大気中の温室効果ガスをリアルタイムで測定するdMRVを開発する「Hyphen」とは?

目次

  1. Hyphenとは?
  2. 詳細の仕組み
  3. 展望と可能性

Hyphenとは?

「Hyphen」は、スイスのバーゼルに拠点を置くグリーンスタートアップ企業です。大気中の温室効果ガスをリアルタイムで測定するdMRV(デジタルMRV)ソリューションを開発、提供しています。なお、dMRVは分散型MRVを指して表現されることもありますが、「Hyphen」のdMRVはデジタルMRVを意味しています。

MRVとはMeasurement(測定)、Reporting(報告)、Verification(検証)の頭文字をとった言葉で、温室効果ガスの排出量を把握する一連のプロセスを指します。

カーボンクレジットを生成する前には当然ながら削減量を正しく把握する必要があるので、MRVプロセスが必要です。ただし、このMRVプロセスが正しく実施されないと発行後のカーボンクレジットが正しい削減量を示していないということになり、意味がないものとなってしまいます。

このMRVプロセスには主に3つの課題感があると言われています。

  1. 1. データの正確性と一貫性
    異なる地域や時期で収集されたデータの精度にばらつきがあり、比較や集計が困難です。また、測定方法や技術の進歩により、過去のデータとの整合性を保つことが課題となっています。これは特に、長期的な気候変動対策の効果を評価する際に問題となります。
  2. 2. コストと技術的障壁
    高精度な測定機器や専門知識を必要とするMRVプロセスは、特に途上国や小規模プロジェクトにとって大きな経済的負担となります。また、新技術の導入や人材育成にも時間とコストがかかり、効果的なMRVの実施を妨げる要因となっています。
  3. 3. 標準化と透明性の確保
    国際的に統一された基準や方法論の不足により、異なる国や部門間でのMRVプロセスの比較が困難です。また、データの検証や報告の透明性を確保することも課題となっており、カーボンクレジットの信頼性に影響を与える可能性があります。

これらの課題は、MRVプロセスの信頼性と効果的な実施に大きな影響を与えており、カーボンクレジット市場の健全な発展のためには、継続的な改善と革新が必要とされています。

前置きが長くなりましたが、「Hyphen」はまさにこのMRVプロセスを最先端の技術で効率化し、上述したような課題を解決するソリューションを開発しています。

詳細の仕組み

「Hyphen」は大きく2つのソリューションを提供しています。

①大気ベースのデジタルMRV(A dMRV)

「Hyphen」は大気ベースのGHG濃度の観測と、フラックスデータによる情報を組み合わせて正確な測定を可能にしています。この技術的説明はかなりややこしいので、ここでは簡単にだけ説明します。

大気ベースのGHG濃度の測定は、地上観測所、航空機、衛星などを使用して大気中の温室効果ガス(GHG)濃度を直接測定する方法です。この手法の主なメリットは、広範囲かつ連続的なデータ収集が可能なことです。地球規模でのGHG分布や変動を捉えられ、局所的な変化から大規模な大気循環パターンまで観測できます。また、複数のGHGを同時に測定でき、排出源の特定や検証にも役立ちます。さらに、これらのデータは気候モデルの改善や政策決定の科学的根拠として重要です。カーボンクレジットプロジェクトの効果検証にも応用可能で、市場の信頼性向上に貢献します。

フラックスデータとは、森林や草原などの生態系が大気とどのようにCO2をやりとりしているかを測定する方法です。高いタワーに設置された特殊な機器を使い、風の動きとCO2濃度を同時に測定します。空気中の小さな渦(エディ)がCO2を運ぶ様子を捉え、上向きと下向きの動きを比較することで、実際のCO2吸収量や放出量を計算します。この方法は直接的で正確な測定が可能で、昼夜を問わず長期観測ができるため、気候変動研究や環境保護プロジェクトの効果検証に広く活用されています。カーボンクレジット市場でも、森林保全などの取り組みの成果を科学的に証明する手段として注目されています。

少し難しいかもしれませんが、ざっくり言えば航空機や衛星などのデータと実際に森林に建てられた観測タワーの観測の2つからデータを収集して計測しているということです。これによって、正確で広範囲なデータ収集を可能にし、先述したMRVの課題の1つを解決します。

さらに、ここで収集されたデータはHedera Blockchainにそのまま記録され、透明性が確保されます。

さらに、この仕組みは比較的安価で構築が可能とのことで、MRVの課題であったコストと技術的障壁、そしてブロックチェーンによって標準化と透明性の確保の課題も解決します。

このdMRVを活用すれば、測定情報からカーボンクレジットを発行することもできます。2023年11月にはToucanとの提携も発表し、信頼性が高くトラストレスなカーボンクレジットの発行が推進されています。

②地理空間GHGデータSTREAMS

これは世界規模および地域規模のリアルタイムの検証済みデータストリームをあらゆる組織に提供します。こちらは先ほどのシステムのAPI連携のようなもので、フラックスタワー、衛星などからのデータを統合し、温室効果ガス濃度とフラックスへのほぼリアルタイムのアクセスを提供します。

これを活用したサービス提供を実現します。例えば、気候リスクに対して保険や先ほどから出ているカーボンクレジットの発行などです。オラクルのような役目を果たします。

展望と可能性

さて、ここまで概要とその仕組みについて見てきました。

「Hyphen」はその技術力によってdMRVの先端を走る会社です。その実績が認められ、web3だけでなく広範囲にパートナーや協力者がいます。NASAも協力者に名を連ねています。

参照:Ecosystem

最初にも説明した通り、MRVシステムはカーボンクレジットの生成において必要不可欠なプロセスながら、まだ効率化が進んでいない領域でもあります。このMRVシステムが透明性高く、全てデジタル化されてリアルタイムでできるようになれば、カーボンクレジットの生成におけるハードルが大きく削減されます。

例えば、手作業でGHG削減量を測定するとカーボンクレジット作成までに2年かかっていたとします。それがdMRVシステムを活用するとリアルタイムで削減量を測定し、そのままブロックチェーンに刻まれ、削減に成功した事業主にはトークンとしてのカーボンクレジットがトラストレスに発行されるとしたら、これまでと全く異なる体験になるはずです。より多くの信頼できるカーボンクレジットが生成され、収益化が可能になるので、クレジットを生成する事業者が増え、その結果、森林伐採が食い止められたり、新しく植林をする人も増えていくはずです。

元々、ReFiという言葉は環境問題や社会問題を解決するためには経済的なインセンティブが必要である、ブロックチェーンであればその問題を解決できるのではないかということを意味しています。善意に頼るのではなく、環境保護の経済的インセンティブを高めることで目的を達成する仕組み作りですので、このようにdMRVを発展させ、よりカーボンクレジットのハードルを下げてインセンティブを高めていくことはReFiの本質に合致すると感じます。

もちろん、dMRV全てがブロックチェーンというわけではありませんが、最先端のテクノロジーによって環境問題を解決していくという思想は近いものを感じます。以上、「Hyphen」のリサーチでした。引き続き情報を追いかけていきたいと思います!

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