生物多様性の保全に注力している日本の上場企業は?取り組み事例や株主還元も

生物多様性は、私たちの生活に様々な恵みをもたらしてくれます。しかし、これまで人間の活動によって多種多様な生物の命が危機的状態にさらされており、日本を含めた世界中の企業が生物多様性の保全に真剣に取り組んでいます。

この記事では、生物多様性の保全に注力している日本の上場企業について、その取り組み事例や株主還元に関する情報などをご紹介します。生物多様性の保全が必要な理由についても併せてご説明するので、ESG投資に興味のある方はご参考ください。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年6月13日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 生物多様性の保全が必要な理由とは
    1-1.生物多様性とは
    1-2.生物多様性に迫る危機
    1-3.生物多様性の保全に向けた動き
  2. 生物多様性の保全に注力している上場企業
    2-1.ニッスイ
    2-2.JFEホールディングス
    2-3.ヤマハ発動機
    2-4.KDDI
  3. まとめ

1 生物多様性の保全が必要な理由とは

私たち人間の生活に様々な恩恵をもたらしてくれる生物多様性は、現在危機的状況にさらされており保全が必要な状態です。まずは、生物多様性の概要や、現在直面している危機、保全に向けた様々な動きについて確認してみましょう。

1-1 生物多様性とは

生物多様性とは、ヒトや動物、植物など異なる個性を持った様々な生きものが互いに調和しながら生きている状態です。目に見えないような微生物なども合わせると地球上には約3,000万種もの生きものが生息しており、全ての生きものが直接的または間接的に関わり合いながら生物多様性は保たれています。

生物多様性は、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」という3つのレベルに分類されます。中でも、気候や地質など自然環境の異なる中で存在している状態が「生態系の多様性」です。

例えば、生えている木が実や花、葉などをつけて動物や昆虫の餌になり、それを食べた動物や昆虫はフンをします。これが微生物などの餌となり、微生物が分解したフンなどが養分となって最終的には木に戻るという生物と非生物の相互作用によって構築される関係です。

一方、動植物や細菌など様々な種の生きものが存在している状態が「種の多様性」、同じ種の中でも異なる遺伝子を持った生きものが存在している状態が「遺伝子の多様性」とレベル分けされています。

私たちヒトは、生物多様性から様々な恩恵を受けており、以下の4つの生態系サービス(生物多様性からの恵み)の下で豊かな生活が成り立っています。

生態系サービスの分類 内容
供給サービス 人間の生活で重要な資源を供給する機能。水や食料、木材、医薬品など。
文化的サービス 自然と一体になり地域色豊かな文化などを育くんでくれる機能。信仰や地域独特の習慣など。
調整サービス 生態系の営みによる自然の制御によって生物の住む環境を安定させる機能。森林による洪水・土砂災害の被害緩和や急激な温暖化の抑制など。
基盤サービス 上記の生態系サービスを支える基本的な機能。酸素の供給や水の循環など。

1-2 生物多様性に迫る危機

人類に様々な恩恵をもたらしてくれる生物多様性は危機にさらされています。これまで、地球上に存在する生物は、6,600万年前の恐竜の絶滅も含めると自然現象による5回の大量絶滅を経験しました。そして現在は6回目の大量絶滅期となる時代を迎えており、人間の活動による影響により、絶滅のスピードは、自然の状態と比べて約1,000倍もの速さで進んでいる状況です。

中でも日本では、主に以下の4つの要因によって生物多様性が危機にさらされています。

要因 内容
1.人間による開発や乱獲 森林の開拓や沿岸地の埋立など人間の開発行為によって様々な生きものの生息環境が破壊されている。また、食料や生活資材として動植物が乱獲されることにより種の減少や絶滅などを招いている。
2.手入れ不足による自然の質の低下 かつて里地や里山では食料や薪の採取など人間の手入れによって一定の生物が生息する環境を保ってきたが、人口減少などによって採草などの手入れが行き届かなくなり、生態系のバランスが崩れ既存の動植物に悪影響を及ぼしている。
3.外来種などの持ち込み 従来存在していなかった動植物や化学物質を持ち込むことで既存の生態系に悪影響を及ぼしている。
4.地球環境の変化 地球温暖化など地球環境の変化により環境の変化やそのスピードに対応できない動植物が種の減少や絶滅の危機などにさらされている。

1-3 生物多様性の保全に向けた動き

危機が迫る中、世界中で生物多様性の保全が必要と認識されるようになったのは1980年代の後半です。1992年5月22日に生物多様性条約が採択され、同年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED)において日本を含む168か国が署名しました。

2010年になると名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開かれ、2011年以降の各国政府や社会における目標(愛知目標)を採択し、生物多様性の損失を止めるための取り組みが加速しています。

国内でも、2008年6月6日に生物多様性基本法が施行され、2012年9月28日に閣議決定された第5次戦略「生物多様性国家戦略2012-2020」で重点的に取り組む5つの基本戦略が設定されるなど、生物多様性の保全に向けて国を挙げた動きが進行中です。

