日本の電力産業のカーボンニュートラルへの挑戦、事例と課題
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 電力関連とカーボンニュートラル
1-1.カーボンニュートラルにおける電力関連の位置づけ
1-2.電力関連の二酸化炭素排出量が多い理由
1-3.日本の火力発電の現状 - 我が国の電力関連カーボンニュートラルの取り組み
2-1.日本の電力関連をまとめる電気事業連合会
2-2.電気事業連合会が主導するカーボンニュートラル - 電力関連におけるカーボンニュートラルの方法
3-1.電力関連でのカーボンニュートラルへのアプローチ
3-2.カーボンニュートラルの一端を担う再生可能エネルギー発電促進賦課金 - 電力会社によるカーボンニュートラルの事例
4-1.東京電力
4-2.関西電力
4-3.四国電力 - まとめ
日本の電力産業では発電の際に化石燃料が多用されているため、この産業のカーボンニュートラル移行は、日本の環境目標にとって重要な鍵を握っています。この記事では、その電力産業が抱える課題と先進的な取り組み事例を一緒に探ってみましょう。
①電力関連とカーボンニュートラル
1-1.カーボンニュートラルにおける電力関連の位置づけ
World Resources Institute(世界資源研究所)のデータによれば、エネルギー部門の二酸化炭素排出の76%が電力産業に起因しています。国際エネルギー機関(IEA)は、2022年のエネルギー関連の二酸化炭素排出が前年比で0.9%増の368億トンと、過去最高を記録したことを明らかにしています。日本の発電に伴う二酸化炭素排出は、2021年度に全排出量の40.4%を占めました。
また、IEAの2021年の電力需要調査結果では、経済成長や気候変動の影響により、電力需要が6%以上増加しました。特に石炭を使用した発電が9%増、再生可能エネルギーが6%増、ガス2%増、原子力3.5%増となっています。この結果、電力産業における二酸化炭素の排出量は、前2年間の減少から逆転し、約7%の上昇を示し、さらに、2021年の第4四半期における全世界の卸電力価格は、2015年から2020年までの平均価格と比べて4倍に跳ね上がっています。さらにIEAのレポートでは、2022年から2024年にかけての電力消費が年間平均で2.7%増加すると予測しており、その成長のうち90%は再生可能エネルギーが担うだろうとの見通しを示しています。
増え続ける電力需要に対して電力関連業界がどのようにカーボンニュートラルを実現していくかという点は、世界的な規模で重要になっています。
1-2.電力関連の二酸化炭素排出量が多い理由
電力産業の二酸化炭素排出が多い背景には、主に化石燃料への依存があります。石炭、天然ガス、石油などの化石燃料を燃やすと、炭素が酸素と結合し、二酸化炭素が生成されます。
石炭は、炭素含有率が高く、燃焼時に大量の二酸化炭素を放出します。褐炭や亜炭のような石炭は高い炭素含有率を持っており、これが燃焼する際には大量の二酸化炭素が生成されるのです。一方で、天然ガスは燃焼時の二酸化炭素排出が石炭や石油より少ないとされています。これは天然ガスが主にメタンから成り立っており、燃焼した際の副産物が二酸化炭素と水蒸気であるという理由によります。
発電所の効率や技術も、二酸化炭素の排出量に影響を与えます。特定の発電所の設計や使用技術によって、同じ量の電力を生産するためにどれだけの燃料が必要かが変わり、それが結果として二酸化炭素の排出量にも違いをもたらすのです。近年の技術的進歩は、これらの問題に対処するための一助となっており、新しい発電技術や高効率の機器の導入が二酸化炭素の排出量を減少させる方向へと導いています。
しかし、二酸化炭素の排出を最小限に抑える最も効果的な方法は、再生可能エネルギーを用いることであり、これが今後の持続可能な発電の方向性として注目されています。
1-3.日本の火力発電の現状
日本の発電構造の中で、火力発電は重要な役割を果たしています。全発電量の約80%が火力発電によって賄われているのです。
長らく、日本の電力供給は原子力、火力、水力といった多様なエネルギー源に支えられてきました。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故を契機に、多くの原子力発電所が停止。この影響で日本は急遽、輸入化石燃料を主体とする火力発電への依存が増加しました。その結果、2010年代中盤から火力発電が日本の主要な電力供給源となり、特に天然ガスを用いた火力発電の割合が増えています。天然ガスは、石炭や重油と比較すると、燃焼時の二酸化炭素排出量が少ないことから、環境配慮の選択として採用されているのです。
