2022年の業界予測、「イーサリアム」と「日本のWeb3.0」を考察

今回は、2022年の暗号資産・ブロックチェーン業界について、田上 智裕 氏(@tomohiro_tagami)に考察していただきました。

目次

  1. イーサリアムの2022年
    1-1. イーサリアム2.0「The Merge」
    1-2. セカンドレイヤーの成熟化
  2. 日本のWeb3.0
    2-1. カストディ問題と税制
    2-2. 日本からはNFTがメインに
  3. まとめ、著者の考察

2021年はマルチチェーン化の時代となり、DeFiやNFTなどがさらなる拡大を見せました。日本でもDAOやWeb3.0といったワードが知名度を高め、2022年に向けた助走期間としての匂いを漂わせたことでしょう。

今年に入り様々な取り組みが具体化していくにつれて、日本の規制ハードルや技術的な課題に直面するかと思いますが、エコシステムは拡大の一途を辿っています。

今回は、2022年の業界動向を「イーサリアム」「日本のWeb3.0」に分けて考察していきます。

イーサリアムの2022年

イーサリアムのスケーラビリティ問題とそれに伴うガス代の高騰により、2021年は一層のマルチチェーン化が進みました。EIP-1559によるガス代のアルゴリズム変更が行われたものの、イーサ(ETH)の価格上昇には繋がった一方でガス代を下げる要因にはなっていません。

2022年もガス代の下落に繋がるアップデートは予定されていませんが、イーサリアムの開発は着々と進んでいます。イーサリアムの2022年は、大きく分けてイーサリアム2.0の「The Merge」とエコシステムにおける「セカンドレイヤー」の年になると思います。

イーサリアム2.0「The Merge」

2020年12月1日に最初のアップデートが行われたイーサリアム2.0ですが、2021年は次のアップデートに向けた準備期間となりました。EIP-1559をはじめとした多くのリリースが行われ、9月時点で「The Merge」が達成されるまで旧チェーン(PoWチェーン)の改修は行われないことが発表されていました。

The Mergeとは、現在のPoWチェーンと新しいPoSチェーンの統合を意味するアップデートであり、イーサリアムにおける最重要マイルストーンの1つです。最新のロードマップでは、2022年の第一四半期末にThe Mergeが実装予定となっています。

注意すべきは、The Merge実装後すぐにPoWチェーンが廃止されるわけではない点です。PoSチェーンはすでに稼働しており、The Merge後も現在の並行稼働は続く予定となっています。

The Merge実装後は、一定期間の安定稼働が確認でき次第、段階的にPoWチェーンが廃止され、マイニングが停止していきます。ここで作動するのが「ディフィカルティボム」です。ディフィカルティボムはこれまでのイーサリアムで度々話題となり、ディフィカルティボムの作動を延期するためのアップデートまで複数回行われています。ディフィカルティボムはイーサリアムでマイニングを強制停止させるための仕組みであり、これがうまく作動することがThe Mergeの完了を意味します。

イーサリアム財団の調査によると、マイニングが終了することでイーサリアムは99.9%以上の電力消費を抑えることができるとされています。イーサリアムを中心としたエコシステムが持続可能なものになるために、PoSへの移行は必須要件です。

The Mergeの実装が行われた後は、いよいよシャーディングの実装が始まります。2022年の後半には、イーサリアムのスケーラビリティ問題の解決およびガス代の下落に向けた本格的な取り組みがスタートする1年になりそうです。

【参照ソース】Amphora: A Major Merge Milestone | Ethereum Foundation Blog

セカンドレイヤーの成熟化

2022年はイーサリアムのセカンドレイヤー(L2)の1年と言っても過言ではないかもしれません。要不要はさておき、L2プロジェクトが独自トークンを発行した場合、2022年末の時価総額ランキング上位の顔ぶれはガラリと変わっている可能性すらあります。それほどL2のインパクトは大きいです。

これは、Union Square Venturesによるかの有名な「Fat Protocol理論」からも説明できます。Web3.0の世界では、プロトコルに近づくほど可視化される価値が高くなります。最も価値があるのは当然イーサリアム(ETH)であり、それ以降はセカンドレイヤーが価値を持つことになるということです。

L2プロジェクトの1つであるStarkWareのブログでは、すでにサードレイヤー(L3)・フォースレイヤー(L4)の議論が進んでいるようです。L3はおろかL4以降は現時点で想像の域を超えないため、ここではL2に範囲を絞って考察していきます。

将来的に、L2はイーサリアムのシャードチェーンごとに実装されることになります。現状は、上図のようにイーサリアムのメインチェーン(PoWチェーン)にL2が実装されており、L2プロジェクトごとに1対1の関係になっています。

イーサリアム2.0により、シャードチャーンはまず64個実装されます。シャードチェーンとは、イーサリアムのメインチェーンを64個に分割したものです。シャードチェーンごとにブロックチェーンが構築されトランザクションが処理されます。

2023年以降のイーサリアムは、このシャードチェーンを1つのイーサリアムブロックチェーンとして認識し、それぞれにL2以降のソリューションが組み込まれていきます。こうすることで、まずシャードチェーンで64倍になったスケーラビリティが、さらにL2以降のレイヤーで指数関数的に拡張されていきます。

