【米国株ESG】世界最大級の再エネ発電事業者へと変貌を遂げたネクステラ・エナジーのサステナブルな取り組みは?組み入れファンドも
気候変動対策として、再生可能エネルギーを大量に導入する流れは不可逆的なものになっています。そのような中、規制環境の変化を的確に捉え、米国の地方電力会社の一つが現在では世界有数の再エネ発電事業者に成長しています。再エネ分野で世界最大級の発電規模を持つ米電力大手ネクステラ・エナジー(ティッカーシンボル:NEE)です。
そこで今回は、ネクステラの変遷や同社を取り巻く市場環境、サステナブルな取り組み、ESG(環境、社会、ガバナンス)評価、業績・株価動向、組み入れファンドを紹介します。
※本記事は2023年6月20日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 世界最大級の再エネ発電事業者に変貌
- ネクステラを取り巻く市場環境
- 野心的な目標「REAL ZERO」発表
- ネクステラの外部機関からの評価
- ネクステラの業績・株価動向
- ネクステラを組み入れるファンドは?
- まとめ
1.世界最大級の再エネ発電事業者に変貌
ネクステラは、1925年12月に設立されたフロリダ州を地盤とする地方電力会社フロリダ・パワー&ライト(FPL)に端を発します。当初はガス火力発電や原子力発電、製氷、米航空宇宙局(NASA)のアポロ11号(ケープ・カナベラルのプラント建設など)、ラウンドリーサービス、そしてアイスクリームに至るまで、多様な事業を展開していました。
1990年代に米国で電力自由化に向けた一連の規制改革がなされたほか、1992年には風力発電税控除(PTC)が導入されました。さらに、2000年代には電力小売事業者に一定の再エネ利用が義務付けられました。ネクステラはフロリダ州の地域独占の権利を握っていましたが、これらの規制・市場環境の変化をビジネスチャンスと捉え、1997年に風力発電を始めとする再エネ事業を手掛けるネクステラ・エナジー・リソーシズ(NEER)を設立しました。翌1998年には同社初の風力発電所を稼働させます。
さらに、2006年には再エネ導入投資税額控除(ITC)が導入されたタイミングで、太陽光発電事業にも乗り出します。このように、ネクステラは連邦政府および州の規制環境の変化を的確に捉え、再エネ事業に注力することで、2009年には米国最大級の風力、太陽光発電事業者に成長します。
現在では電力の公益持株会社として、傘下のFPLが1,200万人以上の顧客を対象に、天然ガス火力発電、太陽光発電、原子力発電を手掛ける米国最大級の電力会社となります。地盤とするフロリダ州は、カリフォルニア州、テキサス州に次ぐ全米第3位の人口を誇ります。国内総生産(GDP)は概ね、過去10年間で上昇基調です。2022年末時点の発電容量は約3万2,100メガワット(MW)と、標準的な原発32基分の発電能力を誇ります。NEERは、米国とカナダで風力、太陽光発電などの再エネ事業を手掛ける世界最大の再エネ発電事業者です。約2万5,534メガワット(標準的な原発25基分の発電能力)の資産を保有しています。蓄電池の分野でも世界的リーダーです。
参照:ネクステラ・エナジー「ANNUAL REPORT 2022」
なお、ネクステラは再エネ事業に特化した電力会社ではありません。主要子会社のFPLは発電容量の76%が天然ガスによるものです。天然ガスや原子力発電で安定的に稼いだ利益を、世界的なメガトレンドとなる再エネ事業に投資して更なる成長を図っています。
※図はネクステラ・エナジー「ANNUAL REPORT 2022」より筆者作成
次項では、ネクステラを取り巻く市場環境を見ていきましょう。
2.ネクステラを取り巻く市場環境
世界各国が2050年カーボンニュートラルの実現を目指す中、再エネの大量導入が進んでいます。ネクステラが拠点とする米国では、2022年に風力、太陽光、バイオマスといった再エネ由来の発電量が、石炭火力発電と原子力発電の発電量を上回りました。米国電力部門の発電量40億9,000万メガワット時(MWh)のうち、最大シェアは天然ガス発電の39%です。次点が風力、太陽光、水力、バイオマス、地熱を含めた再エネ発電で、シェアが20%を超えています。3位が石炭でシェアは20%、4位が原子力でシェアは19%です。
参照:EIA「Renewable generation surpassed coal and nuclear in the U.S. electric power sector in 2022」
