不動産投資の減価償却費の仕組みは?アパート・マンションの特徴をそれぞれ比較

アパートとマンションでは、各種所得計算において減価償却費が果たす役割に異なる特徴があります。不動産投資では、アパート・マンションの減価償却費の仕組みを理解し、適切に税額を軽減してキャッシュを積み立てていくことが大切です。

本記事では、不動産投資の減価償却費の仕組みと、アパートとマンションの減価償却費の特徴を比較して解説していきます。

※記事内の税制内容は2022年4月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 不動産投資の減価償却費の仕組み
    1-1.「減価償却費」とは
    1-2.不動産投資で減価償却費が登場する場面
  2. 「減価償却費」の計算方法
    2-1.減価償却資産の取得価格の算出
    2-2.耐用年数は資産の種類、構造、用途によって異なる
  3. アパートとマンションの「減価償却費」の比較
    3-1.アパートの「減価償却費」の計算例
    3-2.マンションの「減価償却費」の計算例
  4. まとめ

1.不動産投資の減価償却費の仕組み

まず、不動産投資の減価償却費の仕組みについて確認しましょう。「減価償却費」の概念を説明し、不動産投資で減価償却費がどのような役割を果たすのかをみていきます。

1-1.「減価償却費」とは

「減価償却費」とは、建物などの減価償却資産の取得価格のうち、価値が減少した部分です。

建物は、使用または経年によって劣化し、価値が減少していくと考え、その使用できる年数にわたって取得価格を費用化していきます。

具体的には、建物の取得価格を耐用年数で割って算出した1年ごとの「減価償却費」が、年数が経過するにつれて積み重なっていくことになります。

特に、減価償却費の計算の仕組みは事業における損益計算を適正におこなうことを目的として、その建物を使用することで得られる収益に適切に対応させるためのものです。そのため、必ずしも実際の市場価格(実際に取引される不動産価格)の減少分と一致するわけではありません。

また、事業用に使用している建物と非事業用の建物とでは、減価償却費の計算方法が異なります。なお、土地については、価値が減少しないと考えられており、減価償却費は計上しません。

減価償却費は、実際に現金の支出を伴う費用ではないため、不動産投資をおこなっていく上で、税金の計算における減価償却費の果たす役割を理解し、手元のキャッシュを管理していくことが重要になるといえます。

1-2.不動産投資で減価償却費が登場する場面

不動産投資で減価償却費が登場する場面は、主に2つあります。

  • 譲渡所得の計算における「取得費」の算出
  • 不動産所得の計算で建物等の取得価格を必要経費に算入

以下で詳細をみていきましょう。

譲渡所得の計算における「取得費」の算出

土地や建物を売却して利益が生じた場合、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税・住民税が課されます。譲渡所得は、オーナー自らがその金額と税額を計算し、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告をおこなう必要があります。

譲渡所得の計算では、譲渡価格から控除することができる費用の一つとして、土地・建物の「取得費」があります。「減価償却費」は、この取得費を計算する際に利用されることになります。譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。

譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

この譲渡所得における取得費は、次のように計算します。

取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合)

取得価格は、購入時の価格や建物であれば建築費用になります。取得の際に要した費用については、仲介手数料・登記費用、登録免許税・不動産取得税・印紙税などの一定の費用となります。

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不動産所得の計算で建物等の取得価格を必要経費に算入

不動産投資をおこなっていく際、毎年2月16日から3月15日までの間に、前年分の賃貸料収入にかかる不動産所得の確定申告をおこないます。

この不動産所得の金額は、「総収入金額-必要経費」の算式によって計算します。必要経費は、不動産収入を得るために直接要した費用および、その年に発生した費用のうち不動産賃貸業の業務に要した費用を計上することができます。

また、賃貸料収入を発生させる収益建物やその建物に付属する設備などの減価償却費は、必要経費に含まれます。

2.「減価償却費」の計算方法

現行税制では、建物などの減価償却資産の「減価償却費」の計算方法は、定額法という方法によることになっています。次の算式によって計算します。

減価償却費=取得価格×定額法の償却率
※参照:国税庁「減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年4月1日以後取得分)

平成19年3月31日以前取得の場合、残存価格を考慮することとなるため、次の算式によって計算します。

減価償却費=取得価格×0.9×定額法の償却率
※参照:国税庁「減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年3月31日以前取得分)

また、償却率は建物など減価償却資産の耐用年数に応じて決められており、構造や用途によっても変わってきます。

2-1.減価償却資産の取得価格の算出

減価償却費を計算するには、まず、取得したアパートやマンションのうち、減価償却費資産である建物などの取得価格を算出する必要があります。

新築の場合には、通常、工事請負契約書などから、建物全体の建築費を把握することができます。建築費が不明である場合や中古の場合は、アパートやマンション購入時の売買契約書から、建物部分の価格のみを抽出する必要があります。

固定資産税の明細書に記載された土地と建物の評価額を基に、購入価格の総額を按分したり、建物建築時の標準的な建築価格単価に、建物の床面積を乗じて算出したりする方法によって建物部分の価格を推計する方法もあります。

