オランダの不動産業界におけるESG・SDGsの動向は?3つの事例も

オランダはグローバルに見ても、もともとESG・SDGsへの取り組みに積極的な国の一つです。EU自体がESG・SDGsの制度化を進めているほか、水不足に陥りがちな地理的な事情もあります。

そのため不動産業界においても、不動産テックによる社会的インパクトの追求、水不足に対する対策などの点でESG・SDGsへ貢献しようとする動きがみられます。今回の記事では、オランダの不動産業界のESG・SDGsの動向をまとめました。

目次

  1. オランダの不動産業界におけるESG・SDGs
    1-1.古くからESG・SDGsへ積極的な取り組みを示すオランダ
    1-2.多くの企業が不動産テックを活用し持続可能な社会を目指す
    1-3.地理的要因により水不足への対応が急務
  2. オランダ不動産のESG・SDGs事例3選
    2-1.サーキュラーエコノミー物件『CIRCL(サークル)』
    2-2.エナジーニュートラルホテル『Hotel Jakarta』
    2-3.サステナブルなオフィス『UCo(ユトレヒトコミュニティ)』
  3. オランダの不動産ESG・SDGsの将来
    3-1.都市部の人口増加に対する対応
    3-2.2050年までに全エネルギーを再生可能エネルギーから産出する目標
    3-3.EU全体の情報開示の法制度化への対応
  4. まとめ

1 オランダの不動産業界におけるESG・SDGs

オランダは国を挙げてESGとSDGsに取り組んでおり、オランダの不動産業界も例外ではありません。以下ではオランダの不動産業界におけるESG・SDGsについて解説していきます。

1-1 古くからESG・SDGsへ積極的な取り組みを示すオランダ

オランダは以前から政府がESGへの投資や取り組みを後押しする姿勢がありました。たとえば1995年には、環境に配慮した投融資から得る利子・配当を非課税とする制度を実施しています。世の中でESG投資が広く普及したのは2010年前後なので、先進的な取り組みといえるでしょう。

2007年には年金がクラスター爆弾の製造企業に投資してしまっていたことが広がり、武器製造企業への投資を禁じる動きも進みました。こちらも日本など欧州外の先進国と比べると早いタイミングでの取り組みです。

社会的な取り組みとしては、児童労働に対する規制に積極的に取り組んでいるのがオランダの特徴です。2019年に児童労働デューディリジェンス法(Dutch Child Labor Due Diligence Act)が採択され、2022年に義務化されています。

オランダの大企業の40社がこの法規制を後押ししたこともあり、社会全体で積極的なESGへの姿勢が見られるようになりました。ESGを法制度化して「必ず取り組むもの」という意識が強いのが、オランダにおけるESG・SDGsに対する取り組みの傾向といえます。

※参照:JETRO「児童労働規制が先行、より広範な人権デューディリジェンス法案の審議へ(オランダ)

1-2 多くの企業が不動産テックを活用し持続可能な社会を目指す

オランダの不動産に焦点を当てると、不動産テックを活用して持続可能な社会への取り組みを行っている企業が多くあります。オランダは2020年時点で人口およそ1,700万人の小さな国ですが、2019年時点ですでに269社の不動産テック企業がありました。(※参照:Unissu「PropTech in the Netherlands」)

企業単体での取り組みはもちろん、複数企業や政府、教育機関などと連帯し不動産テックを取り入れて持続可能な社会を達成するためのさまざまな活動や研究を行っています。

たとえば、環境に配慮された建物や、リノベーション、気候対応型都市などの開発をテクノロジーの観点から推進するプロジェクトが多数進められているのです。

なかでも具体的に事業化が進められているビジネスアイデアの一例として、3Dプリンター住宅の建設があります。3Dプリンターを使用し、特殊なセメントを使った住宅建設によって二酸化炭素の排出を抑えた住宅を建設できます。

建設にかかる工数削減により、労働者の負担軽減やコスト削減による住宅価格の抑制と言った効果も。住宅価格が抑えられれば、消費者の住宅取得のハードルが下がり、より多くの人が家を持てるようになるでしょう。

