分散型取引所(DEX)がバイナンスを越える日は来るのか?

暗号資産の常識は目まぐるしく変化している。一般的に、暗号資産の取引所といえば中央の組織によって管理される「中央集権型取引所(CEX)」が挙げられる。現在、圧倒的な存在感を誇る取引所のBinance(バイナンス)も中央集権型取引所だ。

CEXにはハッキング被害や突然取り決められる出金停止など、ユーザーが直接的に被害を受けるケースが多発している。最近のFTXの破綻による出金停止やユーザー資産の流用は、CEXだからこそ起きた問題と言える。これにより、正しい資産の保管方法や本来あるべき取引所の仕組みを議論する機会が増え、分散型取引所(DEX)が注目を集め始めた。

取引所といえばDEXと言われる時代が来るかもしれない。例えば、dYdX創業者のアントニオ・ジュリアーノは、「DEX(分散型取引所)が世界一の取引所バイナンスを超える」と信じる一人だ。

本稿では、DEXがバイナンスを超えるかもしれない3つの理由を世界最大のDEX「dYdX」を例に挙げて解説する。

目次

  1. DEXとバイナンスを比較
  2. DEXが持つ3つの強み
    2-1. DEXの強み① セルフカストディ
    2-2. DEXの強み②:トラストレス
    2-3. DEXの強み③:パワー(権力)の分散とDAO
  3. 最後に

1. DEXとバイナンスを比較

まず、世界中で利用されるバイナンスの強さは、取引量に現れている。以下の表は、暗号資産取引所のマーケットシェアだ。バイナンスは、ネイビーで表示されており、2022年11月現在は全体の8割を超えている。

出典:The Block

DEXのユニスワップとCEXのバイナンスの取引量を比較してみよう。以下の表では、2022年11月1日時点の取引量がユニスワップが$1.58Bに対して、バイナンスは$17.68Bとなっており、10倍以上の取引量を誇る。

出典:The Block

しかし、バイナンスとユニスワップは大きく異なる機能を持つことを忘れてはならない。バイナンスは、暗号資産の売買を始め、レバレッジをかけて暗号資産をトレーディングできるのに対し、ユニスワップは、所有する暗号資産を他の暗号資産へ交換するスワップに限定される。

dYdXは、ユニスワップに比べ、ある意味バイナンスに近いサービスを提供しているDEXである。dYdXの代表的なプロダクト「デリバティブ取引(無限先物取引)」においてバイナンスと比較すると、やはりバイナンスが圧倒的な取引量を誇る。

出典:Coingecko

一方のdYdXは、21位にランクインしている。取引量に着目するとDEXがCEXの王者バイナンスに追いつくことは困難に思えるだろう。

ここで注目したいのは、dYdXがすでに多くのCEXを制している点だ。例えば、上のランキングにおいて大手中央集権型取引所であるKraken(クラーケン)より、24時間の取引量が多いことがわかる。

特に先物取引においては、CEXが国や政府による規制の強化の影響を大きく受けてきた。国や地域によっては、レバレッジに制限がかけられる、あるいは完全に禁止されている地域もある。日本のレバレッジ上限は2倍だ。その一方、dYdXをはじめとするDEXは、理論上は中心となる運営組織を持たずコミュニティやDAOによって運営されるため、規制の対象が絞れない。また、DEXの特徴はセルフカストディが前提という点だろう。今後さらなる規制によりCEXが停滞する中、DEXを使用するユーザーが増える可能性がある。

2. DEXが持つ3つの強み

前述したように、取引量などの数字で比較すると、圧倒的にバイナンスが強いことが明らかだ。しかし、DEXには、今後の成長が期待される理由が3つある。

DEXの強み①:セルフカストディ

まず注目したいのは、「セルフカストディ」だ。セルフカストディとは、自分の資産(カストディ)を自分で(セルフ)管理することを意味する。

暗号資産において「資産を持つ」ことは、「秘密鍵」を保有することだ。全ての暗号資産は、ブロックチェーン上に保管されている。それらの資産は個人情報とは結びつかない。例えば、銀行のキャッシュカードを無くした場合、身分証を提出して口座とその中身が自分のものであることを証明できる。一方の暗号資産は、ブロックチェーン上の資産と紐づく秘密鍵を持っているか否かが最も重要となる。

つまり、秘密鍵を持っていないなら、その資産はあなたのものではなくなるのだ。セルフカストディにおいて、秘密鍵を所有することと正しく保管することが重要視される。

CEXを使用する場合、この秘密鍵は取引所が管理することになる。つまり、取引所がNoといえば資産を引き出したり、移動することが不可能となるのだ。2022年11月に発生した大手取引所FTXの混乱においては、取引所から出金停止措置が発表された。資産が自分のものであるにも関わらず、取引所が出金を停止したら成す術がない。

