ユニコーンだけじゃない 「ズーロジー(動物学)」から読み解くスタートアップの多様化
ひと昔前までスタートアップの頂点に君臨していたユニコーン企業(※評価額10億ドル/約1,568億7,000万円以上の非上場スタートアップ)ですが、市場環境の変化により厳しい現実に直面しています。ユニコーン企業への投資は2021年をピークに著しく縮小し、2023年には580億ドル(約8兆4,260億円)と74.5%減少しました。
参照:Crunchbase「Investors Who Amassed The Most Unicorns Stepped Way Back In 2023」
このような中、新たなポテンシャルとして世界の投資家が目を向けているのは、ゼブラ企業やドラゴン企業、キャメル(駱駝)企業、ガゼル企業、ピッグ企業といった他の「動物」です。本稿では、「スタートアップ・ズーロジー(Zoology:動物学)」と称し、各スタートアップの特徴と事例を解説します。
※本記事は2024年5月28日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 市場淘汰進むユニコーン
- スタートアップ・ズーロジー
2-1.ゼブラ企業
2-2.ドラゴン企業
2-3.キャメル企業
2-4.ガゼル企業
2-5.ライノ企業
2-6.ピッグ企業
2-7.ベア企業
2-8.その他の動物・昆虫 - まとめ
1.市場淘汰進むユニコーン
米エンジェル投資家アイリーン・リー氏が「ユニコーン企業」という用語を生み出してから10年以上が経過し、スタートアップを取り巻く環境は大きく変貌を遂げました。当初は米国に39社しか存在しなかったユニコーン企業ですが、過去10年間に渡り投資家の資金が流入した結果、現在は1,500社を上回っています。
世界中に存在する1億5,000社以上のうち、ユニコーン企業へ成長するのはその中の約8%(※筆者算出)のみであり、依然として狭き門です。しかし、狭き門を突破してユニコーン企業に成長したからと言って、成功を維持出来る保証はありません。
ユニコーンというステイタスはあくまで「評価(予想)」に基づくものであり、必ずしも10億ドル相当の収益を上げている訳ではないためです。本当のチャレンジは資金調達後に始まります。
参照:Microsoft「Microsoft Supports the Thriving Startup Ecosystem in the Adriatic Region」
参照:Tech Crunch「Welcome To The Unicorn Club: Learning From Billion-Dollar Startups」
参照:CB Insights「The Complete List of Unicorn Companies」
破たんした米コワーキングスペースWe Work(ウィー・ワーク)の例を見るまでもなく、成果を出せないユニコーン企業は事業閉鎖や売却を余儀なくされるか、なまじ生き残っても成長不可能な「ゾンビユニコーン」と化します。
参照:The New York Times「From Unicorns to Zombies: Tech Start-Ups Run Out of Time and Money」
参照:Crunchbase「Investors Who Amassed The Most Unicorns Stepped Way Back In 2023」
近年は世界情勢的・経済的不確実性などの市場環境要因に加え、真の価値を創造できるスタートアップを投資家が吟味していることにより、市場淘汰が進んでいます。一部のユニコーン企業が置かれている苦境は、このような潮流を反映しているのでしょう。
2.スタートアップ・ズーロジー
市場環境が目まぐるしく変化する中、投資家が関心を向けているのがスタートアップ・ズーロジーです。
ユンコーンの台頭により誤解が生じている可能性があるものの、実際には全てのスタートアップがベンチャーキャピタル(VC)の支援を求めている訳でも、ユニコーンになることを目指している訳でもありません。以下、どのような動物や昆虫がいるのか見てみましょう。
<table summary="スタートアップ・ズーロジー
※Shiftedなどを参考に筆者作成
2-1.ゼブラ企業
ゼブラ企業は、サステナビリティ意識の高まりと共に、ユニコーンと対照的な存在として注目されています。社会的価値観(社会貢献・共存共栄・コミュニティへの関与など)と財政的利益(高収益・株主利益など)の、相反する2つを同時に追求することから、白黒模様のゼブラに例えられています。
