LCA(ライフサイクル・アセスメント)とは?算出方法や導入企業事例、課題も
サステナブルな社会の形成に向けて、各企業が環境保護や脱炭素化社会の実現に向けた取り組みを推進する中で、LCA(ライフサイクル・アセスメント)を積極的に実施する企業がみられています。
LCAを実行すれば、製品・サービスそれぞれが産出・使用そして廃棄されるまでの環境負荷の定量評価が可能です。製品・サービスのライフサイクル全体を評価することで、より環境に配慮した事業活動が実現します。今回の記事では、LCAの算出方法や導入事例などを紹介します。
目次
- LCA(ライフサイクル・アセスメント)とは?
1-1.LCA(ライフサイクル・アセスメント)の基本
1-2.ISO(国際標準化機構)で標準化されている
1-3.脱炭素化社会の実現に向けてLCA(ライフサイクル・アセスメント)の推進が重要に - LCA(ライフサイクル・アセスメント)の算出方法と実施手順
2-1.温暖化ガス排出量の計算方法
2-2.LCA(ライフサイクル・アセスメント)の手順 - LCA(ライフサイクル・アセスメント)の実例
3-1.キャノン|LCA開発マネジメントシステムの構築
3-2.日本ハム|カーボンフットプリント・マークの表示
3-3.マツダ|LCAに関する学会発表を実施 - LCA(ライフサイクル・アセスメント)における課題
4-1.評価するための負担が大きい
4-2.改善策を実行するのが困難な場合も - まとめ
1 LCA(ライフサイクル・アセスメント)とは?
LCA自体は目新しい概念ではなく、1969年にはコカ・コーラ社でそれに近い環境評価が実施され、その後普及とともに評価方法が整備されていきました。現在ではISOにて国際規格として標準化もされています。
一方で、サステナブルな社会を実現していくためには、より多くの企業が積極的にLCAを実践することが望まれています。
1-1 LCA(ライフサイクル・アセスメント)の基本
LCAとは商品やサービスが生まれて消費され、また廃棄されるまでの一連プロセスの中で生じる環境負荷を定量的に評価するものです。具体的には次のようなプロセスの負荷を計測して、最後にデータを統合して評価します。
- 原料調達
- 生産
- 流通
- 消費・利用
- 廃棄・リサイクル
環境保護を考えるとき、消費者も企業もまずはプロセスの一側面だけを見て工夫や配慮が為されているケースがあります。
例えば消費者でいえば、エネルギー消費の少ない家電を利用して環境負荷の軽減に貢献する方も少なくありません。しかし、時には製品・サービスのライフサイクル全体を俯瞰すると、思うように環境保護につながらない場合が想定されます。
家電の使用時にはエネルギー抑制ができても、製品を生産するのに多くのエネルギーや資源を必要としたり、特殊な製品であるがゆえに廃棄時の環境負荷が大きかったりして、実は期待するほど環境保護に貢献できていなかった、というケースが考えられるのです。
このように、製品・サービスの生産~廃棄のプロセス全体を見て行動するのは困難であることから、LCAでライフサイクル全体の環境負荷を評価することが大切です。
1-2 ISO(国際標準化機構)で標準化されている
LCAはISO(国際標準化機構)にてその実施プロセスが標準化されています。ISOとは、製品の生産や管理の手法を標準化する仕組みです。ISOに準拠したマネジメントを行うことで、企業は効率的な管理が可能になるとともに、ステークホルダーに対する信頼向上にもつながります。
ISOにおいては次の2つの規格においてLCAの標準規格が定められています。もともとは4つあったものが、二つに集約されています。
- ISO14040:原則及び枠組み
- ISO 14044(旧ISO14041~ISO14043):要件およびガイドライン
出所:ISO「ISO standards for life cycle assessment to promote sustainable development」
このあと紹介するLCAの評価方法は、こちらのISO規格にて定められたプロセスが基となっています。
1-3 脱炭素化社会の実現に向けてLCAの推進が重要に
地球温暖化を抑制してサステナブルな世界を実現するために、現代では世界各国でカーボンニュートラルに向けた取り組みが推進されています。たとえば日本の場合は、2030年度に二酸化炭素の排出量を2013年対比で46%削減し、2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています。
二酸化炭素の排出をゼロに向けて抑制していくうえで、生産から廃棄の一部のプロセスを工夫しただけでは充分な効果が得られません。二酸化炭素は製品のライフサイクル全てのプロセスで排出される可能性があるものだからです。
カーボンニュートラルに向けた脱炭素化に向けた課題を洗い出し、効率よく改善させていくうえでも、LCAの積極的な実践が有効といえます。
2 LCA(ライフサイクル・アセスメント)の実施手順と算出方法
LCAは、本来はさまざまな環境負荷の評価が可能ですが、近年は脱炭素化社会の実現に向けた温室効果ガスの排出評価に用いられるケースがふえています。そこで、温室効果ガス排出量を中心とした算出方法と、LCAの実施手順を紹介します。
2-1 温暖化ガス排出量の計算方法
温室効果ガスのLCAを測定する場合、基本的な計算式は次の通りとなります。
