2021年5月24日~30日の為替動向、6月上旬に向けての見通しは?ファンドマネージャーが解説

5/24の週は、米インフラ整備を中心とした2022年度予算案が予想以上の規模だったことが好感されるなど、円安の動きが目立ちました。

この記事では、2021年5月24日~30日の為替動向の振り返りと、6月上旬にかけての見通しを解説します。

目次

  1. 2021年5月17日~5月23日の振り返り
    1-1.RBNZ(ニュージーランド準備銀行)の動きは?
    1-2.ECB(欧州中央銀行)、各国中銀総裁の動向は?
    1-3.1-3.FOMCメンバー要人の発言・動向は?
    1-4.BOE(イギリス中央銀行)の発言・動向は?
    1-5.米2022年会計年度予算案、年間歳出6兆ドル
  2. 6月上旬にかけての注目材料は?3つ解説
    2-1.米雇用統計
    2-2.イギリスの状況
    2-3.世界のインフレへの見方

2021年5月17日~5月23日の振り返り

5/24の週は、円安の動きが目立ちました。米インフラ整備を中心とした2022年度予算案が、予想以上の規模だったことが好感され、クロス円の上昇につられて米ドル円は108円台から一気に110円を超えるまで上昇しました。特に、NZドルはタカ派な中銀声明、ポンドは英中銀委員の利上げ時期に関するタカ派発言という要因があり、それぞれ上昇が目立ちました。

ただ、米ドル円に関しては、上昇したタイミングが月末に近かったということもあり、MSCI(※)による株のリバランスにおいて、円の割合が大きく引き下げられたことによる円売りフローが出たのではないかとも言われており、値動きに注意する必要があります。

※MSCI…多くの機関投資家や投資信託のベンチマークとして採用されているモルガンスタンレーが算出・公表する世界株価指数

1-1.RBNZ(ニュージーランド準備銀行)の動きは?

26日のRBNZ(ニュージーランド準備銀行)は、政策金利と資産購入プログラムの規模をともに据え置きました。しかし、声明文では「必要があれば利下げ」との文言を取り除き、2022年9月の利上げシグナルを発信しサプライズとなりました。そのためG10通貨の中では、ノルウェー中銀・カナダ中銀に続いて3番目のタカ派転した中銀となりました。

ニュージーランドは住宅価格インフレに悩まされていますが、今回の議論で政策金利と住宅価格の関係性を議論するセッションが設けられたことから、住宅価格高騰がこのまま収まらなければ政策金利を引き上げる可能性が高まってくると考えられます。

1-2.ECB(欧州中央銀行)、各国中銀総裁の動向は?

また、欧州では多数のECB(欧州中央銀行)高官から緩和継続が示唆されました。なかでもフランス中銀総裁は、前回3月にパンデミック緊急購入プログラム(以後PEPP)拡大を決定する直前にそれをほのめかす発言をした経緯があり、6/10のECB理事会では市場予想のPEPP減額に反してハイペースでの買取額を継続する可能性が高まってきました。

さらに、EUR実効レートが122台半ばであるECBの警戒水準(前例では122-124レンジに入ると牽制発言が増える)に上昇してきており、ここ最近はEUR高についての言及も増えてきましたが、EURの上値は重くなってきています。

  • ラガルドECB総裁
    「2021年のインフレ指標の上昇は一時的なものだ。持続的な物価上昇を支える基調的な要素がないことは明らかだ。」
  • ギリシャ中銀総裁
    「PEPPについて、購入ペースを現時点で変更する理由はない。」
  • フランス中銀総裁
    「PEPPの購入ペース調整を全く急いでいない。3Qに資産購入を縮小するとの見方は全くの憶測であり、6月会合後も出口戦略を検討する時間は十分にある。ECBは少なくともFRB並みには緩和的。」
  • パネッタ理事
    「インフレ及びインフレ期待をECBの目標に一致させるような持続的なインフレ圧力の高まりのみが資産購入の減速を正当化しうる。しかし我々は3月にそれを予測していなかったし、それ以降にインフレ軌道を上方向にシフトさせるような調達環境や経済見通しの変化は見られない。」

1-3.FOMCメンバー要人の発言・動向は?

