分散型ストレージを利用してNFTを守る:ArweaveとIPFSを比較
今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
昨今のNFT市場の盛り上がりを受け、各NFTマーケットプレイスではますます活発に取引が行われるようになっています。代表的なマーケットプレイスの1つであるOpenSeaは、2021年の取引高が2020年の600倍超に成長したと報告しました。
NFTの主要な特徴の1つに「所有権の改ざんが不可能」というものがあります。しかし、NFTそのものの名称や属性、画像は改ざん可能であることはあまり知られていません。これは、ブロックチェーン上に存在するNFT自体には名称や画像といったデータが紐付けられておらず、NFTに設定されたリンクをたどった先にある情報(メタデータ)をそのNFTの情報として扱っていることが原因です。メタデータは必ずしも永続的であるとは限らないため、このデータを改ざんしてしまうことで、もとのNFT自体は同じであるにも関わらず、名称や画像が異なる全く別のNFTのようにも見えてしまう可能性があるということです。
この問題については、弊社の以前のコラムで詳しく解説しています。こちらの記事をご覧ください。
しかし、このメタデータも改ざん不能にすることができる技術がいくつか存在します。ファイルを分散的に管理することで、誰にも変更できないようにする「分散型ストレージ」と呼ばれるシステムです。この記事では、その中でも代表的な2つ「IPFS」と「Arweave」のそれぞれの特徴を見ていきます。
IPFS
IPFSは、分散型システムを研究する米Protocol Labs社が開発した分散型ストレージサービスです。IPFSは「InterPlanetary File System(惑星間ファイルシステム)」の略で、将来人類が宇宙へ進出するような時代になっても普通にアプリケーションが使えるようなシステムを、という意図のもと開発されました。
このシステムの特徴は「コンテンツ志向」の設計にあります。つまり、データの保管場所に関わらず、同じデータであれば同じ識別IDが付与されるという設計です。
現在のインターネットで広く利用されているHTTPは「ロケーション志向」で、URLによりコンテンツの場所を特定し、そのコンテンツを保管するサーバーに直接データを要求します。その場所にどんなコンテンツがあるかは考慮しません。この方式の場合、その場所を管理するサーバーは常に稼働し、リクエストを受け付けなければならない代わり、そこに保管されているデータを自由に変更・削除することができます。これは、改ざん不可能という条件を十分に満たしているとは言えません。
一方、コンテンツ志向のIPFSでは、データを呼び出したいときはネットワーク全体へコンテンツの識別IDを通知し、そのIDを持つファイルを持っていないか照会します。ネットワーク上のノードのうちどれか1つでも合致するファイルを持っているノードがあれば、そのノードからファイルを入手できます。また、ファイルが改ざんされていた場合はIDが合致しないため簡単に気づくことができ、これにより改ざん不可能という特性を実現しています。
ただしこの方式の問題点は、ネットワークのノードが他人のデータをわざわざ保管しておくインセンティブがないことです。データを保管しておくにはコストがかかるので、いずれネットワーク上で誰も自分のデータを保持してくれなくなることが考えられます。NFTはなくならないのに、それに紐付けられたメタデータだけが消えてしまったのでは困ります。
そこで生み出されたのがFilecoin(ファイルコイン、FIL)です。このファイルコインをノードに支払うことで、一定期間データを保管し続けることを確約してもらうことができます。これにより、ユーザーは信頼のおけるノードへマーケットプレイス上でデータの保持を依頼することができ、ノード側もデータを保管しておくインセンティブが生まれます。また、もしノードがデータを破損させてしまっても、ファイルコインに組み込まれた安全機構により別のノードがデータを保持し続けることができます。
しかし、ファイルコインの仕組みを使っても永続的にデータを保管しておくことはできません。データの保管には継続的なコストが発生するため、どこかで必ずノードの損益分岐点を超えてしまうためです。ノードは依頼者との契約期限が切れた時点でデータを消去するため、ユーザー側が新たにノードとのデータ保管契約を結べなかった場合はデータが失われてしまいます。
そこで、この問題を解決しうる別のストレージサービスをご紹介します。
Arweave
