国内外で成長を続けるENSコミュニティ、その最新状況は?

今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の寺本健人 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. DAOになったENSコミュニティ
  2. 「数字」ドメインの熱狂
  3. 国内でのENSドメイン活用の動き
  4. まとめ

0xから始まる長い英数字のEthereumアドレスの「間違えやすく、入力するのも面倒」という問題を、ユーザーの好きな文字列で作った短い「.eth」ドメインを長いアドレスと紐づけることで解決するのが「Ethereum Name Service」、通称「ENS」です。最近では主要なDappsやウォレットがENSに対応し、日に日に使い勝手が向上しています。以前の記事でもENSについてご紹介しましたが、今回の記事ではいまENSコミュニティで盛り上がっているトレンドやDAO化したコミュニティの現状などの最新動向をお伝えします。

広がるNFTの用途、ENSについて

DAOになったENSコミュニティ

2021年11月、ENS開発チームは独自のガバナンストークン「$ENS」をそれまで.ethドメインを保有していた早期ユーザーにエアドロップ(配布)し、今後の運営を$ENS保有者で構成される「ENS DAO」主導で進めていくことを発表しました。このDAOは数あるプロトコル運営型DAOの中でも特に民主的なプロセスで立ち上げられており、エアドロップの対象となった早期ユーザーはトークンを受け取るとき、DAOの「憲法(Constitution)」の条項に賛成するかどうかの投票を求められました。その結果発効した「ENS DAO Constitution」の条項は次のようなものです:

  1. ENSの所有権はガバナンスによって侵害されない
  2. 手数料は第一にインセンティブ構造のために設定される
  3. 収益はENSや他の公共財のために使われる
  4. ENSはグローバルな名前空間(DNS)を統合する
  5. この憲法は多数決によって改正される


DAOがそのポリシーを最初のコミュニティ投票で決定すること自体過去に例のないものでしたが、憲法の内容もまるで民主主義国家のそれのようになっています。DAOのガバナンスはこの憲法に拘束され、憲法に反する内容は決議することができません。

また、注目したいのは第3条で収益をWeb3領域のENS以外の公共財にも回すとしていることです。ENSがドメイン登録時に徴収する手数料などから得る手数料は、まずENSコミュニティ・エコシステムの維持やプロトコルの開発に振り分けられます。その後、余った資金はENSコミュニティがWeb3エコシステム全体の発展に貢献すると考える公共財プロトコルなどに寄付されることになっています。後述する理由によってENS DAOは今年に入ってから継続して大きな利益を上げているため、こうしたガバナンス投票に基づいたエコシステムへの資金提供プログラムも既に始まっています。

ENS Dashboardより。今年に入ってからは毎月のドル建て収益が150~350万ドル程度で推移していることがわかります。

「数字」ドメインの熱狂

この記事の執筆時点で(10月1日現在)、ENSプロトコルでは57万人のユーザーによって累計260万個のENSが登録されており、直近1ヶ月は毎日1万個前後のドメインが新たに登録されています。中でも9月10日では24時間で45,000個超のドメインが誕生しました。

今現在、ENSを盛り上げているのは一体何でしょうか。もちろんWeb3に触れようとする初心者がまず体験してみるプロトコルとして、継続して新規ユーザーを獲得し続けられているというのも大きいですが、それに加えてコミュニティで自然発生したナラティブ(物語)とそれに連なるムーブメントの存在があります。

ところで、9月25日から10月1日の7日間の間に最も高値で取引されたENSドメインは何でしょうか。過去には有名なクリプト系VCの名前を取ったparadigm.ethなどといったドメインが高額で取引されたこともあるので、そういった商標・固有名詞のドメインもありえますが、実は答えは「408.eth」で、取引価格は40.8ETH(760万円)です。