ゼブラ企業として成功しているスタートアップの一つが、Warby Parker(ワービー・パーカー)です。同社はD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー ※製造業者が直接消費者に販売するビジネスモデル)を介して低価格化を実現する一方で、顧客がメガネを1本購入するごとに、メガネが必要なのに購入出来ない人々に無料で1本配布する社会還元システムを導入しています。2021年の上場では、評価額が45億ドル(約7,059億5,500万円)に達しました。
参照:Warby Parker HP「Warby Parker」
参照:Forbes「Warby Parker IPO: What You Need To Know」
2-2.ドラゴン企業
ドラゴン企業は「ユニコーンに代わるスタートアップの新星」として、VCの注目を集めているスタートアップです。
ドラゴン企業の評価額は、ユニコーン企業やデカコーン企業(※評価額100億ドル/約1兆4,776億円以上の企業)を上回る120億ドル(約1兆7,719億円)以上あります。高い資本価値と起業家精神、革新的な事業戦略を有し、急成長と安定性を長期間維持できるという強みがあります。
一方で、予期せぬ損失への耐久力も高く、ハイリスク・ハイリターンとなる可能性があります。その結果、グローバル企業へと成長を遂げるポテンシャルを秘めています。利益率及び株主への配当金も高い傾向があるため、投資家にとっては魅力的な投資対象です。
参照:Venture Nox「Unicorns vs Dragons – Why breed Dragons in 2023?」
それ故に希少性も高く、2022年のデータによると米国のStripe(ストライプ)やSpace X(スペースX)、中国のByteDance(バイトダンス)などを含め、世界に24社しか存在しませんでした。
参照:AXIOS「The number of startup “dragons” has grown」
2-3.キャメル企業
キャメルの由来は、砂漠のような厳しい環境下で長時間水を飲まずに生き延びることが出来る、つまり競争の激しい環境下においても、外部からの投資に依存せずに存続できることに起因します。キャメル企業はユニコーン企業のような話題性には欠けるものの、企業が成功するための基本的な指標に沿って着実に成長して行く点が特徴です。
持続可能性、回復力、顧客・従業員・パートナーに焦点を当てた価値の創造、コミュニティの育成、相互成長を促すネットワーク作り、効率的かつ収益性の高い成長を優先する点などがゼブラ企業と共通する一方で、自社ブランドの強化やターゲット顧客層の共感を得られるコンテンツ主導型アプローチを重視しています。
参照:Linkedin「The Rise of Camel Startups」
電子メール・マーケティング・プラットフォームMailchimp(メールチンプ)は、キャメル企業の成功例の一つです。同社はメルマガの作成や顧客エンゲージメントの追跡といった比較的シンプルなツールを提供することにより、堅実な成長を遂げ、2023年に120億ドル(約1兆7,719億円)で米金融ソフト企業Intuit(イントゥイット)に買収されました。
参照:Nasdaq「Why Investors Need to Ditch Unicorns for Camels to Withstand Today’s Economic Desert」
2-4.ガゼル企業
ガゼルは、俊敏でスピーディー、ずば抜けたスタミナを誇ります。近年は「ユニコーンになる可能性を秘めたスタートアップ」の代名詞として、VCを魅了しています。
ガゼル企業の概念は、経済学者のデヴィッド・バーチ氏が1987年に出版した著書『Job Creation in America: How Our Smallest Companies Put the Most People to Work(米国における雇用創出:どのようにして最も小さな企業が最も多くの雇用を生み出しているのか)』の中で定義されており、「基本収益が10万ドル(約1,568万円)以上で、前年比20%増というスピード成長を一定期間維持している高成長企業」「大量の新規雇用を創出する企業」を指します。
参照:Investopedia「Gazelle Company: What it is, How it Works, Examples」
