NFTから考えるWeb3.0の本質
今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
2022年に入ってから、「Web3.0」という言葉がトレンドになりつつあり、様々な企業がこの領域へ参入しようとしている状況です。
その具体的なジャンルの1つとしてNFTがあり、マーケットプレイスを構築したり、コレクティブNFTを発行したりしようとしています。しかし、こういったプロジェクトの中では、本質的にWeb3.0のコンセプトに沿ったものではないものも少なくありません。つまり、NFTプロジェクトを行ったからと言って、Web3.0のプロジェクトとは言えません。Web3.0は「何をするか」というよりも「どのような考えの下でそれを行っている」のかが重要であり、表面的なことを行うのではなく、その根本にある理念の方が重要です。
今回は、NFTプロジェクトがどのようにすればWeb3.0的なものになるのかについてWeb3.0の要素をいくつか列挙していきながら考えていきたいと思います。そして、現状として未だに曖昧な概念であるWeb3.0について読者の方々と一緒に考える機会になれば良いと思います。Web3.0を構成する要素として「パブリックチェーン」「自己主権」「コンポーザビリティ・コラボレーション」の観点を抽出して論じていきます。
パブリックブロックチェーン
グローバル規模で盛り上がりを見せているNFTの多くは、パブリックブロックチェーンであるイーサリアムが基盤となっています。パブリックブロックチェーンの特徴として、透明性、耐改ざん性、高可用性などが挙げられます。
パブリックブロックチェーンでは、世界中に散らばっているノードと呼ばれる不特定多数の人々によって管理がされており、その不特定多数の人々で構成されているネットワークで意思決定を行う手段としてProof of Work(PoW)やProof of Stake(PoS)が採用されており、取引が検証され、承認されます。このパブリックブロックチェーンに格納されている取引の内容はオープンに公開されており、誰でも取引内容を確認することができます。
ブロックチェーンは、取引内容がブロックに格納され、そのブロックが前後のブロックと整合性がとれる形になっているため、あるブロックに格納されている取引内容を改ざんすると、前後のブロックの整合性が取れなくなり、情報の改ざんを即座に確認することができます。そのため、ブロックチェーンは改ざんに対する耐性があると言えます。
また、パブリックブロックチェーンは、中央サーバーによって管理がされておらず、ピア・トゥー・ピアネットワークで構成されており、世界中に点在しているノードによって管理されているため、サーバーがダウンすることはなく、ネットワークが止まる可能性が低く、セキュリティ面で安全であると言えます。
私たちは、このブロックチェーンの仕組みを信頼することで、NFTが唯一無二であるということも信じており、ダウンする可能性が低いデータベースで作られているため資産としても価値が生まれる要素となっています。
しかし、パブリックブロックチェーンではなく、中央サーバーやプライベートブロックチェーンを用いたNFT(これをNFTと呼ぶかどうかにも議論があります)では、NFTを取り巻く環境が閉ざされたネットワーク内に存在することになるので、グローバルで自由な取引を行うことができません。企業によって管理がされているということは、その企業が単一障害点となり、企業がなくなってしまった場合、同時にNFTもなくなってしまうでしょう。これでは、ブロックチェーンによるイノベーションの恩恵を受けることができず、従来のデジタルデータの扱いとの差分が少ないと言わざるを得ません。このことから、NFTがパブリックブロックチェーンをベースで作られることは外せない条件になります。
自己主権
Web3.0プロジェクトでは、自分の情報は他の機関やサービスに依存するのではなく、自分自身で管理するという「自己主権」の考え方があります。
Web2.0のプラットフォームビジネスでは、プラットフォーマー(企業)によりユーザーの個人情報を利用され、データの所有権は個人にありませんでした。現に、自分がそのプラットフォームで行った行動と他のユーザーの行動の相関関係を分析することで、自分自身がどのようなものに興味を持っているのかを特定することができます。ECサービスにおいては、自分が欲しい商品がおすすめに上がり、動画プラットホームでは自分の興味のあるジャンルの動画がレコメンドに上がり、広告では自分が関心度の高い広告がターゲティングされます。
このユーザー行動を分析した顕著な事例として、2016年のドナルド・トランプ氏が当選したアメリカ大統領選挙があります。この出来事の概要としては、Meta社(元Facebook社)が提供するSNSサービスであるFacebook上で性格タイプを診断するクイズがユーザーに勧められ、このクイズに答えたユーザーと回答したユーザーの友達に関するデータが収集されていました。そして、この収集されたデータがデータ分析企業であるケンブリッジ・アナリティカ社(CA社)に売却され、人々の心理学的な輪郭を描き出すとともに、彼らに親トランプ的な素材を送り届けるのに利用されたといいます。このプラットフォーマーによるデータ収集とその解析は人々の投票行動に影響を与えたとして物議を醸しました。
Web3.0には、このようなプラットフォーマー(企業)の手元にデータが集約し、利活用されている状況に歯止めをかけるという側面があります。そのわかりやすいイラストとして、Web3 Capitalが作成したイラストがあります。