これがイーサリアムの描くワールドコンピュータの全体像であり、コンポーザビリティを持つエコシステムならではの特徴です。

こうなると、今後はレイヤー間のブリッジが必要になります。ブリッジが果たす役割としては以下のようなものが考えられます。

  • イーサリアム(L1)とL2のブリッジ(例:イーサリアムとOptimistic Rollupの接続)
  • L2同士のブリッジ(例:Optimistic RollupとStarkNetの接続)
  • L2とL3のブリッジ(例:Optimistic RollupとL3プロジェクトの接続)
  • 異なるシャード間のL2同士のブリッジ(例:シャードAのOptimistic RollupとシャードBのStarkNetの接続)

【参照ソース】Fractal Scaling: From L2 to L3. It’s layers all the way down

日本のWeb3.0

2021年は、日本でもDAOやWeb3.0といったワードが知名度を高め、2022年にいくつかの具体的な取り組みが出てきそうな気配を漂わせています。市場の形成に欠かせないベンチャーキャピタルも意欲を示しており、引き続き盛り上がることが期待されます。

カストディ問題と税制

日本でWeb3.0領域で事業を行うには、いくつかの低くないハードルを超えなければなりません。2022年にWeb3.0で直面する日本の問題として、「カストディ問題」と「税制」があげられます。

カストディ問題とは、他者の暗号資産を預かったり代わりに管理する際に「暗号資産交換業者(取引所)」のライセンスが必要になることです。カストディとは資産を預かることを意味するため、このように呼ばれています。

日本では、正確には他者の秘密鍵を預かったり代わりに管理する際に、取引所のライセンスが必要です。そのため、ライセンスを持たない事業者がカストディ型のウォレットを提供することができません。つまり、日本では取引所しかユーザーフレンドリーなウォレットを提供できないということです。

暗号資産を管理するには、秘密鍵が必要になります。秘密鍵を紛失すると暗号資産も紛失することになるため、カストディ問題が浮上する前は事業者がユーザーの秘密鍵を預かる形でサービス提供する形が一般的でした。しかし、カストディに規制が入ってからは、メタマスクなどの秘密鍵を預からないウォレットが定着しています。

メタマスクの操作や秘密鍵の管理は一般ユーザーにはハードルが高く、間違いなく市場の拡大を妨げています。今後、日本でDAppsを開発したい事業者が出てきたとしても、UXの低いユーザーにとって資産の紛失リスクがある状態でサービスを提供しなければなりません(取引所のライセンスを取得すれば話は別です)。これが1つ目のカストディ問題です。

続いて税制です。日本では、法人が暗号資産を保有している場合に、期末に損益評価をして評価益が出ていた場合には納税する必要があります。法人として暗号資産に投資をしている場合の評価益であれば、正しい資産情報を外部に公開するために課税対象とするのは自然なことですが、問題は独自の暗号資産を発行していた場合も課税対象になってしまう点です。

日本では、Web3.0に欠かせない暗号資産(トークン)を発行すると、当期末に自社保有分を評価益計上しなければなりません。独自のトークンというのは、発行時点では価値はゼロになるため、発行後の時価総額×保有分割合がそのまま課税対象となります。

せっかく価値のついたトークンをコミュニティに分配するなどの有効活用ができず、創業直後で資金のない事業者は保有分を売却して納税にあてなければなりません。しかし、売却しようにも発行直後のトークンには十分な流動性がなく売却することは簡単ではありません。

これは、ベンチャーキャピタルにも重い問題としてのしかかるでしょう。Web3.0領域では、株式への出資ではなくトークンへの出資となることが一般的です。そのため、出資の代わりにトークンが分配されますが、これが日本のベンチャーキャピタルが持っている場合に課税対象となる可能性が高いことになります。

日本からはNFTがメインに

以上のような問題から、日本では新しい事業の多くがNFT領域に集中しています。イメージしやすいという理由もありそうですが、上記の問題は現時点でNFTとはほとんど無縁です。

幸いなことに、日本はコンテンツ大国であるためNFTとは相性が良く、今年はより多くのユースケースが登場することが期待できます。2021年は世界的にもNFTバブルが到来し、億単位の売買が相次ぎました。

2022年は単なる売買事例だけでなく、デジタル上の権利としてのNFTが台頭することが予想されます。NFTを含むWeb3.0の本質はコンポーザビリティにあるため、この性質を活かさない手はありません。

NFT以外の領域では、2021年に続き海外への資本流出が想定されます。これまでのように事業者の流出以外に、今年はベンチャーキャピタルの流出も起こる可能性が高いと考えています。

まとめ、著者の考察

2022年の予測を「イーサリアム」と「日本のWeb3.0」に分けて考察してみました。まずはイーサリアムのセカンドレイヤーが成熟するにつれて、「マルチチェーン」vs「セカンドレイヤー」の構図が生まれると予想します。

ガス代の安さとスケーラビリティだけを強みとしているブロックチェーンは、他のブロックチェーンとの差別化が難しいだけでなく、イーサリアムのセカンドレイヤーとも競合することになります。

日本のWeb3.0に関しては、規制を逃れるために海外移転が進む一方で、事業を「DAO化」する動きも出てきそうです。現時点で日本におけるDAOを管理する規制は存在していないため、ここにもチャンスはあると思います。

しかし、米国ではジェネラルパートナーシップ制度のもとでDAOを規制するという動きも出てきています。2022年に明確なルールが整備されるイメージはつきませんが、中長期的にDAOのスタンダードも定着することが予想されます。

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