金融機関向けブロックチェーン「Evergreen」:アバランチがエンタープライズの課題解決へ
今回は、アバランチの金融機関向けブロックチェーン「Evergreen」について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
2023年4月6日、レイヤー1ブロックチェーン「アバランチ(Avalanche)」を開発するアメリカの企業「アバ・ラボ(Ava Labs)」は、金融機関向けのサブネット「Evergreen(エバーグリーン)」のローンチを発表しました。
アバランチ上に作成される独自のブロックチェーンを「サブネット」と呼びます。今回発表されたEvergreenは、金融機関向けに提供され、ブロックチェーンに関連するプロセスの効率化や透明性の向上などを目指した研究開発や実用化のユースケースで利用されることが期待されています。
この記事では、新たに発表された金融機関向けサブネット「Evergreen」に関して、その概要や特徴をわかりやすくご紹介します。
目次
- 「アバランチ(Avalanche)」とは
1-1.「アバランチ(Avalanche)」の概要
1-2.開発元である「アバ・ラボ(Ava Labs)」とは
1-3.仮想通貨としてのスペック - 「アバランチ(Avalanche)」の特徴
2-1.スピーディ且つ手数料を抑えた取引が可能である
2-2.三種類のブロックチェーンが存在する
2-3.ネイティブトークン「AVAX」
2-4.サブネットの作成が可能
2-5.「EVM(イーサリアム仮想マシン)」を実装している - アバランチのサブネット「Evergreen」とは
3-1.「Evergreen」の概要
3-2.「Evergreen」開発の背景 - 「Evergreen」の特徴
4-1.アバランチのサブネット開発機能である
4-2.「Avalanche Warp Messaging(AWM)」を実装 - まとめ
1.「アバランチ(Avalanche)」とは
1-1.「アバランチ(Avalanche)」の概要
「アバランチ(Avalanche)」とは、2020年9月にメインネットがリリースされた、分散型アプリケーション「DApps」の開発に強みを持つオープンソースのプラットフォームのことを指します。アバランチの最大の特徴は、迅速で低コストな取引を実現することで、DAppsの開発だけでなく、ポルカドット(Polkadot)やコスモス(Cosmos)のような独自のネットワークやブロックチェーンの構築にも適しています。
ネイティブトークン「AVAX」は2023年4月19日時点での時価総額が約63.9億ドル(約8,621.8億円)で、時価総額ランキング第15位となり、多くの投資家に注目される人気の仮想通貨です。AVAXはアバランチチェーン上での決済やネットワーク手数料の支払い、ガバナンス投票、ステーキング報酬などに利用されています。
1-2.開発元である「アバ・ラボ(Ava Labs)」とは
冒頭で触れたように、「アバ・ラボ(Ava Labs)」は、ニューヨークに本社を置くアバランチ開発を主導する企業です。アバ・ラボは、コーネル大学教授でブロックチェーン研究の第一人者とされるEmin Gün Sirer氏によって設立されました。2019年には、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)、ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)、ビットメイン(Bitmain)などから6,000万ドル(当時約60億円)の資金調達に成功しています。
スタートアップ情報サイト「Crunchbase(クランチベース)」によれば、アバ・ラボは2022年4月時点で過去7度の資金調達ラウンドを完了し、合計で約360億円(約2.9億ドル相当)を調達しています。アバ・ラボは複数回の大規模資金調達を成功させ、業界から注目されている企業です。
また、2023年1月12日には、アバ・ラボがアマゾンウェブサービス(AWS)とのパートナーシップを発表し、話題となりました。このパートナーシップは、企業や政府機関のブロックチェーンへの参入を促進することを目的としています。ユーザーは、AWSを利用してアバランチのノードを開設・運営できるようになりました。また、今後は「AWS Marketplace」を利用することで、ユーザーが独自のブロックチェーンをアバランチに簡単に接続できるようになる予定です。
1-3.仮想通貨としてのスペック
AVAXの仮想通貨としてのスペックは下記の通りです。