環境への取り組みに積極的なオランダでは、このように不動産の領域で環境や社会へのポジティブなインパクトをもたらそうとする企業が多数存在します。

1-3 地理的要因により水不足への対応が急務

オランダは国土の約5分の1が湖や浅い海の水を排出して作られており、海抜0m以下の土地が多く存在しています。このような地形・地理的事情から、オランダは他の先進国地域より水不足のリスクが高い地域です。

私たちの生活に必要不可欠な水はSDGs・ESGの観点からも重要視されるものです。オランダの建設セクターは国内の水の消費量の約3割を占めているという試算もあり、不動産業界・建設業界には水消費の抑制や水不足対策への積極的な取り組みが期待されています。

他の先進国同様に、オランダではグリーンビルディングの建設、GRESBなどの環境評価の取得に積極的ですが、そのときにも水消費の抑制や水不足に対する対策をより重点的に行う傾向にあります。建設の推進は水不足対策に寄与するものといえるでしょう。

近年、オランダ国内の不動産会社やヨーロッパの大規模な不動産ファンドにおいて、水の適切な管理に対する関心が高まっています。しかし、将来世代が水不足に悩まされないようにするために、さらなる改善が期待される領域でもあります。

2 オランダ不動産のESG・SDGs事例3選

続いてはオランダの不動産業界のESG・SDGsへの取り組みを、実例を挙げて紹介します。

  1. サーキュラーエコノミー物件『CIRCL(サークル)』
  2. エナジーニュートラルホテル『Hotel Jakarta』
  3. サステナブルなオフィス『USC(ユトレヒトコミュニティ)』

2-1 サーキュラーエコノミー物件『CIRCL(サークル)』

CIRCLは、オランダのメガバンクABN AMROの所有する物件で、オランダで初めて建てられたサーキュラーエコノミーを取り入れた建物の一つです。ABN AMROの第2のオフィスとして使用される側面、銀行へのクライアントだけでなく地域住民や旅行客といった誰もが気軽に立ち寄れる複合施設としても知られる建物になっています。

建物の設計の目標としてサーキュラーエコノミーを掲げており、実際に廃材や廃棄物を利用して建設されました。たとえば、廃棄されたジーンズを多数断熱材に使用しています。

また、サーキュラーエコノミーの重要な思想である循環するといった点から、解体時の環境に対する負担を減らすことを念頭に設計・建設された建物です。例えば、建設に使用した木材やアルミニウムなどは今後も再生利用が可能な素材で作られています。

接着剤を使用せず、解体時に取り外しができる金属で建設されています。もちろん、オフィス内のインテリアなど細部にわたって再生可能な物が選ばれて使われています。

※参照:ABN AMRO「Circl

2-2 エナジーニュートラルホテル『Hotel Jakarta』

Hotel Jakartaはエネルギーを自給自足する、エナジーニュートラルなホテルとして有名な建物です。このホテルの特徴は、多数の持続可能な計画が設計段階から取り入れられていることと、自然の力を最大限有効活用していることです。

Hotel Jakartaにはエアコンが設置されていません、庭園や壁面に積極的に木・竹を使うことで自然の温度調節機能を高め、さらに寒冷期には地熱などを利用して館内を暖めています。宿泊者からもホテル内は快適な空間だったとの評価がみられます。

ホテルの建材にはFSC認証をされた木材を使用し、内部の装飾にもたくさんの木材が使用されています。天井は開閉式で、好天時には自然の風を取り入れることもできます。

屋根一面に太陽光発電パネルが敷き詰められていて、再生可能エネルギーの産出も行います。太陽光パネルが半透明で、パネルを敷き詰めていても館内に太陽光が充分に入る採光性の高さも特徴です。2019年に建てられた同ホテルは、実際にこれまで実質エネルギーニュートラルを達成しながら経営されています。

※参照:Hotel Jakarta「Sustainability in Hotel Jakarta

2-3 サステナブルなオフィス『UCo(ユトレヒトコミュニティ)』

UCo(ユトレヒトコミュニティ)は、1920年代に建築された鉄道の修理倉庫を改装して作られたオフィスです。この建物は起業家が暮らすコミュニティ施設兼オフィスとして運用されています。

