ESG投資のヒントは身近な製品、多様性に配慮したものづくりや販売手法が光る上場企業3選
ESG投資に対する注目度が高まる中、株価や財務指標からは読み取れない様々な取り組みを行っている企業も多く存在します。環境への配慮などESGの観点が重要視されつつあります。
一方でESGの切り口は、多岐にわたります。どういった部分から着目していけば良いのか、戸惑う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「ESG」の中でも、「S(社会)」に着目し、具体的な企業の取り組みを紹介します。ESGの観点を取り入れるための目線について、イメージを膨らませてみてください。
※本記事は2023年4月20日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- ESGの「S」は認知度が高い
- 多様性が注目されている理由は?
- 消費者に寄り添ったものづくりが業績に与えるメリット2つ
- 多様なニーズに応えるものづくりに取り組む上場企業3選
4-1.TOTO
4-2.サッポロホールディングス
4-3.BALMUDA - まとめ
1.ESGの「S」は認知度が高い
2022年7月末、企業広報戦略研究所により、生活者1万人を対象とした「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」が実施されました。
この調査の中で、企業広報戦略研究所が独自に選定したESGの24項目(E/S/Gそれぞれ8項目ずつ)の、生活者における認知度がランキングとして集計されています。
1位は「S:社会」の「多様な生活者に配慮した商品・サービス・事業の展開」(27.2%)、2位は「E:環境」の「リサイクルなど資源の有効活用」(27.1%)、3位は「S:社会」の「社員が能力を向上し、やりがいを持って働ける環境の提供」(27.0%)となりました。
多様化する社会に適応した商品・サービス・事業が増加し、選択肢が広がってきた実感が高まっていることがうかがえます。
2.多様性が注目されている理由は?
ランキングの結果は、多様性に対する意識が高まっていることを示しているとも考えられます。
わたしたち人間は、経験や環境によって個人が形成されていきます。社会はそれぞれの個性を持つ人間同士やコミュニティがお互いに関係性を持つことで形成されていますが、その関係性が多様であれば社会全体のレジリエンス(困難な問題が生じたときに回復する力)や社会に生きる一人ひとりのレジリエンスが高くなるメリットや、社会の中でイノベーションなどが生まれやすくなるメリットがあります。
分かりやすい例を挙げると、上場企業などでは女性の管理職登用比率が多様性向上の目標として掲げられることが多くありますが、企業内に女性の管理職が増えることで、優秀な女性が活躍できる環境が整い、社内全体のパフォーマンス向上や従業員の満足度向上につながったり、人口減少社会というリスクがある中でも企業として採用力を上げることにつながったりするといったメリットや、自分たちの組織やビジネスを女性の目線から見直す機会が増えることで、新たな気付きやビジネスチャンスにつながるといったイノベーションの機会創出につながる可能性などがあります。
生活面でも、働き方によって必要なサービスが異なります。夜遅くまで働いている人は、家に帰ってから食事の用意をするための時間を減らすために配食サービスを使うことがあり、在宅勤務を主としている人は、家でリラックスできるグッズや、仕事に集中できる環境が必要な場合もあるでしょう。
また、とにかく安いものやコスパの良いものを買いたいという人もいれば、オーガニック食品などを購入したいという人もいると思いますが、どちらかだけではなく社会の中に両方の商品や企業があれば、多様なライフスタイルを選択することができるようになります。これらは、個人の選択を許容している多様性ということになります。
3.多様なニーズに応えるものづくりが企業に与えるメリット2つ
多様性に応えるものづくりは、企業側にもメリットがあります。ここでは、企業側のメリットを2つ紹介します。
一つ目のメリットは、高付加価値の提供により、製品単価を高められる点です。モノにあふれ、技術も進歩した現代において、ありふれた製品は高い値段で売れません。
電卓を見てみましょう。世界初の電卓は、シャープ(当時の早川電機)により開発・発売されました。1964年頃の価格は50万円を超えていました。
