シュローダー、「米国経済は景気後退に陥る可能性高い」と指摘。背景にある3つの理由とは
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は5月25日、シュローダーエコノミストチームによるレポート「米国経済が景気後退に陥る可能性が高いと考える3つの理由」の日本語訳を発表した。米連邦準備制度理事会(FRB)の物価安定に対する姿勢から、米国経済が景気後退に陥る可能性が高いとして、背景にある3つの理由を挙げている。
FRBは、政策金利を50ベーシスポイント(bp)引き上げ、誘導目標金利を0.75%~1.00%とすることを決定した。同チームはさらなる金融引き締めを見込み、「ソフトランディングが望ましいが、景気後退と物価上昇率の低下はトレードオフとなる可能性が高いことを示唆している」と分析する。
そのうえで、米国経済が景気後退に陥る可能性が高いと考えられる理由として、①インフレーションの定常化②金融政策が実態経済に影響を及ぼすまで時間がかかる③世界情勢を受け、金融政策の決断がより複雑になっていることを挙げた。
インフレーションの定常化では、労働市場がタイト化しており、物価上昇圧力が広範に浸透している。特に、インフレに「粘着性があること(物価は徐々に変動し、沈静化するまでかなりの時間を要するという性質)」を懸念材料とする。この性質により、賃金上昇を通じてさらなる物価上昇が起こるという「セカンド・ラウンド・エフェクト」が発生する可能性があり、その結果、高い物価上昇率を物価目標水準まで軌道修正するという中央銀行の役割は一層困難になると予測。「需給バランスを調整するためには、景気後退という代償を払って、さらなる金融引き締めを実施する必要がある」と持論を述べる。
2つ目の、金融政策が実体経済に影響を及ぼすまでには時間がかかるという点では、「中央銀行のモデルは、政策当局に対して、金融政策が効力を発揮するまでに必要なおおまかな期間を示唆することはできるが、正確に期間を言い当てられるわけではない」と疑念を示す。そのうえで「どの程度の金融引き締めが必要なのか判断することは困難で、変化がみられるまで政策当局は利上げを実施する衝動に駆られる。これは1980年代と1990年代に実際に見られた現象だ」と警告する。
3つ目の金融政策の決断がより複雑なものになっているということについては、インフレーションへの対応策として米国はじめ世界中で金融引き締めが行われており、結果、世界貿易量や外需が減少すると見込む。欧州域内では、経済活動がウクライナ情勢によって重大な影響を受け、同時にロシア産エネルギーの禁輸を試みている。コモディティ価格の上昇は、消費税増税のように、世界中で実質所得および消費支出の減少を引き起こす。
中国は、金融引き締め政策への転換を図っていないものの、「ゼロコロナ」政策は世界経済の減速をもたらす。新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウン期間中の大規模な財政出動の影響もあり、今後の財政政策は緊縮方向へと移行するというシナリオだ。
さらに、同チームは「金利は均衡金利より低い水準で推移していたため、金利上昇は今後も続く」と予測。均衡金利は、経済がフル稼働の状態の時、過度な景気刺激(過度の物価上昇圧力をもたらす可能性がある)もしくは不十分な景気刺激(景気減速とデフレーションのリスクをもたらす可能性がある)を回避するために求められる水準。「今後さらに6回の連続利上げが行われ、フェデラル・ファンド金利は本年末~来年前半に3%近傍する」と同チームは予測する(5月20日時点)。
「足元の経済への逆風を考慮すると、米国経済の減速をもたらすに十分な水準となる可能性があり、物価上昇は落ち着く一方で、米国経済は景気後退に陥る可能性が高い」とレポートは結ばれている。
4月以降、米国経済に関しては慎重な見方が強かったが、景気後退の可能性について明言した今回のレポートの論調は、今後の市場予測にも影響しそうだ。
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