Arweaveはデータを極めて長い期間保管することのできる分散型ストレージサービスです。Arweaveというネットワークの上に「Permaweb(『Permanent(永久の)』+『Web』)」という層があり、この層に画像やアプリケーションを保存することができます。Permawebに存在するコンテンツはすべて永続的で、変更することはできません。
Arweaveはどのようにしてデータの永続的な保管を実現しているのでしょうか。ArweaveもIPFSと同じく料金をデータ保管者に前払いする形式になっています。しかし、IPFS(Filecoin)は一定の契約期間を先に定めておき、その分の料金を前払いしているのに対し、Arweaveの場合は初めから永続的なデータ保管を前提に料金を支払います。
ここでは、Arweaveが「永続的な」データ保管のコストを算出する方法が問題になります。Arweaveは過去のストレージ価格の動きをもとに、将来にわたってデータ量あたりのストレージコストが低下していくはずだと考えています。そのため、最初に多めに代金を支払っておけば、それで将来下落していくであろう保管コストをまかないきれると見積もっているのです。Arweaveの試算では、1GB=約7.3ドルの現在の料金水準で200年はデータを保管できるとしています。これはコンピュータ技術が一般に浸透してから数十年しか経っていないことを考えれば、永続的といっても差し支えない長さでしょう。
IPFS + Arweave
ここまでの内容から、半永久的なデータ保管が可能なArweaveはIPFSの上位互換であるように見えるかもしれません。しかし、最近ではArweaveとIPFSを組み合わせたデータ保管技術も考案されています。
一旦IPFSにアップロードされたデータをArweaveにアップし、Arweave上のそのデータをIPFSの自分のノードで保持します。これにより、ArweaveとIPFS両方の複数のノードでデータが保持されることになり、より強固なデータ保持体制を構築することができます。
分散型ストレージサービスとNFT
これらの分散型ストレージサービスは、NFTのエコシステムにおいてもある程度使われるようになっています。いくつか例を挙げると、Bored Ape Yacht Clubの画像を含むメタデータはIPFSに保存されており、またOpenSeaではNFTを発行する際、オプションとしてメタデータをIPFSにアップロードすることを選択できます。また、ワールド・ワイド・ウェブの考案者であるティム・バーナーズ=リー氏が世界初のウェブブラウザのソースコードをNFTとして販売した際、コードのアップロード先としてArweaveを選択したほか、SolanaブロックチェーンでNFTを発行する際の主要なツールであるMetaplexがArweaveを統合しているため、Solana上で発行されるNFTの多くがメタデータの保管にArweaveを利用しています。
しかし、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などの中央集権的なクラウドサービスや、自社が管理するサーバーにデータを保管しているケースもまだまだ多く見られます。これは、特にゲーム・メタバース系のプロジェクトにおいて、より高速な処理が求められるケースが多いためであると考えられます。
また、分散型ストレージサービスを利用せず自社サーバーにデータ本体を、ブロックチェーンにその証明を記録することで、改ざんを防止しつつ高速な処理を実現しようとする例も見られます。しかしながら、この手法では何らかの原因でサーバーからデータが失われることを防げません。
まとめ
今回は分散型ストレージサービスの詳細を見ていきました。大きなサイズのデータを改竄不可能な形で保管するため、各システムが様々な工夫を凝らしていることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
しかしこの分野はまだ始動したばかりであり、現在「データを永続的に保管できる」とされているシステムが期待通り機能するかはまだはっきりしないのも事実です。将来にわたってノードがデータを保管することを「期待」するしかない現状は、トラストレスを旨とするブロックチェーン生態系の中でも特異なものと言えます。これを改善し、より多くのNFTプロジェクトが分散型ストレージサービスを選ぶような状況を作っていくことが次の課題となるのではないでしょうか。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
分散型ストレージを利用してNFTを守る:ArweaveとIPFSを比較