減価償却資産の取得価格には、原則として取得の際に要した費用も含めることとされているため、これらの付随費用を加算して建物全体の取得価格とします。

アパートやマンションには、通常、給排水設備やガス設備、電気設備などの附属設備が付属しています。建物全体の取得価格を、建物と建物附属設備に区分して振り分け、それぞれの取得価格とします。

2-2.耐用年数は資産の種類、構造、用途によって異なる

主な減価償却資産の減価償却費の計算における定額法の償却率は、資産の種類、構造、用途によって定められた耐用年数に応じて下表のようになっています。ただし、これは不動産投資で行われる業務用(賃貸経営)の減価償却資産の耐用年数となり、居住用不動産には該当しないため注意しましょう。

種類 構造 耐用年数 償却率
建物 木造(住宅用・店舗用) 22年 0.046
建物 木造(事務所用) 24年 0.042
建物 木骨モルタル造(住宅用・店舗用) 20年 0.05
建物 木骨モルタル造(事務所用) 22年 0.046
建物 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(住宅用) 47年 0.022
建物 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(事務所用) 50年 0.02
建物 れんが造・石造・ブロック造(住宅用・店舗用) 38年 0.027
建物 れんが造・石造・ブロック造(事務所用) 41年 0.025
建物 金属造(住宅用・店舗用)(骨格材4mm超) 34年 0.03
建物 金属(住宅用・店舗用)(骨格材3mm超4mm以下) 27年 0.038
建物 金属(住宅用・店舗用)(骨格材3mm以下) 19年 0.053
建物 金属造(事務所用)(骨格材4mm超) 38年 0.027
建物 金属造(事務所用)(骨格材3mm超4mm以下) 30年 0.034
建物 金属造(事務所用)(骨格材3mm以下) 22年 0.046
建物附属設備 電気設備・給排水設備・ガス設備 15年 0.067
建物附属設備 店用簡易装備 3年 0.334

※引用:国税庁「減価償却資産の償却率表

3.アパートとマンションの「減価償却費」の比較

減価償却費の仕組みと計算方法、不動産投資で減価償却費がどのような場面で登場するかがお分かりいただけたかと思います。そこで、アパートとマンションの減価償却費の計算例を比較し、それぞれどのような特徴があるのかをみていきましょう。

3-1.アパートの「減価償却費」の計算例

5,000万円で建築した木造の新築アパートの「減価償却費」を計算してみましょう。

上掲の耐用年数表によると、木造住宅用建物の法定耐用年数は22年、定額法による償却率は0.046です。したがって、次のように「減価償却費」を計算することができます。

減価償却費=5,000万円×0.046=230万円

アパートから生じる賃貸料収入にかかる不動産所得を確定申告する際、毎年、230万円を減価償却費として必要経費に算入することになります。原則として、所有している期間中、22年間、この金額を必要経費に算入します。

なお、年の途中で取得した場合、一年分の減価償却費を月割りして必要経費に算入します。また、最終年の減価償却費は、備忘価格として1円を残し、それを差し引いた額になります。

売却する場合は、取得費の建物価格から、それまでに不動産所得に算入した減価償却費を控除して譲渡所得を計算することになります。

アパートの場合、耐用年数が短いため、不動産所得の計算上、必要経費に算入できる年間の減価償却費は大きくなります。他方、売却する場合の譲渡所得の取得費から差し引く減価償却費も大きくなるため、不動産所得の税額は軽減されやすいものの、譲渡所得の税額が増大する傾向があるといえるでしょう。

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3-2.マンションの「減価償却費」の計算例

20,000万円(2億円)で建築した、鉄筋コンクリート造の一棟マンションの「減価償却費」を計算してみましょう。

上掲の耐用年数表によると、鉄筋コンクリート造住宅用建物の法定耐用年数は47年、定額法による償却率は0.022です。したがって、次のように「減価償却費」を計算することができます。

減価償却費=20,000万円×0.022=440万円

アパートから生じる賃貸料収入にかかる不動産所得を確定申告する際、毎年、440万円を減価償却費として必要経費に算入することになります。原則として、法定耐用年数の47年が過ぎるまで所有している期間中は、この金額を必要経費に算入します。その他の取扱いは、アパートの場合と同様です。

鉄筋コンクリート造であるマンションは耐用年数が長いため、不動産所得の計算上で必要経費に算入できる年間の減価償却費は小さくなる点が特徴と言えます。

まとめ

「減価償却費」とは、建物などの減価償却資産の価値減少部分について、取得価格を法定耐用年数の期間に配分して費用化するものです。

賃貸料収入にかかる不動産所得の確定申告の際、必要経費に算入する一方、建物などを売却する際の譲渡所得の計算上、取得費から控除します。

アパート・マンションの法定耐用年数は、アパートの方がマンションに比べてかなり短くなります。そのため、年間で計上できるアパートの減価償却費は取得価格に対して相対的に大きくなる傾向があるといえます。

また、アパート・マンションどちらの場合でも、減価償却費を見込んだキャッシュフローを想定していると法定耐用年数が切れた時に減価償却費の計上が出来ずに収支がマイナスとなってしまったり、売却時の譲渡税が大きくなるデメリットがあります。これらの注意点も考慮しながら、不動産投資を検討していくことが大切です。

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