サーキュラーシティを目指す蒲郡市で何が起こっているのか?〜BLUE WORK GAMAGORI 開催レポートを通じて〜
2021年11月にサーキュラーシティへ移行することを宣言した愛知県蒲郡市は、まちづくりの軸にサーキュラーエコノミーを据える。
2022年度には7つの重点分野・アクションプランの策定の後、6つの実証実験プロジェクトを採択し、2023年度はアクションの段階に入る。株式会社メルカリやパナソニック株式会社などとの連携から小学校でのコンポスト活動まで、サーキュラーシティ移行を宣言することで大小の共創事例が生まれつつある。
そんなサーキュラーシティ蒲郡の今を確認し未来像を具体化するサーキュラーシティカンファレンス「BLUE WORK GAMAGORI」が2024年2月に開催された。デザインやまちづくり視点から見るサーキュラーエコノミーに関する講義のほか、重点分野に近い領域で活動する企業によるピッチ、サーキュラー型共創の種を見つけるディスカッションの場などが設けられた。同カンファレンスの報告を通して、「サーキュラーシティ蒲郡の今」を見ていきたい。
「つながる 交わる 広がる サーキュラーシティ蒲郡」
2日間にわたって蒲郡クラシックホテルで開催された同カンファレンスは、サーキュラーシティ蒲郡のネクストプレイヤーを創出することを目的に、インプット・コミュニティ形成・アクションの3つの軸で構成。市内14者と市外41者(約70名)が参加した。
主催を代表して冒頭挨拶した鈴木寿明市長は、外部動向として国のサーキュラーエコノミー政策の進捗に触れつつ、同市のサーキュラシティへの歩みは着実に進んでいると評価した。
蒲郡市サーキュラーシティ推進室の羽田野裕昭室長は、これまでの蒲郡のサーキュラーシティへの歩みを説明するとともに、企業などのステークホルダーとつながることでサーキュラーシティへの取り組みを推進できると強調した。さらに、2023年11月にサーキュラーシティ蒲郡チャレンジフェスティバルを開催したことを報告。実際に、市民がサーキュラーエコノミーを知って学ぶ機会を設けたという。
企業と市民、行政と市民など異なるステークホルダーとの交わりと、市内だけではなく市外ともつながっていくことがサーキュラーシティ加速に向けて重要となる。そのきっかけづくりの場の一つがBLUE WORK GAMAGORIというわけだ。
電動トゥクトゥクに一般ごみのバイオマス発電の燃料資源化まで。「目に見える形」をつくる
同カンファレンスのハイライトの一つは、実証実験の視察・体験会だ。現在、2023年11月に採択された下記6つの実証実験プロジェクトが展開している。
トヨタコネクティッド株式会社 | 「まちなかモビリティ」推進実証 〜人・環境・社会にやさしい地域移動インフラの開発〜 |
日本特殊陶業株式会社 | CO2でつくる・つながるプロジェクト |
株式会社ダイセキ | 一般廃棄物の燃料化によるグリーン発電 |
サンローズ株式会社 | 縫製工場で排出される廃棄レース生地を利用したウェディングドレス製作 |
Curelabo株式会社 | みかんの剪定枝等未利用資源をアップサイクルしたサーキュラーエコノミーの実現 |
株式会社サニーライフサポート | お昼寝ふとんのアップサイクルから始まるサーキュラーエコノミーの実現 |
そのうち、同イベントでは、トヨタコネクティッド株式会社の「まちなかモビリティ」推進実証 〜人・環境・社会にやさしい地域移動インフラの開発〜」と、株式会社ダイセキの一般廃棄物の燃料化によるグリーン発電の現場を視察した。
「まちなかモビリティ推進実証」(「まちなかモビリティ」運営事務局、トヨタコネクティッド株式会社、一般社団法人蒲郡市観光協会、蒲郡市サーキュラーシティ推進室)
蒲郡市民を対象とした意識調査では、交通に関する項目が多く「利便性」に対するニーズが高いことがわかっている。そこで、同実証は「自転車以上・自動車未満」「徒歩では遠く自動車では近い」という条件を満たす移動手段「エシカルMaaS」を提供することで、市民や観光客の「足」の多様化を進めることに貢献する。実証実験(2024年2月1日〜29日実施)中、市民や観光客は、市内4箇所に設置した8台の電動トゥクトゥクと2台の電動アシスト3輪自転車の計10台を無料で利用できる。ここでのポイントは「エコな移動手段」という価値創出だけではなく、利用者が「自分は社会に貢献できるのだ」という自己肯定感を持つことを積み重ね、市民のウェルビーイング増幅を目標として設定されていることである。利用者のCO2排出削減量ランキングの公表はその仕掛けの一つ。筆者が実際に試乗し感じたのは、公道を走ることで、他者からの目線を感じたことである。「目に見える形」を示していくことで、一見難しく見える「サーキュラーシティ」の認知が広がる要素になるのではないだろうか。