このような中、生物多様性の恵みを利用している企業も動植物の乱獲や汚染物質の排出、外来種の導入など生物多様性に影響を及ぼしている問題への対策が急務となり、生物多様性への負荷低減や保全への積極的な貢献が求められる状況となりました。

2020年11月には環境省と経団連によって「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」が立ち上げられ、日本企業のビジネスを通じて生物多様性の保全に貢献する取り組みを国内外に発信する官民を挙げた取り組みなども進められています。

2 生物多様性の保全に注力している上場企業

ここからは、生物多様性の保全に注力している上場企業をご紹介します。各社の概要や生物多様性の保全に向けた取り組み内容だけでなく、株主優待や配当推移なども併せてご紹介します。

2-1 ニッスイ

株式会社ニッスイ(1332)は、東証プライム市場に上場している水産業界の国内大手です。水産物の加工・販売だけでなく、冷凍食品や缶詰など加工食品の製造・販売、水産資源由来の化成品を使用した医薬品やサプリメントの供給なども営んでおり、2022年12月1日に日本水産株式会社から冷凍食品のブランドとして知名度の高かった「ニッスイ」へと社名変更しています。

ニッスイは海の恵みを受けて事業を営む企業として生物多様性の保全に取り組んでおり、特に注力しているのが定期的な水産資源の状態調査などを実施しながら取り組んでいる天然水産資源の持続的な利用です。

2019年に実施した調査では、魚種や漁獲海域などに加えて漁法なども調査しており、漁獲魚種に絶滅危惧種が含まれている問題は、別の種への代替を検討するなど問題解決への取り組みを進めています。

また、ニッスイは、水産資源の持続可能な利用のため自然の維持・回復も必要と認識しており、鳥取県琴浦町における森の保全活動や東京都八王子市の宇津貫緑地の保全活動など「森・川・海」の連携保全をコンセプトにした活動も各地で展開中です。

ニッスイの株主還元

ニッスイでは、3月31日時点の株主を対象に自社製品を贈呈する株主優待を実施しており、優待内容は保有株式数に応じて以下の通りです。

保有株式数 優待内容
500株以上1,000株未満 3,000円相当の製品詰め合せ
1,000株以上 5,000円相当の製品詰め合せ

配当推移は、2021年3月期に新型コロナウイルスなどの影響を受け業績が落ち込んだものの、2024年度までに配当性向30%以上を目指す方針が発表されており、下表の通り4年連続の増配となっています。

項目 年間配当額 中間 期末 配当性向
2018年3月期 8円 4円 4円 14.5%
2019年3月期 8円 4円 4円 16.2%
2020年3月期 8.8円 4円 4.5円 17.9%
2021年3月期 9.5円 4円 5.5円 20.5%
2022年3月期 14円 6円 8円 25.2%

当面は堅調な業績なども受けて増配傾向が続く可能性もあり、2023年3月期は中間・期末共に8円の年間配当16円で5年連続の増配となる見込みです。

2-2 JFEホールディングス

JFEホールディングス株式会社(5411)は東証プライム市場に上場している国内大手の鉄鋼業の会社です。傘下にJFEスチール株式会社を擁する粗鋼生産は、日本製鉄に次ぐトップクラスの規模となっています。

また、主力の鉄鋼事業以外にもゴミ処理プラントや発電施設などで技術を提供するエンジニアリング事業、鉄鋼製品を中心とした商社事業なども展開しています。

JFEホールディングスでは、生物多様性の保全を重要な課題として認識し、事業活動に伴う生態系への影響を評価した上でその影響を最小限にとどめるよう配慮した取り組みが進行中です。例えば、主要な拠点である製鉄所ではその周辺地域のモニタリングなどを実施し、構内の緑化や希少種の保全活動などに努めています。

また、鉄を生成する際に発生する副産物の鉄鋼スラグを用いて閉鎖性海域で硫化水素などの発生を抑制する「マリンストーン」などの製品も開発しています。生物生息環境の改善や海域が本来持っている生物による水質浄化能力の回復に役立つものであり、広島県や横浜市などの公共事業にも採用された実績があります。

JFEホールディングスの株主還元

100株以上保有していると、JFEホールディングスの製鉄所や製作所などの見学会に申込むことができます。直近では、2022年3月末または9月末時点の株主を対象に計9回開催されました。ただし、申込み人数が定員を超えると抽選になる点に注意も必要です。

配当金については、2020年3月期と2021年3月期は大きな減配となっています。新型コロナウイルスによる経済減速の影響を受けたことが大きな理由で、通期で赤字の決算となっていますが、配当金はしっかり確保している状況です。

項目 年間配当額 中間 期末 配当性向
2018年3月期 80円 30円 50円 47.2%
2019年3月期 95円 45円 50円 33.5%
2020年3月期 20円 20円 0円
2021年3月期 10円 0円 10円
2022年3月期 140円 60円 80円 28.0%

2022年3月期になると、一転してリーマンショック以降の最高益を更新する水準まで回復を見せており、年間配当金も前年度の10円から140円へと大幅な増配となりました。しかし、2023年3月期は粗鋼生産量の減少等によって減速する見込みとなっており、中間50円、期末30円の年間80円の配当見込と今後も決算状況をにらんだ展開が続きそうです。

