SBIとアスエネの「カーボンクレジット取引所」が開設 特徴と今後期待されるものとは
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 「Carbon EX」とは
1-1.「Carbon EX」の概要
1-2.SBIホールディングス株式会社とは
1-3.アスエネ株式会社とは
2.「Carbon EX」の特徴 - 3.今後期待されるもの
3-1.国内ボランタリークレジット市場の発展
3-2.海外クレジットへのアクセス
3-3.環境意識の高まり - 4.まとめ
2023年10月4日、SBIホールディングス株式会社とアスエネ株式会社が共同設立したCarbon EX株式会社が、カーボンクレジット・排出権取引所のサービスをスタートしたことが明らかになりました。
この取引所では、国内外の幅広いカーボンクレジットおよび排出権が取り扱われる予定だということですが、このように日本の大手金融機関グループがカーボンクレジットおよび排出権取引所のローンチを表明することは日本で初の事例であるため、すでに大きな話題となっています。
そこで今回は、SBIとアスエネによる新たなカーボンクレジット取引所「Carbon EX」について、その概要や特徴、また今後期待されるものを詳しく解説していきます。
1.「Carbon EX」とは
1-1.「Carbon EX」の概要
Carbon EXとは、SBIホールディングス株式会社とアスエネ株式会社によって共同設立されたCarbon EX株式会社が提供する新しいカーボンクレジット・排出権取引所のサービスです。このサービスは、海外および日本の森林、自然由来のカーボンクレジット、二酸化炭素回収・貯留技術、再生可能エネルギー、省エネルギー関連のカーボンクレジットを取り扱います。Carbon EXは、創出事業者や供給家(セラー)とトレーダーや企業などの需要家(バイヤー)が参加するプラットフォームを提供し、ボランタリーカーボンクレジット、J-クレジット、非化石証書など国内外の幅広いカーボンクレジットおよび排出権の取引をサポートします。
Carbon EX株式会社の経営陣には、業界に精通したエキスパートが集結しております。共同代表取締役兼Co-CEOの竹田峻輔氏はSBIグループでの外国為替やデリバティブ取引、経営企画業務、M&A実行、PMI活動の経験を持ちます。また、同じく共同代表取締役兼Co-CEOの西和田浩平氏は、三井物産での日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業投資・M&A担当後、アスエネ株式会社を創業し、CO2排出量可視化クラウドサービス「アスエネ」をリリースした経験があります。
1-2.SBIホールディングス株式会社とは
SBIホールディングス株式会社とは、オンライン証券・銀行・保険などの金融サービス事業を中心とした事業展開を行っている国内の金融持株会社のことを指します。
最近では、2023年3月期より「金融サービス事業」、「投資事業」、「資産運用事業」、「暗号資産事業」、「非金融事業」という5事業へと事業内容を変更し、「金融を核に 金融を超える」というスローガンを掲げ、先進テクノロジーを活用した商品およびサービスの改善や新たなビジネスの創出に向けて注力しています。
また、SBIホールディングスでは環境問題の解決に向けた取り組みも積極的に実施しており、SDGsで掲げられている目標などを踏まえて優先的に取り組むべき課題の特定を行った「SBIグループのマテリアリティ」を策定するなど、グループ全体でサスティナブルな経営を目指しています。
なお、今回のCarbon EXのローンチに関して、SBIホールディングス代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏は、地球温暖化に起因する自然災害の増加は甚大な人的被害や経済損失をもたらすリスクとなっており、それぞれの企業においてさらなる気候変動対策が求められている中、カーボンクレジットへの注目は今後より一層高まってくると語っています。
また、そんな中、当該分野で知見を有するアスエネ株式会社と、多岐にわたる金融サービス事業を手がけ、私設取引システム(PTS)運営の知見・ノウハウも有するSBIグループの知見や専門性を融合し、新たなカーボンクレジット・排出権取引所のローンチに取り組むことによって、事業を通じた気候変動対策とサステナブルな社会の実現に貢献するとともに、国家目標である2050年カーボン・ニュートラルの実現に寄与していきたいと説明しています。
1-3.アスエネ株式会社とは
アスエネ株式会社とは、2019年10月に設立された次世代サステナブル経営支援企業のことを指します。アスエネでは「次世代により良い世界を」というミッションを掲げ、日本や世界でグリーンテクノロジーを活用した事業を展開することによって、自分たちの信じる世界の実現に果敢に挑戦していくとしています。
