脱炭素に向けた補助金制度ー東京都・大阪府・千葉県の事例
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- 日本における脱炭素へ向けた動き
1-1.2050年カーボンニュートラル - 東京都の「東京農業における再生可能エネルギー利用促進事業」
2-1. 補助金の概要
2-2. 補助金のメリット - 大阪府の「カーボンニュートラル技術開発・実証事業費補助金」
3-1. 補助金の概要
3-2. 補助金のメリット - 千葉県の「事業者向け次世代自動車等導入促進補助金」
4-1. 補助金の概要
4-2. 補助金のメリット - まとめ
日本政府は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指しています。この目標を達成するためには、エネルギーおよび産業部門の大幅な構造改革が不可欠であり、同時にイノベーションの創出を促進するための大規模な投資が求められています。
こうした状況を踏まえて、日本では国だけでなく、各地方自治体も脱炭素に向けて積極的に動いており、関連する補助金も多数発表されています。
そこで今回は、日本の脱炭素への取り組みを支援する補助金にフォーカスして、その概要やメリットなどを詳しく解説していきます。
1. 日本における脱炭素へ向けた動き
1-1. 2050年カーボンニュートラル
日本政府は、2050年までに国内における温室効果ガス排出を実質ゼロにするという目標を掲げており、これに向けてさまざまな取り組みを行っています。
2020年12月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表し、国として、可能な限り具体的な見通しを示し、高い目標を掲げて、民間企業の前向きな挑戦を応援するとともに、大胆な投資とイノベーションを促す環境を作ることを目指しています。
2021年6月には、地域の先進的な脱炭素への取り組みを加速させることを目的として、「地域脱炭素ロードマップ」が取りまとめられました。このロードマップは、日本政府が全国各地の特徴に合わせた取り組みを進めるためのものであり、地域ごとの産業構造や自然環境を考慮し、地域特有の強みを活かした脱炭素化戦略を立てることを目指しています。
さらに、パリ協定を契機として、企業が気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)や脱炭素に向けた目標設定(SBT、RE100)などを通じて、脱炭素経営に取り組む動きが加速しています。
環境省は、TCFDの報告書に基づいたシナリオ分析や、SBTおよびRE100のための取り組みなど、企業による脱炭素経営の動きを支援しており、大企業だけでなく、中小企業の取り組みも積極的に促進しています。
また、環境省は、脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者に対する集中的かつ重点的な支援の一環として、財政投融資を活用した「脱炭素化支援機構」を設立しました。2022年5月には、機構の設立や業務内容を規定した「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が成立しています。
脱炭素化支援機構は、200億円の出資を呼び水として、1,000億円規模の脱炭素事業を実現し、新たなビジネスモデルの構築を通じて、数兆円規模の脱炭素投資の誘発に貢献することを目指しています。
このように、日本政府は脱炭素社会の実現に向けて多岐にわたる取り組みを推進しており、その動きは今後も一層の加速が見込まれています。
1-2.自治体における取り組み推進の必要性
日本では、2021年5月に「地球温暖化対策推進法」の一部改正法が成立し、新たに2050年までの脱炭素社会の実現が基本理念とされました。この中で、地方創生につながる再生可能エネルギーの導入促進や企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化などが盛り込まれています。
再生可能エネルギーの導入に際しては、地域での合意形成が大きな課題となっています。これを解決するため、地方自治体が策定する「地方公共団体実行計画」に基づき、地域の脱炭素化や課題解決に貢献する事業の認定制度を創設し、関係法手続きのワンストップ化を図ることで、再生可能エネルギー利用の円滑な推進を目指しています。
さらに、環境省は「2050年に二酸化炭素を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが、または地方自治体として公表した地方自治体」を「ゼロカーボンシティ」と定義しています。2024年6月28日時点で、東京都、京都市、横浜市をはじめとする1112自治体(46都道府県、620市、22特別区、368町、56村)がこの宣言を行っています。
前述した「地域脱炭素ロードマップ」の策定に加え、各地方自治体は地域特性を活かした脱炭素戦略の策定・実行を進めています。これにより、2050年のカーボンニュートラル達成には、国と地方自治体が一体となった取り組みが不可欠であり、地方自治体の役割が非常に重要となっています。
では、次の項からは実際に地方自治体がどのような取り組みを行っているのか、最新の補助金情報を整理しながら、その実態を探っていきたいと思います。
2. 東京都の「東京農業における再生可能エネルギー利用促進事業」
2-1. 補助金の概要
東京都は、ゼロエミッション社会の実現を目指し、再生可能エネルギーの利用拡大を進めています。農業分野においても太陽光で発電した再生可能エネルギーの利用を推進するため、2024年度の新規事業として、太陽光発電設備の設置と、その電力を利用する農業機器の購入に対する補助を開始しました。
補助対象者は、都内の区市町村に所在する農業者であり、設備を導入できるのは都内の認定農業者または認定新規就農者と定められています。
具体的な補助対象としては、太陽光パネルや蓄電池の設置(農業利用に限る)および電動農業機械(耕運機、収穫調整機、運搬車、草刈機、保冷庫など)が含まれています。補助率は事業費の3分の2以内(ただし蓄電池については4分の3以内)で、補助上限額は500万円と規定されています。
募集は2024年6月25日から開始されていますが、締切時期については現時点で具体的に発表されていません。
2-2. 補助金のメリット
「東京農業における再生可能エネルギー利用促進事業」の大きなメリットは、農業法人や個人農業者が企業でなくても申請できる点です。
また、認定農業者および認定新規就農者が事業実施主体となっていますが、認定制度が設けられていない自治体においても、一定の条件を満たすことで認定農業者等と同等に扱われることが可能です。
この補助金を利用することで、太陽光発電システムの導入にかかる初期投資を大幅に軽減でき、農家や農業関連企業は長期的なエネルギーコスト削減が期待できます。その結果、経済的負担を抑えながら持続可能な農業経営を実現することが可能になります。
