不動産会社がクラウドファンディング事業を始めるメリットや背景は?社会課題への取り組みも

不動産会社のクラウドファンディングは平成29年の不動産特定共同事業表の改正を境に大きく普及しました。同改正により参入が容易になり、空き家投資など社会貢献性の高い投資をクラウドファンディングで実行するケースが増えた、という背景があります。

この記事では不動産会社がクラウドファンディングを行うメリットや社会課題に対するインパクトを紹介していきます。

目次

  1. 不動産特定共同事業法の改正
    1-1.小規模不動産特定共同事業の特例
    1-2.法改正の背景
  2. 不動産会社がクラウドファンディングを始めるメリット
    2-1.地方創生を通じた社会貢献と収益性の両立
    2-2.事業リスクの分散
    2-3.将来の投資家、潜在顧客の獲得
  3. クラウドファンディングによる社会課題への取り組み
    3-1.空き家の再利用による賃貸運営
    3-2.保育園などの公共施設への投資
    3-3.SDGsに貢献する物件への不動産投資の事例も
  4. まとめ

1 不動産特定共同事業法の改正

平成29年に不動産特定共同事業法が改正されました。同法は今回の主題の不動産クラウドファンディングを始めとした不動産を活用したファンド事業の運営に関する規制です。法改正前は事業者が許認可制のみとなっていて、認可を取るハードルが厳しいがゆえに不動産ファンドのビジネスが拡大しにくい状況にありました。

そこで、新たに創設された特例が「小規模不動産特定共同事業の特例」です。これにより空き家、空き店舗へのファンドを通じた投資が促進されることとなりました。

1-1 小規模不動産特定共同事業の特例

元々の不動産特定共同事業法は参入のハードルが高いうえ、プロの投資家を想定した内容となっていたため、個人投資家の利用が主体であるクラウドファンディングに導入しづらい仕組みとなっていました。

そこで、小規模不動産特定共同事業の特例においては、出資額や1人あたりの金額を制限する代わりに小規模事業の範囲内であれば、登録制で事業を始められるようになりました。

小規模第1号事業で取り扱うことができる事業の範囲

  • 小規模第1号事業者が受けることができる出資の合計額 :1億円以下
  • 小規模第1号事業者が1人の投資家から受けることができる出資額:100万円以下
    ※特例投資家は1億円以下

出所:株式会社価値総合研究所(国土交通省委託調査)「小規模不動産特定共同事業パンフレット

これまでの許可制の場合、あくまで事業を認めるかどうかは国に判断が委ねられるため、条件を満たしていても許可されない可能性もありました。

登録制であれば、基本的には条件を満たしていれば事業を始められます。登録は5年に一度更新が必要となっており、事業者の質の維持にも配慮されています。

また、登録をするうえで必要な資本金の額を1000万円(通常の不動産特定共同事業は第1種の場合で1億円が必要)とし、少額の資金からビジネスを始められる仕組みになりました。

その他、不動産特定共同事業全体において、プロ投資家を想定して設定されていた約款規制の廃止もおこなわれました。さらにインターネット上で書面交付や投資募集をおこなうための規定を整備しています。

全体として、小規模な個人投資家向けクラウドファンディングの立ち上げ、運営がしやすい法制度に変わったといえます。

1-2 法改正の背景

近年は少子高齢化や過疎化の進行に伴い、全国で増加する空き家・空き店舗への対策が急務な状況となっています。そのなかで、個人投資家の余剰資金がこれらの不動産に投じられれば、空き家・空き店舗を活用した不動産ビジネスが活性化し、過疎化の緩和や地域振興などが期待できます。

しかし、従来の法律はプロ投資家を想定した内容だったため、個人投資家の少額投資を集めるクラウドファンディングを不動産に応用するのが難しい状態でした。参入ハードルが高いため、地方の不動産を再生させるためのファンド組成も進みづらい環境となっていたのです。

クラウドファンディング市場自体が急成長する中で、クラウドファンディングを通じた不動産投資事業を実行しやすくするために、小規模不動産特定共同事業の特例が制定されることとなったのです。

