グリーンウォッシュの課題と問題点、環境への偽りのアピール実例を解説

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

近年、環境問題とサスティナビリティへの意識が高まる中、多くの企業や組織が環境に優しい活動をアピールしています。しかしながら、一部には実際の取り組みとは異なる印象を与える「グリーンウォッシュ」という行為が見られ、これは消費者を誤認させる恐れがあるとの批判が高まっています。

このグリーンウォッシュは消費者の誤解を招きかねない悪質な行為であると考えられており、海外ではすでに取り締まりを実施している事例も存在します。今回は、今懸念されているグリーンウォッシュについて、その課題や実際の問題点を実例を用いて解説していきます。

目次

  1. グリーンウォッシュとは
    1-1.グリーンウォッシュの概要
    1-2.グリーンウォッシュの七つの罪
  2. グリーンウォッシュの問題点
    2-1.グリーンウォッシュを行う企業の利益増加
    2-2.投資家への影響
    2-3.市場の歪み
    2-4.消費者の混乱
    2-5.本質的な問題の深刻化
    2-6.透明性の低下
  3. 実際の事例
    3-1.マクドナルド
    3-2.H&M
    3-3.コカ・コーラ
    3-4.ライアンエアー
  4. グリーンウォッシュに対する規制
    4-1.EU
    4-2.アメリカ
  5. まとめ

①グリーンウォッシュとは

1-1.グリーンウォッシュの概要

「グリーンウォッシュ」は、環境を意識した「グリーン」と表面的な取り繕いを意味する「ホワイトウォッシング」の組み合わせから生まれた言葉です。これは、企業や組織が環境やサスティナビリティに対する取り組みを強調し、エコフレンドリーな印象を与える行為を指します。

世界的に環境意識が高まる中で、このような表面的なプロモーションを行うケースが増えています。中には、印象操作や宣伝効果を重視し、実際の環境配慮を二の次にする企業もあります。このため、消費者が誤った印象を受け、実際にはエコフレンドリーでない商品やサービスを選ぶリスクが生まれています。

特に欧州では、グリーンウォッシュに対する規制や取り締まりが強化されており、関連する企業の株価への影響や訴訟などが話題となっています。近年、各国でもこの問題への対応が求められています。

1-2.グリーンウォッシュの七つの罪

2010年、カナダの「Terrachoice」は「グリーンウォッシュの罪」というレポートを発表。この中で、グリーンウォッシュの特徴を「7つの罪」として挙げました。

具体的には以下の通りです。

  • トレードオフ隠蔽の罪:全体がエコフレンドリーでないのに、部分的な取り組みだけを強調すること。
  • 証拠がないことの罪:エコフレンドリーである根拠を示さずにプロモーションすること。
  • あいまいさの罪:不明確な表現で消費者を誤解させること。
  • 誤ったラベル表示の罪:第三者の評価を受けているかのような印象を与えること。
  • 不適切さの罪:消費者の役に立たない情報を提供すること。
  • どんぐりの背比べの罪:他の商品との比較でエコフレンドリーさをアピールすること。
  • うそをつく罪:エコフレンドリーであるとの誤解を生む情報を伝えること。

これらの「罪」を避けることは、企業や組織の信頼性と透明性を維持するために不可欠です。

2.グリーンウォッシュの問題点

2-1.グリーンウォッシュを行う企業の利益増加

近年、持続可能な開発目標「SDGs」の浸透により、エコフレンドリーな商品やサービスへの需要が高まっています。

しかし、多くの消費者は環境への影響を十分に理解していません。商品に「天然由来の成分」の表示や、自然をイメージしたパッケージデザインを見るだけで、この商品やサービスはどこかエコフレンドリーだと思い込み、購入してしまうケースも多々見受けられます。

この状況を利用して、実際の環境配慮とは異なる印象を与える企業が増えてきました。消費者はそのプロモーションに気づかず、環境に優しくない商品を購入し続けることで、企業は利益を増やしています。これにより、グリーンウォッシュの問題はさらに深刻化し、悪循環が生まれているのです。このケースでは、企業のグリーンウォッシュはさらにエスカレートし、深刻な悪循環が生まれてしまうことは避けられないでしょう。

