木造戸建住宅は築22年で価値ゼロになる?安心R住宅制度や長期優良住宅認定制度の詳細も

不動産を売却する際の価格設定は資産価値が大きく影響しますが、木造戸建住宅の場合は22年が経過すると建物部分の価値はないものとされ、評価されないことがあります。

そこで今回のコラムでは、木造戸建住宅の価値が築22年でゼロになる理由を解説していきます。また、売却時にアピールポイントとなる安心R住宅制度や長期優良住宅認定制度についても紹介します。

目次

  1. 木造戸建住宅の価値
    1-1.建物の耐用年数とは
    1-2.建物の価値の計算方法
    1-3.物理的耐用年数と経済的耐用年数
  2. 安心R住宅制度
    2-1.安心R住宅の基準
    2-2.安心R住宅の実施状況
    2-3.安心R住宅制度を活用する方法
  3. 長期優良住宅認定制度
    3-1.長期優良住宅認定制度とは
    3-2.長期優良住宅の主な認定基準
    3-3.長期優良住宅(増築・改築)の認定を受ける流れ
  4. まとめ

1 木造戸建住宅の価値

建物は経年劣化によって老朽化が進むため、築年数が経つほどに価格が下がります。耐用年数を基準にして、木造戸建住宅は築年数20年を目安に価値はゼロになるとされることがあります。木造戸建住宅の評価方法について見ていきましょう。

1-1 建物の耐用年数とは

建物の資産価値に対する判断基準の一つが法定耐用年数です。法定耐用年数とは課税の公平性を保つために国が設けた基準のことで、資産価値が消滅する法的な期間を指しています。

法定耐用年数により建物や機械などの物品については一度に経費として計上するのではなく、物品事にそれぞれ定められた耐用年数で割り、毎年計上するものとされています。これを減価償却と言い、不動産のような経年劣化がある資産評価の根拠として用いられることがあるのです。

建物に関しては下記の通り構造によって耐用年数が決められています。

構造または目的 法定耐用年数
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 47年
れんが造、石造またはブロック造 38年
木造 22年
軽量鉄骨造(厚さ3ミリ以下) 19年
軽量鉄骨造(厚さ3〜4ミリ) 27年

※引用:国税庁「 減価償却のあらまし」より抜粋

法定耐用年数を見ると、実際には木造建築物の場合は22年で法律上の資産価値はゼロになると解されます。例えば、中古物件として売却する場合、築22年以上の建物部分については資産価値が計上されず、土地価格に対する評価のみで物件価格が決定することもあります。

また金融機関の融資審査でも耐用年数を重視する傾向があり、耐用年数の残存年数内で融資年数を設定する金融機関もあります。どのように建物の価値を算出するのか確認してみましょう。

1-2 建物の価値の計算方法

建物の価値を計算するにはいくつか方法がありますが、法定耐用年数を基にした計算式の場合は下記のようになります。

建物の評価額=再調達価格×残存法定耐用年数÷法定耐用年数

築22年を経過した木造戸建住宅は残存法定耐用年数が0年となります。そのため、建物の評価額はゼロになってしまうのです。

ただし、法定耐用年数はあくまでも税法上で定められた「資産価値がゼロになるまでの期間」のことであり、法定耐用年数が過ぎても建物の使用が出来なくなるというわけではありません。

実際の建物の使用可能な年数を定める考え方として「物理的耐用年数」「経済的耐用年数」があります。次の項目で見てみましょう。

1-3 物理的耐用年数と経済的耐用年数

耐用年数には、法的な耐用年数である「法定耐用年数」に加えて、「物理的耐用年数」「経済的耐用年数」という3つの考え方があります。(「機能的耐用年数」を加えて4つと考えるケースもあります)。

法定耐用年数はどの建物にも当てはまることから一般的耐用年数、物理的耐用年数や経済的耐用年数は個々の物件で異なるため個別的耐用年数と呼ぶこともあります。物理的耐用年数と経済的耐用年数は以下のような考え方になっています。

物理的耐用年数

物理的耐用年数とは、不動産の場合、建材の品質や構造上の仕組みなどによって物理的に建物が使用できなくなるまでの年数を示しています。例えば、日本瓦の耐用年数は50年〜100年で、ガリバリウム銅板の耐用年数は20年〜30年です。つまり、屋根材一つとっても物理的な寿命は異なっているのです。

