防災テック・気候テックのスタートアップ企業は?6社を紹介

AI・ビッグデータ・IoTなど先端テクノロジーを活用した防災テックや気候テックのスタートアップ企業が日本でも数多く立ち上げられています。

そこで、この記事では防災テックや気候テックに取り組むスタートアップ企業6社についてご紹介するので、防災・気候分野のビジネスやスタートアップに関心のある方は参考にしてみてください。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 防災テック・気候テック企業が担う社会的役割
    1-1 防災テックとは
    1-2 気候テックとは
    1-3 防災テック・気候テック企業の役割
  2. 防災テックのスタートアップ企業
    2-1 Arithmer
    2-2 Laspy
    2-3 テラ・ラボ
  3. 気候テックのスタートアップ企業
    3-1 アスエネ
    3-2 booost technologies
    3-3 ジカンテクノ
  4. まとめ

1 防災テック・気候テック企業が担う社会的役割

世界中で防災や気候変動に対する取り組みが進められる中、日本でも多くのスタートアップ企業が最新テクノロジーを活用して防災テック・気候テックを通じた社会的課題の解決に取り組んでいます。まずは、防災テックや気候テックの概要とそれぞれの企業が担う社会的な役割から確認していきましょう。

1-1 防災テックとは

“防災”と“テクノロジー”をかけ合わせた造語の「防災テック」とは、先端テクノロジーなどを活用して防災や減災などに取り組むビジネスモデルです。AIやビッグデータ、IoTなどの先進的なテクノロジーを駆使して新たなサービスや製品などを生み出す「X-Tech(クロステック)」と呼ばれるビジネス分野の一つとして知られています。

世界でも日本は自然災害の多い国として有名です。一般財団法人国土技術研究センター(JICE)「自然災害の多い国 日本」によると、2003年~2013年に全世界で発生したマグニチュード6以上の地震のうち2割近くは日本で起こっています。また、内閣府「世界の火山」によると、全世界で約1,500カ所ある活火山のうち1割弱の111カ所の火山が日本にあり、日本が自然災害大国と言われる背景が分かります。

また、気候変動による影響で、以前と比べて豪雨災害や土砂災害などの被災リスクも高くなっています。今後はさらに豪雨災害や土砂災害の発生回数が増えたり激甚化したりすることが想定され、防災のニーズも高くなっていくと考えられます。

一方、過去に多くの災害を経験していることから防災や減災に関する取り組みも官民で進められています。2020年2月には内閣府が「防災×テクノロジータスクフォースを設置して議論が行われるなど、防災策におけるテクノロジーの活用を進める施策に積極的です。(※参照:内閣府「「防災×テクノロジー」タスクフォースのとりまとめについて」)

このような背景から日本では多くの防災テック企業が様々な取り組みを進めており、ビッグデータやAIを駆使した津波予測や浸水予測システム、SNSを活用した災害対応など、防災から減災まで幅広い視点で様々な事業が展開されています。

1-2 気候テックとは

気候テックとは、防災テックと同様にテクノロジーの活用によって気候変動問題の解決などに役立つ新しいサービスや製品を生み出すビジネス分野です。CO2排出量削減など地球温暖化対策の課題に対してエネルギーやインフラ、農林水産業などの幅広い対象領域で事業が展開されています。

気象庁「世界の年平均気温」によると、世界の平均気温は統計を開始した1891年から上昇傾向を続けており、長期的には100年あたり0.76℃の割合で上昇している状況です。世界各地で発生している豪雨や洪水、干ばつ、山林火災などは平均気温の上昇など気候変動に起因するところが大きいと考えられています。

そのような中、2015年9月の国連サミットで全ての加盟国が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に合意しました。その中で掲げられた持続可能な開発目標(SDGs)の一つに「気候変動」が含まれていたこともあり、その後、世界中でCO2排出量削減などの気候変動問題に取り組む動きが加速しています。

日本でも多くの気候テック企業が設立される中、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた気候変動対策に対する様々な政策も打ち出されています。2020年度の第3次補正予算では政策効果が大きく社会実装まで長期間の取り組みが必要な領域を支援する2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」が創設されました。

また、2023年5月にはカーボンニュートラルと経済成長を実現するための新たな支援策「GX推進法」が成立し、脱炭素化と収益性向上に役立つ革新的な技術開発や設備投資に今後10年間で20兆円規模の支援、今後10年間で150兆円の投資が発表されています。

