信託型SO(ストックオプション)とは?メリットや税制における注意点を解説
信託型SO(ストックオプション)は、ストックオプションを発行する会社側、付与される役員や従業員側の双方にとってメリットのあるインセンティブ報酬の一種として活用されています。
しかし、税制上、適格ストックオプションに該当せず、発行会社側に給与所得課税の源泉徴収リスクがあることが近年問題となっています。
この記事では、信託型SO(ストックオプション)とはどのような仕組みなのか、その概要、メリット、税制における注意点について解説します。
※記事内の税金・税率などは2023年10月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 信託型SO(ストックオプション)とは
1-1.ストックオプションとは
1-2.信託型ストックオプションとは
1-3.信託型ストックオプションのメリット - ストックオプションに対する課税
2-1.適格ストックオプションと非適格ストックオプション
2-2.信託型ストックオプションに対する課税
2-3.信託型SO導入の際、税制適格にすることで課税リスクを回避 - まとめ
1.信託型SO(ストックオプション)とは
信託型ストックオプションは、ストックオプションの一種で、あらかじめ決められた金額で株式を購入できる権利であり、その運用や付与が信託の形式を利用しておこなわれます。
以下で、ストックオプションの概要から、信託型の概要そして、信託型のメリットをみていきましょう。
1-1.ストックオプションとは
ストックオプションとは、新株予約権の一種で、あらかじめ定められた金額で、株式を購入できる権利をいいます。
特に、自社の従業員や役員に対して、インセンティブ報酬としてストックオプションを付与するという形式で利用されます。
ストックオプションを与えられた従業員や役員は、ストックオプションを行使して、自社株式を取得します。そして、その行使価格よりも株価が値上がりした後に、株式市場で売却すれば株式の値上がり益を得ることができます。
1-2.信託型ストックオプションとは
信託型ストックオプションは、ストックオプションに信託制度を組み合わせたものです。
会社経営者が、信託銀行などの受託者に資金を拠出して信託を組成します。受託者は、その資金でストックオプションを購入し、信託期間満了後に受益者に対してストックオプションを付与します。
信託の受託者がストックオプションを取得した時点では、ストックオプションを付与される受益者が決まっていないのが最大の特徴です。ストックオプションを取得した後に、付与する対象や数量を決めて実際の受益者に付与します。
1-3.信託型ストックオプションのメリット
信託型ストックオプションは、通常のストックオプションと同様、インセンティブ報酬として付与されることが多くあります。会社の業績が上がれば株価が上昇し、ストックオプションで取得した自社株式の売却益も増加するため、従業員や役員にとっては自社で働き業績を伸ばしていくインセンティブになるでしょう。
会社側にとっても、ストックオプションとして報酬を支払うことで、現金支出として支払う報酬の支出を抑えたうえで、優秀な人材を確保することができます。
ストックオプションの中でも、信託型を採用するメリットとしては、ストックオプションの取得後に付与する対象や数量を決められる点が挙げられます。
スタートアップの会社では株価が急上昇することがあり、会社への貢献度に関わらず、取得のタイミングにストックオプションの報酬としての価値が依存しがちです。しかし、信託型の場合、会社への貢献度に応じてストックオプションを付与する対象や数量を決めることができ、インセンティブ報酬として有効に活用できるといえます。
2.ストックオプションに対する課税
ストックオプションに対する課税は、ストックオプションの権利行使時にその経済的利益に対して給与所得課税がなされるのが原則です。
しかし、一定の要件を満たすようなストックオプションについては、適格ストックオプションとして、ストックオプションによって取得した株式の売却時まで課税が繰り延べられ、なおかつ、株式の売却益に対しての譲渡所得課税となります。
※出典:国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」
2-1.適格ストックオプションと非適格ストックオプション
ストックオプションは、ストックオプションの権利行使をして株式を取得する時に、権利行使価格と取得株式のその時の価格との差額については、給与所得課税されるのが原則です。
つまり、ストックオプションによって取得した株式を売却して売却収入を得ていなくても、権利行使をして株式を取得した時点で、差額があれば給与所得として所得税を納めることになります。なお、この所得税は、ストックオプションを付与した会社側が源泉徴収して納付します。
しかし、特定の条件を満たすストックオプションについては、税制上、適格ストックオプションとして、権利行使時に徴収されるべき所得税を繰り延べ、権利行使時に取得した株式を売却した時に株式譲渡益として所得税を課すこととしています。この場合、給与所得ではなく譲渡所得として所得税を徴収するため、売却時の総合課税の累進税率に関わらず、譲渡所得の分離一律税率で徴収されます。
2-2.信託型ストックオプションに対する課税
信託型ストックオプションは、税制上、原則として非適格ストックオプションとして取り扱われます。
そのため、受益者である従業員や役員が、付与されたストックオプションを行使して、株式を取得した時点で、権利行使価格と取得株式のその時の価格との差額について給与所得課税がおこなわれます。
ただし、信託の受託者がストックオプションを取得した時点や、受益者にストックオプションを付与した時点ではいっさい課税されません。
信託型ストックオプションに対する課税の事例
20233年9月29日に、株式会社speee(4499)より「信託型ストックオプションへの対応と関連損失の計上に関するお知らせ」にて信託型ストックオプションにおける源泉所得税の支払いが発生したと公表されました。
前述の通り、信託型ストックオプションは非適格ストックオプションとして取り扱われることになります。これにより、株式会社speeeでは1,889,203千円を、信託型ストックオプション関連損失(特別損失)として計上するに至っています。
2-3.信託型SO導入の際、税制適格にすることで課税リスクを回避
信託型ストックオプションは、付与された従業員や役員が、そのストックオプションを行使して株式を取得した時点で、給与所得課税がおこなわれるため、権利行使時の株式価格によっては、発行会社に源泉徴収課税のリスクが生じることになります。
これを回避するには、税制適格の要件を満たすようなストックオプションを導入したいといえます。
税制適格となるには、権利行使価格が契約締結時の時価以上の金額であり、権利行使期間が付与決議後2年から10年までの間であるなどが要件となります。
特に、権利行使価格の設定について、契約締結時の時価以上の金額とする必要があることから、未上場株式の株価を算定して設定しなければなりません。
これらの税制上の取扱いは複雑な部分もあり、法令改正によって目まぐるしく変わることもあるため、税制適格の要件を満たすような信託型SO導入にあたっては、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。
まとめ
信託型ストックオプションは、ストックオプションの取得や付与を、信託を通しておこないます。
ストックオプションを付与する対象や数量を、ストックオプションを取得してから決めることができ、会社への貢献度に応じたストックオプションの付与が可能であり、従業員や役員に対するインセンティブ向上に効果的といえます。
一方、税制上は原則として非適格ストックオプションに該当するため、ストックオプションを行使した時点で、その経済的利益に対して給与所得課税がなされてしまい、会社側に源泉徴収課税のリスクがあります。
行使時の課税リスクを避けるためには、適格ストックオプションに該当するよう、権利行使価格が契約締結時の時価以上の金額に設定するなどの一定の条件を満たすように工夫することを検討し、個別の対応については税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
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