2 不動産会社がクラウドファンディングを始めるメリット

不動産会社がクラウドファンディング事業を始めるのには、主に3つのメリットがあります。

一つは政府が期待している空き家・空き店舗の活用などを通じた地方創生や社会科貢献ですが、そのほかにリスク移転ができる、投資家の育成ができるという点も重要なメリットといえるでしょう。

2-1 地方創生を通じた社会貢献と収益性の両立

クラウドファンディングを通じて空き家・空き店舗、築古物件などを活用した不動産投資を実施しやすくなりました。

地方にある空き家・空き店舗は物件は価格が低く取得のハードルが低いというメリットの反面、物件の老朽化や周辺エリアの人口減少などにより投資リスクが高い傾向にあります。

クラウドファンディングを通じて多数の投資家から少額資金を集めることにより、不動産会社が100%自己資金で投資するのと比べて、事業リスクを抑えながら事業をおこなうことができます。

個人投資家1人当たりの投資元本は少額で済むうえ、リスクに見合った高い利回りが期待できるため、事業者・個人投資家ともメリットのあるビジネスとなります。

さらにSDGsやESGに対する具体的な取り組みとして示すこともできます。社会課題の解決というテーマで組成されるファンドも多くあり、投資収益を得ながら社会貢献を行っていきたい方に注目してもらえるという点もメリットです。

2-2 事業リスクの分散

クラウドファンディングは、不動産投資のリスクを小口化して、資金的な余裕のある投資家にリスクを移転する仕組みです。事業が失敗するリスクを、複数のファンド出資者へ分散できるため、不動産会社にとっての事業リスクは下がることになります。

特定の不動産に、不動産会社が自己資金で投資をおこなうとなると、不動産の購入費用や運営費用は全て自社が賄わなければなりません。金融機関の融資なども活用できますが、資金調達ができなければ投資は実行できず、資に失敗して損失が発生したときは、全ての損失を不動産会社が負うことになります。

一方でクラウドファンディングを通じて投資家を募る場合は、投資資金は投資家から調達できるため、不動産会社は自己資金をおさえて不動産事業をおこなえます。また、投資に失敗した場合も損失の一部または全部はクラウドファンディングの投資家が負ってくれるため、不動産会社の損失は限定されます。

このように投資におけるリスクの一部または全部が投資家に移転するため、不動産会社のリスクが下がることになります。これにより、従来よりリスクの高い投資先にチャレンジする余地がうまれます。

2-3 将来の投資家、潜在顧客の獲得

不動産会社の中には、クラウドファンディングを将来本格的な不動産投資をおこなってくれる投資家基盤の形成手段として期待している会社もあります。

最近は若い方のなかでも投資に積極的な方が増えてきています。しかし、現物購入による不動産投資は初期費用が大きくなり、また金融機関からの与信も必要になるため、若い世代の方の多くはすぐに取り組めないという背景があります。

少額投資な可能なクラウドファンディングであれば、若い世代の方や自己資金の乏しい方でも投資に参加することができます。早いうちから若い投資家・潜在顧客を獲得することにもつながり、多くの不動産会社が不動産クラウドファンディング事業を始める要因の一つとなっています。

資産規模が将来大きくなったタイミングで、区分マンションや一棟投資といった本格的な不動産投資にチャレンジしてもらいたいという狙いをもっている会社もあります。

3 クラウドファンディングによる社会課題への取り組み

平成29年に小規模不動産特定共同事業の特例が施行され、既に多数の社会課題に取り組むクラウドファンディングの事例が多数出てきています。ここからは社会課題の解決に貢献しているクラウドファンディングの例について紹介していきます。

3-1 空き家の再利用による賃貸運営

政府の方針にも出ていた通り、クラウドファンディングで集めた資金を空き家投資に活用するファンドが見られます。空き家を戸建てもしくはアパート・マンションとしての賃貸物件として貸出し、賃料収入が投資家の収益源となる仕組みです。

地方の空き家は利回りおよびリスクの高い物件もみられます。クラウドファンディングであれば一人当たりの出資額が抑えられ、個人投資家でもチャレンジしやすい投資商品となります。