- 活動量×排出原単位(もしくは排出係数)=温室効果ガス排出量
(参考:環境省「再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン」)
ここで活動量とは、事業者の活動の規模を表すもので、たとえば次のような指標が考えられます。
- 電気の使用量
- 燃料の使用量
- 廃棄物の処理量
また、排出原単位は、1活動量あたりの温暖化ガスの排出量です。たとえば、次のような数値を使用します。
- 電気1kWhあたりのガス排出量
- 燃料1tあたりのガス排出量
- 焼却1tガス排出量
製品のライフサイクル全体でさまざまな活動を行い、温暖化ガスを排出しています。それぞれの排出量を上の式に従って計算したうえで統合することで、LCAの定量的な評価が可能となります。(参考:同上」)
2-2 LCA(ライフサイクル・アセスメント)の手順
ISOにおいて、LCAは4つの手順で進めることが規格として定められています。
- 目的と調査範囲の設定
- インベントリ分析
- LCA環境評価(インパクトアセスメント)
- LCAの解釈
それぞれのプロセスについて詳しく紹介します。
①目的と調査範囲の設定
LCAは1つの製品で行うだけでも膨大な調査・検証範囲となる可能性があるため、まず、目的と調査範囲を明確化します。
具体的には、次のような事項を確定させます。
- 調査対象となる製品・サービス
- 評価する環境問題(地球温暖化・大気汚染・エネルギーの過剰消費など)
- 評価結果の用途
近年は地球温暖化についてフォーカスされることも増えましたが、LCAは本来はさまざまな環境・資源に関する課題をふまえた評価が可能です。多様なテーマに関するインパクト評価が可能であるがゆえに、環境問題のスコープを明白にしなければ、LCAを適切に進めるのが難しくなります。
たとえば地球温暖化よりも大気汚染にフォーカスする場合、人間の呼気にも含まれる二酸化炭素より有害なガスはいくつもあります。そのため、定量的に算出すべきデータやインパクトの評価が大きく変わってしまうでしょう。
②インベントリ分析
インベントリ分析では、製品の各プロセスにおけるインプット・データ(投入された資源やエネルギー)とアウトプット・データ(排出・産出された素材・製品および副産物)を収集します。そして、そこから環境負荷を算出していきます。
製品によってはデータ量が膨大になったり、自社内に充分なデータがなかったりするケースが想定されます。調査機関などと適宜連携しながら、漏れなく各プロセスの環境負荷に関するデータを収集する必要があります。
③LCA環境評価(インパクトアセスメント)
インベントリ分析で得たデータから、どのプロセスにおいてどの程度の環境負荷インパクトがあるのかを計測していきます。このとき、次のような手法を導入して最終的には一つの製品・サービスのライフサイクル全体の環境インパクトを評価します。
- 分類化|各インベントリがどの環境問題に影響を及ぼすのかを評価
- 特性化|環境にインパクトを与える各指標にどの程度の影響を及ぼすのかを評価
- 正規化|同カテゴリの平均的な環境インパクトとの格差を評価
- 統合化|すべてのインベントリ・環境問題の評価値を統合
ここで評価する「環境問題」は当初の「目的と調査範囲の設定」に定めた環境問題について評価します。単一の環境問題にフォーカスして評価する場合には、分類化については簡略化可能です。
また、一つの環境問題に対して複数の負荷を与える要素が考えられるため「特性化」という作業が必要となります。たとえば「地球温暖化」の場合は、CO2だけでなくメタン、フロンなどのガスについても計測する必要があるでしょう。
このプロセスを経れば、一つの製品・サービスにおけるライフスサイクル全体の環境インパクトの評価値が算出できることになります。
④LCAの解釈
LCAではただデータを出して終わりではなく、今後の改善に役立てるための方針や提言をひとくくりで実施することになっています。
- 重要な項目の特定|環境負荷の高いライフサイクルやプロセスの特定
- 確実性と信頼性の評価|重要な項目のデータ検証を行い、信頼性を評価
- 結論及び提言|LCAの結論をまとめる
ここでいう結論や提言には、環境インパクトの高いプロセスやライフサイクルと、それらのインパクトを改善させるための取り組みに関する提案、取り組みを実行した場合に期待される改善効果などが含まれます。
3 LCA(ライフサイクル・アセスメント)の実例
日本では、すでにさまざまな企業がLCAを実行し、環境インパクトの軽減に役立てています。ここではLCAの導入事例を3つ紹介します。
3-1 キャノン|LCA開発マネジメントシステムの構築
キャノンでは、CO2排出量を的確に算出し、さらに環境負荷の軽減に役立てるために「LCA開発マネジメントシステム」を構築し、LCAの評価、製品開発や情報公開を一貫対応する仕組みを取り入れています。
サプライチェーン全体の環境インパクトを測定し、さらに地球環境への影響を抑えるために、2014年実績から6つの温室効果ガスについて、環境省が定める「Scope1~3」すべての排出量を検証し、第三者認証を受けています。
ここでいうScope1とは事業者自身、Scope2は他者から供給される電気・熱・蒸気の使用に伴う排出を意味します。そしてScope3は製品の製造過程や輸送、廃棄、投資など15のカテゴリが含まれます。キャノンではScope3の全てのカテゴリのインパクト評価を行うことで、精度の高いLCAを実行しました。
