2023年から開始の「GXリーグ」 温室効果ガス削減を目指す取り組みとは?

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 1. 「GXリーグ」とは
    1-1.「GXリーグ」の概要
    1-2.「GXリーグ」立ち上げの背景
  2. 2. 「GXリーグ」が目指す世界
    2-1.循環構造
    2-2.排出量を調整するシステムの実現
  3. 3. 「GXリーグ」が提供する4つの場
    3-1.自主的な排出量取引の場(GX-ETS)
    3-2.マーケットルール形成の場(GX WORKING GROUP)
    3-3.未来のビジネスチャンスを探る場:GX FUTURE SESSION
    3-4.企業同士の繋がりを深める:GX STUDIO
  4. 4. 「GXリーグ」の今後の展開
    4-1.段階的発展
  5. 5. まとめ

世界全体でカーボンニュートラル達成に向けた取り組みが行われている中、日本も温室効果ガス削減を目的として「GXリーグ」を立ち上げました。

このGXリーグは「リーダーシップ」というコンセプトのもと、2050年のあるべき社会および企業像の実現をリードする未来企業の集合体になることを目指しており、「GX(グリーントランスフォーメーション)」に自発的に取り組む企業をさまざまな角度からサポートしつつ、その活動をさらに推進するようなシステム作りに注力しています。

今回は、2023年よりスタートするGXリーグの詳細や活動、そして今後の展望について解説します。

1. 「GXリーグ」とは

1-1. 「GXリーグ」の概要

引用:GXリーグ


「GXリーグ」は、2022年2月に経済産業省が発表した新しい制度です。カーボンニュートラルを達成するための制度として導入されました。

「GX」は「グリーントランスフォーメーション」の略で、温室効果ガスの主要な原因である化石燃料使用から、再生可能エネルギー、例えば風力や太陽光発電を主体としたエネルギーシステムへの移行を促進する取り組みを意味しています。

GXリーグは、産官学の三者が一堂に会し、協働を進める「場」としての役割を果たしています。具体的には、「GX企業」としてのリーダーシップを取りながら、カーボンニュートラルを実現するための取り組みを進めていきます。産業界、学術機関、官公庁との連携を通じて、サスティナブルな成長を目指す企業の支援が行われます。

また、GXリーグは「リーダーシップ」の重要性を強調し、企業が自発的かつ積極的に未来社会への取り組みを進めることを奨励しています。つまり、2050年を見据えた持続可能な社会を創出するためのリーダーシップを持った企業の集合体としての存在を目指しているのです。

1-2. 「GXリーグ」立ち上げの背景

気候変動問題は世界中で議論の的となっており、海面上昇や集中豪雨、干ばつなどの環境問題が増えています。これを背景に、各国は積極的に環境対策を進めています。

日本も例外ではなく、2020年に政府は「2050年カーボンニュートラル」宣言を行い、気候変動対策への取り組みを強化しています。その一環として、2030年度までに2013年度比で46%の温室効果ガス削減を目指すという中間目標も設定しており、GXリーグの設立もこのような背景から生まれたものと言えます。

日本は、温室効果ガスの削減を目指す国際的な動きに対応し、その中核として活動する組織として経済産業省が「GXリーグ」を2022年に立ち上げました。

GXリーグの参加企業は、温室効果ガスの排出削減に注力し、その取り組みが外部から適切に評価されることで、経済的成長を実現しています。目指すは、経済と環境、さらには社会の好循環。既に、金融、不動産、製造、運輸、サービスといった多岐にわたる業種から多くの企業が参加意向を示しています。

2. 「GXリーグ」が目指す世界

2-1. 循環構造

 

GXリーグが目指す「経済社会システム全体の変革」は、単に企業の取り組みだけにとどまらず、その成果として生まれる「価値」が新しいマーケットを創出し、それが一般の生活者の行動や意識に影響を及ぼす「循環構造」を築くことを意味しています。この構造を通じて、企業の成長はもちろん、市民の幸福感の向上や地球環境への貢献も両立させることが目的とされています。

