セールスフォース(CRM)のサステナブルな取り組みは?組み入れファンドも紹介
米顧客情報管理のセールスフォース(ティッカーシンボル:CRM)は、顧客の成功を自社の繁栄に繋げることをミッションとし、創業から僅か20年ほどで世界を代表するソフトウェア企業に成長しました。
株式市場からの評価も高く、上場来の株価パフォーマンスは約6,400%高と、既にテンバガー(10倍株)を遥かにしのぐ成長力を示しています。
そこで今回は、セールスフォースの概要、カスタマーサクセス、サステナブルな取り組み、ESG(環境、社会、ガバナンス)評価、業績、株価動向、組み入れファンドを紹介します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- セールスフォースの会社概要
1-1 CRM世界No.1
1-2 主力製品のカスタマー360 - セールスフォースのサステナビリティ
2-1 カスタマーサクセスの徹底
2-2 サステナブルな取り組み - セールスフォースのESG評価
- セールスフォースの業績、株価動向
- セールスフォースを組み入れるファンド2選
5-1 HSBC世界資産選抜 収穫コース(予想分配金提示型)
5-2 ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド - まとめ
1 セールスフォースの会社概要
まずはセールスフォースの会社概要を見ていきましょう。
1-1 CRM世界No.1
セールスフォースは1999年、米IT大手オラクル出身のマーク・ベニオフ氏が創業したクラウド型ソフトウェアを提供する企業です。世界の顧客関係管理(CRM)市場(売上高ベース)では、10年連続でNo.1を獲得しています。(※参考:セールスフォース「Financial Update Q1FY24」)
※画像引用:セールスフォース「Salesforce Ranked #1 in CRM Market Share for Ninth Consecutive Year」
CRMとは、顧客情報や行動履歴、顧客との関係性を管理し、顧客との良好な関係を構築・促進することです。CRMを活用することで以下のようなメリットがあり、より多くの商談を成立させたり、想像を超えた顧客体験を提供したりできるようになります。
- 顧客情報の一元管理による生産性向上
- リアルタイムの情報共有による営業業務の効率化
※参考:セールスフォース「CRMとは?機能やSFAとの違い、メリット・活用方法まで」
売上高や顧客サービス、デジタルコマース、ITなどの分野では、以下のように、より具体的な数値として効果が示されています。数値はいずれも、セールスフォースの顧客において改善された値の平均になります。
売上高への効果
- リード(見込み客)コンバージョン+30%
- 取引金額の規模+15%
顧客サービスへの効果
- 顧客維持+27%
- 顧客満足度+30%
※参考:セールスフォース「CRMとは?機能やSFAとの違い、メリット・活用方法まで」
※2017年から2019年に実施されたSalesforce顧客成功調査(回答者:3384人)
世界的にデジタルトランスフォーメーション(DX)の機運が高まる中、セールスフォースは順調に業容を拡大させています。
2018会計年度から2023会計年度までの5年間で売上高は約3倍拡大し、法人向けソフトウェア会社としては、最も急成長を遂げる企業トップ5社の一つになります。(※参考:セールスフォース「Financial Update Q1FY24」)
時価総額ベースでは世界47位の大型IT株です。創業僅か20年ほどの企業が、ナイキ、シスコ・システムズ、ウォルト・ディズニーといった、各業界を代表する世界的な企業を上回る規模を誇ります(2023年6月9日時点)。
参考:スタティスタ「The 100 largest companies in the world by market capitalization in 2023」
- 売上高は直近5年間で3倍
- 法人向けソフトウェア会社の中で最も急成長する企業の1社
- 時価総額は世界トップ50圏内
1-2 主力製品のカスタマー360
主力製品は「カスタマー360」と呼ばれるCRMプラットフォームです。
これは、マーケティング、セールス、コマース、サービス、ITといった全ての業務を連携させることで、まさに顧客を360度全方位から取り囲み、顧客情報を集約および共有することができる世界初のリアルタイムCRMです。
リード獲得から顧客ロイヤリティ向上に至るまで、カスタマージャーニーのあらゆるフェーズに対応したアプリが用意されています。「セールスフォースにいけば何でも揃う」という状態を作り出し、EC分野でいうアマゾンのような存在と言えます。
さらに、カスタマーデータプラットフォーム「セールスフォース・データ・クラウド(Salesforce Data Cloud)」やCRMに特化した生成AI(人工知能)「アインシュタインGPT(Einstein GPT)」を活用することで、タスクを自動化し、リアルタイムにより優れた顧客体験を提供できるようになります。
パナソニック、任天堂、JTBといった日本の企業も「カスタマー360」を活用し、業務の刷新や効率化、コストの削減、新たな顧客体験の創出に繋げています。
2 セールスフォースのサステナビリティ
