不動産投資のシミュレーションで必要な基礎知識は?5つ紹介
不動産投資において将来にわたる収益性をシミュレーションすることは、投資のリターンだけでなく、リスクを把握するためにも重要な作業です。
主に物件価格やローンの金利、自己資金といった項目を用いますが、より正確にシミュレーションをするためにも、数値を入れるだけではなく、リスクを考慮して適切に補正を加えることも重要なポイントとなります。
今回のコラムでは、シミュレーションをするのに必要な基礎知識を5つ紹介します。不動産投資を検討している方、投資のシミュレーションを行いたい方はご参考ください。
目次
- 不動産投資のシミュレーションとは
- 不動産投資のシミュレーションの基礎知識
2-1.自己資金
2-2.金利
2-3.返済期間
2-4.想定空室率
2-5.諸経費率 - 不動産投資のシミュレーションで算出される項目
3-1.想定年間収入
3-2.年間収支
3-3.表面利回り
3-4.実質利回り - 不動産投資のシミュレーションをする際の注意点
- まとめ
1 不動産投資のシミュレーションとは
不動産投資におけるシミュレーションとは、購入予定の物件について購入した後のおおよその収支を算出することです。年間の収支などが算出でき、他の物件と比較検討する上でも参考になる数値となります。
シミュレーションをするためにはいくつかの数値を入れる必要があり、代表的なのが下記の項目です。
- 物件価格
- 自己資金
- 借入金額
- 返済期間
- 金利
- 想定空室率
- 諸経費率
物件価格や自己資金はほぼ確定した数値を用いることになりますが、想定空室率や諸経費率などは任意の数値を用いることができます。そのためより正確にシミュレーションをするための基礎知識を次の項目から紹介していきます。
2 不動産投資のシミュレーションの基礎知識
ここでは不動産投資のシミュレーションを行う上で必要な基本的な知識と注意点を、各項目に分けて解説します。
2-1 自己資金
自己資金とは、投資用物件を購入する際に現金で用意するお金です。すべて現金で購入する場合もありますが、金融機関から融資を借りるケースが多く、この場合は物件価格から自己資金を差し引いた分を融資してもらうことになります。自己資金がいくら用意できるのかを把握しておきましょう。
自己資金の割合が多いほど借入金が少なくなりますので、月々のローン返済による負担が小さくなります。目安は物件価格の1割~2割ですが、物件の条件や借主の属性によって異なります。
自己資金が多いほど物件の経営は楽になりますが、すぐに利益が出ないことが想定される場合や突発的な修繕などに備え、自己資金をある程度残しておくことも考えておきましょう。また、投資用物件を購入するには、下記のような初期費用がかかります。
- 仲介手数料
- 不動産登記費用
- 不動産取得税
- ローン事務手数料
- ローン保証料
- 火災保険料
- 管理費や修繕積立金
賃貸用物件を取得する際の諸経費は、物件価格の8~10%が目安になります。不動産投資ローンは物件価格に対して融資がなされるため、必ず現金で支払わなければならない費用が出てきます。これらの費用がかかることも念頭に、自己資金を確認するようにしましょう。
2-2 金利
金融機関から融資を得る場合の金利には、一定期間金利が変わらない「固定金利」と、短期プライムレートなどに連動して変わる「変動金利」の2つの種類があります。通常は、固定金利の方が変動金利よりも高めに設定されています。
1%と2%では大きな違いはないようなイメージがありますが、融資の金利の場合は返済が20年や30年など長期間におよぶため総返済額に大きな違いが出てきます。返済期間と金利の組み合わせによって違いがありますので、設定する際は注意しましょう。
一例として、3,000万円を返済期間20年で借り入れた際の返済額を表にしました。金利1%と2%での違いを参考にしてください。
項目 | 金利1% | 金利2% |
---|---|---|
毎月の返済額 | 137,968円 | 151,765円 |
総利息額 | 3,112,390円 | 6,423,600円 |
総返済額 | 33,112,390円 | 36,423,600円 |
金利が2%の場合、金利1%のケースよりも300万円以上も総返済額が多くなることがわかります。
2-3 返済期間
返済期間とは、金融機関から融資を得たときに全額を返済するまでの期間のことです。金融機関の判断になりますが、物件の法定耐用年数の残存期間をベースに、担保の価値、申込者の属性などで最大返済期間が決定されます。例えば、法定耐用年数の残存期間が20年あれば、20年が基準になると考えるといいでしょう。
この返済期間は、短い方が総利息額および総返済額は少なくなります。総利息額を抑えたい場合は、金融機関から提示される返済期間よりも短く設定することも可能です。
ただし毎月の返済額が高額になると、長く物件を所有している間に入居率が下がってしまい、返済の負担が重くなることも予想されます。
金利2%で3,000万円を借りた場合、返済期間で異なる返済額の違いを下記で表にしました。
項目 | 返済期間20年 | 返済期間35年 |
---|---|---|
毎月の返済額 | 151,765円 | 99,378円 |
総利息額 | 6,423,600円 | 11,739,108円 |
総返済額 | 36,423,600円 | 41,739,108円 |
返済期間が長くなることで毎月の返済額は減りますが、総返済額は35年の方が20年より500万円以上も多くなります。この点も注意しましょう。
2-4 想定空室率
シミュレーションをする際に基準となるのが毎月の家賃収入と年間の収入です。しかしどのような物件も満室状態が続くとは限りません。そのため、ある程度空室が出ることを想定して用いるのが想定空室率です。
年間における空室率は下記の計算式で求めることができます。
空室率(%)=(空室の部屋数×空室となっている月数)÷(全室の数×12)×100
例えば、10部屋のアパートで1部屋が12カ月間空室になっているとしたら、空室率は(1×12)÷(10×12)×100という計算式で、10%となります。