LCAの結果を基に、キャノンではさまざまなプロセスでのCO2排出削減を実行しています。
たとえば、インク・トナーカートリッジ回収リサイクルプログラムを構築することによって、従来廃棄プロセスによって生じていたCO2排出の削減に成功しています。
※参考:キャノン「キャノンのライフサイクルアセスメント」
3-2 日本ハム|カーボンフットプリント・マークの表示
肉類の加工食品を主に販売する日本ハムでは、肉の調達から加工、消費、廃棄に至るまでのCO2排出量を、一部の商品についてLCAの手法に基づき計測しています。同社の場合、原料には「家畜」も含まれるため、家畜を育成する過程の餌や暖房設備なども加味して計測しています。
さらに、一般消費者にも排出量がわかるよう1製品あたりのCO2排出量を算出し「カーボンフットプリント・マーク」で商品パッケージにプリントしています。たとえば、「森の薫り®」ロースハムのライフサイクル全体での合計CO2排出量は420gとのことです。
なお、ただ数値を掲載するだけではなく、日本ハムではLCAの評価結果を基に、CO2の排出抑制や環境負荷の軽減に努めています。
※参考:日本ハム「ライフサイクルアセスメントの実施」
3-3 マツダ|LCAに関する学会発表を実施
大手自動車メーカーのマツダは2009年からLCAを導入して、環境負荷の削減を推進しています。LCAの国際規格(ISO14040/ISO14044)に準拠した手法に基づき、客観性と信頼性のある評価を行ったとしています。
たとえば、2018年度には世界5地域で内燃機関自動車(ガソリン車とディーゼル車)と電気自動車(EV)について、CO2排出量のライフサイクル評価を実施しました。
地域ごとの電力状況や燃費および発電効率、生涯走行距離などによって、内燃機関自動車とEVのライフサイクルでのCO2の優位性が変化すると指摘しています。この評価結果は論文にまとめられ、2019年度に学会でも発表されています。(学会名:The 9th International Conference on Life Cycle Management (2019年8月)演題:Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA)
この評価結果に基づくと、日本ではEVよりも内燃機関自動車の方が、ライフサイクル全体でみるとCO2排出における環境負荷が小さいという評価結果も出ています。(参考:マツダ「LCA(ライフサイクルアセスメント)」)
マツダでは、LCAの研究結果を各地の特性を踏まえた技術開発に役立てていく方針です。
4 LCA(ライフサイクル・アセスメント)における課題
環境負荷の軽減において大きな役割を果たすと期待されるLCAですが、普及させるうえでは課題も存在します。
4-1 評価するための負担が大きい
LCAでは一つの製品の製造過程から消費、廃棄に至るさまざまなデータを収集して、環境にインパクトを与える要素を定量評価する必要があります。
最終的な分析や集計を専門機関が行うとしても、企業は膨大な量のデータを収集する必要があります。これまで企業にとってスコープ外だった領域のデータを収集するために、新たなシステム構築が必要になることも考えられるでしょう。原材料製造や廃棄を自社で行っていなければ、他社の協力が必要なケースも考えられます。
このように、実際に評価を実行するうえで資金面や作業面で大きな負担となる可能性があります。リソースが豊富で取引先や顧客との関係が強固な大企業なら、大容量のデータ収集も相対的に進めやすいと言えますが、中小企業である場合はデータを収集すること自体に困難が生じる場合も少なくありません。
4-2 改善策を実行するのが困難な場合も
LCAの結果として洗い出される改善策は、自社だけで実行できない場合がしばしばあります。たとえば、流通網の環境インパクトが大きいとわかった場合には、物流を自社で行っていなければ取引先である運送会社に改善を依頼する必要があります。
相手との交渉力の強さにもよりますが、運送会社にとって自社が重要顧客でなかったら、改善策に協力してくれない可能性もあるでしょう。資本力のある大企業ならば、時には関連企業を買収して内政化するなどの大胆な手法も取れますが、改善案を実行するのが難しいケースも少なくありません。
5 まとめ
CO2排出などの環境負荷の軽減においては、製品・サービスのライフサイクル全体のインパクトを評価するLCAを通じて、本質的な課題の可視化や改善策の策定ができます。
ただし、企業単体でLCAに基づく改善策を着実に実行できるのは、産業全体やバリューチェーン全体に影響を与えられるような大企業に限られてしまいます。それでは環境負荷の軽減効果は限定的なものになってしまうでしょう。
LCAの役割をさらに広げサステナブルな社会を実現させるためには、産業全体やバリューチェーン全体が協調して環境課題に取り組む流れを醸成することが大切です。中小企業を取り残すことなく製品ライフサイクル全体の改善を図っていくことが、LCAが広く導入されるうえでの今後の課題と言えるでしょう。
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LCA(ライフサイクル・アセスメント)とは?算出方法や導入企業事例、課題も