今後の見通しについては、国際エネルギー機関(IEA)が2022~2027年までの世界の再エネ発電容量予測を公表しています。それによると、2027年までの5年間で2,400ギガワット(GW)増加する見込みです。これは、現在の中国の全発電容量に匹敵します。2025年には、再エネが石炭を抜いて世界最大の電力供給源になる見通しです。中国、欧州連合(EU)、米国、インドが市場のけん引役となります。中国では第14次5ヵ年計画と市場改革が、EUではリパワー(REPower)EUが、米国ではインフレ抑制法(IRA)が市場拡大をサポートします。
参照:IEA「Renewables2022」
特に、米バイデン政権は気候変動対策を最優先課題の一つとします。バイデン大統領は2021年の就任初日に、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰する大統領令に署名しました。2035年までの電力部門の脱炭素化も公約に掲げています。さらに、2022年8月には、米史上最大の気候変動対策として3,690億ドルを投じることを盛り込んだIRAを成立させました。米国エネルギー情報局(EIA)は、IRAの効果もあり、太陽光および風力発電の全体シェアが2050年に41~59%まで伸びると試算しています。
参照:EIA「AEO2023 Issues in Focus Inflation Reduction Act Cases in the AEO2023」
再エネ分野のリーディングカンパニーであるネクステラも、IRAが向こう20年以上にわたり、クリーンエネルギー関連のインセンティブを付与し、このことが長期的な株主価値の向上に繋がると指摘しています。
参照:ネクステラ・エナジー「Earnings Conference Call」
※画像はネクステラ・エナジー「Our Company」より引用
次項ではネクステラのサステナブルな取り組みを見ていきましょう。
3.野心的な目標「REAL ZERO」発表
ネクステラは、規制環境の変化を的確に捉え、世界最大級の再エネ発電事業者へと変貌を遂げました。また、本業を通じてサステナブル社会の形成に向けた取り組みを推進しています。同社は2021年時点で、米国電力業界のCO2削減率(平均)を51%上回っています。米国最大の再エネ発電事業者となった2009年以降で見ても、概ね改善基調にあります。フロリダ州の石炭火力発電所は全て閉鎖しました。
参照:ネクステラ・エナジー「Zero carbon blueprint」
そして、より持続可能な事業体へと進化すべく、2022年6月に非常に野心的な目標「リアルゼロ」を発表しました。
世界的に広く利用されている「ネットゼロ」は、炭素削減、オフセット(*)、クレジット購入により、温室効果ガス(GHG)の排出量を正味ゼロにすることを意味します。一方、ネクステラの「リアルゼロ」は、炭素を排出しないエネルギー源のみを利用して発電し、2045年までに自社オペレーションから排出される炭素を完全に除去するものです。その過程では、顧客に追加負担を求めず、オフセットも利用しないことから、業界唯一の野心的な目標となります。日本の「再生可能エネルギー発電促進賦課金の継続的な値上げ」といったような形で追加負担を求めず、オフセットも使わずに自社事業から排出される炭素を完全に除去する取り組みです。さらに、「リアルゼロ」の下、低コストな再エネを大量に導入することで、4兆ドル超と試算される米国経済の脱炭素化も支援していく方針です。
参照:ネクステラ・エナジー「A Real Plan for Real Zero」
(*)オフセット…自社のGHG削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現したGHGの排出削減・吸収量等(クレジット)を購入すること、または他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動(植林・森林保護活動など)を実施することなどにより、その排出量の全部又は一部を埋め合わせるという考え方。
「リアルゼロ」目標を達成すべく、ネクステラの収益源となっていた天然ガス火力発電所をグリーン水素施設に転換する計画を発表しました。FPLについては、2045年までに太陽光発電量を現在の4,000MWから9万MWに、蓄電池容量を現在の500MWから5万MWに、それぞれ大幅に拡大させる方針です。これらの取り組みにより、ネクステラの燃料別の予想発電量は、2025年時点で再エネ・蓄電46%、原子力19%、化石燃料35%であるのに対し、2045年には再エネ・蓄電89%、原子力11%、再生可能天然ガス(RNG)1%未満になる見通しです。
参照:ネクステラ・エナジー「Zero carbon blueprint」
※画像はネクステラ・エナジー「Real Zero」より引用