こうした事態を未然に防ぐためにも、消費者は正しい知識を身につけ、適切な選択ができるようにすることが重要となっています。

2-2.投資家への影響

近年、「ESG投資」や「グリーンボンド」の投資市場が拡大してきました。こうした投資は、企業の環境や社会、ガバナンスへの取り組みを評価基準としています。「ESG」は「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「ガバナンス(Governance)」の頭文字を組み合わせた言葉で、これを基準とした投資を意味します。一方、グリーンボンドは、グリーンプロジェクトの資金調達を目的とした債券です。

この市場では、企業の環境への配慮が特に重要視されます。しかし、グリーンウォッシュを行う企業の存在は、投資家の判断を誤らせるリスクがあります。細心の注意を払っている投資家でさえ、これらの企業の手口に捉えられる可能性があります。投資家が環境への取り組みを評価して投資する際、真実と異なる情報に基づいてしまうと、結果的に環境への悪影響を助長する恐れがあるのです。投資家はエコフレンドリーな取り組みを行っていることを評価して出資を決定したはずが、実際は真逆で、結果的に環境汚染を手助けすることにも繋がりかねません。

このように、グリーンウォッシュは投資家へ誤解を与え、投資判断を狂わせるという危険性も持ち合わせているのです。

2-3.市場の歪み

グリーンウォッシュが横行することによって、本格的に環境対応を行っていない企業であっても、作り上げられた環境イメージを用いて市場競争の優位性を獲得しようとするケースが少なくありません。こうなると、本来の健全な市場を維持することは難しく、企業間の競争が歪んでしまう可能性が大いにあると懸念されています。

2-4.消費者の混乱

前述した通り、グリーンウォッシュではエコフレンドリーな取り組みについて実態のないプロモーションが行われるため、消費者は正確な情報を得ることが比較的困難です。具体的には、偽の環境宣伝やラベリングなどが消費者の混乱を招き、どの商品やサービスを購入するべきか、適切な選択を行うことが難しくなる可能性があります。このように、グリーンウォッシュは消費者の本来の「環境に配慮した選択をしたい」という気持ちを踏みにじり、混乱を与える悪質な行為であると言えるでしょう。

2-5.本質的な問題の深刻化

前述した通り、グリーンウォッシュが横行している状況下では、企業の環境への取り組みを消費者側で正確に判断することが極めて難しく、結果として環境問題の解決や改善が遅れてしまう可能性が大いにあります。そしてそうなった際、将来的に気候変動のさらなる深刻化やサスティナブルな社会、脱炭素社会を達成することが困難となり、地球環境が極めて危険な状況に陥ってしまいます。

2-6.透明性の低下

「グリーンウォッシュの七つの罪」でも述べたように、グリーンウォッシュを行っている企業は人によって受け取り方が変わってしまうような、あいまいでどっちつかずな表現を敢えて用いたり、工程や商品・サービスについて、エコフレンドリーであるとプロモーションしながら、その根拠を証明しないといったことが多々あります。こうしたケースでは、正確な情報の開示がなされないため、透明性の確保が難しくなるというわけです。

3.実際の事例

ここからは、実際の事例を紹介しながら、その課題や問題点を解説していきます。

3-1.マクドナルド

マクドナルドでは2018年、イギリスをはじめとする店舗でプラスチック製ストローの使用をやめ、「100%リサイクル可能」と謳った紙製ストローに切り替えました。

しかし、実際にはストローの強度を高めるために紙を厚くしすぎたことからリサイクルが困難となり、そのまま廃棄されていたことが分かったのです。当時、これは深刻なグリーンウォッシュであるとして大きな批判を受けました。

3-2.H&M

日本国内でもファンの多いスウェーデンのアパレルメーカー「H&M」は、2019年にサスティナブルなファッションとして「コンシャスコレクション」を発表し、オーガニックコットンやリサイクルポリエステルを使用したエコフレンドリーで持続可能なファッションだという内容のキャンペーンを世界で展開しました。