改めて、セルフカストディの重要性が浮き彫りになったのだ。DEX(分散型取引所)はセルフカストディの理念を基盤としてサービスを構築している。DEXを利用する際には、資産はLedgerやメタマスクなど個人の暗号資産ウォレットによって保護される。CEXとは異なり、DEXが顧客資産を顧客の代わりに管理するという事態はあり得ないのだ。DEXでは、セルフカストディを妥協せずに、トレーディングや暗号資産のスワップ、ステーキングを利用することができる点が、最大の利点だ。

DEXの強み②:トラストレス

そもそも暗号資産はトラストレス(信用不要)という革新的なシステムが原点だ。トラストレスとは、不正が不可能なブロックチェーンを使用することで、組織や個人などの第三者を信頼することが不要となる仕組みを指す。

DEXでは、自分の資産取引所に預ける代わりに個人のウォレットをプラットフォームに接続。取引所における資産の動きは全てブロックチェーンを見れば分かる。DEXを信頼する必要がないことから、トラストレスが成立するのだ。

一方、中央に組織を持つCEXはトラストレスと言えるだろうか?ユーザーが多額の資産を預けるCEXは、万が一の事態に十分な資金の備えを持つ必要がある。これらの証明となるのが「Proof of Reserve」である。バイナンス創業者のCZ氏は、全ての取引所が「Proof of Reserve」を採用するべきだと述べた。Proof of Reserveとは、取引所がユーザーの資産と同等の資産を保有することを、会計事務所等の第三者機関が証明する仕組みだ。

現時点で公式にProof of Reserveを提示しているKraken(クラーケン)によると、会計事務所がKrakenの所有する資産の残高と、プライバシー保護のもとに収集した顧客残高を照合。Krakenの残高が顧客残高と同等またはそれ以上であることを検証している。これにより、非常事態であっても顧客の預けた資産は全て顧客に返還されることが保証される。Proof of Reserveは、ユーザーにとって一定の安心材料となるだろう。

一方、証明できる範囲は限られており、資産の保証を確約するものではない。Proof of Reserveにおいては提示した残高が正しいことを証明しなければならない。しかし、例えば、取引所を運営する企業が未払いの負債を抱えていたらどうだろうか?さらに、取引所はProof of Reserveに提示する資金用に一時的に融資を受けている可能性もあるのだ。その場合は、当然ながらProof of Reserveは無意味な証明となる。

DEXの強み③:パワー(権力)の分散とDAO

中央に組織を持つ場合、会社の方針や変更を加える場合のプロセスはシンプルになる。全ての意見を聞かずして、権力を持つ経営陣が決定を下すことができるからだ。しかし、そこがが弱点にもなりうる。

例えば、中央集権型取引所のCEOが法律違反など問題を起こした場合、取引所全体の信頼を失う可能性がある。CEOになんらかの問題が発覚し心理的な恐怖を感じた投資家が一斉に資金を取引所から出金。多額の出金に対応できない取引所が、ユーザーの出金を停止するといった最悪のシナリオに繋がりかねないのだ。このような事態が、ごく一部または一個人によって起こり得る仕組み自体が、ハイリスクである。

上記と対照的な存在なのがDAO(自律分散型組織)だろう。例えば、分散型取引所のdYdXでは、2023年にV4(完全分散型)を目指している。完全分散化では、権力を持つ中央集権的な組織を全て権限を持たなくなるが、その後もdYdXを運営するためには改善を加えたり、不具合を修正する必要がある。そこで、重要な役目を担うのがdYdX DAOである。

出典:dYdX DAO

現在のdYdX DAOは、グラント(助成金)の割り当てを決める役割だけを有している。今後、Operations DAOという予算とオペレーションを管理するDAOが誕生する予定だ。2023年の第3四半期では、リスク分析やファイナンス、グロースといった役割をDAOが担うことが計画されている。

提案されたdYdXの改善案の採決は、dYdXのガバナンストークンDYDX所有者の投票によって行われる。なお、提案は誰でも行うことができるため、ガバナンスの参加者はトークン所有者に限らない。dYdXのユーザーが改善すべき点を提案・議論することができるのだ。

例えば、dYdXでは、取引報酬を25%削減する案が提案され、投票が行われたのち可決された。このように、組織によって運営されるのではなく、dYdXのユーザーやガバナンストークン保有者によって運営されるのである。

最後に

大手取引所の破綻やハッキングが相次いだことで、ユーザーは自己資産への正しい判断力が求められている。

中央集権型取引所では、取引所が権限を持つ。それ故に、顧客のアカウントを凍結したり預かった資金の出金を停止することが可能だ。2022年11月に発生した大手取引所FTXの事例から学ぶべきことは、同じことが、原理上、他の取引所でも起こりうるという点だ。取引所の利用者は早急に自己資産を守る対策を取らなくてはならないし、そもそも中央集権型取引所に資産を預けるリスクを改めて考え直したい。

分散型取引所は、中央組織を持たないため、セルフカストディにより自分の資産を第三者に預けずに利用できる。一方で、世界一の取引所バイナンスと比較すると利便性や機能面で劣っている。今後、分散型取引所が発展し中央集権型取引所と同等のサービスを提供できるようになれば、分散型取引所がバイナンスの取引量を超える日が訪れるかもしれない。

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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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