また、具体的な事業内容としては、CO2排出量の見える化・削減・報告クラウドサービスである「アスエネ」や、持続的なサプライチェーン調達のためのESG評価クラウドサービス「アスエネESG」の提供を行うなど、企業の脱炭素に向けたワンストップソリューションを展開しています。
なお、今回のCarbon EXのローンチに関して、アスエネ代表取締役CEO兼Carbon EX共同代表取締役Co-CEOの西和田浩平氏は、世界的なNet Zeroとカーボンクレジット取引増加の大きな流れの中、広大なグループネットワークと取引所運営の豊富な経験とノウハウをもつ大手金融機関のSBIホールディングスと共に新会社を設立することができ大変光栄であると語っています。
また、企業のクレジット取引増加による新しい金融の形をつくることによって、各国の規制に基づく炭素税の負担を減らし、CO2排出量の吸収・除去・削減にインセンティブを付けることができるため、社会の構造的な変革にもつながっていくと確信していると説明しています。
2.「Carbon EX」の特徴
ここでは、「Carbon EX」の特徴について詳しく解説していきます。
1.クレジットの種類が豊富
前述した通り、Carbon EXでは世界の幅広いクレジットを取り扱っています。
具体的には、民間企業やNGOなどの民間セクターが主導し運営している「ボランタリーカーボンクレジット」や、経済産業省、環境省、農林水産省が運用する、日本のクレジット認証制度「J-クレジット」、また非化石証書など、さまざまなクレジットの販売や購入が可能となっています。
また、現時点ですでに35種類のクレジットおよび非化石証書が取り扱われることが発表されているほか、今後は「二国間クレジット制度(JCM)」やESG商品なども取り扱う予定だということで、その動向に大きな注目が集まっています。
2.高い信頼性
Carbon EXでは、KYC(本人確認手続き)などの審査プロセスを実施するほか、ハイクオリティなボランタリーカーボンクレジットを取り扱う取引所として、クレジットの評価機関・企業と協力することで、クレジットのクオリティを担保するとしています。
また、大手金融機関グループのSBIグループが経営に参画していることから、これまでに培われたノウハウを駆使することによって、高い信頼性を保った運営を実現しています。
そのため、カーボンクレジットの取引を行ったことがないという初心者のユーザーであっても、比較的安心して利用することができると言えるでしょう。
3.クレジットの創出や購入コンサルティングの提供
Carbon EXでは、単なるカーボンクレジットの取引サービスだけでなく、国内外におけるボランタリーカーボンクレジットの創出事業者に対するサポートや、それぞれのユーザーの目的およびニーズに合わせたクレジットの種類解説・提案を実施するとしています。
また、自社のクレジットオフセットの取り組みを外部に公表することによって、PRやブランド力の向上をサポートしていくということです。
このほか、Carbon EXで売買したカーボンクレジットは、CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービスの「アスエネ」とリンクさせることによってユーザーの利便性を高めるとともに、カーボンクレジットを用いた適切なオフセットの提案およびコンサルティングサービスの提供も可能になると説明しています。
このように、Carbon EXはカーボンクレジットの創出から調達までを幅広くサポートするサービスとなっており、今後は、他産業のシステムとのAPI連携を行うことによって、カーボンクレジットの社会実装に取り組んでいくということです。
4.直接的な取引が可能
これまで、日本におけるカーボンクレジットの取引は、国内の「J-クレジット」や非化石証書に限られた相対取引が中心となっていました。
その一方で、CarbonEXの取引所およびマーケットプレイス型プラットフォームを活用することによって、「セラー」である国内外のクレジット創出事業者と「バイヤー」である複数の購入者が、多岐にわたる目的やニーズに沿った売買を行えるようになるということです。
そして、これによってカーボンクレジットの関連事業などの新たな産業を創出する起点にもなると期待されています。
5.すでに多くの企業が参加登録済み
現在、Carbon EXのプラットフォームの事前登録数はすでに300社に到達しており、登録クレジットについてはおよそ130万トンを超えていることが明らかになっています。
またこのほか、10月4日からはセラーの本登録、10月下旬からはバイヤーの本登録がスタートされ、その後は売買を順次スタートしていく予定とのことです。
6.パートナーシップの締結
