2023年に海外投資家が注目する5つのESGキーワードは?2023年のESG投資の見通しも
コロナ禍では世界経済の先行きに暗雲が広がると同時に、国際秩序の対立が悪化している様子も見られました。
本稿では、ESG投資に影響を与えたこの一年間の振り返りと、今後どのような展開が予想されるのかについて、海外投資家が注目する5つのキーワードとともに考察します。
参考:MSCI「ESG and Climate Trends to Watch for 2023」
※本記事は2023年5月11日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 激動の2022年とESG投資
- 2023年のESG海外投資家が注目する5つのキーワード
2-1.エネルギー危機と長期的脱炭素戦略
2-2.グリーンウォッシング規制・監視強化
2-3.ESG情報開示の品質向上
2-4.ESG情報開示の国際規準統一
2-5.クリーンテック市場の成長 - ESG投資の見通し「価値の創造重視」が追い風に?
- まとめ
1.激動の2022年とESG投資
2022年2月に勃発したロシア・ウクライナの戦争は、あっと言う間にエネルギー供給をめぐる国際経済戦争に発展しました。コロナ禍ですでにひっ迫していたエネルギー供給に圧力をかける形で、世界的なインフレや欧米の利上げペースが急加速しました。
その一方で、欧州の記録的な熱波やパキスタンの大洪水、米国の自然火災など、気候変動に起因する異常気象現象が世界各国で発生し、地球温暖化対策の重要性について考えられることが増えました。
ESG市場においては、環境要因やサステナビリティ情報の開示と透明性の向上に大きな焦点が当たると同時に、エネルギー危機の影響や、グリーンウォッシング(Greenwashing)(*1)に対する懸念が高まりました。
*1:自社の商品やサービスが(事実よりも)環境に優しい印象を消費者に与える、欺瞞的な広報活動
2.ESG海外投資家が注目する5つのキーワード
2023年3月現在、既存の課題への取り組みが重視される一方で、新たな動きが予想されます。ESG投資動向を予想する上で海外投資家が注目している、5つのキーワードを見てみましょう。
2-1.エネルギー危機と長期的脱炭素戦略
欧州を起点に始まったエネルギー危機は、世界各国のESG市場にも大きな影響を与えています。
対応策として、一部の企業がエネルギー効率とクリーンエネルギー戦略を加速させています。一方で、特に中小企業は脱炭素戦略への投資の縮小を余儀なくされるなど、企業の脱炭素戦略の二極化が進んでいます。
英ビジネスメディアedie(イーディー)と英環境コンサル企業Inspired Energy(インスパイアード・エナジー)が2022年9~10月に148の企業を対象に実施した共同調査では、5分の1がエネルギー危機を理由に「ネットゼロ移行への取り組みの優先順位を下げることを余儀なくされている」と回答しました。対して、24%が「自社の脱炭素化をさらに加速させている」、56%が「分散型エネルギー(*2)の導入を検討している」と回答しました。
参考:edie「7 top ESG trends to look out for in 2023」
参考:Inspired Energy「NET ZERO BUSINESS BAROMETER」
*2:再生可能エネルギーや自然エネルギーなどを利用して、地域ごとにエネルギ―を生成・供給するシステム
今後はこのような二極化がより顕著になり、消費者や投資家の関心が、どの企業が長期的な脱炭素戦略を打ち出しているかに向けられると予想されます。
2-2.グリーンウォッシング規制・監視強化
ESGやサステナビリティに関する情報が増え、グリーンウォッシュを見極める必要があります。そのため、ESG市場の信頼性と透明性の向上が重要課題の1つとなっています。
2022年はドイツ銀行や米資産運用会社Vanguard(バンガード)、英メガバンクHSBC、英消費者メーカーUnilever(ユニリーバ)を筆頭とする金融機関及び大手企業のグリーンウォッシング問題が相次いで露見し、各国の規制当局が規制や監視体制の強化に乗り出す事態に発展しました。
参考:Eco-Business「18 brands called out for greenwashing in 2022」
米国証券取引委員会(SEC) がESG投資の開示を改善する規則案を提案したのを皮切りに、英国金融行動監視機構(FCA)は投資商品のサステナビリティ表示の導入や開示要件を含む、新たな規制案を発表しました。欧州監督機関(ESAs)は金融セクターにおける潜在的なグリーンウォッシングに関する証拠収集を開始しました。さらにオーストラリア やフランスでは、グリーンウォッシングに罰金や制裁措置を課す規制法を導入するといった動きが見られました。
参考:EY「What mandated net zero transition plans mean for UK-listed companies」
参考:Probono Australia「Greenwashing crackdown continues」
2023年以降は規制・監視体制の強化とともに、各国におけるESG関連商品・サービスの名称や表示にどのような基準が策定されるのか、企業側にどのような責任が追及されるのかという点も重要な課題となるでしょう。
2-3.ESG開示情報の品質向上
ESG開示情報の品質向上をめぐる議論も加速しています。
たとえば、2022年6月の時点で世界のトップ上場企業の3分の1(702社)以上が「ネットゼロ」を目標に掲げています。そのうち65%(456社)は最低限の報告基準を満たしていなかったことが、ネットゼロ目標の透明性を追跡する「Net Zero Tracker(ネットゼロトラッカー)」の調査で明らかになりました。
参考:Net Zero Tracker「Net Zero Stocktake 2022」
このような背景から、「ネットゼロ」を目標に掲げる企業に対し、年次報告書の一部として具体的な移行計画を公表するよう求める声が高まっています。
参考:edie「7 top ESG trends to look out for in 2023」