2-3 ヤマハ発動機

ヤマハ発動機株式会社(7272)は、世界の「ヤマハ(YAMAHA)」として知られている大手自動二輪メーカーです。東証プライム市場に上場しており、主力であるオートバイや四輪バギーなどを手掛ける事業のほか、プレジャーボートや水上オートバイ、産業用ロボットなどを手掛ける事業なども展開しています。

ヤマハの事業活動は、生物多様性から生み出される自然の恵みに大きく依存していることなどから、生物多様性の保全やエコマインドの醸成による地球環境との調和に配慮した活動を推進中です。

例えば、静岡県菊川市のテストコースの開発に伴って、コース敷地内で移植した絶滅危惧種の保護とモニタリングを実施しており、準絶滅危惧種の植物が増加するなどの成果をあげています。また、浜名湖では同社製品の水上オートバイやボートなどを使用し、陸からはアクセスできない湖岸の清掃活動を行うなど、ヤマハならではの取り組みも推進中です。

ヤマハ発動機の株主還元

毎年12月31日時点で100株以上保有している株主を対象に株主優待を実施しています。進呈されるポイントを使用すると、ヤマハの「株主優待のご案内」に掲載されている全国各地の名産品などと交換することができます。保有株式数と保有期間に応じて付与されるポイントは以下の通りです。

保有株式数 保有期間
3年未満 3年以上
100株以上500株未満 1,000ポイント 2,000ポイント
500株以上1,000株未満 2,000ポイント 3,000ポイント
1,000株以上 3,000ポイント 4,000ポイント

また、過去5期の配当状況は以下の通りです。

項目 年間配当額 中間 期末 配当性向
2018年12月期 90円 45円 45円 33.7%
2019年12月期 90円 45円 45円 41.5%
2020年12月期 60円 0円 60円 39.5%
2021年12月期 115円 50円 65円 25.8%
2022年12月期 125円 57.5円 67.5円 24.4%

2020年12月期は、新型コロナウイルスの影響などで業績が低迷したため減配となっていますが、以降は業績の回復などに伴って増配傾向となっており、過去2期は増配が続いています。2023年12月期は、中間・期末ともに65円の年間130円予想となっており、3期連続での増配見込みです。

2-4 KDDI

KDDI株式会社(9433)は、携帯や光回線などを手掛ける国内大手の総合通信企業です。東証プライム市場に上場しており、「au」のブランドで展開しているスマートフォンや携帯電話の事業が中核となっていますが、その他にも法人向けにネットワークやクラウドなどのソリューションを提供するサービスや金融事業なども展開しています。

KDDIは、「事業活動における保全の実践」「関係組織との連携・協力」「資源循環を推進」の3つを掲げ、外部パートナーとの協同などによって生物多様性の保全活動を推進中です。

2018年からは兵庫県豊岡市と共に「豊岡市スマート農業プロジェクト」を進めており、以前から豊岡市が取り組んでいた生物多様性に配慮した米作り「コウノトリ育む農法」にKDDIのIoT技術を駆使し、水管理にかかる労力を65%削減するなど一定の効果をあげています。

また、環境保全や生物多様性の理解促進を図る啓蒙活動として、2018年4月から小学生を対象に校庭の身近な植物や昆虫などをタブレットで撮影し、オリジナルの動画図鑑を作成する「KDDI草木と森のいきもの図鑑」を実施しています。

KDDIの株主還元

毎年3月末日時点の株主を対象に株主優待を実施しています。優待内容は保有株式数と保有期間によって異なり、総合通販サイト「au PAYマーケット」のカタログギフトが進呈されます。

保有株式数 保有期間
5年未満 5年以上
100株以上1,000株未満 3,000円相当 5,000円相当
1,000株以上 5,000円相当 10,000円相当

また、過去5期の配当推移は、堅調な業績に支えられており増配続きとなっています。

項目 年間配当額 中間 期末 配当性向
2018年3月期 90円 45円 45円 38.2%
2019年3月期 105円 50円 55円 40.5%
2020年3月期 115円 55円 60円 41.7%
2021年3月期 120円 60円 60円 42.2%
2022年3月期 125円 60円 65円 41.7%

KDDIは配当性向40%超を掲げており、2002年度から20期連続での増配となっています。当面は堅調な業績を背景とした増配傾向が続くと予想されており、2023年3月期も中間65円、期末70円の年間135円予想で、21期連続の増配となる見込みです。

まとめ

生物多様性は私たち人間に様々な恵みを与えてくれますが、人間の活動によって動植物の絶滅が加速するなど危機に直面している状態です。そのような中、世界的に生物多様性保全に向けた動きが進行しており、日本国内でも官民を挙げた取り組みが進められています。

特に、企業活動の規模が大きい上場企業は、道義的責任の観点から生物多様性の保全に積極的に取り組む傾向が強く、これらの取り組み内容は非財務情報としてESG投資などの観点から重要視されています。

ご紹介した企業以外にも生物多様性の保全に取り組む企業は多くあるので、株式投資の銘柄選定の際は業績や配当、株主優待の他に、生物多様性保全の取り組みなどにも注目してみてください。

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