FOMCメンバー等要人発言も多数ありましたが、いずれもインフレは一時的としながらもテーパリングの可能性は残るように言及していました。当面、データが出そろうまではこういった発言が変わることはなく、米金利は1.5-1.7%レンジで推移すると考えられます。

  • ブレイナード理事
    「米経済再開に伴いインフレの高進が予想される。ただ、持続的なオーバーシュートに繋がるリスクは低い。長期的なインフレ期待は極めて持続した状態が続いており、大幅に当局目標を上回って動いたとしても穏やかに目標まで誘導する手段と経験がある。」
  • エバンス シカゴ連銀総裁
    「最近の物価上昇が持続的なインフレ到来の前触れではない」
  • クラリダ副議長
    「物価上昇圧力は一時的、今後数回の会合で議論を開始できる状況になるだろう。今後入ってくる経済データ次第。」
  • バーキン リッチモンンド連銀総裁
    「物価については建設資材や貨物、エネルギーといった分野で上昇圧力が見られ、供給が抑制される中で需要が繰り越されてきた。インフレ期待を示す市場の指標を注視している。」
  • クォールズ副議長
    「大半のインフレ圧力は一時的な可能性。FRBは高過ぎるインフレ圧力に対応する手段を持っている。」
  • イエレン長官
    「最近のインフレは一時的であり、定着するようなものではないというのが現時点での私の判断。」

1-4.BOE(イギリス中央銀行)の発言・動向は?

BOE(イギリス中央銀行)メンバーからも下記のような発言がありましたが、結果としてプレハ委員の発言だけに反応し、GBPが大きく買われました。たしかにハト派のプレハ委員から、利上げの話が出てきたことは驚きでしたが、プレハ委員はあくまでも一時帰休労働者向け支援策が終了した後に、雇用の回復が順調であればという条件付きの話をしており、更にその後に仮にコロナ変異株により回復が遅れるようならばマイナス金利が必要になる可能性もあると発言していることから、完全にデータ次第という話となっています。したがって、マーケットのGBP買いの反応はやや過剰だと思います。

  • ベイリー総裁
    「今年予想される物価の加速は一時的なものである可能性が高い。」
  • カンリフ副総裁
    「成長ペースの減速に伴い、インフレ率が中銀目標の2%に戻ると予想。」
  • プレハ理事
    「労働市場の回復が順調なら来年の早い時期の利上げも可能になる。インフレが急騰するようなテールリスクは見当たらない。」

1-5.米2022年会計年度予算案、年間歳出6兆ドル

バイデン大統領の2022年会計年度(2021/10~2022/9)予算案が、年間歳出6兆ドルに増加する大規模なものになるというリークのような報道を受けて米金利が急騰し、株も上昇、FXでは先進国は株につられてリスクオンのUSD売り、EM諸国では米金利につられてUSD買いの反応となりました。(実際リーク記事の翌日に6兆110億ドルというほぼ記事通りの案が発表されました。)

ただ、今回のプランはこれまでバイデン大統領が発表していた諸々のプランを全て含んだ数字であり、この案のまま議会を通過できるとは到底思えず、マーケットの反応は過剰であると考えられます。

6月上旬にかけての注目材料は?3つ解説

2-1.米雇用統計

前回4月分は非農業部門雇用者数が、事前予想の100万人増に対してわずか26.6万人増にとどまり、サプライズとなりました。「新型コロナ対策で手厚い失業手当が出ているため労働意欲が湧かない」という倫理的な問題点が原因の一つとして挙げられるなど、根深い問題となっています。

ワクチン接種が進み、行動制限の緩和などが見られ、雇用回復ペースがどこまで上がってくるのかが気になりますが、今回の予想値は66万人増、失業率は5.9%と、力強い数字が期待されています。かなりブレのある数字ではありますが、これまでの平均的な回復ペースである50万人増程度を維持できれば、及第点ということで、少なくとも先月の衝撃的な印象にはなりません。

ただ、今回良かった場合でも、この先もまだデータを確認しなくてはならないため、大きな動きは期待できません。むしろ、今回再び予想を大幅に下回る20万人台の数字が出た時のインパクトは大きく、その場合は米金利1.5%割れに伴い、大きくUSDが売られると予想します。

2-2.イギリスの状況

ワクチン普及のニュースに隠れて報道されていませんが、イギリスの新規感染者数が1週間前対比48%増加で、4/1以来の感染者数となりました。果たして、6/21予定の行動制限完全解除が可能かどうか、そろそろ感染者数に反応する展開が近づいてきている可能性があります。

また、同じく報道が少ないですが、漁業権を巡りフランスやノルウェーと揉めたり、北アイルランドで暴動が起きていることなど、実はBREXITの後遺症に悩んでいます。コロナの材料に飽きてくるころに、このような材料にも反応する可能性があり、これまで一方的に上昇してきたGBPの上値が重くなる可能性を考慮する必要があります。

2-3.世界のインフレへの見方

先週、多数の米・欧・英の高官から発言がありましたが、総じてインフレは一時的という判断を下しています。一方で、新興国ではインフレへの警戒感が先進国と比べて若干強く、前週に発表されたメキシコ中銀政策決定会合議事録では、「インフレの予想経路に影響するリスクのバランスは上方に偏っている」と、インフレに対する認識が若干上方修正され、少なくとも当面利下げはなくなったという印象が見られます。他には、利上げを実施する国も出てきています。

今後、先進国が新興国に寄って行くのかどうか、経済指標をチェックする必要があります。

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