ビットコインは本当にインフレヘッジか?ハイパーインフレ地域におけるビットコインの本当の使い道

今回は、度々論じられるハイパーインフレーション地域におけるビットコインのユースケースについて、渡邉草太氏(@souta_watatata)から寄稿していただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. アルゼンチンとベネズエラにおけるハイパーインフレーション
    1-1. 2000年以降のデフォルト回数
    1-2. 2004年以降のインフレ率
  2. Local Bitcoinデータから見るビットコイン需要
    2-1. LocalBitcoin上の取引高はほんの一部でしかない
    2-2. 取引高増加は、法定通貨のリプレイスを意味する訳ではない
  3. ベネズエラ人のビットコインの使い道
    3-1. ベネズエラボリバル→ビットコイン→外貨
    3-2. 外貨→ビットコイン→ベネズエラボリバル
  4. インフレ地域における仮想通貨サービスの普及

ここ2~3年、アルゼンチンやベネズエラなどの国々は深刻なハイパーインフレーションに悩まされています。そして同時に、現地でのビットコイン取引高が急上昇しています。

しかしそのような需要増化にも関わらず、ビットコインは価値の保存や日常決済の手段として浸透している訳ではありません。実際はもっと別の用途で使われています。

本記事では、インフレ地域でビットコインが使われる本当の理由について解説します。

アルゼンチンとベネズエラにおけるハイパーインフレーション

アルゼンチン及びベネズエラはどちらも、過去十数年で数回のデフォルトを経験しています。直近数年は異常な高さのインフレ率に悩まされており、経済は非常に不安定です。

2000年以降のデフォルト回数

国名 デフォルト回数 西暦
アルゼンチン 4回 2001, 2005~2016, 2014, 2020年
ベネズエラ 2回 2004, 2017年~
出典:Wikipedia, 日経

今年5月、アルゼンチンは新たにデフォルト認定を受けました。一方のベネズエラは、2017年以降ずっと事実上のデフォルト状態にあります。

2004年以降のインフレ率

最新データでは、アルゼンチンのインフレ率は2019年時点で53%となっています。2020年は当初40%前後と予想されていましたが、5月のデフォルトを考慮すると40%を大きく上回っている可能性があるでしょう。

一方でベネズエラは、上記データでは2018年時点で7万%となっていますが、日経の記事では268万%とも言われています。このインフレでベネズエラ経済は大打撃を受け、人口の1割が国外へ脱出するという事態に陥っています。

Local Bitcoinデータから見るビットコイン需要

ビットコイン統計サイトCoin.danceは、各国のLocalBitcoin上のビットコイン週間取引高を公開しています。以下はアルゼンチン及びベネズエラにおけるBTCの取引高推移です。両方の地域において、2017年頃から取引高が急上昇していることが分かります。

出典:Coindance

また、両国の通貨レートを考慮しないBTC取引量データを見ると、経済動向とBTC需要増加の結びつきをよりダイレクトに確認することができます。

出典:Coindance

アルゼンチンのBTC取引量が最高値に達している2014年末頃は、前回のデフォルトが確定し、インフレ率が急上昇し始めたタイミングと重なります。一方でベネズエラが最高値を更新したのは、インフレ率が268万%に達した2018年末のことです。

しかし、これらのデータを見る上で、以下の2点に注意が必要です。

  1. LocalBitcoin上の取引高はほんの一部でしかない
  2. 取引高増加は、法定通貨のリプレイスを意味する訳ではない

1 LocalBitcoin上の取引高はほんの一部でしかない

当然ですが、両国にはそれぞれ10以上の暗号通貨取引所は存在しており、LocalBitcoin上の取引高が全てではありません。bitrawrによれば、2020年現在アルゼンチンには13個、ベネズエラには11個の取引所があります。

さらにいえば、実際の主流な取引形態はWhatsAppやTelegram、FacebookなどのSNSを通したP2P取引だといわれています。(※理由は後述)

2 取引高増加は、法定通貨のリプレイスを意味する訳ではない

以上のデータを見て「ベネズエラとアルゼンチンでは、ビットコインが法定通貨を代替し始めている」と捉えるのは酷く短略的であり、事実間違った考え方です。

LocalBitcoin上でのBTC取引高の上昇は、法定通貨のリプレイスを意味してはいません。それよりも、BTCの本当の使い道は別の部分にあります。

ベネズエラ人のビットコインの使い道

結論からいうと、ベネズエラ人にとってのビットコインは、”銀行ネットワークを介さずに、ベネズエラボリバルと外貨との交換を可能にする仲介通貨”であり、価値の保存手段ではありません。