次項では世界最大級の再エネ発電事業者に変貌を遂げたネクステラの外部機関からの評価を見ていきましょう。
4.ネクステラの外部機関からの評価
まず、フォーチュン誌の2023年版「世界で最も尊敬される企業2023」の電力ガス業界部門でNo.1を獲得しました。これは17年間で16回目の受賞となります。ネクステラは、革新性、才能のある人材を惹きつけて維持する能力、有益な企業資産の活用、長期投資価値、財務健全性、製品またはサービスの品質、という、レピュテーション項目9つのうち6つでトップ評価を得ました。
参照:ネクステラ・エナジー「News Release:NextEra Energy is once again recognized as No. 1 in its industry on Fortune’s list of ‘World’s Most Admired Companies’」
2021年には初めて、タイム誌の「最も影響力のある企業100社」に選出されています。また、2021年と2022年には、ニューズウィーク誌の「米国で最も責任ある企業」に選ばれました。ネクステラはESGの取り組みなどが評価され、フロリダ州拠点のエネルギー会社として唯一、2年連続で選出されました。
参照:ネクステラ・エナジー「2022RONMENTAL, SOCIAL AND GOVERNANCE REPORT」
5.ネクステラの業績・株価動向
ネクステラは巧みに政策支援を受けつつ、化石燃料から再エネ事業へと注力する分野を移行し、競合他社を上回る業績・株価パフォーマンスをあげています。
まず、投資家が注目する指標の一つである調整後1株当たり純利益(EPS)は、年平均成長率(CAGR)が約10%と、これは電力会社上位10社(2022年末の時価総額ベース)のうち最も高いものになります。ネクステラは、2026年までに調整後EPSが年率6~8%拡大すると見込んでおり、「当社こそが米国の再エネ市場の大幅拡大から利益を得るのに最も良いポジションに位置づけている」と述べています。
参照:ネクステラ・エナジー「Earnings Conference Call」
資本政策面では、30年連続増配中の「配当貴族」になります。配当貴族とは、S&P500指数構成銘柄、25年以上配当増額、一定の規模および流動性を有する企業を指します 。
参照:Dividend.com「NextEra Energy, Inc.」
株主総利回り(TSR、値上がり益と配当金を足した投資家に対する総合的なリターンを示す)は、3年、5年、10年、15年のいずれの期間においても、S&P500およびS&P500公益事業株指数を大きく上回りました。
※図はネクステラ・エナジー「Earnings Conference Call」を基に筆者作成
気候変動対策として再エネの大量導入が求められる中、株式市場でもネクステラの成長性は高く評価されています。時価総額は約1,600億ドル(約21兆3,000億円、2023年4月12日時点)と、世界最大の公益会社になります。2020年10月には、石油業界の盟主エクソンモービル(XOM)の時価総額を一時抜き去り注目を浴びました。
バリュエーション面では、ネクステラのEV/EBITDA(企業価値(EV)がEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の何倍になっているかを示す指標)が24倍と、競合のドミニオン・エナジーやデューク・エナジー(共に13倍)と比較して割高な水準となります。再エネ市場が中長期的に成長する見通しであり、ネクステラが地盤とする米国の政策支援も享受しながら、利益成長を続けることに期待したいです。
参照:Morningstar「NextEra Energy Inc」
参照:Morningstar「Dominion Energy Inc」
参照:Morningstar「Duke Energy Corp」
参照:日経新聞「NextEra Energy」
過去3ヵ月間における13名のアナリストによるコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です。目標株価の平均値(12ヵ月後)は89.4ドルと、6月20日終値の75.59ドルと比較して約18%の上昇余地があります。アナリスト予想の最高値は94ドル、最安値は84ドルです。ネクステラ株は、2021年12月に史上最高値となる93.36ドルをつけています。
参照:ナスダック「NEE Analyst Research」
参照:Yahoo!ファイナンス「NextEra Energy, Inc.」
6.ネクステラを組み入れるファンドは?
