国内スタートアップの資金調達金額・調達社数推移は?IPO時価総額ランキングも

最近のスタートアップ企業は、新たな産業の開拓者として日本経済を牽引する役割が期待されています。その期待はスタートアップにおける資金調達金額や調達社数にも表れており、調達金額・社数ともに増加基調が続いている状況です。

そこでこの記事では、国内スタートアップの資金調達金額と資金調達社数の推移について詳しく解説します。IPO時価総額ランキングやIPO後に成長する企業の特徴なども併せて紹介するので、企業経営者やスタートアップ投資に関心のある方は、参考にしてみてください。

目次

  1. 国内スタートアップの資金調達金額推移
    1-1 IPO時の初値時価総額の分布
    1-2 初値時の時価総額と成長性の関係
  2. 国内スタートアップの資金調達社数推移
    2-1 過去10年の資金調達社数推移
    2-2 IPO年別に見る資金調達社数と成長性の関係
  3. IPO時価総額ランキング
  4. IPO後に成長する企業の特徴
  5. まとめ

1 国内スタートアップの資金調達金額推移

リーマンショックや東日本大震災による株式市場の混乱を乗り越え、過去10年ほどは主要株価指数も上昇基調を続けています。

このような市況環境の中、スタートアップ企業の資金調達金額も増加傾向にあり、経済産業省が公表した「スタートアップ企業の上場後の成長に関する実態調査報告書」によると各年における調達金額の推移は以下の通りです。

調達年 調達金額
2013年 876億円
2014年 1417億円
2015年 2001億円
2016年 2553億円
2017年 3564億円
2018年 4838億円
2019年 5936億円
2020年 5483億円
2021年 8228億円
2022年(上半期) 4160億円

2013年に876億円だった調達金額は年々増加し、2021年には8228億円と約9.4倍の水準にまで増えています。なお、2020年は前年の5936億円から5483億円へと減少していますが、これは新型コロナウイルスにより国内経済が大きく低迷し市況も悪化した時期です。

しかし、2021年末~2022年中頃にかけては、東証グロース市場で株価が大きく下落し、新興企業への投資も低迷していましたが、そのような環境下でも2022年上半期の資金調達金額は前年を上回る推移となっています。

このように、ここ10年ほど国内スタートアップの資金調達金額は増加基調が続いており、スタートアップ企業による資金調達活動が活発に行われていることを示しています。

1-1 IPO時の初値時価総額の分布

株式の新規上場(IPO)を果たした企業の初値時の時価総額からスタートアップ企業の資金調達状況を見ていきましょう。報告書を基に初値時価総額をまとめたものが以下表です。

IPO時初値時価総額 上場数
0~99億円 193社
100~199億円 147社
200~299億円 54社
300~399億円 16社
400~499億円 19社
500~599億円 8社
600~699億円 2社
700~799億円 5社
800~899億円 2社
900~999億円 3社
1000億円~ 14社

(※参照している「スタートアップ企業の上場後の成長に関する実態調査報告書」はスタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」がスタートアップとして判断した2013年以降に上場した463社が対象です。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などから株式で資金調達を行っている未上場企業や事業会社と提携している未上場企業などは対象となっていますが、資金調達を行わず自社売上で成長している未上場企業や上場企業の子会社などは対象となっていません。)

一方、IPO時の初値時価総額の分布は、300億円未満が全体463社中394社と8割以上を占めており、500億円以上の規模となるIPOは34社と1割未満程度にとどまります。最も分布の多い100億円未満の内訳をさらに詳しく見てみると以下の通りです。

IPO時初値時価総額 上場数
0~10億円未満 2社
10~20億円未満 4社
20~30億円未満 16社
30~40億円未満 14社
40~50億円未満 18社
50~60億円未満 19社
60~70億円未満 35社
70~80億円未満 34社
80~90億円未満 26社
90~100億円未満 25社

IPO時の初値時価総額が100億円未満のケースでは、50億円以上100億円未満が139社となっており、全体463社のうち約3割を占めています。このように、IPOを果たしたスタートアップ企業の資金調達金額は300億円未満が大半を占めており、その中でも50億円以上100億円未満の調達金額が最も多い状況です。

1-2 初値時の時価総額と成長性の関係

ユニコーン企業とは、本来、未上場の創業10年以内、評価額10億ドル以上の企業を指しますが、上記の調査報告書では、上場後に1度でも時価総額1000億円に到達した企業を「ユニコーン化した企業」と定義しています。

以下表は、IPO時初値時価総額と上場数、その中でも時価総額1000億円に到達した企業数を示したものです。

IPO時初値時価総額 上場数 時価総額1000億円に達した社数
0~99億円 193社 7社
100~199億円 147社 9社
200~299億円 54社 15社
300~399億円 16社 4社
400~499億円 19社 7社
500~599億円 8社 3社
600~699億円 2社 1社
700~799億円 5社 5社
800~899億円 2社 1社
900~999億円 3社 2社

IPO後に時価総額が1000億円に達した企業は449社中54社となっており、約8社に1社の割合で上場後に時価総額が1000億円以上となるユニコーン化した企業となっています。

IPO時の初値時価総額が500億円以上1000億円未満の場合、20社中12社と6割にあたる企業がユニコーン化しており、IPO時の時価総額が大きいほど時価総額1000億円以上になる可能性が高くなっています。