また、他のクラウドファンディング同様、ファンド償還までの期間は数か月~2年程度と短いファンドケースが多くみられます。こうした短いファンドの場合、償還前後で投資物件の売却が想定されているケースが多く、売買に伴う損益により投資家のリターンが変動する場合もあります。

空き家ファンドを提供する不動産クラウドファンディングとしては、「FANTAS funding」があります。FANTAS fundingでは、空き家再生を中心に、地域貢献型の不動産プロジェクトを発掘・紹介しており、最短で4~6カ月間と運用期間が短い案件が多く、資金効率の良い投資が可能です。

3-2 保育園などの公共施設への投資

少子化対策や、共働き世帯への支援、女性の社会進出支援などの観点から社会貢献につながるのが、保育園や幼稚園などの育児施設への投資です。クラウドファンディングを通じてこうした育児施設へ投資をおこなうファンドの事例もあります。

規模の大きさなどを背景に、住宅と比べて個人投資家が単体で投資をおこなうケースが多いことから、クラウドファンディングは個人投資家に新たな不動産投資の機会を提供する役割も果たしています。

なお、あくまで不動産投資であるため、保育園が入居することによる賃料収入が投資家の収益源となります。(保育園の保育料などが直接の源泉となるわけではありません)

保育園ファンドを提供するクラウドファンディングとしては、クリアル株式会社が運営する「CREAL」があります。過去に3つの例の保育園ファンドを扱っており、1口1万円から小口不動産投資を始めることができるため、少額資金から個人では取得が難しい不動産への投資が可能です。

【関連記事】保育園ファンドを提供するクラウドファンディングサービスは?投資の注意点も

3-3 SDGsに貢献する物件への不動産投資の事例も

都市部の物件で、リスクを抑えながらも社会課題への貢献を積極的におこなうファンドもみられます。例えば利便性が高い立地で、木造・太陽光パネル付きの賃貸アパートに投資するケースがあります。

いわゆるサステナブル住宅の考え方を取り入れた物件で、創エネ・省エネによる環境保護への配慮、好立地かつ木造による断熱性の高さを特徴とした快適な住環境など、地球環境と住民双方に優しい物件への投資です。

サステナブル住宅へ投資するファンドであれば、それが都市部の物件だとしても、社会貢献性は高いといえるでしょう。

収益発生の仕組みはここまで紹介した他のケースと同様で、賃料収入が投資家の収益の源泉となります。また、市況に応じて物件を売却する場合もあり、売却損益も投資家の損益に影響を与えうる点も同様です。

サステナブル住宅のファンドを提供する不動産クラウドファンディングとしては、国産木材を積極的に活用した賃貸アパートや中古不動産再生物件を商品化する「信長ファンディング」があります。国産木材を積極的に活用した賃貸アパートや中古不動産再生物件を商品化しています。なお、最低投資金額は10万円と他サービスと比べてやや高めですが、名古屋など東海エリアに投資ができる点や予定分配率の水準が5%程度と高めな点、上場企業が運営しているといったメリットがあります。

【関連記事】ESG不動産投資のメリット・デメリットは?投資可能な商品やファンドも紹介

まとめ

不動産特定共同事業法の改正により、相対的に規模の小さい企業でもクラウドファンディング事業に参入しやすくなりました。

クラウドファンディング事業は、政府が普及を推進している空き家投資などの社会貢献ができるほか、事業リスクの分散、投資家(もしくは潜在顧客)の育成など、不動産会社にとってさまざまなメリットがあります。

今後もこれらのメリットをふまえて、クラウドファンディングビジネスを開始・拡大する不動産会社は増えていくでしょう。

クラウドファンディングを活用すれば、現物での投資と比べて、少額でリスクをおさえて不動産投資にチャレンジできます。また、保育園や地方の空き家など、一個人では取り組みづらい物件やリスクの高い物件も、クラウドファンディングであれば投資しやすくなるでしょう。

投資初心者や、現物での投資をおこなう余力のない方は、クラウドファンディングを活用して不動産投資にチャレンジするのも有効な選択肢の一つです。

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