古戸建て住宅は、節税効果が高いという理由で高所得者層に高い人気がありました。ただし、エリアにもよりますが、アメリカの不動産価格は高いのでそれなりの所得がある人でなければ購入するのは難しく、外国人がローンを組むのも困難なため、現金で購入できるほどの資金も必要です。
2021年からは、取得費から差し引く償却費の累計額から、確定申告で控除できなかった減価償却費に相当する部分が除かれます。そのため、今後はアメリカの中でも堅調な成長が期待できるエリアや値上がり益の期待できる新興国の不動産を積極的に検討する機会が増えてくるでしょう。
3-2 アジアではタイ・ベトナムの値上がりに期待
給与所得が一般的な方でも無理なく購入可能な海外不動産としては、東南アジアの新興国物件が人気です。しかし近年は物件価格の高騰に加えて、価格上昇があまり期待できない国も出てきています。
2021年以降の値上がり益を期待して海外不動産投資をする場合は、タイやベトナムが候補になるでしょう。タイは経済成長が安定しているので、これからの不動産価格の上昇も期待できます。一方、ベトナムは、外国人の不動産購入が認められてからまだ日が浅く、物件価格も低い水準なので資金的にも購入しやすいと言えます。
アジア圏における直近1年の不動産価格の上昇率を高い順に並べると、以下の通りです。
スリランカ | 6.37% |
日本 | 4.67% |
タイ | 3.72% |
モンゴル | 3.47% |
インド | 3.44% |
パキスタン | 3.39% |
台湾 | 3.30% |
ベトナム | 3.19% |
シンガポール | 2.07% |
インドネシア | 1.35% |
マレーシア | 0.88% |
韓国 | 0.45% |
フィリピン | 0.43% |
フィリピンは不動産投資や旅行先として人気の高い国の一つですが、その上昇率には陰りが見えています。この1年間におけるフィリピン不動産の四半期の上昇率は以下のようになっています。
- 2018年第4四半期:5.02%
- 2019年第1四半期:6.09%
- 2019年第2四半期:02.08%
- 2019年第3四半期:0.00%
一方、タイ不動産の場合は以下のとおり、安定して上昇しているのが特徴です。
- 2018年第4四半期:0.07%
- 2019年第1四半期:1.43%
- 2019年第2四半期:0.70%
- 2019年第3四半期:1.47%
また、ベトナムは、不動産サービス会社のJLL(ジョーンズ・ラング・ラサール)の調査によれば、GDP成長目標率が6.6%~6.8%と高く、引き続き高い経済成長が期待されています。さらに、新たな高速道路の建設やハノイ・ホーチミン市での地下鉄などのプロジェクトにより、不動産市場の上昇も期待されています。
例えば、2019年第1四半期のホーチミン市でのアパート価格は前年比で22%上昇し、1平方メートルあたりで平均2,028米ドルの価格に達しています。ハノイでも前年比6.8%上昇し、1平方メートルあたりのアパートの平均単価は1,407米ドルとなっています。
ベトナムでは外国人は入国許可を取得できれば、不動産を購入することができます。ただし、集合住宅は1棟あたり30%までのみ所有が認められていたり、住宅建築プロジェクトのみ購入できたりといったように条件付きです。
さらにアパートやマンションを購入する場合、所有権は50年で、居住以外の目的では購入できませんが、賃貸に出すことは可能です。ただし転売は外国人が相手となり、50年の使用権を引き継ぐ形になります。
このように様々な規制はあるものの、これからのベトナム不動産は強い経済成長のもとで価格上昇によるキャピタルゲインが期待できます。
まとめ
欧米などの不動産は築古でも資産価値が高い上にスピード償却できるため、節税対策として購入するケースもありましたが、赤字計上による国内所得との損益通算を規制する法改正後は、投資方針の転換を迫られる方もいるでしょう。
その結果、今後は値上がり益を期待できる東南アジアの安い不動産に投資マネーが向くことも予測されます。特に納税額がそれほど高くない会社員の方でも売却時の節税効果を望めることから、海外不動産投資で資産形成を狙うチャンスは増えてくるでしょう。
この記事を参考に海外不動産を検討する場合は、ご自身で情報収集をすることも大切ですが、不動産や税の専門家の意見などを参考に適切な投資判断を下すことも重要ですので、落ち着いて相談を重ねながら検討してみてください。
Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
海外不動産投資の節税対策規制、今後はどの国でどう投資すべき?