ハイパーインフレが起きた2019年、ベネズエラでは国外へ資産を退避させるニーズが増加し、ベネズエラボリバルからドルへの交換が急増しました。同時に、出稼ぎ労働者数や寄付ニーズが激増したおかげで、国内向け海外送金の需要にも火がつきます。

Voxによれば、当時ベネズエラには国外の出稼ぎ労働者や寄付団体から、毎月3億ドル近い海外送金があったとされています。この毎月3億ドルという金額は、ベネズエラの収入源うち、2番目に大きなパイを占めていました。(※首位は石油)

ベネズエラから国外に脱出した移民・難民は400万人に上る。/ Image Credit : Cfr.org

しかしこのような状況の中、ベネズエラ政府は通貨主権の防衛のため、大掛かりな資本規制を導入しました。具体的には、国内の銀行に全ての海外送金を検閲させることで、資金を没収したり過剰な手数料を課したのです。手数料56%の送金も確認されているといいます。

これに対し、ベネズエラの人々は他の迂回手段を探し始め、結果的にビットコインが仲介通貨として最も適当だとを判断したのです。以下で、ベネズエラにおけるBTCの利用ケースを2通り紹介します。

1- ベネズエラボリバル→ビットコイン→外貨

  • 主な利用者:自己資産価値を守るため外貨を求める人
    ○例:保有するベネズエラボリバルをSNSや国内取引所を通したP2P取引でBTCに変換→BTCを米ドルやその他の法定通貨に交換し保管

2- 外貨→ビットコイン→ベネズエラボリバル

  • 主な利用者:国内の家族や寄付の受取手にお金を送りたい人
    ○例:保有する米ドルなどの外貨をSNSや取引所を通したP2P取引でBTCに変換→BTCを国内に住む受取り手のウォレットへ送金→受取り手は現地の取引所でBTCをベネズエラボリバルに変換

取引所に資本規制が入る可能性も今後出てくるでしょう。SNSを使ったP2P取引が多い理由はそのためです。(※ここまでの内容は、こちらの記事で詳しく解説されています。)

ちなみに、アルゼンチンでもドル需要は高く、政府が定めた公定レートと異なる闇レートで多くのドルが流通している状況です。そのためアルゼンチンにおいても、仲介通貨としてのビットコイン需要は高いと推測できます。

過去には政府がドルとの交換を禁止した例もあることから、今後の経済及びインフレ悪化次第では、政府が資本規制を強化し、ドルへの交換がより難しくなる可能性もあります。そうなれば、仲介通貨としてのビットコイン需要はさらに急上昇することでしょう。

しかしいずれにせよ、現状これらのインフレ地域で、ボラティリティの高いビットコインがドルなどの法定通貨をリプレイスするというシナリオは現実的ではありません。

本当の意味でビットコインが浸透し始めるのは、ドルが崩壊したときかもしれません。それまでは、単なる法定通貨のブリッジ通貨であり続ける可能性が高いでしょう。

とはいえ、ビットコインがブリッジ通貨という一つの解決策となり、ハイパーインフレ経済に暮らす人々を助けているという事実は素晴らしいことです。政治的に中立で検閲耐性を持ったビットコインにしか生み出せない価値だといえます。

インフレ地域における仮想通貨サービスの普及

ところで、最近はこれらの地域でもビットコイン及びその他の仮想通貨での決済サービスや、DeFiに該当するようなサービスも少しずつ浸透し始めています。

2020年初め、仮想通貨決済企業Cryptobuyerは、ベネズエラのバーガーキングで暗号通貨決済システムを試験的に導入しました。その後同社はベネズエラで2万以上のマーチャント顧客を抱えるPoSシステム提供企業Mega-softと提携を発表しています。

今年5月のMakerのブログによれば、アルゼンチンでDAIの取引高が4倍に増加していると言います。またRipioというレンディングサービスでは、貸付資産としてUSDCを初めとしたいくつかの仮想通貨が利用可能です。

経済的に不安定かつ金融機関に対する信頼度も低い地域において、このように新しい選択肢が増えていくのは良いことです。こうした小さな変化が、長期的な普及へ繋がっていくことを期待したいと思います。

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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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