具体的にGXリーグが推進している要点は以下のとおりです。

  • 企業の独自の温室効果ガス排出削減
  • バリューチェーン全体での排出削減への取り組み
  • GXマーケットを拡大し、消費者が能動的に選択できる環境の実現

GXリーグは、循環構造を実現するための試行的取り組みを進めています。企業がカーボンニュートラルな未来をどう描くか、そしてその未来像に合わせた新しいGXマーケットの形成方法や、社会全体での効率的な排出削減の方法として自主的な排出量取引の試行など、多岐にわたるアクションを実施しています。

2-2. 排出量を調整するシステムの実現

GXリーグは、循環構造を実現するための試行的取り組みを進めています。企業がカーボンニュートラルな未来をどう描くか、そしてその未来像に合わせた新しいGXマーケットの形成方法や、社会全体での効率的な排出削減の方法として自主的な排出量取引の試行など、多岐にわたるアクションを実施しています。。

3. 「GXリーグ」が提供する4つの場

GXリーグは4つの独特な場を設け、これを通じて「リーダー企業間の対話を基にした政策形成」という新しいアプローチを推進しています。

3-1. 自主的な排出量取引の場(GX-ETS)

GXリーグは、カーボンニュートラルへの挑戦を経済的に有効に進めるため、自主的な排出量取引を中心とする取り組み「GX-ETS」を構築しています。この取り組みは、カーボンプライシング政策や国際的な動向といった多様な観点を考慮し、産業や企業間の公平性を保ちつつ、カーボン削減への投資を促進します。

具体的には、排出量取引のルールを設定する際に、カーボンプライシングの専門家を含む学識有識者の意見を取り入れ、賛同する企業との継続的な対話を進める方針を取っています。

GX-ETSの取り組みの流れ:

1. 目標設定(プレッジ)
– 国内の直接・間接排出に対して、以下の目標を設定します。

  1. 2030年度の排出削減目標
  2. 2025年度の排出削減目標
  3. 2023年度~2025年度(第1フェーズ)の排出削減総量の目標

– 各企業が目標を自ら設定します。

2. 実績報告
– 国内の直接・間接排出の実績を算定し、報告します。
– 算定結果の信頼性を保証するため、第三者による検証が必須です。

3. 取引実施
– 取引の対象となるのは国内の直接排出分です。
– 第1フェーズの目標を上回る場合、超過削減枠の売却や適格カーボン・クレジットの取得、もしくは目標未達の理由を明確に説明します。
– 他の企業への超過削減枠の売却は、国の削減目標(NDC)を上回った分だけ可能となります。

4.レビュー
– 目標達成状況及び取引状況は、情報開示プラットフォームである「GXダッシュボード」上で公表
– 具体的な開示の在り方については、今後参画企業との対話を通じて検討する。
– 排出削減と成長に果敢に取り組む多排出企業に対しては、各種支援策との連動を検討

3-2. マーケットルール形成の場(GX WORKING GROUP)

GXリーグの一部として、カーボンニュートラルの実現に向けたマーケットルールの構築を進める「GX WORKING GROUP」が設立されました。このグループは、新たなビジネスモデルの創出や、CO2ゼロ商品の認証制度のような明確なマーケットルールを検討するためのものです。

この取り組みは、「野村ホールディングス株式会社」を中心に、6つのリーダー企業と73社のメンバー企業が参加しています。そして、公私の連携を通じてルールを策定するための実証プロジェクトとして位置づけられています。

GX WORKING GROUPの目的は、日本企業が気候変動に貢献する機会を正確に評価する仕組みを構築することです。業界の垣根を越えて、共通の基準として適用できるルールの策定に注力しています。

具体的には、各リーダー企業やメンバー企業との対話や議論を通じて、気候変動に関する機会のガイドラインや新たなイニシアティブを考えるなど、様々な取り組みが進行中です。

まとめると、GX WORKING GROUPは、カーボンニュートラルへの道を進む上でのマーケットルールやガイドラインを策定するための主要な議論の場としての役割を果たしています。このグループには、多くの企業が参加しており、各々の視点や意見を出し合いながら最適なルールを構築していくことを目指しています。

