農業分野における「カーボン・クレジット」取引に向けて、NFT基盤を使ってデータの可視化を試みる実証実験へ
環境問題対策にWeb3が活用され始めており、特に温室効果ガスの放出量やカーボンクレジットなど、ブロックチェーンを使うことで可視化され、活動に取り組みやすいシステム作りが可能となりました。今回、伊藤忠商事グループのIT子会社である伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と、新潟大学が共同で、農地における温室効果ガス放出量の正確な測定や、データの可視化に関する実証実験において、NFT基盤が活用されていることが7月7日発表されました。
ここでは、実証実験の内容について、温室効果ガスとブロックチェーンの関係性も踏まえて詳しく解説します。
目次
- NFT基盤を使った農地における温室効果ガス測定の実証実験
1-2.農業分野の注目しているカーボン・クレジット - カーボン・クレジットとは
2-1.カーボン・クレジット市場の課題
2-2.国が主導するブロックチェーンを活用した「J-クレジット」制度
2-3.農業におけるJ-クレジットの実例 - ブロックチェーンを活用した温室効果ガス排出量の追跡とは
3-1.プライバシーを保護しつつ排出レポートを提供可能に - まとめ
①NFT基盤を使った農地における温室効果ガス測定の実証実験
伊藤忠商事グループのIT子会社である伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と新潟大学が共同で行う、農地における温室効果ガス放出量の正確な測定やデータの、可視化に関する実証実験において、NFT基盤が活用されます。この実証実験は、農業分野でのカーボン・クレジット取引に向けたもので、農地における温室効果ガスの放出量を測定し、そのデータを元に温室効果ガス放出の削減に貢献した生産者の活動実績を、NFT化して活用するというものです。
実証実験は2023年6月から2024年3月まで実施され、NFT基盤は、ミンカブ・ジ・インフォノイドの子会社であるミンカブWeb3ウォレットが提供されます。また「あたらしい経済」の記事によると、実証実験で提供されたNFT基盤に採用したブロックチェーンは、「THXNET.」に繋がるレイヤー1ブロックチェーンとのことです。
この実証実験における温室効果ガス放出量の測定は、CTCと新潟大学との共同研究として、新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センターの、試験対象区の農地約60アール(約6,000平方メートル)で行われています。複数の地点で土壌をサンプリングし、土壌成分の違いによる温室効果ガス放出量の違いを検証します。
そしてデータ管理や可視化のシステム構築はCTCが、ブロックチェーン技術を活用して、温室効果ガス放出量の削減に貢献した生産者の活動実績をNFTに変換するとのことです。NFT基盤上でNFTマーケットプレイスを構築し、カーボン・クレジットとしてデータ取引が可能かを検証します。
また大規模エリアでの将来的な温室効果ガス放出の削減量や、NFT取引の市場規模と経済効果の予測分析の他、その予測分析の計算処理に参加した、地域の消費者へポイントを還元するとしています。さらに参加を促すことで生じた取引で、得た収益の還元方法の検討も実証実験では行われるそうです。
実証実験の概要
- 目的: 正確なGHG放出量の測定とGHG放出量削減に貢献した生産者の活動実績のNFT化
- 期間: 2023年6月~2024年3月
- 場所: 新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センター内の試験対象区となる農地
- 面積: 約60アール(約6,000平方メートル)
- 実験内容:
- 試験対象区に測定装置を設置、GHG放出量を推定
- GHG放出量削減に繋がる生産者の活動実績をNFT化し、NFTのマーケットプレイスで取引
- 大規模エリアでの将来的なGHG削減量とNFT取引の市場規模と経済効果を予測、取引で得た収益の還元方法を検討
1-2. 農業分野の注目しているカーボン・クレジット
近年、カーボンニュートラルの実現に向けた施策として、堆肥や緑肥などの有機物を用いた土づくりを通して、農地を含めた土壌での二酸化炭素(CO2)の排出を抑える、「炭素貯留」の取り組みが注目されています。