まちなかモビリティ推進実証結果
- 実証期間:2024年2月1日から29日まで
- 利用登録者数:324人
- 総利用回数:361回(電動トゥクトゥク・電動アシスト3輪自転車合計)
- 総走行距離:5,905 km(電動トゥクトゥク・電動アシスト3輪自転車合計)
- 総CO2排出削減量:767.65 kg-CO2(一般的な乗用車での移動と比較した場合)
出典:サーキュラーシティ蒲郡
「一般廃棄物の燃料化によるグリーン発電」株式会社ダイセキ
蒲郡市の一般廃棄物から燃料を製造し、バイオマス発電の燃料として利用することを目指す実証実験。燃えるごみを破砕機にかけて選別。選別機で軽量物と重量物を分け、金属を取り除き、最終分別後に実証実験の軽量物を取得する。その後、油温減圧乾燥施設に原料を入れ、脱水と乾燥をさせて固形燃料とする。同社は今後実証実験で品質チェックと商品化の可能性を検証。現在海外からの輸入に依存している木チップやパームヤシ殻の代替として利用可能な燃料の製造を目指す。
サーキュラーシティづくりに向けた先駆者から学ぶエッセンス
講義パートでは、蒲郡や参加者にとって、サーキュラーエコノミー移行に向けたヒントやエッセンスが多く得られた。
多摩美術大学教授の永井一史氏は、「デザイン視点で考えるサーキュラーエコノミー」というテーマで講演。「そもそもデザインとは何か」について考えるところからスタートし、『人から考えること』『ありたい姿から考えること』の視点からサーキュラーエコノミーが広がっていくのではないか」と、人起点からのサーキュラーデザインの重要性を訴えた。
株式会社GOODTIME代表取締役 明山淳也氏は、同社が運営する日本初ゼロエネルギーとして知られる「ITOMACHI HOTEL 0」の事例を中心に説明。そのなかで同氏は、経済効率や前例主義、短期目線など事業で陥りがちな視点からの脱却にはストーリーが欠かせないことを強調した。サーキュラーシティに重要な「人の巻き込み」にこの視点が重要になるという示唆でもあろう。
株式会社ブリヂストン Gサステナビリティ戦略統括部門統括部門長の稲継明宏氏は、「タイヤを売って終わるだけだと価格競争に陥ってしまう。『静かに』『より安心して安全に移動できるように』といった価値を提供することに主眼を置いている」と説明。リトレッドを中核としたビジネスモデル、そこにデータを用いることでタイヤに関してトータルで顧客をサポートし、「顧客にとって、いかに私たちがいないと成り立たない状況を作るかがポイントだ」と、モノとしてのタイヤ販売ではなく、価値提供の質を高めていくという同社の戦略を共有した。
株式会社ナカダイホールディングス代表取締役の中台澄之氏は、「地域とつくるサーキュラーエコノミー」と題して、2024年に設置したサーキュラーパーク九州など、地域でサーキュラーエコノミーをどうつくっていくかについて同社の取り組みをもとに解説。同氏は、地域循環を作るうえで重要なステークホルダーとなる廃棄物処理業界の今後について、「どこかで使ってくれれば良いというリサイクルの質は担保しながらも、『廃棄されたAを加工してそれをBの材料として使う』といったような特定の用途として手渡して、それがまた回収・循環されるという『全く違うレベル』にまで持っていく必要がある」と強調した。
自治体としてサーキュラーエコノミーに取り組む広島県、和歌山県、薩摩川内市は、各地の課題や保有資本に合わせた施策内容を説明。ここでも、各自治体の共通した課題は、市民への浸透であることが共有された。
上記に加え、企業(glafit株式会社、amu株式会社、住友林業株式会社)によるピッチが実施された。
「サーキュラーエコノミー」「リソース」「蒲郡」「保有アセット」をかけ算すると100個のアイデアが生まれた
社会課題と保有資本にサーキュラーエコノミーの軸を入れると、多くの分野で新たな観点からアイデアが生まれる。BLUE WORK GAMAGORIの大きな成果の一つは、蒲郡という具体的な場所で、様々なバックグラウンドを持ち合わせた参加者がサーキュラーエコノミーという共通のツールを使うことで、100個のアイデアが創出されたことだ。もちろん実現可能性という意味では濃淡はあるが、これまでの延長線上で工夫を凝らすこととは違う、イノベーティブなアイデアの数々ともいえる。