ガゼル企業に該当するのは、かつてのGAFAM(Google・Apple・Facebook・Amazon・Microsoft)やInstagram(インスタグラム)、WhatsApp(ワッツアップ) 、Oculus(オキュラス)などがあります。Hurun Research Institute(胡潤研究院)の「フルン・グローバル・ガゼル指数」によると、2021年の時点で世界30カ国に525社のガゼル企業が存在しました。
参照:Hurun Research Institute「HURUN GLOBAL GAZELLE INDEX 2021」
2-5.ライノ企業
ライノ企業は、ライノが有する1本の角=1つのテーマに焦点を絞り、強靭な起業家精神で成功に向けて猛突進していく企業です。ズーロジーのカテゴリー中、最も野心的でタフです。競合を寄せつけず、その分野で比類なき成功を納めるポテンシャルをもつスタートアップです。
評価額10億ドル(約約1,568億8,200万円)以上という定義も含め、ユニコーンと共通点が多々あるものの、事業規模と収益性の成長により貪欲という特徴があります。
分かりやすい例は、検索エンジンを開発し続けたGoogle、OS開発に7年間を費やしたMicrosoft、世界最大のSNSの生みの親となったMeta(旧Facebook)、或いは収益性と持続的な成長に重点を置くことで成功したZoom Video Commumicationなどです。
参照:Medium「Rhino’s vs. Unicorn’s」
2-6.ピッグ企業
ピッグはクールなイメージからは程遠いものの、エコシステムの中で重要な役割を持つ動物です。
スタートアップで例えると、資金調達の手段としてクラウドファンディングなどの費用効果の高いソリューションを活用し、手頃なコストで革新的なアプリやゲームを開発し大手IT企業や競合に買収されることを最終目標とする企業を意味します。
代表的なピッグ企業は2015年にSnapchatに買収されたウクライナの写真加工アプリLooksery、2016年にMetaに買収されたベラルーシの動画セルフィ―アプリMasqueradeなどです。両社共に設立から1~2年のスピード買収となりました。
参照:Shifted「Is your startup a bear, a pig or a scarab?」
米クラウドファンディングKickstarter(キックスターター)で2012~2016年に渡り、総額4,000万ドルを調達し、Fitbit(フィットビット)に買収された米スマートウォッチ開発スタートアップPebble Technology(ペブル・テクノロジー)も伝説のピッグ企業です。
参照:MIT「How Pebble Is Killing It on Kickstarter」
参照:The Verge「How Pebble smartwatches are getting a second life」
2-7.ベア企業
ベア企業は経営の独立性を重視しており、外部からの資金を受け入れるより、自己資金で組織的な成長を維持するスタートアップです。当然ながら成功への道のりは厳しいものですが、その苦労が実を結んだ場合、株主などを経営に介入させることなく思い通りに事業を展開できるメリットがあります。
ベア企業の成功例はVCを一切受け入れずに1億ドル(約156億8,820万円)規模のビジネスに成長した米データ視覚化ソフト企業Tableau Software、評価額1,000億ドル(約14兆7,760億円)の大台に乗った米プロジェクト管理ツールBasecamp(キャンプ)などです。キャメル企業で紹介したMailchimpも自己資金で成長しました。
参照:Shifted「Is your startup a bear, a pig or a scarab?」
参照:Medium「Bootstrapping Brilliance: How MailChimp Thrived Without VC Funding」
2-8.その他の動物・昆虫
<table summary="その他の動物・昆虫
※Shifted、Linkedinを参考に筆者作成
3.まとめ
スタートアップには、多様なビジネスモデルや企業理念があります。一方で、成長のポテンシャルと時代の変化に対する適応能力、長期的な視野、有益なネットワーキング、失敗から学ぶ姿勢など、スタートアップが成功するための要素は共通しています。
スタートアップが競争の激しい市場を生き抜く手段を模索する中、投資家には真の価値があるスタートアップを特定するための洞察力が求められるでしょう。
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