一方で、再生可能エネルギーの普及も進んでいます。太陽光や風力による発電も増えてきましたが、まだ全体の中での割合は少ない状態です。政府は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指しています。そのために、再生可能エネルギーの普及、火力発電の効率化、炭素捕獲技術の開発など、多岐にわたる取り組みが進行中です。
それでも、電力供給の安定性を考慮すると、火力発電は今後も不可欠です。このため、技術革新や環境に優しい政策が今後も注目され、その進展が待たれるところです。
2.我が国の電力関連カーボンニュートラルの取り組み
2-1.日本の電力関連をまとめる電気事業連合会
電気事業連合会は、日本の電力業界を代表する団体として、10社の主要な電力会社が加盟しています。この組織は、日本全国の電力供給を担う大切な役割を持っています。
連合会の主な活動として、電力業界の動向や新しい技術の進展、さらには政策に関する情報を公開しています。この情報提供を通じて、電力に対する理解を深める啓発活動も行っています。持続可能で安全かつ経済的な電力産業を実現するための政策提言を行う一方、環境問題への対応や新技術の導入など、多くのテーマに関して取り組んでいます。技術の進展を促すため、電気事業連合会は研究や技術開発の支援も行っており、業界全体の課題解決にも注力しています。
また、国際的には、多様な電力関連の会議やフォーラムに参加。そこで日本の電力産業の取り組みや立場を積極的に発信し、国際社会とのコミュニケーションを深めています。その他、大規模な災害や事故の際の危機管理は連合会の重要な役割の一つです。そのため、会員企業同士の連携を強化し、迅速で適切な対応をサポートしています。2011年の東日本大震災や福島第一原発事故を受けて、連合会は原子力の安全対策や再生可能エネルギーの普及に尽力。そして、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにおいても、業界をリードしています。
2-2.電気事業連合会が主導するカーボンニュートラル
日本の電気事業連合会は、電力供給の安定性と環境負荷の削減を同時に追求しており、カーボンニュートラルの目標に向けた幅広い活動を展開しています。
まず、2050年までのカーボンニュートラルの達成は、日本全体のビジョンとして掲げられています。この達成には、電力部門でのCO2排出の大幅な削減が必要不可欠です。電気事業連合会は、この大きな目標に対し、戦略的な取り組みを力強く進めています。その一つが、再生可能エネルギーの推進です。太陽光や風力、水力、地熱といったCO2排出の少ないエネルギーの利用拡大を進めることで、電力の環境負荷を低減。ただ、供給の不安定性を補うため、電力系統の強化や蓄電技術の導入も並行して行われています。
原子力発電も、CO2排出のないエネルギー源として重要な位置を占めます。福島第一原発事故以降、原子力の安全性は厳しく監視されていますが、電気事業連合会は安全基準をクリアした原発の再稼働を進め、低炭素電力供給のサポートを続けています。さらに、火力発電の高効率化やCCS技術の研究など、伝統的な発電手法においてもCO2排出の削減を目指す動きがあります。
そして、これらの取り組みだけでなく、情報提供や啓発活動を通じて、私たち一般消費者やビジネスの現場におけるエネルギー使用の効率化や節約を促す役割も果たしています。総合的に見ると、電気事業連合会は、多角的なアプローチで日本のカーボンニュートラル目標達成に向けて邁進しているのです。
3.電力関連におけるカーボンニュートラルの方法
3-1.電力関連でのカーボンニュートラルへのアプローチ
電力産業でのカーボンニュートラルを達成するためには、さまざまな手法が考えられます。以下に、主要なアプローチを簡潔にご紹介します。
1. 再生可能エネルギーの普及
再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどを利用して電力を生成する方法です。化石燃料とは異なり、これらのエネルギーはCO2排出が少ないか、全くないので、温室効果ガスの排出を大幅に減少させることが可能です。
2. 電力蓄電技術の向上
再生可能エネルギーの特性上、供給が一定しないことがあるため、蓄電技術が不可欠です。変動を吸収し、電力供給を安定させるために、蓄電池や水素エネルギーが注目されています。
3. 原子力発電の再考
原子力は一貫して大量の電力を供給する能力があり、CO2の排出も少ないため、カーボンニュートラルの実現に寄与します。ただし、福島第一原発事故のようなリスクを乗り越えるため、厳格な安全対策と管理が求められます。
4. 高効率火力発電技術の導入
先進の技術を活用して、従来より効率的に電力を生成し、CO2排出を減少させる手法が存在します。例としては、超超臨界発電や統合型ガス化蒸気発電などが挙げられます。
