米ネクステラ・エナジー、2045年までにカーボンオフセット無しで脱炭素化へ。アップルなどサプライヤーと協力する企業も
再生可能エネルギー大手の米ネクステラ・エナジーは2022年6月、カーボン・オフセット(#1)を利用せず、2045年までに自社事業から排出される炭素をゼロにする新たな目標「Real Zero」を発表した(*1)。再生可能エネルギー投資をすすめ、米国の電力部門および顧客の脱炭素化も支援する。
同目標の達成および進捗を追跡するために、包括的な炭素排出削減計画「ゼロカーボン・ブループリント」を策定した。ネクステラ・エナジーの脱炭素化を実現するとともに、電力部門や顧客の排出量削減をサポートする。低コストな再生可能エネルギーを導入することにより、4兆ドル(約550兆円)超の市場機会が存在するといわれる米国経済の脱炭素化もリードする方針だ。
「ゼロカーボン・ブループリント」では、①カーボン・オフセットを利用せず、45年までに自社事業(スコープ1、2(#2))の脱炭素化を図る、②風力、太陽光、蓄電、グリーン水素、その他再生可能エネルギー向けの投資を継続し、米国の電力部門の脱炭素化を支援する、③顧客の優先パートナーとなって顧客の事業から排出される炭素を削減・ゼロにするサポートを通じ、米国経済の脱炭素化をリードすることを同時並行で進める計画である。
「Real Zero」を達成するまで、炭素を排出しないリソースを用いた発電を拡大させ、エネルギーミックス(#3)の転換を図る。現在では25年までに炭素排出削減率(基準年は05年)が70%に達する計画であり、同目標を達成するまでの30年、35年、40年の炭素排出削減率をそれぞれ82%、87%、94%へと引き上げる意向だ。スコープ3(#2)に関しても透明性を高めていく方針である。
傘下にてフロリダ州の1,200万人にサービスを提供する米国最大級の電力会社フロリダパワー&ライト(FPL)が脱炭素化を主導する。FPLはこれまでに、輸入した石油の利用を削減するとともに、すべての石炭火力発電所を閉鎖し、顧客に120億ドル超の燃料コストの節約をもたらしてきた。45年までの脱炭素化に向けて、太陽光、蓄電、原子力、グリーン水素、その他再生可能エネルギーで構成される発電所の近代化を進める。「Real Zero」の達成を図るうえで、FPLは顧客に追加の負担を求めず、米国で最低水準の電気料金を維持する。
FPLはReal Zero目標の達成に向け、太陽光発電の導入量を大幅に増加させる。現在4,000メガワットの発電量を45年までに9万メガワット超に拡大させる計画だ。蓄電容量を現在の500メガワットから5万メガワットへ、安価なベースロード電源(#4)であり、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力発電の継続、天然ガスをグリーン水素へ代替、バイオマスなど再生可能エネルギー由来の天然ガス(RNG)の利用を進める。
FPLとおなじく傘下のネクステラ・エナジー・リソーシズは、風力、太陽光発電容量が24,000メガワットと、世界最大級の再生可能エネルギー発電事業者である。蓄電分野でも世界有数のリーディングカンパニーだ。Real Zeroの達成に向け、米国の電力部門の脱炭素化を支援する。さらに、運輸、テクノロジー、産業、農業といった電力部門以外のセクター向けにクリーンエネルギーソリューションを提供するほか、脱炭素化に資する送電分野への投資を拡大する。
また、米アップル(ティッカーシンボル:AAPL)は10月25日、世界各国のサプライヤーに2030年までの脱炭素化を要請すると発表した(*2)。アップル関連製品を製造するパートナー企業との協調を促進し、クリーンエネルギー・気候ソリューションへの投資を拡大する。
アップルは、30年までにグローバルサプライチェーンでカーボンニュートラルを実現するという野心的な目標を設定する(主要国は50年ネットゼロ目標)。おもにエネルギー効率の向上、低炭素の設計、事業活動のカーボンニュートラル化、サプライチェーンの再生可能エネルギーへの移行により、15年以来、温室効果ガス(GHG)排出量を40パーセント削減している。また、製造直接費の支出先において70%以上を占める200社超のサプライヤーが、アップル製品の製造においてクリーンエネルギーの使用にコミットする。とくに、日東電工(銘柄コード:6988)や台湾積体電路製造(TSMC、2330)といった主要製造パートナーは、すべてのアップル製品の製造に使用する電力を、100%再生可能エネルギー由来にすることを約束する。
そして今回、世界中のサプライヤーに対し、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みを加速するよう強く求めている。主要な製造パートナーについては、脱炭素化に向けた取り組みの進捗を年ごとに評価・追跡する。サプライヤーがコミットメントを果たし、さらに前進するのを支援するため、クリーンエネルギープログラムを通じて無料eラーニングや研修を提供する。
