ブロックチェーンと補助金、成功プロジェクトの事例と活用方法

今回は、ブロックチェーンを利用した補助金の実例について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. ブロックチェーン関連の補助金
    1-1. 事業再構築補助金
    1-2. デジタル証券(セキュリティトークン)の発行支援
    1-3. イーサリアム財団の助成金
  2. ハラール認証食品向けのトレーサビリティサービス
    2-1. プロジェクトの概要
    2-2. 補助金採択の決め手
  3. ブロックチェーンプロトコル「zkCREAM(ジーケークリーム)」
    3-1. プロジェクトの概要
    3-2. 補助金採択の決め手
  4. イーサリアムベースのインフラ基盤「Startrail(スタートレイル)」
    4-1. プロジェクトの概要
    4-2. 助成金の採択理由
  5. まとめ

「ブロックチェーン」という技術が一部の専門家から一般の社会に広まってきて、今では私たちの日常生活にも少しずつその影響を及ぼしています。その便利さから、ブロックチェーン技術はすでに多くの業界や分野で積極的に活用されており、これまでに存在した様々な問題の解決に寄与しています。それは新しいビジネスモデルの一部として、次第に注目されるようになってきています。

このような流れの中、日本国内ではブロックチェーン技術を活用したプロジェクトを支援するための補助金が多く提供されています。これらは返済が必要ない形の支援であるため、数多くのプロジェクトがこれらの補助金を取得しようと取り組んでいます。本記事では、ブロックチェーン関連の補助金について、具体的な採択されたプロジェクトをいくつか紹介し、その概要や詳細な内容を解説していきます。

1.ブロックチェーン関連の補助金

1-1.事業再構築補助金

事業再構築補助金とは、新分野展開や業態転換、事業・業種転換、事業再編またはこれらの取組を通じた規模の拡大など、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業などの挑戦を支援することを目的とした補助金のことを指します。

これまでの事業再構築補助金においては、ブロックチェーンに関連するプロジェクトが数多く採択され、その結果が業界の発展を後押ししています。事業再構築補助金の審査項目にも「先端的なデジタル技術の活用」という文言が含まれていることから、ブロックチェーンプロジェクトへの支援が確実に行われていることが伺えます。

補助の詳細については次のとおりです。

従業員数による補助上限額:

  • 21~50人: 最大4,000万円
  • 51~100人: 最大5,000万円
  • 101人以上: 最大7,000万円

1-2.デジタル証券(セキュリティトークン)の発行支援

ブロックチェーン技術は金融分野でも多様な形で活用されています。最近では、ブロックチェーンを用いて発行される「デジタル証券(セキュリティトークン)」が注目を集めています。この動向を受けて、東京都ではデジタル証券の発行を支援する方針を発表しました。

デジタル証券とは、ブロックチェーン技術を利用して電子的に発行される有価証券のことを指します。これまでは、有価証券と言えば、株式や債券、不動産投資信託などの形で、主に紙媒体で記述、管理されていました。しかし、デジタル証券では、これらの権利が「トークン化」され、ブロックチェーン上で管理されます。トークン上には証券内容や権利情報などのデータが記録され、自律的、分散的な管理が行われるため、「セキュリティトークン」とも呼ばれています。

デジタル証券の特性として、既存の有価証券に比べ、小口発行が可能であることや、発行者と投資家が直接つながることができることから、個人投資の促進やスタートアップの資金調達の多様化に寄与することが期待されています。

こうした背景を受けて、東京都は2023年5月31日に、デジタル証券の多種多様な発行事例の創出と、知見や課題の共有を通じた市場の拡大を図る取り組みを開始することを発表しました。具体的には、金融商品取引法や不動産特定共同事業法に基づき、デジタル証券を発行する都内の事業者に対し、発行に必要な経費の一部を補助します。補助対象となる経費はプラットフォーム利用料、専門家への相談費用、システム開発費などです。