経済的耐用年数

経済的耐用年数とは、不動産の場合、価値がなくなるまでの期間を示しています。劣化の状態に対して、将来的にメンテナンスや修繕が行われることを加味した年数になります。

住宅評価に関する国土交通省の資料によると、木造住宅の平均寿命は65.03年(2011年10月〜11月調査)で、1997年調査の43.53年から20年以上伸びているという論文「建物の平均寿命実態調査」(2013年1月、早稲田大学小松幸夫)が紹介されています。

つまり法定耐用年数によって資産価値がゼロになっても、メンテナンスや修繕、補修を行うことで物理的にも経済的にも使用できる期間を長くすることができるということなのです。

そこで次の項目からは、木造戸建住宅の長寿命化に関わる2つの制度である「安心R住宅制度」と「長期優良住宅認定制度」について紹介していきます。

2 安心R住宅制度

安心R住宅制度(特定既存住宅情報提供事業団体登録制度)とは、「住みたい」「買いたい」と思える既存住宅を提供する制度です。基準を満たした住宅は安心R住宅とされ、広告時には国が商標登録をしたログマークを使用することが認められています。具体的に見ていきましょう。

2-1 安心R住宅の基準

安心R住宅として売却するには、事業者団体が制度に登録していることに加えて下記のような基準があります。

  • 基礎的な品質が確保されている
  • リフォーム工事が実施されている
  • 情報が開示されている
  • 相談できる体制を整えている

それぞれ詳しく見てみましょう。

基礎的な品質が確保されている

耐震基準は1981年に新耐震基準に移行していますが、それ以前に建てられた中古物件の場合、新耐震基準に適合していないケースがあります。しかし安心R住宅では、耐震リフォームなどを実施し、新耐震基準等に適合していることが必要です。

また、建物の状況を調査するインスペクションを実施し、その結果として構造上の不具合や雨漏りなどが認められないといった「既存住宅売買瑕疵保険」の検査基準に適合していることも基準の条件となっています。

これらの基準が満たされることにより、買主にとって安心感を持って購入できる基礎的な品質が確保されている住宅となります。

リフォーム工事が実施されている

既存住宅にある「汚い」というイメージが払拭されるように、リフォーム工事を行っていることが基準となっています。外装や内装、水回りなどの状況が、写真などで確認できるようになっていることも必要です。

リフォーム工事を実施していない場合は、費用などを含めたリフォーム提案書を用意することで基準を満たすことになります。

情報が開示されている

広告を提示する際に、これまでに実施した点検や修繕などの内容がわかる旨を明示する必要があります。またどのような保険や保証が付いているのかも、一目でわかるようにすることが求められています。

これらの情報について、買主や買主の仲介業務を担う不動産会社などから依頼された場合、詳細情報を開示することも必要です。

相談できる体制を整えている

住宅の売買などに関してトラブルがあった際に相談できるように、事業者団体が相談窓口を設定していることも基準の一つです。

2-2 安心R住宅の実施状況

安心R住宅制度は2017年に創設されており、その後順調に実績を伸ばしています。下記の表を参考にしてください。

年度 戸建住宅 共同住宅 合計
2018年度 467件 799件 1,266件
2019年度 540件 884件 1,424件
2020年度 470件 731件 1,201件
2021年度 461件 792件 1,253件
2022年度 501件 1,268件 1,769件

※参照:国土交通省「安心R住宅(特定既存住宅情報提供事業団体登録制度)実施状況」より抜粋

コロナ禍で住宅の売買自体が減少したこともあり、2020年度と2021年度は低調に推移していますが、2022年度は前年度比140%以上の伸びとなっています。累計では6,913件の住宅で安心R住宅制度が実施されており、今後も制度の活用が見込まれています。

2-3 安心R住宅制度を活用する方法

安心R住宅制度を活用することで住宅売却でもスムーズに売買を進められる可能性があります。下記は主な利用手順です。

  1. 登録事業者団体を見つける
  2. 専任媒介契約を締結する
  3. インスペクションを実施する
  4. リフォームを実施する(提案書の作成でも可能)
  5. 不動産市場で販売を開始する(安心R住宅のロゴマークを使用)

安心R住宅制度に登録している事業者団体は「特定既存住宅情報提供事業者団体」と呼ばれ、国土交通省のホームページ「安心R住宅」で登録事業者団体を紹介しています。2023年10月16日時点で登録団体は13となっています。