ティッカーシンボル | AVAX |
価格(23年4月19日現在) | 19.59ドル(2,639.76円) |
時価総額 | 約63.9億ドル(約8,621.8億円) |
時価総額ランキング | 15位 |
循環サプライ | 約3.2億枚 |
発行上限 | 7.2億枚 |
2.「アバランチ(Avalanche)」の特徴
2-1.スピーディ且つ手数料を抑えた取引が可能である
アバランチは独自のコンセンサスアルゴリズム「アバランチ・コンセンサス」を採用しており、迅速かつ低コストな取引が実現できます。
コンセンサスアルゴリズムは、ブロックチェーンで取引データを記録する際に必要な合意形成のアルゴリズムです。アバランチ・コンセンサスは、既存のコンセンサスアルゴリズムの利点を活かしながら、安全性と処理スピードを両立させたハイブリッド型のアルゴリズムです。
2-2.三種類のブロックチェーンが存在する
アバランチには用途の違う三種類のブロックチェーンが存在します。アバランチでは、通常一つのチェーンでまかなわれている機能を分け、それぞれのチェーンにおいて各機能に強みを持つアルゴリズムを採用することで、より効率的な稼働を実現しています。
具体的には、「X-Chain」、「C-Chain」、「P-Chain」と言われているもので、この三種類のブロックチェーンがプラットフォーム内にデフォルトで用意されているかたちとなっています。X-Chainは、AVAXや他の暗号通貨を作成したり取引したりするための分散型プラットフォームです。C-Chainは、スマートコントラクトを作成したりDAppsやDeFiサービスとやりとりしたりするためのプラットフォーム。そしてP-Chainは、ネットワークのバリデータを管理し、アバランチウォレットでステーキングするためのプラットフォームです。
2023年4月7日には次期アップグレード「コルティナ(Cortina)」が、「フジテストネット(Fuji Testnet)」で実装されました。コルティナアップグレードでは、Xチェーンの線形化、デリゲート報酬の分配方法の変更、およびCチェーンのガス制限の緩和が行われる予定で、利便性が大幅に向上すると期待されています。コルティナのメインネットへの実装日程は、フジテストネットでのテストが成功した後に発表される予定です。
2-3.ネイティブトークン「AVAX」
アバランチのネイティブトークン「AVAX」は、チェーン上の決済やネットワーク手数料の支払い、ガバナンス投票、ステーキング報酬などに使用されます。AVAXは、X-Chain、C-Chain、およびP-Chainの3つのチェーンすべてで流通し、チェーン間で自由にやりとりできます。
AVAXは、これら3つのチェーンでトランザクション手数料の支払い等で使用されると「バーン(焼却)」されるシステムが導入されており、供給量が減少して市場でのAVAXの価値が上昇するように設計されています。
2-4.サブネットの作成が可能
アバランチでは、独自のブロックチェーン「サブネット」を作成することができます。サブネットは複数のノードで構成されるネットワークで、アバランチ上で誰もがブロックチェーンを作成できます。サブネット内のブロックチェーンは、プライベート型チェーンまたはパブリック型チェーンのいずれかを作成でき、独自トークンや手数料などをユースケースに合わせてカスタマイズできます。サブネット技術を活用することで、誰もが自分のニーズに合ったネットワークやブロックチェーンを自由に作成できます。そのため、アバランチは公共機関、企業、政府などが資産を発行し、アプリケーションを作成するのに適したプラットフォームとされています。
アバランチは2022年12月23日に「Banff5(バンフファイブ)」というアップグレードを完了し、「AWM(Avalanche Warp Messaging)」が導入されました。これにより、サブネット間で直接通信やデータ共有が可能になりました。
2-5.「EVM(イーサリアム仮想マシン)」を実装している
アバランチは、他のブロックチェーンとの「インターオペラビリティ(相互運用性)」を持っています。特にイーサリアムとの互換性に力を入れており、「EVM(イーサリアム仮想マシン)」を実装しています。これにより、イーサリアムで広く使われているプログラミング言語「Solidity」がサポートされ、イーサリアムのDAppsをそのままアバランチに移植できます。
3.アバランチのサブネット「Evergreen」とは
3-1.「Evergreen」の概要
