円安の背景と日本株への影響は?金融ストラテジストが解説【2022年4月】
急激な円安が進んでいます。2022年3月上旬のドル円相場は1ドル=115円前後でしたが、4月中旬には1ドル=128円台をつけました。わずか1カ月強で約11%円安がすすみました。
円安の背景には、米国金利上昇に伴う日米金利差の拡大、日本の貿易赤字拡大等が挙げられます。そこで今回は、円安の背景と日本株への影響を解説します。
※2022年4月22日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
- 円安
1-1.良い円安
1-2.悪い円安 - 円安の背景
2-1.日米金融政策の違い
2-2.日本の貿易赤字
2-3.投機筋の円売り残高 - ドル円相場と株式市場
3-1.ミクロから見た株式市場
3-2.マクロから見た株式市場 - まとめ
1 円安
円安には、良い円安と悪い円安があります。良い円安は日本経済にプラスに、悪い円安は日本経済にとってマイナスに働きます。それぞれ見ていきましょう。
1-1 良い円安
良い円安とは、経済拡大を導く円安のことです。輸出企業にとって円安はメリットとなります。円安が進むと海外市場での円換算の売上が増加するため、企業の業績上昇につながります。
日本の自動車会社の例をみてみましょう。米国で、1台3万ドルで販売していた自動車があるとします。為替レートが1ドル=110円の場合、円換算した売上は330万円です。為替が1ドル=120円に下落した場合、3万ドル(330万円)で販売していた自動車は360万円で販売できることになります。そのままの価格で販売すると、利益が30万円増えることになります。
また円安効果により、米国での販売価格を引き下げることも可能なため、円安はこの自動車会社にとって有利に働きます。
1-2 悪い円安
悪い円安は、経済を悪化させる円安です。日本はエネルギーや資源、食材などの多くを輸入に依存しており、円安はそれらの輸入価格を引き上げてしまいます。輸入価格の上昇は、製造原価の上昇につながり、最終的には製品の値上げを導き、景気が減速します。
足元では、原油価格高騰を背景に電気・ガス、ガソリン価格などが上昇しているほか、小麦などの輸入価格上昇を背景に食料品価格の値上げも始まっています。所得が伸び悩むなか、食料品や電気・ガス代の上昇が家計を圧迫しています。
2 円安の背景
ここでは、なぜ円安が進んでいるのか、その背景を説明します。
2-1 日米金融政策の違い
円安要因の一つに、日本と米国の国債金利のスプレッド(差)が拡大傾向にあることが挙げられます。
米国は、新型コロナによる景気低迷から立ち直り、原油高や賃金上昇などを背景にインフレ圧力が高まっています。そのため、FRB(米連邦準備制度理事会)は金融政策を引き締め政策に転換し、2022年3月に政策金利を0.25%引き上げ0.5%としました。利上げは継続的に実施される予定で、FOMC(連邦公開市場委員会)参加者による政策金利の見通し(ドットチャート)では、2022年に7回の利上げが示されています。
一方、日本銀行(日銀)は金融緩和政策をとっています。黒田日銀総裁は、2%の物価安定を目標に掲げているものの、日本の消費者物価指数は1%以下で推移している状況で、目標の2%には達していません。
日銀は長期金利の上昇を抑えるため、長短金利の操作を行うイールドカーブ・コントロール(YCC)を実施しています。10年国債の利回り上限目標を0.25%(2022年4月22日時点)とし、10年国債の金利が0.25%に近づくと、指値オペで国債金利の上昇を抑えています。
最近では、海外主要国の国債金利が上昇するなか、日本の10年国債金利も上昇し0.25%に近づいたため、日銀が4月21日から4月26日にかけて、10年国債を0.25%で無制限に買い入れる指値オペ(日銀が利回りを指定して、国債を無制限に買い入れるオペ)を実施し、過度な金利の上昇を抑えています。