※画像引用:経済産業省「GX実現に向けた基本方針(案)について

これらの政策的支援の後押しなども受けながら、気候テック企業はAIやビッグデータ、革新的な製造技術などを駆使してCO2排出量の削減など気候変動問題への取り組みを進めています。

1-3 防災テック・気候テック企業の役割

世界中から政財界や様々なNGOが参加する国際的独立非営利団体の世界経済フォーラム(WEF)は、2024年1月10日に「第19回グローバルリスク報告書2024年版」を発表しました。この報告書ではグローバルリスクのランキングが発表されており、異常気象が今後10年間の長期リスク1位、今後2年間の短期リスクとしても2位にランク付けされています。

ほかにも、気候変動問題などに関連した地球システムの危機的変化が長期リスクの2位、大気や土壌などの汚染が長期リスク・短期リスクともに10位にランク付けされるなど、災害や気候問題への対応は世界的な課題として取り上げられました。

このような中、防災テック・気候テック企業は社会的な存在意義が高まっており、政府の支援策なども後押しに自治体や研究機関、大企業などとも連携しながら様々な社会課題の解決に貢献する動きが加速しています。

例えば、仙台市では東日本大震災で大きな被害が出たことを受けて「仙台BOSAI-TECHイノベーションプラットフォーム」が立ち上げられました。このプラットフォームでは、防災や減災に関心のある企業や自治体、研究機関が参加し、テクノロジーを活用した防災関連事業の創出や社会実装を進めています。

また、三菱地所(8802)は国内で初めて気候テックに特化したイノベーション拠点を2024年秋に開設すると発表しています。気候変動対策に取り組むスタートアップやベンチャーキャピタル、金融機関、行政、NPOなどの各担い手が有機的に連携してイノベーションを推進することで持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。(※参照:三菱地所株式会社「ニュースリリース(2023年12月18日)」)

このように、防災テック・気候テックは利益を生み出すと同時に社会貢献を果たす役割が大きいと期待されている事業分野です。政府などの支援策を背景に自治体や研究機関などと連携しながら防災・減災や気候変動対策などにイノベーションをもたらす新たな企業の誕生が期待されています。

2 防災テックのスタートアップ企業

ここからは、様々な事業領域で活躍している防災テックのスタートアップを3社ご紹介します。

2-1 Arithmer

Arithmer株式会社は2016年9月1日に設立された防災テックのスタートアップです。代表取締役の大田佳宏氏は東京大学大学院数理科学研究科の客員教授を務める数学者で、数学で社会課題を解決することをミッションとしています。

Arithmerは、風力・インフラ・物流などの分野に数学のコア要素技術を取り入れながら顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)に寄り添ったAI開発を行っている点が特徴的です。

Arithmerの開発した「浸水AI」は、複数の浸水実測値などのデータから河川氾濫時の浸水高推定が高速でできる流体予測システムで、数多くのシミュレーションが必要になる河川氾濫時の防災対策に役立ちます。

「浸水AI」は、2021年10月6日に開催された防災テック・気候テックの取り組みを紹介する第1回の「防災テック・気候テックスタートアップカンファレンス」で紹介されたほか、2023年6月22日開催の行政課題解決に向けたピッチイベント「Smart City OSAKA pitch 2023」で優秀賞を受賞するなど、今後期待される技術として評価されています。

※出典:Arithmer株式会社

2-2 Laspy

株式会社Laspyは2021年2月5日に設立されたばかりの防災テック企業です。Laspyは、「いつ、どこにいても守られている都市機能を当たり前に」をミッションとして、災害時の防災備蓄の保管管理などを手掛ける備蓄品のワンストップサービスを展開しています。

Laspyが手掛ける「あんしんストック」は、保存食や衛生・救護用品、通信機器、光源などの備蓄品の用意や管理、保管場所、災害発生時の備蓄配布などを全てお任せできるサービスです。食料品の賞味期限問題や保管場所不足などの問題に悩む建物やエリア、自治体などの防災対策に役立つのが特徴です。

Laspyは、「防災テック・気候テックスタートアップカンファレンス」の第1回~第3回の全てに登壇しており、今後も効率的な防災備蓄マネジメントや新しい防災都市インフラの構築に役立つ革新的なサービスとして期待されています。

