東レのESG・サステナビリティの取り組みや将来性は?株価推移、配当情報も

東レは、持続可能なビジネスモデルを構築することに力を入れている大手化学メーカーです。自社製品や製造プロセスの環境負荷を軽減するため、再生可能エネルギーの利用、廃棄物削減、リサイクルの促進などを推進しています。

そこでこの記事では、東レのESG・サステナビリティの取り組み内容や将来性についてご紹介します。東レの特徴や株価推移、配当情報なども解説するので、ESG投資にご興味のある方は参考にしてみてください。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年7月31日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 東レの特徴
  2. 東レのESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性
    2-1 GHG排出実質ゼロの実現
    2-2 持続可能な形で資源が管理される世界の実現
    2-3 安全な水や空気を利用できる自然環境の実現
    2-4 健康で衛生的な生活を送ることができる世界の実現
  3. 東レの株価推移
  4. 東レの配当情報
  5. まとめ

1 東レの特徴

東レ株式会社(3402)は、東京都と大阪市に本社を置く日本の大手化学企業です。製造業を盛んにする国策のもと、1926年4月16日に実業家の安川雄之助氏によって、「東洋レーヨン」という社名で東レは設立されました。現在は、国内だけではなく国外にも事業を展開するグローバル企業であり、29ヵ所の国や地域で事業を展開しています。310社ある関連企業のうち、国外関連企業の数は196社に及びます(2023年3月末時点)。

東レの主な事業は、「繊維事業」「機能化成品事業」「炭素繊維複合材料事業」「環境・エンジニアリング事業」「ライフサイエンス事業」「その他」です。

事業セグメント 主な事業内容
繊維事業 ナイロン、ポリエステル、アクリルの三大合成繊維をベースとした、糸、綿、紡績糸及び織編物など様々な製品を開発・販売しています。
機能化成品事業 樹脂及び樹脂成形品、フィルム及びフィルム加工品、合成繊維、プラスチック原料などを取扱っており、自動車部品への貢献度の高さが強みとなっています。
炭素繊維複合材料事業 炭素繊維、炭素繊維複合材料、また炭素繊維成形品を取扱っています。炭素繊維複合材料は、省エネルギーに貢献したり、石油代替エネルギーや再生可能エネルギーの分野でも採用されたりしています。
環境・エンジニアリング事業 総合エンジニアリング、マンション、産業機械類、情報関連機器、水処理用機能膜などを取扱っています。
ライフサイエンス事業 医薬品、医療機器などを取り扱っています。
その他 分析・調査・研究等のサービス関連事業を行っています。

2 東レのESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性

東レは、独自の革新技術や先端材料の提供により、持続可能な社会の実現へ貢献することを使命と考え、ESG・サステナビリティへの取り組みを行っています。2050年に目指す社会を具体化した「東レグループ・サステナビリティ・ビジョン」を策定し、2030年に向けた数値目標として以下を掲げています。

2013年度実績(基準年) 2022年度実績 2030年度目標
サステナビリティイノベーション製品の供給 5,624億円 2.3倍 4.5倍
バリューチェーンへのCO2削減貢献量 0.4億トン 9.5倍 25倍
水処理貢献量 2,723万トン/日 2.5倍 3.5倍
生産活動によるGHG排出量 ※ 337トン/億円 35%削減 50%以上削減
生産活動にる用水使用量 ※ 15,200トン/億円 32%削減 50%以上削減

※東レグループ全体の売上高・売上収益原単位

また、2050年に向けて、東レは以下の4つの世界の実現を目指しています。

  • 温室効果ガス排出実質ゼロの実現
  • 持続可能な形で資源が管理される世界
  • 人々が安全な水や空気を利用できる自然環境が回復した世界
  • 人々が健康で衛生的な生活を送ることができる世界

それでは、詳しい取り組み内容を確認してきましょう。

2-1 GHG排出実質ゼロの実現

GHG(温室効果ガス)とは、地球の大気中に存在し、太陽からの熱を一部吸収して地球を温暖化させるもので、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)などが挙げられます。温室効果ガス排出の実質ゼロ化を目指すために、東レでは、「製品のライフサイクル全体を通じた二酸化炭素排出の抑制」「新エネルギー社会の構築」「製造段階での二酸化炭素削減」に取り組んでいます。