2023年4月6日にアバ・ラボが発表した金融機関向けのサブネット「Evergreen(エバーグリーン)」は、アバランチを活用した独自のブロックチェーンです。金融機関向けに設計されており、ブロックチェーン関連のプロセスの効率化、透明性の向上、資産のトークン化などの研究開発目的や本番対応のユースケースで利用できます。
Evergreenは、「次世代の金融サービスを強化する」ことを目標に掲げており、エンタープライズブロックチェーンでしか利用できなかった機能を実装しています。さらに、インターオペラビリティなどのパブリックブロックチェーンの強みも維持しているため、両者のメリットを兼ね備えた革新的なブロックチェーンとなっています。これにより、金融機関は新しい金融サービスを効率的かつ安全に提供することができるでしょう。
3-2.「Evergreen」開発の背景
Evergreen開発の背景には、従来の企業向けブロックチェーンが大手企業のニーズに十分対応できなかったことが挙げられます。例えば、アメリカのスタートアップ「R3」が開発した「Corda」や、リナックス財団が主導する「ハイパーレジャー」などがそれにあたります。
企業向けブロックチェーンは、「エンタープライズブロックチェーン」とも呼ばれ、特定の管理者が存在するブロックチェーンのことです。このタイプのブロックチェーンでは、管理者が直接チェーンを管理でき、不正取引の防止やデジタル資産の分散抑制に対応できます。また、ビットコインなどの既存のブロックチェーンと違い、取引履歴を取引先以外に秘匿できるため、企業のニーズに応じた利便性が高いとされています。
しかし、エンタープライズブロックチェーンは効率性や相互運用性の面で課題を抱えており、大手企業のニーズに十分対応できないとされていました。そこでアバ・ラボは、サブネットであるEvergreenを開発し、従来のエンタープライズブロックチェーンの利便性を維持しつつ、パブリックブロックチェーンのインターオペラビリティや構成可能性も実現しました。この開発により、金融機関はブロックチェーンプロセスの効率性や透明性を向上させることができ、資産のトークン化などのユースケースでEvergreenを活用できるようになりました。
4.「Evergreen」の特徴
4-1.アバランチのサブネット開発機能である
Evergreenは、アバランチのサブネット開発機能として構築されました。アバ・ラボの日本責任者ロイ氏によれば、アバランチでサブネットを立ち上げるだけで、以下の機能がデフォルトで設定できます。
- KYCおよびKYB機能
- 地域ごとのバリデータ管理機能
- 手数料(ガス代)を必要としないトランザクション
- ブリッジを必要としないパブリックチェーンとの連携機能
- その他の法的なコンプライアンス機能
さらに、企業はEvergreenを使って、わずか10分ほどでサブネットを立ち上げることができます。これは、EVM(イーサリアム仮想マシン)のプライベートチェーンを構築したい企業にとって、1秒以下の業界最速のファイナリティ処理速度、コンプライアンス対応、およびパブリックチェーンとのインターオペラビリティが一度に実装できる大きな魅力です。
4-2.「Avalanche Warp Messaging(AWM)」を実装
Evergreenは、アバランチのネイティブ通信プロトコルであるAvalanche Warp Messaging(AWM)を介して、他のサブネットとの通信やインターオペラビリティを維持します。
AWMは、第三者による仲介者やブリッジが不要なオンチェーンデータ送受信や資産交換を可能にする通信プロトコルです。Evergreenでは、このAWMを利用して既知の承認されたカウンターパーティ(相手先の金融機関)とプライベートチェーン上で、ブロックチェーンやデジタル資産戦略を追求できます。
5.まとめ
2023年4月6日、アバランチを開発するアメリカのアバ・ラボが、金融機関向けに画期的なサブネット「Evergreen」をローンチしました。これは、従来のエンタープライズブロックチェーンの利便性を保ちながら、パブリックブロックチェーンのインターオペラビリティや構成可能性を実現するハイブリッド型ブロックチェーンです。
Evergreenの登場により、企業はわずか10分でカスタマイズ可能なサブネットを立ち上げることができるため、金融機関や企業にとって非常に便利なサービスが提供されることになります。従来のエンタープライズブロックチェーンが抱える課題を解決するこの新しいブロックチェーン技術は、今後の金融業界やビジネスにおいて大きなインパクトを与えることが期待されています。
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