このイラストにあるように、Web1.0ではユーザー名とパスワードを記入してログインを行い、Web2.0においては各プラットフォームのアカウントを利用してログインをします。Web3.0ではウォレットを接続することで、ログインができます。
Web1.0では、そのサイトが管理をしており、パスワードを忘れてしまった場合はサイトにアクセスをして再発行をしてもらったことがあると思います。Web2.0においては、先述の通り、プラットフォーマーによって管理をされています。一方で、Web3.0では自分自身でウォレットの秘密鍵を管理しており署名をすることでログインができます。つまり、このイラストはWeb3.0では自分自身で自分の情報を掌握できていることを表現しています。
NFTの場合に当てはめると、自分の資産であるNFTを自分自身で保有することができずに企業の存在に依存することはWeb3.0的ではありません。そのため自分が保有しているNFTという資産が自分自身で保有できていないという見方ができます。
コンポーザビリティ/コラボレーション
この章で触れるコンポーザビリティ/コラボレーションがWeb3.0プロダクトの核にある本質的な点です。コンポーザビリティは、日本語では「構成可能性」と訳すことができ、あるシステムの構成要素をより大きな構造体へと組み替え、ある構成要素の出力を別の構成要素の入力にすることができる一般的な能力のことです。コンポーザビリティは、レゴのように振る舞い、すべての部品が他のすべての部品に接続することができます。分散型金融であるDecentralized Finance(DeFi)の文脈では、マネーレゴとも呼ばれており、複数のプロトコルを繋ぎ合わせることで互いのプロジェクトにプラスの効果をもたらすことができます。
プロダクトの設計を考えるときに、自前でエコシステムを完結させようとしてしまいますが、他のプロダクトが入り込む余地を与えた設計であったり、似たプロダクトと共に手を取り合ったりすることがWeb3.0的なプロダクトです。NFTマーケットプレイスを開発している企業がありますが、これはユーザーを囲い込んだり、他の似たサービスを競合と見なしてしまう傾向にあると感じます。いかにして、他のプロダクトとコラボレーションをしていくのかがWeb3.0の世界では重要です。
DeFiにおいて、分散型取引所Decentralized Exchange(DEX)のCurveというプロジェクトがありますが、Curveの仕組みはCurveとそれを使用するユーザーだけでは完結していません。Curveを中心として他のプロトコルが絡み合うことによって、エコシステムが完結していくのです。そして、そこから派生した新たなプロトコルが生まれていきます。
NFTにおいては、以前の寄稿でも紹介したテーマに「Loot for Adventure(以下、Lootとします)」という文字だけのNFTプロジェクトがありましたが、このプロジェクトはLootだけでは完結することはありません。この文字を基にして、世界中の人々が様々なサービスを作り上げるというものです。このLootの文字のNFTは全体のエコシステムを作り上げるためにインスピレーションを与えるきっかけとして機能しています。
コレクティブNFTの文脈においても、NFTのビジュアル化されたデザインが著作権で守られており、他のクリエイターやユーザーが二次創作ができず、コラボレーションが困難な状況です。そのため、よりコラボレーションを容易にするために、こちらも以前の寄稿で取り上げましたが、Creative Commons 0(CC0)を用いたプロジェクトが立ち上がっています。CC0 NFTプロジェクトはWeb3.0の本質をとらえたプロジェクトであると言えます。
閉ざされたプライベートチェーンや閉ざされたNFTマーケットプレイスでは、上記のようなコラボレーションを行うのは難しいのはもちろんですが、パブリックブロックチェーンでNFTを作ったとしても他のプロダクトが介入し得る余白がないと真にWeb3.0なプロダクトとは言えません。つまり、このコラボレーションの文脈で考えると、NFTプロジェクトを実施することが必ずしもWeb3.0プロジェクトではないと言えるでしょう。
まとめ
今回は、Web3.0の構成する要素のである「パブリックブロックチェーン」「自己主権」「コンポーザビリティ/コラボレーション」という側面から、よりWeb3.0の考え方を反映しているNFTプロジェクトはどのようなものなのかについて考えてみました。
Web3.0は、採用する技術だけではなく、思想的な側面も重要です。Web3.0は「何をする」かよりも「どういう考えの下作られたのか」という点が重要であり、その根本のコンセプトが明確ではない限り、既存の仕組みやサービスの焼き直しの可能性があり、本質的なイノベーションとは言えないのではないかと考えます。しかし、より多くの人々にWeb3.0プロダクトを届けるためには、利用時のハードルを下げたプライベートチェーンを利用することもあるでしょう。
Web3.0ネイティブとも言えるこれらの考え方を理解した上で、徐々にこのような考え方を持って新しい体験を楽しむユーザーが増えていくのではないかと考えています。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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