脱炭素化に資するソリューションへの投資も拡充する。欧州では、30メガワットから300メガワット級の大規模な太陽光および風力発電の建設を進める計画。米国では10月より、iOS16に搭載された新機能「クリーンエネルギー充電」を活用することで、よりクリーンなエネルギーが電力網で使用されている時に充電するよう最適化できるようになった。
さらに、大気中から二酸化炭素(CO2)を削減する森林プロジェクトに直接投資する取り組み「Restore Fund」も推進する。25年には、大気中から100万トンのCO2が除去される見込みである。
近年は、サプライヤーと協調として脱炭素化を図る企業が散見される。米小売り大手ウォルマート(WMT)は、30年までにサプライチェーン全体で10億トン(ギガトン)のGHG削減を目標とする「プロジェクト・ギガトン」を展開する。現在では4,500社超のサプライヤーが参画し、気候アクションに関する民間部門最大級のコンソーシアムとなる。21年12月には、プロジェクト・ギガトンを通じた新たな融資プログラムも開始し、融資の面からサプライヤーのサポート強化を図っている(*3)。
デンマークのエネルギー大手オーステッド(ORSTED)は、25年までに全サプライヤーに対し、使用電力を100%再生可能エネルギーへ切り替えるよう要請する(*4)。エネルギー企業として世界初の取り組みだ。製薬業界では、グラクソ・スミスクライン(GSK)が各サプライヤーのサステナビリティ関連の取り組みにコミットすることを要請および支援する(*5)。
ESG(環境・社会・ガバナンス)情報の国際的な開示基準の策定を進める国際会計基準(IFRS)財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は10月21日、企業に対し、スコープ1~スコープ3(#2)までとなるバリューチェーン全体のGHG排出量の開示要請を決定した(*6)。50年ネットゼロの達成に向けて、アップル、ウォルマート、オーステッドのような動きが業界全体に広がることに期待したい。
(#1)カーボン・オフセット…市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガス(GHG)の排出を認識し、主体的にこれを削減する努力をおこなうとともに、削減が困難な部分の排出量については、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(クレジット)を購入すること、または他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施することなどにより、その排出量の全部または一部を埋め合わせるという考え方。
(#2)スコープ1…事業者みずからによるGHGの直接排出。
スコープ2…他社から供給された電気や熱などを使用して発生する間接排出。
スコープ3…事業者の活動に関連する取引先の排出。
(#3)エネルギーミックス…火力、水力、原子力、再生可能エネルギーによる発電をバランスよく組み合わせ、それぞれの特徴を最大限に活用していくこと。
(#4)ベースロード電源…コストが安く、昼夜を問わず安定的に発電できる電力源。
【参照記事】*1 ネクステラ・エナジー「NextEra Energy sets industry-leading Real Zero goal to eliminate carbon emissions from its operations, leverage low-cost renewables to drive energy affordability for customers」
【参照記事】*2 アップル「Apple calls on global supply chain to decarbonize by 2030」
【関連記事】*3 「【米国株情報】ウォルマート、GHG排出削減に向けた新たな融資プログラムを創設」
【参照記事】*4 オーステッド「Ørsted extends its 100% renewable electricity target to all suppliers」
【参照記事】*5 グラクソスミスクライン「GSK launches Sustainable Procurement Programme for suppliers」
【参照記事】*6 IFRS財団「ISSB unanimously confirms Scope 3 GHG emissions disclosure requirements with strong application support, among key decisions」
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