すでに英国においては2023年以降、温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標と達成に向けた脱炭素計画の公表を、すべての上場企業及び一部の金融機関に義務付ける方針が策定されています。今後は同様の動きが他国に広がる可能性があります。
参考:EY「What mandated net zero transition plans mean for UK-listed companies」
2-4.ESG情報開示の国際規準統一
ESG市場の信頼性と透明性を高める上で、情報開示をめぐる国際指針の基準統一も重要なカギを握っています。
現在は「GRI(Global Reporting Initiative/グローバル・レポーティング・イニシアティブ)」「SASB(Sustainable Accounting Standard Board/サステナビリティ会計基準審議会))といった複数のフレームワークがESG情報の開示に活用されていますが、それぞれが異なるESGの側面に焦点を当てているため、「比較が難しい」との指摘があります。
参考:SASB Standards「The Sustainability Reporting Ecosystem」
2022年にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が開示指針の統一化に向け、気候関連情報の開示基準及びサステナビリティ関連財務情報開示の草案を公開しました。
参考:IERS「ISSB delivers proposals that create comprehensive global baseline of sustainability disclosures」
今後は、他の国際機関や各国の法域などとの連携を通し、国際規準を策定する動きが一気に加速することが予想されます。
2-5.クリーンテック市場の成長
環境の持続可能性の向上を目指すクリーンテック市場が急成長を遂げる中、クリーンエネルギーやサーキュラーエコノミー(循環型経済)(*3)の拡大に役立つ技術への関心が一層高まると期待されています。
*3:本来は廃棄される製品や原料をリサイクルや再利用することにより、資源を循環させる経済システム
デジタル社会への移行に伴い急増しているe-Waste(電子廃棄物)を一例に挙げると、2019年は世界で5,000万トンを超えるe-Wasteが発生したのにも関わらず、持続可能な形でリサイクルされたのはわずか17%でした。このまま増え続けた場合、2030年までに年間7,500万トンに達すると、英e-WasteコンサルタントS2Sは予想しています。
参考:statista「Global E-Waste – Statistics & Facts」
近年は解決策の一環として、効率的にe-Wasteから金属を抽出することや、廃プラスチックを気体や液体状の原料に変換し、新品同様の品質の再生プラスチックを生産することなど、さまざまな技術の開発が進められています。投資対象としても注目の領域です。
参考:Making sustainable change「Can New Technologies Recycle the 90% of Plastics That Don’t Get Recycled?」
海外投資家が2023年のESG投資で注目している領域は、以上のキーワードの他にも多数挙げられます。
世界同時不況のリスクが高まり、社会的不平等性がさらに拡大することが懸念されている現在、「DE&I(Diversity=多様性、Equality=平等性、Inclusion=包括性)」への関心が増しています。サプライヤーチェーン全体でESGを配慮した行動規範順守を促す「サプライチェーン・マネージメント」や、気候変動に続くESG投資分野として注目されている「生物多様性及び生態系保護」です。
さらに、各国の政策や地政学的・経済的・社会的リスクといった市場全体に影響を与える要因なども、投資判断の材料として考慮する必要があります。
3.ESG投資の見通し「価値の創造重視」が追い風に?
個人投資家にとっては、短期~中期的なESGファンドの見通しも気になるところでしょう。
2022年はESGファンドにとっても試練の年となりました。しかし短期的な利益の追求より長期的な価値の創造を重視する傾向が投資家間で広がっており、力強い追い風となりそうです。
国際コンサル企業PwC(プライスウォーターハウスクーパース)が世界の機関投資家及びアセットマネージャー500人を対象に実施した調査報告書『Asset and wealth management revolution 2022(アセット・アンド・ウェルスマネジメント(2022年資産運用革命)』では、「今後2年間でポートフォリオにESG関連商品が占める割合を増やす」と回答した割合が、米国と欧州でそれぞれ8割を上回りました。
参考:Asset and wealth management revolution 2022「Exponential expectations for ESG」
PwCはこのような背景から、ESG関連のAUM(運用資産)が市場全体の伸びを上回るペースで成長を続け、2026年までに34兆ドル(約4,366兆4,977億円)に達すると見込んでいます。
一方、ドイツ銀行の調査では、顧客の4割以上が企業の財務リターンよりESG評価を重視していることが明らかになりました。
参考:ドイツ銀行「ESG CIO survey 2022」
4.まとめ
2022年に引き続き、2023年も不透明な先行きが広がっています。さまざまな領域において不確実性が高まり、「安定性」を優先する傾向が強まりそうです。ESG分野においても、市場を揺るがす変化や不安定な状況が続くことが予測されます。
しかしその一方で、このような変化はESGが拡大していく過程において必要不可欠なものです。ESGやサステナビリティが、単なるトレンドではなく持続的な成長に向けた長期投資対象であるとの認識が強まっていくことが期待されています。
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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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