Scope3総排出量の詳細解説と企業信頼度向上の秘訣
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 「Scope3(スコープ3)」とは
1-1.「Scope3(スコープ3)」の概要
1-2.「Scope3(スコープ3)」のカテゴリ概要 - サプライチェーン排出量とは
2-1.サプライチェーン排出量の概要
2-2.サプライチェーン排出量を計算する利点 - 「Scope3(スコープ3)」の計算方法
3-1.算定⽬標の設定
3-2.算定対象範囲の確認
3-3.Scope3活動のカテゴリ分類
3-4.カテゴリ別の排出量算定 - サプライチェーン排出量の可視化への取り組み
4-1.株式会社ファンケル
4-2.イオン株式会社 - まとめ
ここ最近、日本国内だけでなく、世界でも脱炭素社会に向けた取り組みが重要視されており、実際に企業は環境に配慮した事業を行うことで、サスティナブルな社会に貢献できるだけでなく、ステークホルダーからの信頼を獲得することもできるようになりました。
そんな中、2011年に「温室効果ガス(GHG)プロトコル」によって「Scope3(スコープ3)」と呼ばれる指標が策定されました。このScope3は、モノの製造・物流・販売といったサプライチェーン全体における二酸化炭素排出量にフォーカスしたもので、自社からの直接的な排出量のみならず、サプライチェーン全体での排出量削減や業務効率化が可能だとして、大きな関心を集めています。
そこで今回は、そんなScope3について、詳細な内容や計算するための方法などを解説していきます。
①「Scope3(スコープ3)」とは
1-1.「Scope3(スコープ3)」の概要
「Scope3(スコープ3)」とは、温室効果ガス(GHG)の排出量を算定・報告する際の国際的な基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」によって2011年に策定された指標のことを言います。具体的には、プロダクトの原材料・部品の調達から販売に至るあらゆる過程において排出される二酸化炭素のボリュームを表す指標として利用されています。
これは一般的に「サプライチェーン排出量」と呼ばれており、企業や組織のサスティナビリティや環境への影響を精査し、エコフレンドリーな取り組みを促すための重要な概念となっています。そして、このScope3はサプライチェーン排出量のうち「Scope1」と「Scope2」を除いた間接的な排出量を示す指標として利用されています。
そもそもScope1とは、自社から直接的に排出される二酸化炭素の量がどれくらいあるかを示す指標で、具体的には化学変化などの工業プロセスや、燃料を燃焼した際において生じる二酸化炭素などがこれにあたります。また、Scope2もScope1と同様、自社から排出される二酸化炭素の量を示す指標となっていますが、両者が異なるのは「直接的に排出されたかどうか」という点です。Scope2として分類されるのは「間接的に排出された二酸化炭素」で、具体的には他社から供給されている電気や熱、蒸気を用いた際に生じる二酸化炭素などがこれにあたります。
そして、今回紹介するScope3は上記以外の、上流や下流において間接的に排出された二酸化炭素の量を表す指標で、具体的には、原材料の調達やプロダクトの輸送・配送、従業員の通勤などのほか、生産し販売されたプロダクトの、消費者による使用や廃棄などが含まれます。環境問題がクローズアップされている現在、Scope3は特に大きな関心を集めており、すでに多くの企業が、サプライチェーン排出量を明らかにすることによって、全体での二酸化炭素の排出削減や業務効率化の実現に取り組んでいます。
1-2.「Scope3(スコープ3)」のカテゴリ概要
Scope3には、全体で15のカテゴリが存在します。「上流」として知られる調達や製造に関連する部分には、原材料の調達、自社が荷主となる商品の輸送・配送、自社が使用するリース資産の稼働など、カテゴリ①~⑧が該当します。一方、「下流」として知られる販売に関連する部分には、商品の出荷輸送や加工、使用、廃棄などが該当し、カテゴリ⑨~⑮が当てはまります。
具体的なカテゴリを以下に紹介します。
① 購入したプロダクト・サービス
原材料や部品、包装材の製造に関連する活動
② 資本財
生産設備の増設(特に、数年にわたる建設・製造が関与する場合)
③ Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動
燃料や電力の調達に関わる上流工程
④ 輸送、配送(上流)
購入した商品やサービスのサプライヤーからの輸送、及びその他の物流サービス
⑤ 事業から出る廃棄物
自社以外での廃棄物の輸送や処理
⑥ 出張
従業員の業務出張
⑦ 雇用者の通勤
従業員の通勤
⑧ リース資産(上流)
自社がリースしている資産の使用
⑨ 輸送、配送(下流)
販売された商品の最終消費者への輸送
⑩ 販売したプロダクトの加工
事業者が加工する中間商品