ここからはセールスフォースのサステナビリティ面を見ていきましょう。
2-1 カスタマーサクセスの徹底
まず、セールスフォースはカスタマーサクセスをミッションとして掲げており、カスタマーサクセスの代名詞的存在です。
カスタマーサクセスとは、製品やサービスの利用を通じて顧客の成功を支援することです。カスタマーサクセスというミッションの下、「カスタマー360」のような製品・サービスの提供を通じ、顧客が成功することで契約が更新され、同社もサステナブルな経営の実践に繋げられます。
以下がカスタマーサクセスを導入するメリットです。
- 解約率を低く抑えられる
- クロスセル(関連商品の提案)、アップセルに繋げられる
- 顧客生涯価値(LTV)を高く保てる
- ニーズを分析して製品の改良に繋げられる
※参考:セールスフォース「カスタマーサクセスとは?カスタマーサポートとの違い・業務内容とKPI」
セールスフォースのように、クラウドサービスとして提供されるソフトウェアであるSaaS(Software as a Service)企業にとっては、サービスを継続して利用してもらうことが重要になります。サービスの利用を更新してもらわなければ、収益を上げることができなくなるからです。
従来型ベンダーのビジネスモデルのように、1回限り高額なソフトウェアを購入してもらうのではなく、顧客に長期間にわたり継続利用してもらえるようなソリューションを提供することで、Win-Winな関係性を構築します。
顧客の成功を支援することで、解約率を抑え、アップセル(顧客の単価を向上させる取り組みなど)に繋げ、収益性を高めることができます。実際に2022年の成功指標の調査では、「カスタマー360」を利用する顧客の98%が、自社の投資収益率(ROI)目標を達成もしくは上回る成果をあげています。(※参考:セールスフォース「Deliver success now with Salesforce Customer 360.」)
2-2 サステナブルな取り組み
セールスフォースはステークホルダー資本主義の下、顧客、従業員、パートナー、コミュニティ、地球、株主といった全てのステークホルダーを重視する経営を目指ししています。
最新の「FY23 Stakeholder Impact Report」(ステークホルダー・インパクト・レポート)を基に、2023会計年度(2022年2月1日~2023年1月31日)のサステナブルな取組状況を確認しましょう。
- バリューチェーン全体で残余排出量をネットゼロ化
- 再生可能エネルギー100%達成
- 米国の従業員の52%が低代表な(underrepresented)グループ(女性、黒人、ラテンアメリカ系、先住民、多民族、LGBTQ+、障がい者、退役軍人)で構成
また、セールスフォースは世界中で1兆本の樹木の保全、再生、育成を目指す1t.orgの創設メンバーです。セールスフォース自身は、1億本の植樹支援を目標として掲げ、2023年時点で4,500万本超の植樹を支援しています。
さらに、セールスフォースは24年前の創業時から、就業時間、株式、製品の1%を社会貢献活動に充てる「1-1-1モデル」にコミットしており、17,000社超が1-1-1モデルを参考にし、サステナブルな未来の創造に向けて取り組んでいます。
セールスフォースは創業以来、社会やコミュニティなどに以下のようなインパクトをもたらしてきました。
- NPOや教育機関に6億1,400万ドルを助成
- 780万時間を超える地域貢献活動
- 5万社超のNPOや学校に無償もしくは割引で製品提供
3 セールスフォースのESG評価
ここからはセールスフォースのESG評価を見ていきます。創業以来、社会貢献活動に積極的であり、外部機関より高い評価を得ています。
例えば、米シンクタンクのエシスフィア・インスティテュートが発表する「世界で最も倫理的な企業」に14年連続で選定されました。(※参考:セールスフォース「Salesforce Named to Most Ethical Companies List for 14th Time」)
また、フォーチュン誌の「最も働きがいのある会社」ランキングテクノロジー部門に6年連続で選出されています。(※参考:セールスフォース「Financial Update Q1FY24」
4 セールスフォースの業績、株価動向
ここからは、セールスフォースの業績や株価動向を見ていきましょう。
業績面では、2019会計年度~2023会計年度までの5年間で、売上高は2.4倍と大幅拡大に成功しましたが、希薄化後一株当たり利益(EPS)は85%減となりました。
- 売上高は2.4倍
- 希薄化後EPSは85%減
※参考:モーニングスター「CRM」
5年平均の粗利益率74%を除き、営業利益率は3%、株主資本利益率(ROE)は5%、投下資本利益率(ROIC)は4%と収益性の低さが目立ちます。
- 粗利益率74%
- 営業利益率3%
- ROE5%
- ROIC4%
これは、革新的なソリューションの提供を通じて高成長を追求する一方、支出管理を徹底してこなかったことが要因の一つとして挙げられます。実際に、営業費用のうち、マーケティング・販売費用が売上高の45%も占めています。
※参考:モーニングスター「CRM」、セールスフォース「FY23 Earnings releases」