しかし、電卓が一般的になった今、100円で買える電卓もあります。一方で、デザイン性を高めた製品や、関数電卓のような高機能の製品は、その10倍以上の価格でも売れています。
金額が高くてもいいからこの製品が欲しいと思ってもらえれば、製品単価を上げることができるため、企業の利益向上に役立ちます。
二つ目のメリットは、多様な生活者に寄り添うと、社会的な評判や企業の価値が高まる点です。
ESGにおける「S(社会)」に対する姿勢は、生活者の認知度が高い項目です。多様な生活者から支持されるものづくりを行えば、短期的には研究開発などのコスト面でマイナスかもしれません。しかし、長期的に考えると、消費者だけでなくESGに対する意識の高い投資家からの支持が得やすくなります。
多様な生活者に寄り添ったものづくりは、企業の利益・資金調達面の双方でメリットが期待できます。
4.多様なニーズに応えるものづくりに取り組む上場企業3選
多様性に配慮したものづくりに取り組む企業について、具体的に見ていきましょう。今回は日本の上場企業の中から3社を紹介します。
4-1.TOTO
TOTOは福岡県北九州市に本社を構え、東証と名証のプライム市場に上場する企業です。住宅設備、特に水回りの設備に強みを持ち、私たちの生活に深く根ざした製品を作っています。
SDGsに対する取り組みも積極的に行っています。ESG投資の世界的指数である 「FTSE4Good Index Series」の構成銘柄に7年連続、「MSCI ESG Leaders Indexes」の構成銘柄に15年連続、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用する、5つのESG投資指数にも継続して選定されています。外部からも高い評価を得ていることがうかがえます。
三菱地所が再開発を進める東京駅の街区「TOKYO TORCH」内に建てられた、「常盤橋タワー」のオフィスビルのお手洗いの事例を紹介します。
リモートワークが一般的となり、オフィスに来る必然性が薄れているケースも多いのではないでしょうか。職場では、対面での仕事をしたい人、なるべく出社をしたくない人など、それぞれの価値観によってニーズは混在しています。
常盤橋タワーが目指すのは、「働く人が、『このオフィスならぜひ行きたい』と感じるようなビル」です。トイレにも力を入れており、TOTOは三菱地所と「未来のオフィストイレ」について協議を重ねながら、「出社したくなる」オフィスにふさわしいトイレを生み出しました。
特に食堂のある階に設置されるトイレは先進的です。「nagomuma restroom(ナゴムマ・レストルーム)」と名付けられたトイレの大きな特徴は、男女とも洗面台を完備した六角形の個室ブースを基本としていることです。
個室を基本とした理由は、ジェンダーレスの追求です。食堂に隣接していることからランチ時は混雑が予想されるため、男性トイレに小便器と洗面コーナーを設けています。将来はすべて六角形ブースの個室完結型に改修することも可能となっており、利用者側のニーズによって柔軟な対応ができるよう工夫されています。
ブースの内装や照明、サウンドは、「くつろぎ」「いきぬき」「おちつき」「ひらめき」と4種類のテーマが用意されています。トイレの入口からはそれぞれの空き状況がわかるようになっており、好きな雰囲気を選べる仕組みです。
その他トイレも、さまざまな工夫がされています。たとえば、ネクタイを締めた男性向けの配慮です。かがんで洗面台を利用すると、ネクタイが濡れやすいため、男性トイレの洗面カウンターの高さは、女性用より5cm高く設定されています。また、洗面台の高さ、洗面ボウルの深さなどを実際に検証しながら選定したそうです。
同社のものづくりからは、多様なニーズに応えようとする努力と工夫、様々な利用者を想定したきめ細やかな配慮が感じられます。
4-2.サッポロホールディングス
サッポロホールディングスは、東京都渋谷区恵比寿に本社を構え、東証プライム市場と札証に上場する持ち株会社です。同社は、事業子会社を通じて、ビールをはじめとした酒類、食品・飲料、外食、不動産の分野で事業を展開しています。
同社のSDGsに対する取り組みも外部からの評価は高く、「FTSE4Good Global Index」、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、「SOMPOサステナビリティ・インデックス」と複数のESG投資インデックスに組み入れられています。