しかし、このコンシャスコレクションが実際にサステナブルかどうかが疑わしいという疑惑が浮上し、ノルウェーの消費者庁から違法として指摘されることとなりました。H&Mは実際にどの製品のどの生地に何%リサイクル素材を使用したのかといった具体的な根拠を示していなかったほか、リサイクルポリエステルを使ったエコフレンドリーなTシャツを謳っているにも関わらず、ポリエステルTシャツは製造工程でおよそ2万リットルに上る多量の水を使用することなどから、本当にサステナブルであると言ってよいのか疑問視する声が上がっていました。そして、こうした状況の中、ノルウェー消費者庁がH&Mの情報開示は不十分であり、根拠を示さないまま販促のためにエコフレンドリーだと広告するグリーンウォッシングにあたると指摘したというわけです。

3-3.コカ・コーラ

コカ・コーラは、地球温暖化を防ぐ枠組みについて議論する「COP27(国連気候変動枠組条約の締約国会議)」を後援しているにも関わらず、年間1200億本もの使い捨てペットボトルを生産しており、世界でもトップクラスの環境汚染企業の一つだと指摘されています。実際、プラスチック汚染の解決を目指す国際ネットワーク「ブレイク・フリー・フロム・プラスチック」が発表した2022年版の「プラスチック汚染企業調査」においては、コカ・コーラが世界で最も多くプラスチックごみを排出したとして、5年連続ワースト1位となりました。

このように、表面上は環境への取り組みをアピールしているものの、実際は環境汚染企業の常連だということで、グリーンウォッシュであるという批判が巻き起こりました。

3-4.ライアンエアー

アイルランドの格安航空会社であるライアンエアーは、2019年9月に公開した広告において、自社こそがヨーロッパの大手航空会社の中で最も環境負荷が低い会社であるというプロモーションを行っていました。

しかし、イギリスにある広告基準局「Advertising Standards Authority」は、この広告の主張には正当な裏付けがなく、人々の誤解を招く恐れがあると判断したほか、2020年2月にはこの広告がグリーンウォッシュであることを理由として、英国の監視委員会が広告禁止の処分を下しました。

4.グリーンウォッシュに対する規制

前述した通り、誰もが知っている大企業でもグリーンウォッシュが確認されており、深刻な問題として捉えられています。そんな中、世界ではこれらを取り締まることを目的として、明確な規制を設ける動きが進んでいます。そこで、本項では各国において実際に適用されている規制について、その一部を紹介していきます。

4-1.EU

「欧州連合(EU)」の主要機関の一つである「欧州議会」では、2023年5月11日、グリーンウォッシュを行う企業への規制強化案を決議しました。今回提案されたのは、環境に関する主張やラベルを実証・検証することを義務付ける「反グリーンウォッシュの規制案」で、これによって企業やブランドは、証拠による裏付けがないケースでは、グリーン・マーケティングの主張を実質的に禁じられることとなります。また、製品やサービスの一部のみが持続可能なケースでは、それらの全体を指して持続可能だと表示することもできなくなるということです。

このほか、製品情報に使われるサステナビリティ認証ラベルについても、公式のサステナブル認証制度に基づくものか、公的機関が定めたラベルしか受け入れられなくなる見込みだと報告されています。

4-2.アメリカ

アメリカ環境保護庁の推計によると、アメリカでは紙や金属はリサイクル率が高いものの、プラスチックのリサイクル率は10%を下回っており、ほとんどが焼却もしくは埋め立てられているというデータが出ています。そして、このリサイクル率の低さの一因として、グリーンウォッシュの製品が含まれていることが挙げられています。

そのため、カリフォルニア州では2021年、グリーンウォッシュを防止するために、これまでは実際にリサイクルされていない商品であっても表示が可能だった「リサイクルマーク」の使用基準を厳格化する法案を可決しました。またこのほか、メイン州とオレゴン州においても、商品の包装材のリサイクル費用について企業の負担を義務付ける法律が制定されるなど、各地でグリーンウォッシュの撲滅に向けた取り組みが行われています。

5.まとめ

グリーンウォッシュは、明確な実態がないにも関わらず、商品やサービスがエコフレンドリーであると謳うことで、対外的に誤った印象を与える行為のことを指します。近年、環境問題への取り組みがますます重視されるに伴って、世界中でその事例が報告されており、各国でその対応に向けた規制整備が行われています。実際、我々がエコフレンドリーだと思い購入したものでも、反対に地球に対して悪影響を及ぼしている可能性も大いにあるため、グリーンウォッシュに惑わされることなく、しっかりとした情報開示がされている商品やサービスを選択するよう心がけることが大切です。

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