今、こうした一見ありふれているような数字.ethドメインが注目されています。特に1から10,000までの10,000個の数字ドメインは「10k Club」と呼ばれ、高値で取引されています。この人気は、元々今年4月に「AzukiやCloneXのようなコレクティブルNFTの保有者が、自分のNFTのシリアルナンバーに対応する数字ドメインを欲しがっている」という噂が発生し、それがナラティブとしてTwitterなどで広く拡散したことに端を発しています。ENSのシステム上、xxx.ethというドメインの保有者はその配下にyyy.xxx.ethやzzz.xxx.ethといった調子で任意のサブドメインを作成することができるため、大本の数字ドメインを保有していればxxx番のコレクティブルNFTの保有者にazuki.xxx.ethのようなサブドメインを貸し出して収益を上げられるだろう、という期待からまず10,000番までの数字ドメインが短期間で取得されました。(コレクティブルNFTは10,000体発行されることが多いため)

実際にコレクティブルNFT保有者の間にそのようなニーズがあったかは定かではなく、数字ドメイン保有者がそのような形で収益を上げられたという話もほぼありませんが、事実として数字ドメインは取引価格が徐々に上昇していき、現在はフロアプライス2.7ETH程度で流通しています。これは本来Ethereumアドレスに紐づける実用的なツールにすぎなかったはずのENSドメインの一部が、コレクティブルNFTにまつわるナラティブによって注目された結果、それ自体がコレクティブルNFTのように扱われるようになったとも見ることができます。

10k Club自体もコミュニティを形成しており、イベントが開かれることもあるようです

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この流れはさらに広がっており、現在ではもとのナラティブから離れて「特定の規則に基づいた数字・単語」をグループ化することで、そのグループのドメインが活発に取引されるという動きも目立っています。比較的注目されているものにはインド数字を用いたArabic 999 Club(例:「٥١٦.eth (516.eth)」)や漢字表記の999 Club ENS Chinese(例:「四百三十二.eth」)などがあり、それぞれ小規模ながらコミュニティを形成しています。また、ENSを専門に扱うマーケットプレイスが登場したこともこの流れを加速させています。

変わり種では英語の動詞を集めたEnglish Verbsというカテゴリも存在していますが、ここまで来るともとの収益への期待はほとんど失われているといっていいでしょう。こうした個々のカテゴリには通常のNFTコレクションと同じようにコミュニティがあり、マーケットがあり、価格があることから、これらの本質はENSというシステムの上に構築された一個の独立したNFTコレクションであるといえます。

一方、コレクティブルNFTとしての意味を持つことでそうしたドメインが投機的に取引されるようになることも事実であり、この動きがいつまでも続くとは考えづらいです。また、暗号資産(仮想通貨)メディアのWu Blockchainは「(ENSはEthereumアドレスを実在の人物と結びつける技術であるのに)名前ではなく数字で人を呼ぶのは、現実世界では囚人に対してすることだ」とこのムーブメントの盛り上がり方に疑問を呈しています。

引用:Analysis: ENS domains become “the perfect NFT collection” for bear market?

国内でのENSドメイン活用の動き

国内でも企業や著名人がENSを何らかの形で取り扱う事例が増えており、ENSに対する認知度も高まっています。21年12月には元競泳選手の北島康介氏がTwitterのユーザーネームをkosukekitajima.ethに変更したことが話題となりました。直近ではCoincheckが9月27日、自社のNFTマーケットプレイスでENSドメインの取引を開始したと発表しています。

また、GMOインターネットはENSと競合するNFTドメインサービスのUnstoppable Domainsと提携して国内向けに .cryptoや .blockchainといったドメインの登録を仲介する「CryptoName byGMO」というサービスを開始しました。将来的にはGMOグループが運営する既存のDNSドメイン事業とも連携していくとしています。これは直接ENSとは関係しませんが、国内でNFTドメイン分野の注目が高まればENSの需要も高まると予想されます。

まとめ

以上のように、ENSは運営体であるDAOそのものと周辺のエコシステム・コミュニティの双方が成長を続けています。加えて、最近Uniswap Foundationから補助金を獲得したオンチェーン活動の可視化サービス「Phi」のように、ENSをブロックチェーン上で個人を識別するためのツールとして捉え、サービス利用の前提条件とするものも登場しています。このようにしてENSがエコシステム内で一般的なものになるほど普及が加速し、将来的には人間が管理するアクティブアドレスの多くがENSを持つようになる、という未来も考えられます。

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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