気候テックAeroseal、ビル・ゲイツ創設ファンド主導のシリーズBで95億円調達 HVACサービス市場拡大が追い風
気候テックのスタートアップAerosealは7月20日、ビル・ゲイツ氏が創設したファンド「ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ」などが主導したシリーズB(資金調達ラウンド)で6,700万ドル(約95億円)調達したと発表した(*1)。HVAC(暖房、換気、および空調)サービス市場の拡大が見込まれる中、世界的にダクトのシーリング(密閉)サービスの拡充を図る。
今回の投資ラウンドでは、米国の有力ホームビルダーであるビーザー・ホームズと、世界最大級の石油会社サウジアラムコのベンチャーキャピタル部門アラムコ・ベンチャーズが新たに参画した。
世界グリーンビルディング協会によると、建築によるCO2排出量は世界全体の40%を占めるという(*2)。さらに、エアダクト(空気の通り路)からの漏れにより、建物の冷暖房で使用されるエネルギーの約半分が浪費されている(*3)。
それらの課題解決に取り組むのがAerosealだ。同社は建物内のエアダクトやエンベロープ(壁や天井の内部、床下など)を密閉するための無毒性のシーラント材および統合システムを提供する。
具体的な作業工程としては、まず、全てのエア漏れ箇所を特定し、無毒性のエアロゾル化したシーラント材を注入する。その際、特許を取得済みのシステムを活用することで、正確な箇所を把握し、必要な量だけのシーラントを使用する。
漏れ箇所への物理的アクセスや人手を介する必要がなく、作業は僅か数時間で完了できる。Aerosealのシステムが開発されるまでは、ダクトのシーリングは汚れ作業で、労働集約的なものであった。
Aerosealのシーリング技術を活用することで、エア漏れ量の削減率は95%にも上り、エネルギーの使用量15%削減できる。これらにより年間の冷暖房費を最大850ドル節約可能だ。全ての病気の半分が室内空気質の汚染によって引き起こされると試算される中、漏れを密閉することで空気質を改善することもできる。
従来のシーリング手法との比較調査でも、Aerosealの最先端のシーリング技術は従来比で50%以上高い効果を発揮し、作業時間およびコストを70%削減できる可能性があることが示された(*4)。
Aerosealは、これまでに世界30ヵ国で26万超の住宅・商業ビルのダクト・エンベロープを密閉した実績を有する。ファイザー、現代自動車、ヒルトンホテルなどに加え、学校、病院、軍事施設、政府機関などで同社のシーリング技術が活用されている。
足元までに、エネルギー効率の改善などに伴う二酸化炭素(CO2)排出量を50万トン超削減したという。同社は地球上から年間1ギガトンのCO2除去に注力している。これは最大の積載量を搭載した米国の航空機1万機の排出量に相当するとしている。
ローレンス・バークレー国立研究所の科学者マーク・モデラ博士(現Aerosealのインベンター)とエンジニアのデュオ・ワン氏が、1990年代に革新的なダクトのシーリング技術を開発した。同技術の商用化を図るべく、Aerosealは97年に住宅用システムのライセンスを、2003年に商業ビル用システムのライセンスを取得した。
グローバルインフォメーションによると、世界のHVACサービス市場は23年から28年の間に6.1%の年平均成長率(CAGR)で拡大する見込みだ(*5)。特に、米国バイデン政権は気候変動を最優先課題の一つと位置付けており、住宅・商業ビル(特に老朽化したビル)のエネルギー効率の向上に取り組んでいる。
米国では年間800万戸超の住宅でHVACシステムが入れ替えられている。その際に、ダクトのエア漏れを密閉するビジネス機会が生まれる。また、環境負荷に低減に向けて既存建物のレトロフィッティング(建物の施工後に目的に応じた修繕)も重要となる。
これらの外部環境は、高い技術力を有するAerosealにとって、エネルギー効率の改善やCO2削減効果のある独自ソリューションを提供することで、更なるサービス拡充が期待できる。
今回の資金調達ラウンドを主導した「ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ」は、16年に環境や衛生問題の解決に取り組むビル・ゲイツ氏が立ち上げた気候ファンドだ。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏、世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツ創業者のレイ・ダリオ氏など、錚々たるメンバーが出資する。
同ファンドは、ネットゼロエミッションの実現に向けて世界をリードする90社超の企業のサポートにコミットし、ファンド規模は20億ドルを超える。
そんなファンドが資金を投じて成長を後押しする企業には、都市廃棄物(MSW)、タイヤ、医療廃棄物などを燃やさずにクリーンエネルギーに転換するシエラ・エナジー(Sierra energy)、電気自動車(EV)に革命をもたらす全固体電池の開発に取り組むクアンタムスケープ(QuantumScape)、二酸化炭素(CO2)を再利用してコンクリートを生成するカーボンキュア(CarbonCure)などが含まれる。
クアンタムスケープは20年9月に上場を果たしている。カーボンキュアについては関連記事を参照していただきたい(*6)。
【参照記事】*1 Aeroseal「AEROSEAL SECURES $67 MILLION IN SERIES B FUNDING」
【参照記事】*2 世界グリーンビルディング協会「Report」
【参照記事】*3 フロリダ大学「ENERGY EFFICIENT HOMES: THE DUCT SYSTEM」
【参照記事】*4 Aeroseal「Field Test of Advanced Duct-Sealing Technologies within the Weatherization Assistance Program」
【参照記事】*5 グローバルインフォメーション「HVACサービス市場- 成長、動向、予測(2023年~2028年)」
【関連記事】*6 CO2再利用コンクリート製造カーボンキュア、111億円調達。マイクロソフトやアマゾンなどが出資
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