※出典:株式会社Laspy「あんしんストック

2-3 テラ・ラボ

株式会社テラ・ラボは2014年3月24日に設立された無人航空機の設計や開発などを営む中部大学発のスタートアップ企業です。2019年3月から研究開発拠点を福島県南相馬市におき、東日本大震災の復興に寄与するため、「ロボットのまち南相馬」で災害支援を主とした研究開発を進めながら、雇用創出と産業振興を目指しています。

テラ・ラボは、長距離無人航空機や航空リモートセンシングなどの技術を活用しながら災害対策のDXを進めています。これまで、2019年10月の東日本台風(台風19号)や2021年2月13日に宮城県と福島県で最大震度6強を観測した福島県沖地震の被害状況調査などで自治体と連携した実証事業を行った実績もあります。

テラ・ラボは、第2回「防災テック・気候テックスタートアップカンファレンス」にも登壇しており、今後は大規模な災害に備えて航空機のリモートセンシングを活用した二次災害の予防に寄与する技術活用などを実装していくことが発表されています。

※出典:株式会社テラ・ラボ

3 気候テックのスタートアップ企業

続いて、気候変動問題などに取り組む気候テックのスタートアップ企業を3社ご紹介します。

3-1 アスエネ

アスエネ株式会社は2019年10月2日に設立された企業です。CO2排出量を可視化するクラウドサービス「アスエネ」を運営しており、脱炭素に向けて企業や自治体の温室効果ガス排出量の算定・削減などを支援する事業を行っています。

「アスエネ」は、AIを活用した画像アップロードなどの基本機能を備えており、サプライチェーン全体のCO2排出量の算定や削減の計画策定などカーボンニュートラルに向けた経営に役立つ機能もあります。2021年8月のサービス開始以来、導入社数は4,000社を超えており、ESG評価のクラウドサービス「アスエネESG」の提供も開始しています。

このほか、令和4年度環境スタートアップ大賞受賞やForbes JAPANの「2024年注目の日本発スタートアップ100選」に選出されるなど、気候テック分野を牽引する一社となっています。

※出典:アスエネ株式会社

3-2 booost technologies

booost technologies株式会社は2015年4月15日に設立された企業です。企業の長期的な持続可能性を重視しながら経営とESGを両立するサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を可能とする「booost Sustainability Cloud」などのサービスを提供しています。

「booost Sustainability Cloud」は、SXやサステナビリティ経営のためのプラットフォームであり、サプライチェーン全体でのCO2見える化や削減だけでなく、水や廃棄物の見える化、人的資本やガバナンスも含めたESG開示項目の見える化によって効率的なESG経営が可能となるサービスです。

CO2排出量の算定や削減を可能とする「booost GX」やサプライチェーンのCO2削減状況が見える化できる「booost Supplier」など、同サービスのアプリケーションを目的に導入する企業も増えており、2023年10月にはファッション大手のTSIホールディングスがサービスの利用を開始しています。

※出典:booost technologies株式会社

3-3 ジカンテクノ

ジカンテクノ株式会社は2016年1月29日に設立された企業です。農業で発生する廃棄物(農業残渣)を原材料としてバイオマス由来の高機能カーボンなどの素材開発や製造販売を行っています。

ジカンテクノが主な素材として利用するのは、米を脱穀する際に大量に発生するもみ殻です。その多くはたい肥や家畜用の資材として活用されていますが、約3割は廃棄されているのが現状です。

ジカンテクノは、もみ殻などを原料にシリカ素材などを抽出する技術開発に成功しており、本来廃棄されるはずの農業残渣を活用し、鉱物資源や化石資源の素材と比較してCO2排出量の少ない素材で製造業向け素材の製造を行っています。

農家にとって農業残渣の処分は経済的負担が大きい一方、ジカンテクノの事業は農家の負担を軽減する上、生育時に二酸化炭素を吸収する植物素材の活用となることから高く期待されています。

※出典:ジカンテクノ株式会社

まとめ

地震や台風、洪水などの自然災害が多い日本では、多くの防災テック・気候テックの企業が設立されています。これらのスタートアップ企業には国や自治体、地域社会と連携しながら持続的に事業を行う社会的役割が求められており、国も財政面などで様々なサポートを行っています。

今後も、AIやビッグデータなど先進的なテクノロジーの活用によって様々なスタートアップ企業が革新的なサービスや製品を生み出すことが想定されるため、防災・気候分野のビジネスに関心のある方やスタートアップへの投資に興味のある方は注目してみてください。

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