こうした日米金融政策の違いから、日本国債と米国債の金利差が拡大しています。下記表に示したように、ドル円と日米金利差には正の相関関係が確認されるため、金利差の拡大はドル円の円安要因と言えそうです。
下記表からは、金利差とドル円の相関係数は0.8以上と、強い正の相関が確認できます。これは、日米の金利差が拡大するとドル高に進みやすいことを意味しています。
今後、米国では利上げが継続的に行われる可能性が高く、日米金利差がさらに拡大するものと思われます。そのため、ドル円は円安方向に動きやすい環境と言えそうです。
ドル円と金利差の相関係数(過去2年間)
金利差 | 相関係数 |
---|---|
2年国債 | 0.854 |
5年国債 | 0.948 |
7年国債 | 0.919 |
10年国債 | 0.831 |
2-2 日本の貿易赤字
日本の貿易赤字も円安の材料の一つです。2022年3月貿易収支は、約4,100億円の赤字でした。赤字は8カ月連続で、輸入金額が前年同月比で約31%増加したことが主な要因です。
世界経済が回復基調にあることを背景とした原油等の需要拡大に加え、ロシアのウクライナ侵攻により、資源価格が上昇しています。3月貿易収支における鉱物性燃料(原粗油、石炭、液化天然ガス等)の輸入金額は、同80.5%増と大幅増となりました。
2-3 投機筋の円売り残高の増加
長期的な為替変動要因ではありませんが、短期的な円安要因の一つに投機筋(短期売買中心の投資家)の動きが挙げられます。
為替の先物は、シカゴ市場で取引されており、市場は投機筋のポジションを毎週公表しています。このデータをみることで投機筋の動きをある程度予想することも可能です。ドル円が円安に動くと、投機筋の円売りポジションが増加する傾向があります。
投資筋は日米金利差拡大や、日本の貿易赤字拡大を円売り材料ととらえており、日本円の売りポジションを積み上げています。
3 ドル円相場と株式市場
ドル円相場と株式市場をミクロとマクロの両面から見てみましょう。
3-1 ミクロからみた株式市場
輸出企業にとって円安は売上増につながるため、株価の上昇要因の一つと考えられます。2022年3月の貿易収支統計で輸出金額の伸び率をみてみると、円安効果等により半導体等製造装置や鉄鋼の輸出額(前年同月比)は約40%増、鉱物性燃料が約90%増と大幅増となっています。これらの関連企業は、好業績が期待できそうです。
一方、輸入企業にとって円安はコスト増につながります。コストを販売価格に転嫁できれば、企業業績に悪影響を与えませんが、多くの場合、価格転嫁が進まないため利益が減少してしまいます。円安は輸入企業の株価にはネガティブ材料となります。
3-2 マクロからみた株式市場
今回の円安は、スタグフレーションを導く可能性もあるため、株式市場にはマイナス材料となりそうです。
足元の物価動向をみると、2022年2月の企業物価指数が前年同月比9.3%上昇と高い上昇率となった一方で、価格転嫁が進まないことから、消費者物価指数は同0.9%上昇にとどっています。しかしながら、企業の価格転嫁が少しずつ始まっているため、今後は消費者物価が大きく上昇する可能性があります。
賃金が伸びない状況下で、電力・ガスなどエネルギー価格や、製品・サービス価格の上昇が始まっており、家計の可処分所得が減少傾向にあります。スタグフレーションの足音が聞こえてきました。
まとめ
今回の円安は、悪い円安でスタグフレーションを招く可能性があるため、株式市場にとってはマイナス材料と言えそうです。
スタグフレーションに陥ると、負の経済連鎖がおきてしまいます。物価上昇により実質所得が下がるため、モノ・サービスが売れなくなってしまい企業業績が悪化し株価の下落につながります。企業業績悪化は賃金低下、消費鈍化につながり、さらなる企業業績悪化をもたらすというスパイラルに陥ることになります。
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