なお、具体的な補助内容は下記の通りとなっています。

  • 補助率:
    通常は2分の1、ただしスタートアップの場合は3分の2となります。
  • 補助上限:
    プロジェクト1件あたり最大500万円です。

1-3.イーサリアム財団の助成金

「イーサリアム財団(Ethereum Foundation)」はイーサリアムとその関連技術をサポートする非営利団体です。

イーサリアム財団では、イーサリアムのエコシステムを成長させるためのプロジェクトに対し様々な支援を行っています。多くのプロジェクトに助成金を提供することで、イーサリアムのエコシステムの発展を全面的に後押ししています。助成金の対象となるのは、拡張性、コミュニティ構築、セキュリティ、プライバシーなどの解決策を提供するプロジェクトです。各プロジェクトはイーサリアム財団へ申請を行うことで、助成金を獲得する機会を得られます。イーサリアム財団は、2022年の第3四半期(7月〜9月)に総額約10億円(800万ドル)の助成金を提供したことを公表しています。これらの助成金は65の組織に分配されました。

次のセクションからは、具体的に補助金を受けているプロジェクトをいくつか紹介し、その概要や詳細について解説します。

2.ハラール認証食品向けのトレーサビリティサービス

2-1.プロジェクトの概要

事業再構築補助金の第9回公募の採択結果が2023年6月15日に発表され、その中に「ハラル認証食品向けのブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティサービス」というプロジェクトが含まれていました。このプロジェクトは、「株式会社プラス」によって運営されており、アプリの開発、オープンシステムの開発、ITエンジニアの育成などを手掛けています。具体的には、「ハラル認証食品」の安全性と信頼性を海外に伝えるため、和牛向けのブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティシステムを構築し、事業化を目指しています。

ハラル認証食品とは、宗教と食品衛生の専門家である「ハラル認証機関」がハラル(イスラム教の教えにおいて許される)であることを保証した食品のことを指します。「ハラル」はアラビア語で「許されている」を意味し、イスラム教徒(ムスリム)にとっては生活全般の行動指針となっています。それは食事だけでなく、行動、行為、服装など全てに適用されます。ハラル認証機関が製品をハラルと認定した場合、その製品にはハラル認証機関のマークが付与されます。これがハラル認証制度です。

製品にハラル認証マークが付いていると、それは豚肉やアルコールといったイスラム法で禁じられている成分が一切含まれていないことを証明します。さらに、製造環境、品質、プロセスなど、全てがイスラム法に準拠していることも保証します。このマークがあれば、ムスリムの人々は成分をひとつひとつ確認せずとも、安全で安心できる製品だと知り、購入することができます。

株式会社プラスでは、これまでに磨き上げた技術力を活用し、日本製のハラル認証食品を安全に海外に輸出できるよう、和牛向けのブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティシステムの開発に取り組んでいます。これにより、世界の人口の約3分の1を占めるイスラム圏への輸出拡大に貢献することを目指しています。さらに、ハラル食品を基に事業の多角化を進めることで、新たな事業の創出も視野に入れています。

2-2.補助金採択の決め手

事業再構築補助金の採択基準として、以下のポイントが重視されます。

  • 事業の組織体制や財務の妥当性
  • 市場のニーズの検証
  • 課題解決への適切なアプローチ
  • 費用対効果
  • 事業再構築の必要性
  • イノベーションへの貢献度
  • 経済成長への貢献度

今回のプロジェクトでは、日本の和牛にハラル認証マークを付与し、全世界の人口の約3分の1を占めるイスラム圏に向けて輸出することで、国産食品の大きな輸出増を目指し、経済成長に寄与すると評価されました。それが補助金の採択につながった要因の一つと考えられます。

さらに、ムスリムが守る厳格な食事ルールに合致した食品であることが一目でわかる仕組みを作り出し、その効率化を実現することで、以前からの課題解決に大いに貢献する可能性があると評価されました。これも採択に繋がったポイントの一つと考えられます。

3.ブロックチェーンプロトコル「zkCREAM(ジーケークリーム)」

3-1.プロジェクトの概要

前に触れたイーサリアム財団助成金の一つとして、2022年2月24日に発表されたプロジェクト「zkCREAM(ジーケークリーム)」が存在します。zkCREAMは、AI開発のスタートアップ「クーガー株式会社」が推進するブロックチェーンプロトコルで、匿名性とデータの信頼性を両立させることが可能なものです。このzkCREAMは、日本の選挙システムにおける投票を完全に匿名化し、それにより投票者のプライバシーを保護する一方で、安全で堅牢な、そして利便性の高い検証可能な投票システムを構築しています。また、中央集権的な第三者を必要としない点や、誰もがデータを改ざんできない仕組みを持つことにより、高い透明性を保証できるという特長があります。

