IEA、50年までに原子力発電容量を倍増する必要。中国とロシアが主導権を握る現状に警鐘も
国際エネルギー機関(IEA)は6月30日、原子力関連の特別レポートを公表した(*1)。IEAのシナリオに沿って2050年までにネットゼロエミッションを実現するには、20年から50年までの30年間に原子力の発電容量を倍増する必要があると指摘する。中国とロシアが原子力開発の主導権を握っているとして警鐘も鳴らす。
世界経済がエネルギー危機に直面するなか、原子力は再生可能エネルギーを中心としたエネルギーシステムへの移行をサポートするうえで重要な役割を果たしうる、とIEAは指摘した。
原子力の利用を継続・拡大する国は、化石燃料の輸入への依存を低下できるほか、二酸化炭素(CO2)の排出削減につなげられる。天候に左右されず安定した発電を行えることから、太陽光と風力にくわえて再エネの変動調整にも資する。原子力なしに持続可能なクリーンエネルギーシステムを構築するのはより困難でリスクを伴い、高コストなものになるという。
施設の製造プロセスを踏まえると、原子力は太陽光発電や風力発電よりもCO2排出量が少なく、電源別のCO2排出量は水力に次いで2番目に少ない。原子力の発電容量を倍増するには、投資額を10年代の300億ドルから30年までに1,000億ドルに拡大し、50年までに800億ドル程度を維持する必要がある、とIEAは試算する。ただし、同機関が示した50年までにゼロカーボン化した際の電源構成では、再エネが大半を占めるなか、原子力はわずか8%になる。
既存の原子力プラントの63%は30年以上にわたり運転されている。原子炉の寿命延長を図る措置が講じられなければ、30年までに先進国の原子力プラントは3分の1に縮小する可能性があり、寿命延長には多額の投資が必要となるとの見解を示した。また、原子力の利用や安全性を高めるために強力な政策サポートが求められるなか、低コスト、小型、プロジェクトのリスクを抑えた小型炉「SMR」に関しては、カナダ、フランス、英国、米国で技術開発をサポートする動きを強化しているという。
11年の福島第1原発の事故以来、先進国での建設は停滞しており、新設プラントの建設が遅れコスト高への対応も急務になっている。一方、17年以降に建設が開始された31基のうち27基はロシア製もしくは中国製であることに鑑み、ファティ・ビロル事務局長は「先進国が主導権を失っている」と懸念を示した(*1)。
そのようななか、フランス政府は電力公社EDFを100%国有化し、エネルギー安全保障を確保するとともに原発開発を推進する方針を示した。同国では発電電力量の70%を原子力が占めている。
欧州議会は7月6日、持続可能な経済活動を分類する「タクソノミー」に天然ガスと原子力を含める案を支持した。グリーン分野で先行する欧州は基準作りも積極的であり、欧州基準が世界標準になりうる。欧州各国や他の先進国がいかなる原子力政策を打ち出すか注目したい。
【参照記事】*1 IEA「Nuclear power can play a major role in enabling secure transitions to low emissions energy systems」
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