ただしシミュレーションを行うときは、物件の条件によって異なりますので、慎重に設定する必要があります。通常は10~20%を目安に設定しますが、入居状況に応じて想定空室率を設定することが大切です。例えば、中古物件をオーナーチェンジで購入する場合であれば、直近1年間の空室率を教えてもらうというのでもいいでしょう。
また、空室対策として想定空室率を高めに設定してシミュレーションをすることもありますが、高くしすぎると条件の良い物件を見逃してしまう可能性もあります。このようなバランスに注意しながら、どこまでリスクをとることができるのか、あらかじめ確認しておくのも良いでしょう。
2-5 諸経費率
不動産投資における諸経費は、区分所有のマンションと一棟アパートおよび一棟マンションで分けて考えますが、同じようにかかる諸経費には下記のものがあります。
- 管理手数料
- 固定資産税
- 居室の修繕費用
これに、区分所有マンションであれば建物の管理費や共益費、修繕積立金など、一棟アパートや一棟マンションであれば共用部分の清掃費用および水道光熱費、修繕費用などがかかります。
物件の規模が大きくなるほど経費の総額は大きくなりますが、家賃収入に対する諸経費の割合である諸経費率は家賃収入の10~20%を目安に設定します。ただし、築年数が経つほど修繕費用が上昇することが予想されますので、諸経費率の割合を高くして設定するなど柔軟な考え方が必要です。
3 不動産投資のシミュレーションで算出される項目
これまで紹介した項目の数値をシミュレーションの計算式に入れることで算出されるのが、主に下記の4つの項目です。これらの数値を比較することで、物件を検討しやすくなります。詳しく見ていきましょう。
3-1 想定年間収入
年間収入とは物件を運用することで得られる1年間の収入です。不動産ポータルサイトや物件情報などで表記されていますが、例えば、家賃が50,000円の部屋が4つあるアパートでは下記のような計算で年間収入がはじき出せます。
50,000円×4部屋×12カ月=240万円
ただし、これはあくまでも満室状態が1年間続くことを想定して算出した数値です。そのため、前述した想定空室率を設定して計算することで、空室になる可能性を加味した想定年間収入を算出することができます。
一例として想定空室率を10%に設定すれば、上記の物件の場合の想定年間収入は216万円となります。
3-2 年間収支
年間収支は、想定年間収入と年間支出で求めることができます。計算式は下記のようになります。
年間収支=想定年間収入-年間支出
ただし、年間支出はシミュレーションを行う段階では正確に把握できません。諸経費率を家賃収入の10〜20%として求める場合、これを年間支出に置き換えて計算し、おおよその目安とするのも一つの方法となります。
3-3 表面利回り
利回りは、物件価格に対する家賃収入の割合を表した数値です。収入がどのくらい得られるかの指標となり、数値が大きいほど利益が大きくなる可能性があるということです。
ただし、利回りには大きく分けて、表面利回りと実質利回りの2つの利回りがあります。表面利回りの計算式は下記のようになります。
表面利回り=(年間家賃収入÷物件代金)×100
不動産ポータルサイトや不動産会社による物件広告は、この表面利回りを表記していることが通常です。ただし、実際に手元に残る収入を正確に把握しづらいため、比較検討する際は次で紹介する実質利回りを用いるようにしましょう。
3-4 実質利回り
実質利回りは、表面利回りから経費などを差し引いた利回りで、物件の収益力をより正しく測れる数値です。例えば、表面利回りが同じ物件でも、管理費や修繕積立金は異なります。そのため、表面利回りだけでは収益力はわかりにくく、より正確に比べられるように実質利回りを用いるのです。
実質利回りの計算式は、下記になります。
実質利回り=(年間家賃収入-年間支出)÷(物件価格+購入時の初期費用)×100
表面利回りと実質利回りの違いについて、事例をご紹介します。例えば、表面利回り10%のA物件とB物件があると仮定し、双方の経費が異なるケースを見てみましょう。
A物件
- 家賃50,000円
- 物件価格700万円(購入時諸経費100万円)
- 管理費10,000円
- 修繕積立金10,000円
B物件
- 家賃50,000円
- 物件価格700万円(購入時諸経費100万円)
- 管理費5,000円
- 修繕積立金5,000円
どちらの物件も表面利回りは10%ですが、管理費と修繕積立金で月間の収入はB物件の方が1万円多くなります。
これを実質利回りで比べると、A物件が6%で、B物件が8%となります。このように諸経費まで計算式に組み入れることで、より実態に近い数値で比較することが可能です。購入検討段階で物件比較をする際は、実質利回りを用いることを検討しましょう。
4 不動産投資のシミュレーションをする際の注意点
不動産投資のシミュレーションは、物件を比較検討する際にも参考になります。ただし、シミュレーションを用いて購入する物件を検討する際は、できるだけ条件を同じにする必要があります。
例えば、A物件の際は金利が2%で、B物件の時は2.5%の金利でシミュレーションをすると、実際の収益力を比較することは難しくなってしまいます。この点も注意点として覚えておきましょう。
また、どれだけ綿密なシミュレーションを行っていても、想定外のリスクによりシミュレーション通りの運用ができないケースもあります。シミュレーションは投資判断の参考としてとらえ、自己資金をやや多めに準備するなど、想定通りの運用ができなかった場合にも備えておきましょう。
まとめ
不動産を購入するときに役立つのがシミュレーションです。あくまでも数値上にはなりますが、物件を比較検討する際にも参考になります。
シミュレーションを行うことで収益物件のリターンだけでなく、リスクを把握することにもつながります。まずは基本的な指標を抑え、実際の物件を比較しながら知識を備えていきましょう。
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