まず、ネクステラが組み込まれたESG型ファンドとして、ピクテ・ジャパンの「ピクテ・エコディスカバリー・アロケーション・ファンド(年2回決算型)為替ヘッジなし、愛称:エコディスカバリー」が挙げられます。
「エコディスカバリー」は、「エネルギー効率化」、「省資源化」、「再エネ」といったテーマを基に世界の環境関連企業の株式に投資します。特定の国や通貨に集中せず分散投資を行い、原則、為替ヘッジを行いません。1、3、5、10年間のトータルリターンは何れも、同一カテゴリー(国際株式・グローバル・含む日本)を上回る運用成績を上げています。2009年11月の設定来では+299.29%のパフォーマンスです。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均的となります。
参照:ウェルスアドバイザー「ピクテ・エコディスカバリー(年2回)H無」
エコディスカバリーには、その他にSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体を製造・販売するオン・セミコンダクター(ON)、半導体製造装置世界首位のアプライド・マテリアルズ(AMAT)、電子機器や半導体などの設計作業を自動化するソフトウェアなどを提供するシノプシス(SNPS)などが組み入れ上位銘柄となります。同ファンドは、モーニングスターの「ファンド オブ ザ イヤー 2021」のESG型部門で優秀ファンド賞に選定されました。販売会社はSBI証券、野村證券、auカブコム証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などです。たとえば、SBI証券でエコディスカバリーを購入する場合、ノーロード(購入時手数料がかからない)で、NISAや100円積立に対応しています。
また、大和アセットマネジメントの「クリーンテック株式ファンド(資産成長型)(愛称:みらいEarth S成長型)」にも組み入れられています。
同ファンドは、投資リターンと社会的利益の両立を目指すクリーンテック関連企業株式へ投資します。具体的には、環境に優しい輸送手段、代替エネルギー、持続可能な食料供給、水資源の保全や再利用、再起物削減などの分野において優れたテクノロジーを持つ企業を投資対象とします。設定から浅いことから1年間のみのトータルリターンになりますが、(国際株式・グローバル・含む日本)を上回る運用成績を上げています。2020年7月の設定来では+35.6 %のパフォーマンスです。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均より安い水準となります。
参照:ウェルスアドバイザー「クリーンテック株式ファンド(資産成長型)」
みらいEarth S成長型には、その他に米分析機器大手サーモフィッシャーサイエンティフィック(TMO)、独半導体大手インフィニオン(IFX)、米農機世界最大手ディア(DE)などが組み入れ上位となります。販売会社はSBI新生銀行、三井住友信託銀行、SBI証券などです。
なお、個別株として投資する場合、割安に米国株式投資を実践できるSBI証券、楽天証券、マネックス証券のいずれの証券会社でも取り扱っています。たとえば、SBI証券は業界最安水準の手数料を実現しているほか、総合口座開設後、口座開設月の翌月末までの最大2ヵ月間、米国株式の取引手数料が無料となる「Wow!株主デビュー!米国株式手数料Freeプログラム」も実施中です。
参照:SBI証券「Wow!株主デビュー!~米国株式手数料Freeプログラム~」
7.まとめ
ネクステラは、規制環境の変化を的確に捉え、地方の電力会社が世界最大級の再エネ発電事業に成長しました。米国ではIRAなどの政策支援も含め、再エネ産業に追い風が吹いています。さらに、同社が手掛けるビジネスは人びとの生活に必要不可欠な社会インフラ事業です。長期に安定した収益を上げ、「リアルゼロ」の実現を目指す中、永続的に企業運営を行っていくことに期待したいです。
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