たとえば、「廃棄漁具を回収して市役所や水族館の制服を作りたい」「蒲郡のサーキュラーシティツアー」「蒲郡で回収したもので繊維を生産」など、技術的には実現できるようなアイデアが集う。既存リソースを組み合わせることで、サーキュラーシティ蒲郡としての価値を高める可能性を垣間見た。
今回のディスカッションでは、アイデアの精度を問うよりも、「この人となにかしてみたい」という人ベースに重きを置かれたことが功を奏したのかもしれない。組織人である前に私たちは一人の人間であり、熱量に突き動かされてサーキュラーなモノや仕組みが生まれていく。そのことを改めて思い起こさせる機会となった。今サーキュラーエコノミーを含む様々なプラットフォームで顕在化しつつあるコミュニケーションの硬直化を改善する際に今一度立ち戻りたい原点でもある。
蒲郡から学ぶ、サーキュラーシティ実現に向けた要素
サーキュラーシティ蒲郡は、課題が多くあるものの、サーキュラーシティへの取り組みにおいて先駆者ともいえる存在だと言える。筆者の主観ではあるが、蒲郡のサーキュラーシティへの取り組みから学べる要素を3点挙げ、本レポートを締めくくりたい。
1.「サーキュラーシティとは何か」が明確であること
多くの組織はサーキュラーシティを定義づけており、一般的なサーキュラーシティ自体の輪郭は見えてきている。廃棄物や二次資源利用率、リサイクル、CO2排出減や経済指標などある程度ベースラインともなる目標が設定されていることが前提だが、一方で最も大切なことはその自治体において何をもってサーキュラーシティが実現できた状態と言えるのかを明確にしていることである。蒲郡市は、サーキュラーシティを環境改善・再生だけではなく市民のウェルビーイング向上につなげるという明確なコンセプトを打ち出しており、アクションプランや実証実験に至るまでその要素が入っている。
これに関連して、総合計画や循環型社会形成推進地域計画、ゼロカーボンシティ宣言などの既存の計画や目標の達成にサーキュラーシティというコンセプトがどのように貢献するのか整理していくことも重要となる。蒲郡では、第五次蒲郡市総合計画を実現するための主要な手段としてサーキュラーシティを位置づけ、既存計画との整合を図る。サーキュラーシティはツールであり目的そのものではないことから、こういった整理は戦略策定の上で欠かせないものとなる。
2. 市内外がつながること
廃棄物処理の広域連携や市内でサプライチェーンが完結しないことなどを例として、サーキュラーシティ実現には域外と積極的につながることが必要であることは言うまでもない。蒲郡市はサーキュラーシティを宣言することで、市外事業者を「吸引」する。BLUE WORK GAMAGORIでも、この視点に立って、戦略的に市内と市外参加者数のバランスを取りながら、うまく参加者が交わるようにイベントが運営されているように見える。
3. 市民へのわかりやすさ
サーキュラーエコノミーは「わかりにくい」。サーキュラーシティは「もっとわかりにくい」。まだまだこういった声が聞かれる。
この点に関して、サーキュラーシティを推進するさまざまな自治体や団体はサーキュラーエコノミーを目に見える形で市民や企業に示す重要性を認識している。その一つ、筆者が昨年訪問した英グラスゴーでサーキュラーシティを推進するCircular Glasgowは、市内の企業経営者を集めて循環を地域の食で体験する交流会を行ったり、家庭のコーヒーかすを一箇所に集めるイベントなどを開催したりするなど、この点を最重要視していた。明確なビジョンと戦略が背景に存在していることが前提だが、「わかりにくいこと」をわかりやすい形で表に出していくことが推進の原動力になるということだろう。
これはまさにサーキュラーシティ蒲郡が実施していることでもある。ビジョンやアクションプランになどを徹底的に関係者で整備し、それらを基盤として市民参加型イベントや市民にも開かれた上述の実証実験を実施している。市民の巻き込みによりどのようにサーキュラーシティに向けた取り組みが広がっていくか、今後の展開が楽しみだ。
写真:CIRCUAR DESIGN STUDIO(株式会社新東通信)
【参考】サーキュラーシティ蒲郡公式HP
【参考】サーキュラーシティ蒲郡 アクションプラン
【参考】蒲郡サステナビリティレポート2023
※本記事は、世界のサーキュラーエコノミーが学べるメディア「Circular Economy Hub」サーキュラーシティを目指す蒲郡市で何が起こっているのか?〜BLUE WORK GAMAGORI 開催レポートを通じて〜より転載された記事です。
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