⑪ 販売したプロダクトの使用
ユーザーによる商品の使用
⑫ 販売したプロダクトの廃棄
ユーザーによる商品の廃棄時の処理
⑬ リース資産(下流)
自社が所有し、他者にリースしている資産の使用
⑭ フランチャイズ
自社主催のフランチャイズの加盟店における活動
⑮ 投資
株式や債券、プロジェクトファイナンスなどの管理
* その他(任意)
従業員や消費者の日常生活など
2.サプライチェーン排出量とは
2-1.サプライチェーン排出量の概要
前述したように、Scope3は「サプライチェーン排出量」に当たります。
そもそも「サプライチェーン」とは、事業者が行っている原材料調達や製造、物流、販売といった、利用者にプロダクトが届くまでの流れのことを言い、「サプライチェーン排出量」とは、その中で排出されるすべての温室効果ガスのことを表します。つまり、自社からの直接的な排出だけでなく、自社活動にかかる間接的な排出を含むすべての温室効果ガスの排出量のことを言います。
従来は、脱炭素に向けた取り組みとして、主に企業による直接的な排出だけが削減のターゲットとされていましたが、このケースでは、省エネプロダクトの開発といった類の削減努力や削減効果が適切に評価されないだけでなく、こうしたサプライチェーン上にある大きな排出削減のポテンシャルを見落とす可能性などが指摘されてきました。
こうした状況から、近年ではサプライチェーン排出量を正しく理解することが大切だという考え方が世界中で広がっています。前述したように、このサプライチェーン排出量は「温室効果ガス(GHG)プロトコル」によって国際的に規定されているほか、「ISO(国際標準化機構)」によるガイドラインも公開されています。また、日本国内では、環境省により「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」が公開されています。
2-2.サプライチェーン排出量を計算する利点
Scope3をはじめとするサプライチェーン排出量を計算する利点として、下記のようなものが挙げられます。
①ホットスポットの見極めが可能
二酸化炭素の排出量が特に多い「ホットスポット」はどこなのか、どこに削減の余地があるのかを見極めることが可能です。実際、企業や事業内容ごとに排出量の⼤きい部分は異なってくるため、それぞれのホットスポットを知ることによって環境対策の⽅向性を定めることができ、より能率的な対策に取り組むことができます。
②他事業者との連携促進
⾃社の排出量削減には限界があり、それ以上の取り組みを⾏うことが難しい場合もあります。そんな中、サプライチェーン排出量を計算することでサプライチェーン上の他事業者による排出削減も⾃社の削減とみなされるため、他事業者との連携がより促進され、⾃社だけでは難しかった削減も可能になるという利点があります。
実際、サプライチェーンの各段階には多くの企業が参加しており、それぞれが取引関係で繋がっています。そして、サプライチェーンに参加している企業の内、1社が排出量削減を行えば、他の各事業者にとっても⾃社の排出量が削減されたことになるというわけです。これによって、他事業者と連携した削減の取り組みが促進され、サプライヤーのビジネスチャンスの拡⼤にもつながると期待されています。
③社会的信頼性の向上
投資先の「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の取り組みを評価して投資のターゲットを選別し、ESG課題への継続的な配慮を促す「ESG投資」が広がっている中、ステークホルダーによる企業の非財務情報開示に対する要求も年々高まっています。
こうした状況の中、企業がホームページなどでサプライチェーン排出量を公開し、その具体的な環境貢献度や現状を定量的に示すことによって、投資家などから環境経営に対する適切な評価を受けやすくなるだけでなく、社会的信頼性の向上を図ることも可能になります。
3.「Scope3(スコープ3)」の計算方法
ここからは、Scope3を計算する方法について、順を追って解説していきます。
3-1.算定⽬標の設定
まず初めに、⾃社のサプライチェーン排出量の規模を把握し、サプライチェーンにおいて削減すべきターゲットを特定するなど、算定に当たっての目標を定めます。これは、目標に応じて算定範囲や精度を定めることができるためであり、もし目標がなければ、どこまで詳細に計算すればよいのか判断ができなくなってしまうからです。そのため、算定目標をしっかりと立ててはじめて、算定の範囲を特定することができるというわけです。
3-2.算定対象範囲の確認
算定目標を定めた後、次は算定対象範囲の全体像を明確にしましょう。各カテゴリごとに計算を行う際、以下の5つの要点を明確にする必要があります。
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① 温室効果ガスの種類(どのガスを対象とするか)
- エネルギー起源のCO2
- 非エネルギー起源のCO2
- メタン(CH4)