zkCREAMは最近、実証実験を順調に進めており、2022年1月31日には「早稲田リーガルコモンズ法律事務所」協力の下、実際の使用環境における検証を行いました。

この実証実験から、秘匿性を保つブロックチェーンは秘密投票を要求するシチュエーションでの有効な使用法があること、また「GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)」の開発により、ユーザーが直感的にチェーンにアクセスできるようになることで、ユーザビリティが向上し、実用的な価値を生む可能性があると報告されました。さらに、今後の課題としては、ウォレットの使用を必要としないシステム、マイナンバーを活用したアカウント運用、そしてスマートフォンからのアクセスを可能にすることが挙げられています。これらが実現すれば、製品の本格的なリリースが現実的になります。

zkCREAMは2022年7月にもイーサリアム財団から助成金を受け取っており、そのため特に注目度が高いプロジェクトとなっています。

3-2.補助金採択の決め手

イーサリアム財団助成金の対象は、拡張性やコミュニティ構築、セキュリティ、プライバシーなどのソリューションで、イーサリアムエコシステムの発展と成長を促進するプロジェクトが選ばれています。

「zkCREAM」は日本の選挙システムに取り組むもので、これが具体的に実用化された場合、日本国民全員がこのシステムを使用する可能性があります。言い換えれば、もしzkCREAMのシステムが実現すると、それによりイーサリアムエコシステムに大量のユーザーが流入し、その成長を助けることになるでしょう。これが今回の採択に至った一因だと考えられます。

4.イーサリアムベースのインフラ基盤「Startrail(スタートレイル)」

4-1.プロジェクトの概要

次に、「Startrail(スタートレイル)」というイーサリアムベースのインフラ基盤プロジェクトについて紹介します。スタートレイルは、アートとブロックチェーンを融合した事業を展開する「スタートバーン株式会社」が開発しています。具体的には、物理的なアート作品の所有権や鑑定履歴を記録するイーサリアムベースのインフラを指します。

これまで、日本国内の美術館や博物館などの文化施設では、美術品や文化財の管理は主にアナログな手段で行われていました。しかし、施設間での作品の貸出しや、重要な作品の紛失防止など、管理におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が大きな課題となっていると報告されています。

こうした背景から、Startrailではブロックチェーン技術を活用し、アート作品の信頼性を保証し、流通と評価のインフラを構築しています。これにより、作品に関する全ての情報を一元的に管理することが可能になりました。また、作品の貸出履歴などが蓄積されることで、作品の価値向上も見込まれます。具体的には、Startrailは「ERC721」という規格を用いて、アート作品やその証明書を発行します。さらに、NFCチップを物理的な作品に取り付けることで、ブロックチェーン上の証明書と関連付けることができるシステムを開発しました。これにより、アート業界の効率化を促進しています。

4-2.助成金の採択理由

Startrailはアート業界が抱える複雑な課題に取り組んでいます。美術館や博物館などが保有するコレクションと、ギャラリーやコレクターといったアート作品を保有する民間の間で、同じフォーマットで情報をやり取りできるシステムを開発しています。Startrailは、社会的な実用性と公益性を重視した設計とガバナンスを通じて、アート業界が長年にわたり築き上げてきた信用や価値創造のプロセスを損なうことなく、共通のインフラを広く提供しています。

そして、Startrailは「アート」—それは時代を超えて大切にされてきた領域をさらに活性化させる、革新的なシステムを開発しています。そのため、このシステムの需要性が比較的高いという点も、このプロジェクトが助成金を獲得した大きな理由と言えます。

5.まとめ

ブロックチェーン技術の利便性が認識されるにつれて、関連する補助金も増えています。その中でも、補助金が付与されたプロジェクトは特に注目に値します。今回取り上げたプロジェクトも、その実用化に向けて大いに期待が寄せられています。現在、数多くのブロックチェーン関連プロジェクトが開発されているため、どのプロジェクトに注目すべきか迷う方も多いでしょう。そんな方には、今回紹介したような補助金が採択されたプロジェクトを深く理解することから始めてみてはいかがでしょうか。これにより、現在のブロックチェーン業界のトレンドを把握する手がかりになるでしょう。

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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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