さらに、再生可能エネルギーシステムの導入は、災害時におけるエネルギーの自立性を高め、農業経営の安定性を向上させます。停電時にも独立した電源を確保できるため、農作物の生産や保存が維持され、結果として農業活動の信頼性が向上します。
この「東京農業における再生可能エネルギー利用促進事業」は、農業分野におけるサステナブルなエネルギー利用を促進するだけでなく、地域農業の競争力強化と環境保全の両立を目指しており、多くのメリットを提供しています。
3. 大阪府の「カーボンニュートラル技術開発・実証事業費補助金」
3-1. 補助金の概要
大阪府は、2024年7月3日に、2025年に開催予定の大阪・関西万博を活用して、カーボンニュートラルに資する最先端テクノロジーの開発および実証に挑戦する企業を支援する「カーボンニュートラル技術開発・実証事業」を発表しました。
カーボンニュートラルの実現には、既存テクノロジーの普及・改良だけでなく、革新的な技術の創出が必要です。大阪・関西万博の基本計画では「未来社会の実験場」というコンセプトのもと、万博でカーボンニュートラルを実現することを目指しています。
万博という世界的イベントの機会を活かし、カーボンニュートラルに貢献する最先端テクノロジーを用いた製品やサービスを披露し、その実用性や利便性を広く発信することで、社会実装やビジネス化を促進する狙いがあります。
さらに、材料や部材などのテクノロジー開発や事業化における府内中小企業のビジネスチャンスの創出・拡大を図り、大阪の成長と脱炭素社会の実現につなげることを目指しています。
2024年度の申請は2024年4月26日に終了し、すでに13件のプロジェクトへの交付が決定しています。
3-2. 補助金のメリット
「カーボンニュートラル技術開発・実証事業費補助金」の最大のメリットは、開発したテクノロジーや製品、サービスを大阪・関西万博で披露できる点です。
万博は、世界中の人々が集まるビッグイベントであるため、ここでテクノロジーや製品を披露することで、開発成果をより広く効果的に発信することができます。これにより、社会実装やビジネス化の加速も期待されます。
補助金額は1件あたり1億5千万円を上限とし、1千万円を下限としています。補助率は補助対象経費の3分の2以内で、採択された場合には低コストでプロジェクトを実施できる点も魅力です。
この補助金は、カーボンニュートラルを目指した技術開発を支援するため、企業や研究機関にとって資金面の負担を軽減し、革新的なテクノロジーの研究・開発に集中することが可能となります。
また、これにより脱炭素関連ソリューションの進展が加速し、持続可能な社会への移行が早まることが期待されています。
4. 千葉県の「事業者向け次世代自動車等導入促進補助金」
4-1. 補助金の概要
千葉県では、運輸部門の脱炭素化を図ることを目的として、運輸・交通事業者がトラックやバス、タクシーなどに、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車といった「次世代自動車」を導入する場合の導入経費や、中小事業者が次世代自動車用設備などを導入する場合の経費に対して助成する事業を行っています。
2024年度からは、補助対象や補助上限が一部拡充され、5月27日より受付がスタートされています。具体的には、以下の二種類の補助金が用意されています
1. 令和6年度千葉県地域交通等次世代自動車導入促進補助金【地域交通等事業者向け】
項目 | 詳細 |
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申請受付期間 |
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補助対象 |
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補助率等 |
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2. 令和6年度千葉県次世代自動車インフラ導入費補助金【中小事業者向け】
項目 | 詳細 |
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申請受付期間 | 2024年5月27日〜2024年12月26日 |
補助対象 |
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補助率等 |
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4-2. 補助金のメリット
「事業者向け次世代自動車等導入促進補助金」のメリットとしては、申請期間が比較的長めに設けられているため、申請書類などの準備期間がしっかり取れることが挙げられます。
実際、こうした補助金のネックとしては、申請の際に詳細な関連書類を提出しなければならず、手間がかかるという点がありますが、千葉県の提供する事業者向け次世代自動車等導入促進補助金は、早くから計画的に準備することができるため、他の業務に大きな支障をきたす可能性が少ないと言えます。
ただ、申請受付期間内であっても、予算がなくなり次第、受付を終了すると明記されているため、県からの発表には注意が必要です。
また、地域交通等事業者向けの補助金の対象経費には、車両の購入費(国庫補助金の交付を受けていることが必要)や蓄電池、充電設備(普通・急速)、ソーラーカーポートなどの購入費が含まれているほか、中小事業者向けの補助金の対象経費には、蓄電池、V2H充放電設備、充電設備(普通・急速)、外部給電器(可搬式)などの購入費およびソーラーカーポート、外部給電可能な電気自動車などの購入費が含まれているため、大企業のみならず、脱炭素への取り組みのためにあまり多くの予算を用意できないという事業者にとっても、次世代自動車を導入する良いきっかけになると見られています。
5. まとめ
日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」という目標に向け、各方面での取り組みが加速しており、特に自治体の役割がますます重要となっています。自治体レベルでの成功事例は、日本国内のみならず国際的な気候変動対策にも影響を及ぼし、カーボンニュートラル達成への重要なステップと考えられています。
今回紹介した補助金制度は、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率改善のための初期投資を支援し、事業者が温室効果ガス削減に取り組む際のハードルを下げる効果を持っています。これにより、地域特有の強みを活かした取り組みが促進され、地域経済の活性化にも寄与するなど、多くのメリットが得られます。
また、現時点でも申請可能な補助金は多数存在するため、自身の所属する自治体の情報を確認し、適したものがあれば積極的に申請を検討することが推奨されます。
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