- 一酸化二窒素(N2O)
- ハイドロフルオロカーボン(HFCs)
- パーフルオロカーボン(PFCs)
- 六フッ化硫黄(SF6)
- 三フッ化窒素(NF3)
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② 組織的範囲(対象とする組織の範囲)
- 自社
- 上流
- 下流
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③ 地理的範囲(対象とする地域の範囲)
- 国内
- 海外
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④ 活動の種類(対象とする活動の内容)
- サプライチェーンを通じての二酸化炭素排出に関連する全活動
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⑤ 時間的範囲(対象とする期間)
- 1年間の事業活動に関連するサプライチェーンの排出量
以上の点を把握することで、効果的な温室効果ガスの削減策を計画するための基盤を築くことができます。
3-3.Scope3活動のカテゴリ分類
サプライチェーン上の各活動を、既述したカテゴリ①~⑮に分類するステップに移ります。
全てのカテゴリでサプライチェーン排出量を計算するのが理想ですが、目的や排出量への影響度、データ収集の労力などを考慮し、特定のカテゴリのみをピックアップすることも許容されています。算定対象から一部カテゴリを除外する際の参考基準は以下の通りです。
- 関連する活動が存在しない場合
- 影響が少ない排出量
- 事業者のコントロールが困難なもの
- データの収集が難しいもの
- 自社の目的に合致しないと判断されるもの
3-4.カテゴリ別の排出量算定
カテゴリの分類が終われば、それぞれの排出量の算定に取り掛かります。
以下のプロセスに従って算定を進めます。
- 目的に合わせて計算方法を選択
- 必要なデータ項目を整理し、収集を実施
- 収集データを基に、活動量と排出係数から排出量を導き出す
排出量を計算する一般的な方法は2つです。
- 取引先から排出量データを提供してもらう方法
- 「排出量 = 活動量 × 排出係数」という式を使用する方法
理想としては、取引先から直接排出量データを受け取ることが最も正確です。しかし、これが難しい場合も多いため、多くの場合は②の方法が選択されます。つまり、上記の計算式を用いてScope3の15カテゴリの排出量を求め、合計することで、全体のScope3排出量が明確になります。
「活動量」とは、事業活動の範囲を示す数値で、電気使用量や調達量、輸送量などが考えられます。この情報は社内データや業界の平均値、製品設計値などから取得できます。また、「排出係数」とは、ある活動量におけるCO2排出量のことで、例えば「電気1kWhあたりの排出量」や「貨物輸送1トンキロあたりの排出量」などが該当します。
4.サプライチェーン排出量の可視化への取り組み
ここでは、サプライチェーン排出量の可視化へ向けて実際に取り組みを進めている企業を紹介します。
4-1.株式会社ファンケル
2030年長期事業戦略(VISION2030)を策定し、特に多くのエネルギーを使用しているサプライヤーやプロダクト・サービスを明確にする取り組みを行っています。また、排出量についての情報を開示することによって、投資家に対して信頼性の高い投資資料を提供しているほか、世の中の変化に対応できる人材育成と環境啓発の資料としても活用しています。なお、計算に関しては、本社、研究、工場の各部でデータの集計・管理を行い、CSR推進室が取りまとめて行っているということです。
4-2.イオン株式会社
イオン株式会社では、事業で発生する二酸化炭素を実質ゼロにする取り組みを行っています。具体的には、二酸化炭素の見える化やホットスポットの特定を実施しており、徹底的な削減余地の洗い出しを進めています。なお、計算に関しては、「ISO140001」や「ISO50001」などのマネジメントシステムを基盤とした体制を活用し、グループの関連企業からの進捗報告を元に行なっているということです。
5.まとめ
Scope3は、サプライチェーンにおいて排出されるすべての二酸化炭素である「サプライチェーン排出量」のうち「Scope1」と「Scope2」を除いた間接的な排出量を示す指標として利用されています。近年、企業にとっても環境への取り組みの重要性が高まっている中、サプライチェーン排出量を算出することによって環境問題解決に貢献できるほか、社会的信頼性の向上も図れるとして大きな関心を集めています。実際、すでに多くの企業が排出量を計算し、ホットスポットの特定を通した能率的な削減対策を進めているため、脱炭素に向けた取り組みを考えている企業は、まずはサプライチェーン排出量の算出から始めてみてはいかがでしょうか。
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