「製品のライフサイクル全体を通じた二酸化炭素排出の抑制」では、例えば、航空機、風力タービン、自動車など、炭素繊維の用途を拡大し、軽量化による燃費向上を図る形で行われています。炭素繊維は、鉄の1/4の重さでありながら、10倍の強度を持っており、「夢の素材」とも言われています。その軽くて強い特性から、航空業界では航空機の尾翼や機体の各部に炭素繊維が使用されています。炭素繊維のボディは軽いので、推進力となる燃料を削減し、二酸化炭素排出を抑制できるのです。

また、ライフサイクルアセスメント(LCA)という手法を用い、炭素繊維の原料発掘から使用、廃棄までの製品ライフサイクルを通じた環境影響の評価を行っています。LCAの結果、炭素繊維を用いて自動車を30%軽量化した場合、炭素繊維1トン当たり50トン、航空機を20%軽量化した場合1,400トンの二酸化炭素削減効果が10年間のライフサイクルで見込まれます。

さらに、最近ではリサイクル技術や生産コストの低減においても成果が表れています。例えば、東レは炭素繊維廃棄物を焼却する際に排出されるガスを抽出し、再利用する技術を豊田通商と共同で開発しました。これにより、炭素繊維の廃棄物を有効活用することが可能になりました。

また、かつては1ポンド当たり100ドルだった炭素繊維の生産コストは、2019年時点で10ドルまで下がっています。世界の炭素繊維消費量は2015年には60,000トンでしたが、2025年までには150,000トンに倍増する見込みです。廃棄物のリサイクルが順調に進めば、供給コストがさらに下がり、炭素繊維の普及が加速することが期待されます。

※参照:東レ「夢の素材 – 環境負荷の軽減にも効果を発揮する炭素繊維

2-2 持続可能な形で資源が管理される世界の実現

東レは、持続可能な循環型の資源利用と生産に貢献するための取り組みを行っています。例えば、製品の製造過程において、石油や天然ガスなどの化石資源ではなく、非可食の植物資源など非化石資源を活用しています。

東レが開発した植物由来ポリエステル繊維は、従来の石油由来のポリエステル繊維と比較し、地球環境の保全に寄与する素材です。植物由来ポリエステル繊維は、再生可能な植物原料から作られており、サトウキビやトウモロコシなどの植物から得られる糖分を原料として生成されます。また、使用後に焼却された場合も、原料となる植物が成長過程で光合成により吸収する二酸化炭素の量によって、排出される二酸化炭素が相殺されるのです。

2022年に100%植物由来のポリエステルの製品化を実現し、さらに非可食バイオマス由来の糖からのナイロン原料の創出に世界で初めて成功するなど、技術革新に努めています。2023年4月には、非可食バイオマスから糖を製造する基本技術を、DM三井製糖と共同で実証、確立しました。これにより、食糧と競合することなく、農業残さを原料とした繊維、樹脂、フィルムなどの化学品を一貫で製造することが可能となります。資源循環型社会の実現につながることが期待されており、また従来の製造方法と比べ50%以上の二酸化炭素排出削減が見込まれています。

※参照:東レ「非可食バイオマスを用いた糖製造技術の実証について~持続可能な原料から繊維・樹脂・フィルム製品を創出~

2-3 安全な水や空気を利用できる自然環境の実現

東レは、強みでもある水処理技術で海水を淡水にしたり、水の浄化や再利用をしたりすることで、安全な水を作るとともに、水不足の解消や環境負荷の低減を目指しています。現在、世界では人口増加や産業の発展とともに水需要が増える一方、水質汚染が深刻化しています。また、気候変動により一部の地域では長期間の干ばつが発生しているほか、地下水の過剰な抽出や河川の乱用により、水源の減少が起こっています。

このように、水不足解消のための技術開発が喫緊の課題となる中、東レが開発した高分子逆浸透膜は、水不足の解消に向けた技術として世界各地で導入されています。高分子逆浸透膜は直径0.6~0.8ナノメートルの微細な孔を持つ素材であり、精密なろ過技術を備えています。ナノメートルは百万分の1ミリメートルという小さな単位であり、このような微細な孔を持つ膜を使用することで、海水中の塩分や不純物を効果的にろ過できます。

高分子逆浸透膜技術を利用することで、海水から塩分や不純物を除去して淡水を生み出すことが可能となるほか、逆浸透方式の脱塩法は従来の加熱蒸発方式に比べて電力消費が少なく、温暖化効果を抑えられます。

この逆浸透膜技術は、特に乾燥地域や水資源に乏しい地域での需要が高まっており、例えば、シンガポールでは東レの技術による浄水が50%を占め、自給に向けた取り組みが進んでいるほか、バングラディシュでは東レの水処理分離膜を使用した給水車が積極的に活用されています。