【関連記事】安心R住宅として不動産売却をする手順は?申請の要件や登録事業者の探し方も

3 長期優良住宅認定制度

住宅の長寿命化を目指すために、長期優良住宅認定制度を活用する方法もあります。長期優良住宅とは、長期にわたって良好な状態で使用するための措置が講じられた住宅のことで、新築物件のほかリフォームによって認定される長期優良住宅認定(増築・改築)と、既存物件が認定される長期優良住宅認定(既存)などがあります。

3-1 長期優良住宅認定制度とは

長期優良住宅認定制度とは、長期間にわたって使用できる住宅について「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて認定する制度です。認定基準は、以下の5つの措置が講じられている住宅かどうかになります。

A.長期に使用するための構造及び設備を有していること
B.居住環境等への配慮を行っていること
C.一定面積以上の住戸面積を有していること
D.維持保全の期間、方法を定めていること
E.自然災害への配慮を行っていること

※引用:一般社団法人住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の概要について

長期優良住宅(増築・改築)の認定を受けると下記のようなメリットがあります。

  • 補助金が受けられる(長期優良住宅化リフォーム推進事業)
  • 住宅ローンの金利が低くなる
  • 税の特例措置が受けられる
  • 地震保険料の割引がある

なお、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は年度ごとに実施しており、2023年度の募集は終了しています。また2023年11月時点で2024年度の実施についての発表はありません。

3-2 長期優良住宅の主な認定基準

長期優良住宅(増築・改築)の認定を受けるためには、増築や改築によって基準を満たす必要があります。戸建住宅の場合は下記の8つの基準があります。詳しく見ていきましょう。

項目 増築・改築の認定基準
劣化対策 劣化対策等級(構造躯体等)等級3。木造の場合では、床下空間の有効高さの確保や、床下および小屋裏に点検口を設けることなど。
耐震性 耐震等級(倒壊等防止)等級1や、免震建築物であること。
省エネルギー性 断熱等性能等級4または断熱等性能等級3かつ一次エネルギ消費量等級4の基準をクリアしていること。
維持管理・更新の容易性 維持管理対策等級(専用配管)等級3であること。
居住環境 地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定などの区域内にある場合は、これらの内容と調和を図る。
住戸面積 一戸建て住宅は75㎡以上(少なくとも1階の床面積は40㎡以上など)。
維持保全計画 以下の部分・設備について定期的な点検・補修等に関する計画を策定する。
・構造耐力上の主要な部分
・住宅の雨水の侵入を防止する部分
・住宅に設ける給水または排水のための設備
災害配慮 災害発生のリスクがある地域の場合、そのリスクの高さに応じて、所管行政庁が定めた措置を講じる。

※参照:一般社団法人住宅性能評価・表示協会「増築・改築版長期優良住宅認定制度の概要について」より抜粋

長期優良住宅の認定は、登録をしている事業者が工事をすることになります。申請などの流れについて見てみましょう。

3-3 長期優良住宅(増築・改築)の認定を受ける流れ

長期優良住宅(増築・改築)認定制度は、工事前にインスペクションを実施することからスタートします。具体的な流れは下記になります。

  1. インスペクションを実施する
  2. 登録住宅性能評価機関に対して各種の図面や計算書などを提出し、長期使用構造等かどうか確認する
  3. 確認書が交付される
  4. 所管行政庁に認定申請を行う
  5. 認定を取得した後、工事を開始する
  6. 工事完了後に維持保全計画に基づいて点検を行う
  7. 必要があれば調査、修繕、改良を行う
  8. 記録を作成し、保存をする

維持保全の期間は30年以上となっており、工事が完了した後は10年以内ごとに点検と調査、改良を行い、住宅の良好な状態を維持していきます。長期優良住宅の認定を受けた住宅を売却する場合、長期間にわたって住宅を使用できる根拠を示すことができるため、スムーズな取引になることが期待できます。

まとめ

木造の一戸建て住宅は築22年になると、法定耐用年数を基にした評価上での資産価値はゼロになります。木造建築物の場合、法定耐用年数は22年です。

しかし、法定耐用年数がゼロになっても、住宅が使えなくなるわけではありません。リフォームをしたり、修繕や補修をするなどで住宅を長寿命化させることもできます。中古住宅の資産保全や売却活動に役立つ「安心R住宅」や「長期優良住宅認定」などの制度の利用も検討されていくと良いでしょう。

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