一方、IPO時の初値時価総額が100億円未満の企業でも、60~70億円未満で35社中2社、70~80億円未満で34社中2社、80~90億円未満で26社中2社、90~100億円未満で25社中1社がユニコーン化した企業となるなど割合は低い傾向にあるものの、ユニコーン化する企業は少なからずあることが示されています。

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2 国内スタートアップの資金調達社数推移

国内スタートアップの資金調達社数は調達金額と同様に増加傾向にありますが、2019年以降は下落の様相も見え始めています。ここからは、過去10年の資金調達社数推移やIPO年別の調達社数と成長性の関係を見ていきましょう。

2-1 過去10年の資金調達社数推移

資金調達したスタートアップ企業は過去10年間をみると増加基調にありますが、2019年以降、調達金額が増加を続ける一方、調達社数はやや減少傾向です。

調達年 調達社数 調達金額
2013年 1335社 876億円
2014年 1572社 1417億円
2015年 1918社 2001億円
2016年 2048社 2553億円
2017年 2363社 3564億円
2018年 2796社 4838億円
2019年 2702社 5936億円
2020年 2514社 5483億円
2021年 2282社 8228億円
2022年(上半期) 1058社 4160億円

2013年に1335社だった調達社数は、2018年に2796社と倍増しましたが、2019年以降は減少傾向を呈しており2021年の調達社数は2282社です。2020年に入ると新型コロナウイルスの影響によって市況が大きく悪化したことから上場を見送る企業もあったものの、その影響を考慮しても2019年以降は減少傾向が続いています。

一方、調達金額は2019年以降も年を重ねるごとに上昇を続けており、1社あたりの資金調達金額が増加する上場の大型化が進んでいるのも特徴です。

2-2 IPO年別に見る資金調達社数と成長性の関係

IPO年別に見たIPO社数と、上場後に時価総額1千億円に達したユニコーン化した企業の数は、以下の通りです。2013年にIPOを果たした35社のうち9社がユニコーン化した企業となっており、その割合は約26%です。しかし、2016年は約10%、2019年は約26%、2021年は約6%と数値に顕著な傾向はみられず、IPO年による相関性は確認できていません。

IPO年 IPO社数 ユニコーン化企業
2013年 35 900%
2014年 43 900%
2015年 62 800%
2016年 39 400%
2017年 45 700%
2018年 44 700%
2019年 42 1100%
2020年 48 700%
2021年 64 400%
2022年(上半期) 41 200%

一方、ユニコーン化にかかる年数分布では、上場してから早い企業ほどユニコーン化を達成していることが、以下の通り確認できます。

ユニコーン化にかかった年数 ユニコーン化した企業数
1年 41
2年 6
3年 5
4年 5
5年 3
6年 2
7年 2
8年 4

ユニコーン化した企業68社のうち約7割にあたる47社が2年以内に時価総額1千億円以上の水準に成長しており、ユニコーン化する企業は上場後比較的早い時期に時価総額1千億円を突破しているのが現状です。

3 IPO時価総額ランキング

2013年以降、スタートアップの資金調達金額が増加基調をたどる中、その活況を受けて2018年にメルカリ(4385)が6千億円を超える大型IPOを果たすなど、初値時価総額で1千億円を超えるIPOも増えています。2010年以降に初値時価総額が1千億円以上となったスタートアップのランキングTOP10は以下の通りです。

順位 企業名 IPO年月日 初値時価総額
1位 メルカリ 2018/6/19 6767億円
2位 ネクソン 2011/12/14 5560億円
3位 MTG 2018/7/10 2724億円
4位 ビジョナル 2021/4/22 2545億円
5位 Appier Group 2021/3/30 2027億円
6位 セーフィー 2021/9/29 1646億円
7位 HEROZ 2018/4/20 1634億円
8位 リプロセル 2013/6/26 1478億円
9位 ANYCOLOR 2022/6/8 1443億円
10位 Sansan 2019/6/19 1425億円

国内首位のフリマアプリを運営しているメルカリをはじめ、PC向けオンラインゲームの先駆けとなったネクソン(3659)、健康美容機器を手掛けるMTG(7806)、クラウドを活用した会員制転職サイト「ビズリーチ」を運営するビジョナル(4194)など様々な業種の企業が大型IPOを達成しています。

4 IPO後に成長する企業の特徴

スタートアップでユニコーン化しやすい企業の特徴は、上記報告書によると以下4項目に当てはまります。

  • IPO時の初値時価総額:500億円以上
  • IPOから一年以内の従業員数増加:14名増加
  • 未上場時の総調達額:8.92億円
  • 上場後の資金調達有無:65%の企業が実施

これら全ての特徴に合致する企業が必ずしもユニコーン化するわけではありませんが、2013年以降にIPOを果たした463社の分析から導かれた結果となっており、今後の成長を期待できる参考指標として活用することも可能です。

5 まとめ

国内スタートアップの資金調達金額は増加傾向にあり、調達金額は2013年以降の10年間で増加を続けています。一方、調達社数も増加基調にありますが2019年以降は減少とも見える動きが出始めており、1社あたりの調達金額が大きくなるIPOの大型化とも言える状況です。

スタートアップの資金調達金額が増加基調をたどる中、初値時価総額1千億円を超えるIPO案件も増えており、調査対象期間の2013年~2022年の上半期においてはIPO市場の活況が伺え、今後も日本経済をけん引する存在としての役割が期待されています。

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