※参照:東レ「海水を淡水に変える分離膜技術で人々に希望の光を

2-4 健康で衛生的な生活を送ることができる世界の実現

東レは、医療の充実と公衆衛生の普及促進への貢献のため、自社の有する革新技術や先端材料を提供することにより、医療の質の向上に貢献しています。

中でも、東レが開発した高精度マイクロアレイDNAチップ「3D-Gene®」は、遺伝子検査の精度を飛躍的に向上させ、がん治療やアルツハイマー病治療など、創薬の領域で新たな可能性を生み出しています。

このチップは、遺伝子の発現解析や変異解析などの遺伝子検査に使用されており、高感度の遺伝子検出を可能にするため、がんバイオマーカーや認知症の血液マーカーの特定など、さまざまな疾患の早期発見に役立っています。将来的には、疾患の予防や治療において、より効果的・効率的なアプローチが可能になると期待されています。

※参照:東レ「自然が綴った傑作、ヒトの遺伝子を最新の合成技術で読み取る

3 東レの株価推移

東レの株価は、2023年7月31日時点より前の直近1年間において、690円台~830円台の間を横ばいで推移しています。2023年に入ってから、2月21日に835円まで上昇しましたが、3月20日には、720円まで下落しています。その後も700円台の間を上下しながら株価は推移し、2023年7月31日時点で795円の値をつけています。

2023年3月期は、機能化成品セグメントにおける、樹脂事業、フィルム事業の需要の減少や、原材料価格高騰の影響により、連結最終利益が前年期比の13.5%減となりました。一方、2024年3月期には、機能化成品セグメントの需要回復見込みや、原材料価格・運輸費の高騰に対する価格転嫁の推進により、同年期の連結最終利益は、前年期比の4.4%増になる見込みとなりました。この点は東レの株価にプラス材料になる可能性があります。

※参照:東レ「決算資料

4 東レの配当情報

東レの2020年3月期から2023年3月期までの1株当たりの配当金額および配当性向は、以下の通りです。

年間配当額 中間 期末 配当性向
2020年3月期 16円 8円 8円 30.4%
2021年3月期 9円 4.5円 4.5円 31.5%
2022年3月期 16円 8円 8円 30.4%
2023年3月期 18円 9円 9円 39.6%

※参照:東レ「株式情報

2021年3月期は、新型コロナウイルスの影響で業績が低迷し、1株当たりの中間配当額、期末配当額、年間合計配当額はいずれも前年期より少なくなりました。しかし、2022年3月期は、業績が回復し、1株当たりの中間配当額、期末配当額、年間合計配当額はいずれも、2020年3月期と同額まで戻っています。さらに、2023年3月期は、前年期より、1株当たりの中間配当額と期末配当額が各1円ずつ、年間合計配当額が2円多くなりました。

また、中期経営課題である「プロジェクトAP-G 2025」において、配当性向は30%以上とする株主還元の基本方針を打ち出していることから、2020年3月期~2022年3月期までの配当性向も30%台~31%台で推移していました。そして、2023年3月期の配当性向は39.6%まで上昇し、前年期より、事業利益に対する株主還元の割合が増えています。

2024年3月期の1株当たりの中間配当額、期末配当額、年間合計配当額は、いずれも2023年3月期と同額、配当性向は38%となる予想です。

5 まとめ

東レは植物由来の繊維や、高分子逆浸透膜などの環境に配慮した製品を開発するなど、地球環境の保全に貢献しています。また、省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの利用、廃棄物削減など製品のライフサイクルを通じ環境負荷を削減する取り組みを行っています。

さらに、社会的な取り組みとして、地域との協働による社会貢献活動や、社内でのダイバーシティ&インクルージョンの推進、安全・健康管理の徹底などが挙げられるほか、ガバナンス面では、透明性と責任のある経営を重視するなど将来性の期待できる企業です。

なお、東レの2023年3月期の業績は前年期減の結果となったものの、2024年3月期の業績は前年比増の見込みとなるなど、株価にプラスの影響を与える材料もあります。また、配当金も継続的に出しており、配当性向も40%近くまで上昇しています。

東レのESG取り組み内容や投資に関心のある方は、この記事を参考にぜひご自身でもお調べください。なお、投資にはリスクも伴うので、リスクを十分に理解した上で、慎重に検討することが大切です。

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