農業分野では、温室効果ガスの放出量や削減量を売買する「カーボン・クレジット」が、新たな収入源として期待されています。ブロックチェーンを活用した脱炭素に向けた取り組み「ReFi」も今回のように、さまざまなケースが見られるようになってきています。
またCO2排出を抑える「炭素貯留」には、「カーボン・クレジット」として取引するために、精度の高い測定方法や信頼性のあるデータをデジタル化して、管理する仕組みが求められています。カーボン・クレジット取引の中には品質が粗悪なものも混ぜっており、その信頼性に懸念が生じているのも事実です。
そこで取引内容の変更が不可能なブロックチェーンを活用することで、検証可能な形で温室効果ガスの放出量の情報に信憑性を持たせることができます。CTCは今回の実証実験に関して、2024年中のソリューション展開も視野に、「炭素貯留」によって創出される信頼性の高いカーボン・クレジット取引の仕組みを構築するとのことです。
②カーボン・クレジットとは
カーボン・クレジットとは、二酸化炭素をはじめとする「温室効果ガス」の排出削減量を示す証明書のことを指し、別名「炭素クレジット」とも呼ばれています。
具体的には、企業が森林の保護や植林、また省エネルギー機器導入などを実施することによって発生した二酸化炭素などの温室効果ガスの削減効果を「クレジット(排出権)」として発行することで、他の企業や個人との間で取引できるようにする仕組みのことを言います。あらゆる削減努力を講じてもどうしても削減しきることが難しい温室効果ガスに関しては、その排出量に合わせてカーボン・クレジットを購入することで排出量の一部を相殺し、穴埋めすることが可能となっており、これを「カーボン・オフセット」と呼びます。
このような仕組みは主にヨーロッパを拠点とする企業において特に活発に取り入れられていますが、最近では前述したSDGsの普及などを受けて、日本国内においても導入の動きがますます拡がっています。実際、国際開発金融機関である「世界銀行」によると、2030年を目処として、政府主導の規制の枠組みのもとで設立されたカーボン市場とは異なる、民間主導の「ボランタリー・カーボン・クレジット」の市場規模はおよそ20兆円にまで到達すると見込まれています。
このように、カーボン・クレジット市場は現在急成長を遂げており、その取引環境の整備および改善にも注目が集まっています。
2-1. カーボン・クレジット市場の課題
大きな課題の一つとして、不透明な取引や価格決定プロセスが挙げられます。カーボン・クレジットは相対取引が中心となっているため、取引相手を確保することが比較的難しいほか、売買高や価格などの取引についての情報も限られており、クレジットの発行から売買、保有、そしてオフセットまでの一連のトレーサビリティが、十分に確保できていない状況となっています。
また、カーボン・クレジットの価格がその質と適切に結びついていないという声が多くあるものの、現時点ではクレジットの価値を客観的に評価する、絶対的な基準が存在しないため、価格決定プロセスが不透明であるという問題点があります。
このようなことから、温室効果ガスの削減プロジェクトに対するファンディングもつきにくく、供給不足の原因の一つとなっています。そこでブロックチェーンを活用することで、オフセットに至るまでの過程をブロックチェーン上に記録することで、誰もがその情報にアクセスすることができるようになるため、トレーサビリティを十分に確保できるようになります。
さらには、より透明性の高い価格決定プロセスを実現できるようになるため、信頼性の担保された取引が可能になります。このようにクレジットに関するトレーサビリティは全てブロックチェーン上に記録されるため、偽造や改ざんが極めて難しく、クレジット発行の多重カウントによる詐欺的取引の防止にも役立ちます。
2-2. 国が主導するブロックチェーンを活用した「J-クレジット」制度
J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。地球環境解決のために、活動している企業は申請手続きによって、クレジットを獲得することが可能なので、環境問題を解決するための手段の一つでもあります。
温室効果ガスの排出削減または吸収量の増加につながる取り組みをしている企業が、J-クレジットを発行することができ、発行した人・企業が「J-クレジット創出者」となります。創出されたクレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットとして売却など、様々な用途に活用できます。
