ESG経営に積極的な企業は?業務用食品を扱う不二製油の事例を紹介
近年、企業の長期的な成長のためにはESGに取り込むことが重要との考えが広まっております。ESGの具体的な取り組み内容は企業によって様々です。各企業が定めるESGの重要課題は「マテリアリティ」とも呼ばれており、項目を毎年変更している企業もあります。
今回は、私たちの生活に身近で積極的にESG経営に取り組んでいる企業として、植物性油脂や業務用チョコレートなどを展開する不二製油グループ本社の事例を見ていきたいと思います。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 不二製油グループ本社について
- 不二製油のESG経営の推進体制
2-1.教育について
2-2.インセンティブについて - 不二製油の対外的評価について
- 不二製油のESG情報開示との関係性
4-1.マテリアリティとは?
4-2.特定プロセスについて
4-3.重要テーマについて - まとめ
1 不二製油グループ本社について
不二製油グループは、主に植物性油脂や業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材などの開発・生産・販売を中心に、食の歓びと健康に貢献する会社として知られています。
不二製油グループには「不二製油グループ憲法」と呼ばれる規則があり、グループのミッション・ビジョン・バリューを表明しています。バリューにおいては「人のために働く」という言葉があり、会社から必要とされる会社であるように事業を展開することを中核の考えとしています。
植物性食品素材による社会課題解決(Plant-Based Food Solutions)をすることによって、持続的な成長と持続可能な社会の実現の両方を追求する「ESG経営」を推進しています。
2 不二製油よるESG経営の推進体制
不二製油は2015年取締役会の諮問機関として「ESG委員会」を設置しています。ESG委員会では、「C“ESG”O※」配下のサステナビリティ推進グループ(ESG経営推進の専任部門)が事務局を担い、グループ内のESGマテリアリティの特定や進捗状況のモニタリングに加え、その他ESG活動に関する課題や目標・戦略の審議を行っています。
同委員会には社内外有識者をアドバイザーとして招き、社会の視点を取り入れるようにしています。また、大きく「教育」と「インセンティブ」に特徴があります。
※C“ESG”O…ESG経営の推進を強化するため、2019年4月に不二製油グループ本社に設置。当社グループと社会双方の持続可能性確保に向けて、取締役会と連携しながらESG経営を統括し、ステークホルダーの期待に応える役割を担う。
2つの特徴について詳しく見ていきましょう。
- 教育について
- インセンティブについて
2-1 教育について
不二製油では、ESG経営を実践するため、役員、従業員に対して教育・啓発活動を進め、グループ内のESG経営の考え方や活動、および社会が期待することは何かを伝えています。
社内報でのESG経営に関する連載や、国内グループ会社での「SDGsとESG経営」をテーマとしたeラーニングの実施、海外グループ会社における「グループ憲法とESG経営」の説明活動などを通して、ESG経営に関する社内理解の向上を図っています。
2-2 インセンティブについて
不二製油では、ESG経営の推進に貢献したグループ会社または部門を年に1度表彰する制度として、「ESG経営賞」を設けています。
選考にあたり、労働災害やクレームの件数、CO2排出量、水使用量、廃棄物量などの定量的観点と、環境安全活動や社会課題解決に向けた活動実績などの定性的観点を考慮しています。
3 不二製油の対外評価について
世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、国内株式の運用を委託している運用機関に対して、「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」それぞれ最大10社の選定を依頼しました。
その結果、77社が「優れた統合報告書」として選ばれ、そのうち複数の運用機関から高い評価を得た企業として不二製油が挙げられています。高い評価には以下の理由があります。
- サステナビリティ戦略の重要度分析、進捗率等、多岐にわたる調達構造を持つ食品企業が、ここまでサプライチェーンマネージメントに踏み込んで具現化して開示している
- CFO による財務戦略が詳細に記載されており、また、短期実績、中期計画、長期方針が示され時間軸で企業を評価するのに役立つ
- ESG を含め、各チーフ・オフィサーによる報告形式の説明はユニークであり、内容の納得性も高い
4 不二製油のESG情報開示と関係性
不二製油のESG活動は「統合報告書」と「サスティビリティレポート」により年次で報告されます。それぞれのレポートは、制作目的と対象読者を明確化した上で、読者の関心事項に沿う情報開示に努めています。
統合報告書を発行している企業がESG情報開示において何を参照しており、どのような部分を課題と感じているのか。そしてESG情報開示において最も重要な「マテリアリティ」とは何でしょうか。詳しく解説していきましょう。
4-1 マテリアリティとは?