パートナーシップについても、「三井住友フィナンシャルグループ」と「MOU(Memorandum of Understanding:基本合意書)」を締結し、カーボンクレジットおよび環境価値取引などについて、広範囲にわたる協力体制を検討していくことを明らかにしています。
また、「SBI新生銀行」ともカーボンクレジット関連事業で協力することについて合意しているということで、今後の展開に注目が集まっています。
さらに、カーボンクレジット格付け機関として知られるイギリスの「BeZero Carbon社」ともすでに契約を結んでいるため、今後はCarbon EXのプラットフォーム上においてクレジット格付け情報を見える化し、クレジットの比較検討などに有益なインフォメーションを提供していくということです。
7.いつでもアクセスが可能
Carbon EXは、24時間・365日、いつでもどこでも世界のカーボンクレジットにアクセスすることができるため、取引を行う面でかなり利便性の高いサービスと言えるでしょう。
また、日本語および英語版の両方が用意されているため、日本国内だけでなく海外のプレイヤーも気軽に利用することができるようになっています。
3.今後期待されるもの
3-1.国内ボランタリークレジット市場の発展
現在、カーボンクレジット市場が急激な盛り上がりを見せており、世界ではすでにいくつもの巨大なマーケットが誕生しています。
特に、民間セクターが主導し運営している「ボランタリークレジット」を取り扱う「ボランタリーマーケット」が注目を集めており、年々その需要と取引規模を拡大しています。
しかしその一方で、日本国内においてはJ-クレジットなどの国や地方自治体によって発行されている「レギュレタリークレジット」が取引の中心となっており、ボランタリークレジットを売り手と買い手が直接的に取引できるようなマーケットはまだまだ発展途上であると言えます。
そんな中、世間的にも信頼性の高い大手金融機関グループである「SBIホールディングス」がカーボンクレジット・排出権取引所を開設するということで、今後、日本国内におけるボランタリークレジットの取引量がさらに拡大し、市場が大きく発展を遂げることが期待されています。
3-2.海外クレジットへのアクセス
これまで、日本国内から海外のボランタリークレジットを購入することは、操作上の問題などから比較的ハードルが高いとされてきました。しかし今回、Carbon EXでは、日本国内のみならず海外のボランタリークレジットも数多く取り扱われるということで、これまで難しかった海外のクレジット購入がより手軽にできるようになると期待されています。また、日本の大手金融機関グループが運営しているということから、海外のクレジットであってもより安心して取引を行うことが可能です。
このように、Carbon EXのローンチによって、国内から取引できるクレジットの種類が格段に増えることが期待されており、さらに柔軟なクレジット取引が実現できると見られています。
3-3.環境意識の高まり
Carbon EXがローンチされたことによって、今後はより多くの企業がカーボンクレジット市場に参入することが予想されており、これに伴って各企業の環境意識がさらに高まることが期待されています。実際、2050年のカーボンニュートラルの達成に向けて、世界的にはカーボンプライシングによる排出者の行動を変化させる潮流が高まっているほか、ESG投資など、企業にとっても環境への配慮がかなり重要なポイントとなってきています。
そんな中、Carbon EXによって牽引される国内のカーボンクレジット市場の盛り上がりとともに、それぞれの企業の環境への取り組みがますます活発化していくと見られています。また、Carbon EXは日本およびアジアにおいて、カーボンクレジットをベースとした新たな産業の創出に尽力していくと語っており、その新たな展開にも大きな注目が集まっています。
4.まとめ
今回、「SBIホールディングス株式会社」と「アスエネ株式会社」が共同で設立した「Carbon EX株式会社」が、新たにカーボンクレジット・排出権取引所のサービス「Carbon EX」をスタートすることを明らかにしました。このように、日本の大手金融機関グループがカーボンクレジット・排出権取引所の開設を表明することは日本初の事例であるということで、各業界からはすでに大きな注目を集めています。なお、Carbon EXでは国内外の各種カーボンクレジットおよび排出権が取り扱われる予定となっており、売り手と買い手は多岐にわたる目的やニーズに沿った売買を行うことができるということです。
カーボンクレジットに対する世界的な需要の高まりにより、今後もその市場規模は拡大していくと見られており、今回のCarbon EXのローンチによって日本国内のマーケットがさらなる盛り上がりを見せることが期待されています。
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