5. CCUS技術の活用
CCUSは、発電時に生じるCO2をキャッチし、地下に格納または再利用する技術です。これによって、大気へのCO2放出を大きく減少させることが期待されています。
これらの取り組みを組み合わせることで、電力関連でのカーボンニュートラルの実現がより現実的になるでしょう。
3-2.カーボンニュートラルの一端を担う再生可能エネルギー発電促進賦課金
電気料金に含まれている「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(再エネ賦課金)もこの分野でのカーボンニュートラルの一端を担っています。
賦課金制度は、再生可能エネルギー、例えば太陽光発電や風力発電の導入に関わるコストを補填するための仕組みで、太陽光や風力といった再エネの電力の固定価格での買取に要する資金の確保手段として設けられています。
この賦課金が導入された背景には、再生可能エネルギーの普及を促進する国の方針があります。現段階では、再エネの発電コストは他の方法、たとえば原子力や火力発電と比較して高いため、その差額を社会全体でサポートすることで、再エネの導入を加速させる意図があります。このために採用されているのが「固定価格買取制度(FIT)」で、この制度を円滑に実施するために再エネ賦課金が徴収されています。
4.電力会社によるカーボンニュートラルの事例
4-1.東京電力
東京電力は、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指しています。そのための主要な戦略として、再生可能エネルギーの導入拡大、高効率の火力発電所の活用、そして原子力発電の安全な運用を検討しています。
再生可能エネルギーに関しては、太陽光や風力、水力などのポートフォリオを増やすことで、供給の安定化と環境への負荷軽減を図る考えです。高効率の火力発電所に関しては、従来よりも少ない燃料で高い発電効率を実現できるため、二酸化炭素排出量の削減が期待されます。原子力発電に関しては、安全対策を最優先としながら、低炭素での電力供給の一つの手段として位置づけられています。
さらに、東京電力は、先進的なグリッド技術の導入や、エネルギーの蓄電技術を活用することで、電力の需給調整やエネルギー管理の技術的な進展を積極的に取り入れ、エネルギーの効率的な使用を推進しています。
4-2.関西電力
関西電力も、2050年を目標年としてカーボンニュートラルの実現を公言しています。そのための主な策として、再生可能エネルギーの拡大、高効率な火力発電の採用、および原子力発電の安全性を確保した活用を検討しています。
再生可能エネルギーについては、太陽光や風力、バイオマスなどの導入を進めることで、環境への影響を最小限に抑える電力供給を目指しています。また、高効率火力発電所を活用することで、従来型の火力発電所よりも効率的に電気を生産し、その結果として二酸化炭素の排出を低減できます。原子力発電においては、関西地域における重要な電力供給源として位置づけています。
さらに、関西電力はデジタル技術の活用や、蓄電技術の導入することで、電力の需給の最適化やエネルギー管理技術の革新を追求し、エネルギー消費の効率化を進めています。
4-3.四国電力
二酸化炭素排出量の最も多い四国電力も、2050年を目標として、カーボンニュートラルの実現に向けて様々な施策を展開しています。まず、再生可能エネルギーの拡大がその中心的な取り組みとなっています。
太陽光や風力、さらには小水力など、四国地域の特性を生かした再エネ導入を推進しており、この方針により、持続可能な電力供給を確立しようとしています。また、火力発電に関しても、より効率的なガスタービン技術の採用や、低炭素の燃料を選ぶなどの工夫することで、二酸化炭素排出量の削減を試みています。そして、原子力発電の安全性を確保した上での活用も、四国電力の方針となっています。
5.まとめ
昨今、再生可能エネルギーによる発電が非常に注目を浴びているため電力関連においても 導入が進んでいるような印象を受けますが、 まだまだ火力発電が多いという点に大きな課題があります。
電力会社の業績はその化石燃料の輸入価格に大きく左右されますが、ほとんどの電力会社は赤字が続いています。そのような背景もあり再エネ賦課金が導入されていますが、2028年までに 化石燃料を輸入する企業に対しての課金も検討されています。
今後、日本がカーボンニュートラル 目標を達成するためにも企業だけではなく一人一人がカーボンニュートラルに対する意識を高く持つ必要がありそうです。
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日本の電力産業のカーボンニュートラルへの挑戦、事例と課題