足元では、これまで積極的に推し進めてきたM&A(企業の合併・買収)を通じた成長拡大から、利益重視に経営のかじを切る方針を打ち出しました。2024会計年度の営業利益率は約28%に達する見通しです。(※参考:セールスフォース「Financial Update Q1FY24」)
成長から利益重視に方針を転換していますが、以下の2026会計年度の数値目標に示すように、今後も順調な成長と積極的な株主還元が期待できます。
- 売上高500億ドル(年平均成長率(CAGR)は約17%)
- 自社株買い枠100億ドル
(※参考:セールスフォース「Investor Day 2022」)
株価に目を転じると、2004年6月の上場来で約6,400%上昇と、既にテンバガー(10倍株)を遥かにしのぐ成長力を示しています。(※参考:モーニングスター「CRM」)
アナリストの目標株価を確認しましょう。41名のアナリストによるコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です(2023年6月16日から遡って過去3ヵ月間の評価)。
目標株価の平均値(12ヵ月後)は239.1ドルと、6月15日終値と比較して約13%の上昇余地があります。アナリスト予想の最高値は325ドル、最安値は153ドルです。
株価
価格 | |
---|---|
目標株価の平均値(12ヶ月後) | 239.1ドル |
2023年6月15日終値 | 211.92ドル |
アナリスト予想
価格 | |
---|---|
最高値 | 325ドル |
最安値 | 153ドル |
※参照:Nasdaq 「CRM Analyst Research」Yahoo Finance 「CRM」
5 セールスフォースを組み入れるファンド2選
ここからはセールスフォースが組み入れられているファンドを紹介します。
- HSBCアセットマネジメントの「HSBC世界資産選抜 収穫コース(予想分配金提示型)
- ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド
5-1 HSBC世界資産選抜 収穫コース(予想分配金提示型)
まずは、HSBCアセットマネジメントの「HSBC世界資産選抜 収穫コース」です。
同ファンドは、世界の様々な資産(株式や国債、社債など)に分散投資し、インカムゲインの獲得と資産拡大を目指します。予想分配提示型の参考利回りは3.4%です。
セールスフォースに加え、半導体製造装置大手アプライドマテリアルズ、旅行予約サイト大手ブッキング・ホールディングス、米東海岸を走る鉄道会社CSX、電力供給大手ファーストエナジーなどが組み入れ上位銘柄として挙げられます。
3年間のトータルリターンは、同一カテゴリー(国際株式・グローバル・除く日本)を上回る運用成績を上げています(2023年5月31日時点)。設定来の運用パフォーマンスは+7%です。信託報酬率はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均より安い水準になります。
販売会社はJAバンク(JA/信連/農林中金)です。なお、「HSBC世界資産選抜 収穫コース(予想分配金提示型)」は、R&Iファンド大賞2023で投資信託/バランス比率変動型部門にて優秀ファンド賞を受賞しました。
5-2 ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド
三菱UFJ国際投信の「ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド」)です。
同ファンドを実質的に運用するベイリー・ギフォード社は、スコットランド・エディンバラで100年以上にわたり長期投資という運用哲学を貫いてきた老舗の資産運用会社です。、成長株投資を得意とすることでも知られています。
他の組み入れ銘柄としては、米半導体大手エヌビディア、米電気自動車(EV)大手テスラ、仏高級ブランドのケリング、米血糖値測定機大手デックスコムなどが組入上位10銘柄に含まれています。
1年間のトータルリターンは、モーニングスターの同一カテゴリー(国際株式・グローバル・除く日本)を上回っていますが、3年間ではアンダーパフォームしています(2023年5月31日時点)。2019年1月の設定来のパフォーマンスは+96.19%になります。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均より安い水準です。販売会社はSBI証券、楽天証券、auカブコム証券、イオン銀行などです。
「ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド」は、モーニングスター(現ウェルスアドバイザー)のファンドオブザイヤー2020国際株式型(グローバル)部門で最優秀ファンド賞を受賞しました。
まとめ
セールスフォースは創業から20年ほどで飛躍的な成長を遂げ、株主価値を大きく向上させてきました。また、カスタマーサクセスやステークホルダー資本主義の下、顧客やパートナー、コミュニティ、地球に多大なポジティブインパクトをもたらしてきました。
足元、これまでの成長重視から収益強化へと経営のかじを切る中、経済面、社会面、環境面に好影響を与える取り組みを実践することに今後も期待したいです。
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