同社の多様性に対する意識は、キャッチコピーからも読み取ることができます。
1970年代、サッポロビールのキャッチコピーは、「男は黙ってサッポロビール」でした。いかにも働く男性向けで、渋いコピーです。一方で、2023年現在の黒ラベルのキャッチコピーは「丸くなるな、星になれ。」です。個性を大切にする意識が感じられます。2つのコピーは、どちらもコピーライターの秋山晶さんの作品です。
サッポロの特徴は、性別や年代を超え、モノの先にある価値観を大切にしていることです。製品そのものだけではなく、プロモーションなどの体験を合わせた相互作用によって、多様な生活者からの支持を集めています。
2010年以降、黒ラベルは若年層を強く意識したマーケティングを行っています。2010年ごろ、「大人の☆生。」というコンセプトとともに展開されたCM「大人エレベーター」は、俳優の妻夫木聡さん演じる若者が、著名人に「大人とは?」「人生とは?」とたずね、語り合う内容となっています。それぞれの価値観で自分らしい未来を模索する若年層に訴えかけました。
また、体験を通じてサッポロビールを知ってもらうためのプロモーションとして、講談社と提携した「赤星★探偵団」というサイトがあります。サッポロビールのもう一つの主力ブランド、「サッポロラガービール」通称「赤星」が飲めるお店について、著名人が「あしで稼いだ」情報が読めることが売りです。「ビール」というモノ自体ではなく、それを楽しむ「シーン」を売り込むことで、「赤星」はさまざまな価値観を持つ生活者から愛されるブランドに育っています。
同社のマーケティングは、多様な価値観を持つ若年層に焦点を当てつつ、ブランドが持つ既存の価値も大切に、展開されてきました。そのなかで、「ひとりひとりがその人らしく」というメッセージを伝えることで、さらにブランド価値を高めています。
4-3.BALMUDA
BALMUDAは、2003年に創業し東京武蔵野市に本社を構える、家電などの企画、デザイン、設計、開発、販売を手がける企業です。東証グロース市場に上場しています。インデックスに組み入れられるような大企業ではないものの、消費者のニーズに応えるものづくりが目を引く企業です。
たとえば扇風機です。BALMUDAの扇風機「GreenFan」は、おしゃれなデザインも手伝って、3万円台という扇風機としては超高額であったにも関わらず、発売当時から人気の製品です。そのものづくりの原点は「子どもの頃、夏休みに感じた、自然の風」です。
汗だくになって遊び回って一息ついた瞬間、吹き抜けた風の気持ちよさは、誰もが感じたことがあるのではないでしょうか。「あの風を再現した扇風機が欲しい」という、ニッチなニーズに応えたのが、「GreenFan」です。
同社を代表するもうひとつの製品は、トースター「BALMUDA The Toaster」です。「日常の道具は、すべて体験のためにある」という価値観のもとに、日常生活で感動的な体験を提供できる道具として焦点が当てられたのが、キッチン家電でした。
朝食は、些細であたりまえな体験です。しかし美味しいパンを朝食で食べれば、特別な体験に変わるでしょう。トースターは2万円超えという高価格帯であるにも関わらず、ヒット商品となりました。
BALMUDは繊細なニーズに応え、こだわりのものづくりをすることによって製品単価を上げ、成長してきた企業です。
5.まとめ
収益を改善させるための代表的例がコストカットです。多様性への配慮には費用が掛かります。短期的には収益性の追求と逆の行動であるかもしれません。
しかし、世の中がモノであふれ、ESGに対する取り組み姿勢を評価する目も厳しくなってきつつある現在、ブランド価値を高められない企業が生き残ることは難しいといえます。
「ESGの観点」というと難しく聞こえるものの、高いお金を出してでも買いたいと思えるか、と言った、消費者の目線も大切なポイントです。消費者がESGに関心を持ち、資産運用にESGの観点を取り入れる投資家が多くなれば、世の中が少しずつ良くなっていくでしょう。
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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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