カーボン・クレジット創出者はクレジットの売却益によって、設備投資の費用の回収やさらなる省エネ投資に活用ができます。対してクレジットの購入者(カーボン・オフセット)は、省エネ活動をしている企業の後押しをすることができ、クレジット購入のPRをすることで企業評価に繋げることができます。
2-3. 農業におけるJ-クレジットの実例
三重県伊賀市の株式会社伊賀の里モクモク手作りファームでは、新設のトマトとイチゴの温室ハウスの暖房に、環境負荷が少なく、コストにも優れた木質バイオマス燃料の加温機を導入し、J-クレジットを創出しました。見学者を対象に環境学習を行い、環境保全への取組みをPRしています。さらに、カーボン・オフセット商品の提供も検討し、クレジット活用の可能性を広げています。
③ブロックチェーンを活用した温室効果ガス排出量の追跡とは
仮想通貨のバックボーンとなっているブロックチェーンは、取引内容を変更不可能な形でブロックに記録し、これらをチェーン状につなげていくシステムです。この特性を利用することで、温室効果ガスの排出量を検証可能にし、全ての取引内容を追跡することが可能となります。
この新たな認証システムを使うことで、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の追跡を改善し、排出量を検証可能な形で証明することができます。具体的には、契約内容をプログラムできる「スマートコントラクト」を搭載したブロックチェーンを利用することで、事業の全過程における温室効果ガスの排出追跡を自動化できます。これらのデータは検証可能であり、暗号化技術によってデータの改ざんやあいまいさを排除し、消費者に対して情報を信頼性高く提供することが可能です。
しかし、ブロックチェーンを動かすためのコンセンサスアルゴリズムには電力を大量に消費すると危惧されるものもあります。たとえばマイニング(採掘)活動に基づくPoW(プルーフオブワーク)型のビットコインのブロックチェーンではそのような問題が指摘されています。イーサリアムも元々はコンセンサスアルゴリズムにPoWを使用していましたが、電力消費を抑えたアルゴリズムに更新されました。このように電力消費が少ないブロックチェーンの選択も、環境負荷を考える上で重要と言えます。
3-1. プライバシーを保護しつつ排出レポートを提供可能に
ブロックチェーンによって温室効果ガスの排出量を記録することで、排出追跡のプロセスを自動化させ、より正確な排出レポートの作成が可能になります。企業はプライベートに関わる基本データを公開することなく、各種エネルギー消費の詳細や温室効果ガス排出に関する、基準遵守の証拠を公開することが可能となります。
またブロックチェーンの取引履歴は公開されており、誰でも確認することが可能であるため、高度な透明性を保証します。ゼロ知識証明テクノロジーを利用すれば、プライバシーを守りつつ、情報の正確性を証明する不可欠な証拠を提供することが可能です。
さらに、カーボンクレジット市場の急成長により、ブロックチェーンの利用によって環境資産のトークン化と流通が可能になるといわれています。これはVerraやGold Standardなどの認証機関から、世界経済フォーラム(WEF)などの国際組織まで、世界中で注目を集めています。
④まとめ
企業は環境に配慮したプロジェクトや取り組みを打ち出す一方で、中身が不明瞭であったり、消費者や世間が疑念を抱かせる内容のものが出回っているのも事実です。そこでブロックチェーンの導入により業務の効率化やエネルギー節約を達成したり、エコ活動の貢献度を視覚化するサービスをを提供するなど、ReFiに取り組む様々な形が見られるようになりました。
その中でもカーボン・ニュートラルは、温室効果ガスの削減量によって発行される取引商品なので、数字となって可視化されます。ブロックチェーンが導入されていることで、データの信憑性は高く、カーボン・クレジット取引を行うのに値すると判断されやすくなります。したがって今後、ReFiを企業の取り組みに入れていくなら、Web3の活用は需要になってくると言えるでしょう。
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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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