UCoには暖房器具が設置されていません。地熱を空気循環も兼ねて建物内に取り込むことで、化石燃料の消費を避けながら真冬でも暖かい温度を保つことが可能です。

採光性を高め、室内の照明の使用も抑える工夫が工夫がされています。天井の高いところに作られた窓は、外の光を効率的に室内に届けられるように計算されています。晴れの日はもちろん曇りや雨の日でも照明をつけなくても室内は明るいのです。

このようにUCoは自然のエネルギーを最大限活用した建物となっています。建物内部で使用されている家具も、近くで廃棄された物をリサイクルして利用しています。

室内にたくさん置かれている植物も、空気の清浄化や温度調整・調湿に役立っています。UCoは今後、雨水の再利用を検討しているところです。

※参照:UCo

3 オランダの不動産ESG・SDGsの将来

オランダは、都市部では移民・移住によりまだまだ人口が増える見通しです。スマートシティへの取り組みや、水不足対策の推進が期待されます。

また、2050年までに全エネルギーを再生可能エネルギーで産み出すという目標を掲げており、不動産業界でも太陽光発電の設置が更に進む見通しです。また、EU本体のESGやSDGsに関する制度変更への対応も、オランダの重要要件の一つといえます。

3-1 都市部の人口増加に対する対応

オランダの首都であり最大都市アムステルダムでは、今後2040年までに15万人が移住すると試算されているなど、まだ都市の拡大が期待される地域です。アムステルダムは市内に限ると人口100万人に満たない都市なので、15万人増加のインパクトは決して小さくありません。

アムステルダム市議会は、「Structural Vision 2040」というスマートシティの開発ビジョンを掲げて、推進しています。スマートシティでは、オフィスと住宅コミュニティの複合施設や再生可能エネルギー設備の開発、公共交通機関の拡大などを計画しています。

一方で、人口増加によりさらなる水不足の加速や水の使いすぎに伴う地盤沈下などのリスクが伴います。すでに不動産業界の一部では課題意識が高まる水問題ですが、オランダにおいては、さらに他の地域より水に関する環境保護に取り組む優先度が高いと考えられます。

3-2 2050年までに全エネルギーを再生可能エネルギーから産出する目標

オランダでは、2030年までに太陽光と風力による発電量を最低35テラワットに引き上げ、2050年にはすべてのエネルギーを再生可能エネルギーから産出する計画を掲げています。

政府としては、近年、発電量4.5ギガワット~の洋上風力発電を導入するなど、洋上風力発電の導入に積極的です。不動産業界では、建物の建設・リノベーションに伴う太陽光発電パネルの設置が、今後更に積極的に進められる見通しです。

※参照:Government of the Netherlands「Central government encourages sustainable energy

3-3 EU全体の情報開示の法制度化への対応

EUは全体としてESG・SDGsに対する取り組みに積極的な地域で、近年ではEUタクソノミーや企業サステナビリティ報告指令(CSRD)など、サステナビリティ関連の情報開示を法制度化する動きがみられます。EUでこれらの制度が確立すれば、一定期間の内にオランダ政府がそれぞれの規制に合う形で法整備を進めなければなりません。

今後、オランダの企業ではサステナビリティ関連の非財務情報の開示が実質的に欠かせないものとなり、対応事項が増えてくるものと予想されます。

不動産業界においては、環境・社会に配慮した物件による経営が求められるだけでなく、化石燃料の抑制や再生可能エネルギーの積極的な活用、地域コミュニティへの貢献などに関する定量的・具体的な情報開示が求められるでしょう。

4 まとめ

オランダは、ESG・SDGsに対して積極的な取り組みを示す国の一つで、不動産業界もその潮流に乗って貢献を進めています。特に、廃材などを積極利用することによるサーキュラーエコノミーの追求や、水不足対策や自然素材を活用することによる空調使用の抑制などが特徴的です。

オランダが属するEUと連携する形で、今後もさらにESG・SDGsに関する取り組みが積極的に進められるでしょう。特に、2050年までに全てのエネルギーを再生可能エネルギーから産出するという意欲的な目標の達成に向けた取り組みには要注目です。

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