3-3. 未来のビジネスチャンスを探る場:GX FUTURE SESSION

GXリーグが提供する「GX FUTURE SESSION」は、2050年にカーボンニュートラルが実現する未来を想像し、そこから新しいビジネスチャンスを模索する場として設けられました。このセッションは、脱炭素領域で活躍するスタートアップ企業や起業家と、大手参画企業との連携を深めるためのものです。

具体的には、GXリーグのビジョンを全参加企業と共有し、参加を希望する企業から代表者を1名選出。これにより、100社以上の参加者がオンラインセッションに参加しました。このセッションには日本だけでなく、アメリカや欧州からも多くの参加者が集まり、様々な文化や視点の共有が実現されました。

セッションでは、2050年の未来像を明確にするための情報や仮説を共有。さらに、その仮説を元に、2050年に普及しそうな商品やサービス、新技術などのアイディアを共同で考えました。次に、これらのアイディアを具体的なビジネスチャンスとしてまとめ、さまざまな観点から検討・検証を行ったのです。

要するに、GX FUTURE SESSIONは、異なる背景を持つ参加者が集まり、共に2050年のカーボンニュートラルを実現する経済社会を想像し、それをビジネスのチャンスとして形にする場となっています。

3-4. 企業同士の繋がりを深める:GX STUDIO

GXリーグが提供する「GX STUDIO」は、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、企業同士の連携やパートナーシップを促進するための場です。ここでは、毎月1度特定のテーマに基づき、気候変動対策の実務上の課題や関心事項を中心に情報交換やディスカッションが行われます。

例として、2022年9月29日に開催された「第2回GX STUDIO」では、今後のカーボンニュートラル実現に不可欠とされる「クリーンエネルギー」をテーマに、オンラインとオフラインの両方で100社以上が参加しました。このセッションでは、クリーンエネルギーの開発や普及に関する活発な議論が交わされました。

事前のヒアリングを通じて、特に以下の2つの課題が浮き彫りとなりました。

  • 社会的価値と経済的な実現性の両立の課題
  • 実際の業務との間にあるギャップや知識の不足、導入のハードル

これらのテーマについて、「神戸製鋼所」、「JERA」、「東京ガス」、「出光興産」、「日本航空」の5社がそれぞれの取り組みをプレゼンテーションで紹介しました。

そして、後半部分では、より具体的なテーマごとにグループに分かれ、「水素の活用」「水素製造」「アンモニアの活用」「合成燃料とメタネーション」「SAFの製造と活用」といった領域でのディスカッションが行われました。

4. 「GXリーグ」の今後の展開

4-1. 段階的発展

GXリーグは2023年4月に本格始動したばかりですが、今後は段階を追って発展していけるような道筋をたてており、検討会を実施しながら、参加メンバーらとの意見交換を進めています。

実際、第1回検討会では⽬標や移⾏戦略、実践状況を踏まえ、さらなる投資を誘導するための予算措置や規制・制度的措置、⾦融パッケージとの連動などが議論され、政策対応との折り合いと付け方についても話し合いが行われました。

また、今後は前述した4つの取り組みについても随時検討や改善を重ねながらさらに充実した活動を進めていくということで、その動向に引き続き注目していきたいと思います。

5. まとめ

世界が一体となってカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを進めている中、「GXリーグ」は日本国内においてその取り組みをリードする新たな枠組みとして注目を集めています。

GXリーグは主に「GX-ETS」、「GX WORKING GROUP」、「GX FUTURE SESSION」、「GX STUDIO」と呼ばれる4つの活動を進めており、参加メンバーはこれらの活動を通して温室効果ガス削減について議論しているほか、2050年のカーボンニュートラルが達成された世界におけるビジネスモデルについての意見交換なども行っています。

このように、GXリーグはただ排出量の削減を目指すだけでなく、その先の未来を見据えた活動を行っており、公式ホームページではその活動内容についての詳細な資料なども公開されているため、興味のある方は一度目を通してみることをおすすめします。

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