マテリアリティを一言でいうと「様々なESG課題の中で、自社が優先して取り組むべき重要な課題」です。情報開示基準の世界において求められるマテリアリティには、環境・社会問題が企業活動・業績に与える影響と、企業活動が環境・社会に与える影響という二面性があります。
このうち、環境・社会問題が与える企業業績等への影響だけを重視する考え方を「シングルマテリアリティ」、企業活動が与える環境・社会への影響を含む双方向のマテリアリティを重視する考え方を「ダブルマテリアリティ」と呼びます。
どの開示基準に準拠するのかにも拠るのですが、投資家を主な開示対象とする「IIRC(国際統合報告評議会)※」等の基準は、環境・社会問題の財務への影響を投資家に伝えることを重視するため、シングルマテリアリティの考え方を取ります。
※IIRC…財務資本の提供者が利用可能な情報の改善、効率的に伝達するアプローチ確立等を目指し、2010年にA4S(The Prince’s Accounting for Sustainability Project)とGRI(Global Reporting Initiative)によって設立された、規制者・投資家・企業・基準設定主体・会計専門家及びNGOにより構成される国際的な連合組織。
一方で、より広いステークホルダーへの開示を想定する場合は、環境や社会への企業活動によるインパクトを伝える必要があるため、ダブルマテリアリティの考え方を取るようです。
ではこのマテリアリティの選定はどのように進めれば良いのでしょうか。選定フローは以下のように、大きく3工程に分けて進めていきます。
- 社会的な課題をサステナビリティの指標やSDGs等を参考に網羅的に抽出する
- 優先順位付けを行う
- いくつか重要課題を絞り込む
4-2 不二製油の特定プロセスについて
不二製油の場合を見てみましょう。不二製油は、マテリアリティの特定・見直しは年1回実施しています。2020年度のマテリアリティは、ステークホルダーとの対話を通して得られた助言(新たに考慮すべき社会課題など)を考慮した上で、以下の4つのステップを経ています。
工程 | プロセス |
---|---|
STEP1 | 評価対象となる包括的な社会課題リストを作成 |
STEP2 | マテリアリティマップによる重要性評価 |
STEP3 | ESG委員会におけるマテリアリティの妥当性評価 |
STEP4 | 取締役会による承認 |
4-3 不二製油の重要テーマ
2020年度に特定された重点テーマは、ステークホルダーに理解してもらい易くすることを目的に、内容の類似性の観点で12の重点領域によりグループ化し、以下のように開示しています。
- 食の創造
- サスティナブル調達(主原料)
- 食の安全・安心・品質
- 労働安全衛生
- 気候変動
- 水資源の保全
- 省資源化と廃棄物の削減
- フードロスの削減
- 環境にやさしいもの
- ダイバーシティ
- リスクマネジメント
- ガバナンス
重点テーマには、各テーマを管掌するCxOが設定され、CxOはコーポレート部門、事業部門、研究開発部門からテーマの推進責任者を任命します。推進責任者はテーマの目標・KPIの設定および活動計画を策定するとともに、日常業務の中で設定した活動に取り組んでいます。
6 まとめ
多くの企業は財務情報と非財務情報を統合した統合報告書を発行する傾向にあります。また、多くの企業で環境領域のみならずESGの複数の領域を包括した戦略や計画を有しており、不二製油が提唱するようなマテリアリティを特定しています。
一方で、ESG情報の質の観点からは依然として課題が残っています。サステナビリティ戦略・計画は有しているものの、それをビジネス戦略と関連づけていない企業も多数あります。また、マテリアリティは特定しているものの、マテリアリティと開示内容との整合性が取れていない企業やマテリアリティに対する中・長期の定量的な目標値を設定していない企業があります。
今後、日本企業がESG情報開示の質を向上させるためには、自社が特定したマテリアリティは企業のビジネスにとってなぜ重要か、特定したマテリアリティに対して取り組みを管理するための目標・KPIが設定されているかなど、改めて自社のESG情報開示内容を見直す必要があります。
ESG情報開示の価値は、企業に対して意思決定するステークホルダーに対する透明性の確保と説明責任を果たすことであり、ステークホルダーとのエンゲージメントを通じて、開示した情報に対してステークホルダーの期待にどれだけ応えられているかを確認することが重要ではないでしょうか。
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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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