米政府による仮想通貨のミキシングサービス「トルネードキャッシュ」使用禁止令の影響

今回は、トルネードキャッシュについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. トルネードキャッシュとは?
    1-1.ゼロ知識証明を採用
    1-2.分散型ミキシングサービス
  2. トルネードキャッシュ禁止使用令
    2-1.米財務省、トルネードキャッシュ使用禁止令
    2-2.使用禁止令の背景
    2-3.使用禁止令による影響
  3. まとめ

8月18日にアメリカ財務省から使用禁止令が出されたことで話題となった「トルネード・キャッシュ(Tronado Cash)」と言うサービスをご存じでしょうか。

今回の禁止令に対しては仮想通貨関係者が大きく反発するなど波紋を呼んでいます。この記事ではトルネードキャッシュとはどんなサービスなのか、そしてなぜ禁止令が出されたのかについて解説していきます。

①トルネードキャッシュとは?

そもそもトルネードキャッシュとはどのようなサービスなのでしょうか?その内容や技術について見ていきましょう。

トルネードキャッシュは暗号資産(仮想通貨)の送金において匿名性を高めて使用者のプライバシーを向上させることを目的とした「ミキシングサービス」です。

通常、ブロックチェーンで行われる取引では個々に独自のアドレスを持った「ウォレット」同士で行われ、どのウォレットからどのウォレットへいくら送金されたのかなどの情報がブロックチェーン上に残されます。そのため、ウォレットの持ち主が誰かは分からないものの、どのウォレットが取引に使われていたのかは公開情報となっています。これらの情報は「Etherscan」などのブロックチェーンエクスプローラーを利用することで誰でも閲覧することができます。

1-1. ゼロ知識証明を採用

トルネードキャッシュは、このような仮想通貨取引におけるウォレットのアドレスを隠して誰が誰へ送金したのかを分からないようにできるサービスです。取引情報のプライバシーを保護できるとして、多くの取引に利用されてきました。

この匿名性を作り出すのが、「ゼロ知識証明」と呼ばれる技術です。ゼロ知識証明は、秘密の正確な内容を明らかにすることなく、何かを知っていることを証明する暗号技術です。

通常、「Etherscan」などのブロックチェーンエクスプローラーで取引履歴を追跡できるため、匿名で送金することはできません。Tornado Cash は、ゼロ知識証明を使用して送金元 アドレスと送金先アドレスの間のオンチェーンリンクを切断することで、このプライバシーの問題を解決します。

Tornado Cash では、任意の金額を Ethereum ブロックチェーンのスマートコントラクトに入金します。その後、新しいアドレスの代わりに秘密のコードが提供されます。後でこの秘密のコードを使用して、入金した金額を引き出します。この段階で関連性の低いアドレスを使用することで、完全にオンチェーンリンクを断ち切ることができます。

1-2. 分散型ミキシングサービス

また、トルネードキャッシュの大きな特徴は分散型のミキシングサービスであるという点です。

仮想通貨業界ではこれまでも多くのミキシングサービスが開発されてきましたが、企業などのいわゆる中央集権を持つ特定の団体が、取引を1ヶ所に集約したあとに再分配するものや、P2P型のサービスでもマッチングさせるのに使う場所(ミキシングサーバー)を用意する必要があるなど、重要な課題がありました。ミキシングサーバーでは、ユーザーのログとIPアドレスが残るためデータのプライバシーが完全に確保されませんし、同じタイミングで参加できる人たちを多く集めないと簡単に追跡できてしまうなどの弊害があるからです。

しかしトルネードキャッシュではゼロ知識証明を利用することでこれらの課題や制限を払拭し、スマートコントラクトだけでプライバシー保護を実現しました。

②トルネードキャッシュ禁止使用令

このように仮想通貨取引の匿名性を強めてプライバシーを保護するトルネードキャッシュですが、アメリカ財務省外国資産管理局(OFAC)は22年8月8日にその禁止令を出しました。

ここでは、禁止令とは具体的にどのようなもので、なぜ禁止されたのか、そして世の中にどのような影響を与えたのかを解説していきます。

2−1. 米財務省、トルネードキャッシュ使用禁止令

OFACはイーサリアム上のスマートコントラクトに制裁を課すという、前例のない措置を取りました。あらゆるアメリカ人に、トルネードキャッシュのオープンソースプロトコルとのやり取りを禁じたのです。

これを受けて、GitHubがトルネードキャッシュのコードが保存されたアカウントを停止し、ステーブルコインを発行するサークル社は関連するアドレスに保管された仮想通貨「USDC」を凍結、分散型ドメインサービス「ETH.LIMO」が、トルネードキャッシュのウェブドメインを停止するなど対応しました。

その後8月10日にはオランダの捜査期間であるFIODが、トルネードキャッシュの開発に関与したエンジニアを、マネーロンダリングほう助罪の容疑で逮捕しています。

トルネードキャッシュのコードはブロックチェーンに組み込まれているため利用できますが、ウェブサイトのインターフェースは封鎖されています。

2−2. 使用禁止令の背景

アメリカやオランダがこのような制裁措置をとった理由は、ミキシングサービスによるマネーロンダリングの懸念があるといわれています。

実はトルネードキャッシュよりも前に制裁措置を受けていたミキシングサービスがあります。それが「Blender.io」です。

Blender.ioが悪用された最も大規模な例は、2022年3月に発生したNFTゲーム「Axie Infinity」のサイドチェーンである「Ronin」チェーンでのハッキングです。この時の被害額は約6億ドルにも及びます。Blender.ioはハッキングそのものには関与していませんが、FBIの調査では盗まれた仮想通貨がBlender.ioを経由した匿名で送金されたとしています。

さらにハッキングの犯人が北朝鮮を拠点とするハッカー集団だと発表され、ミキシングサービスの存在が国内外の資金洗浄に使われると浮き彫りになりました。この件などからOFACは2022年5月6日にBlender.ioへの制裁措置を発令しました。これによりBlender.ioが持つ資産などが凍結され、WEBサイトへのアクセスも不可能となり、実質的なサービス停止状態となりました。

今回のトルネードキャッシュも同じように、北朝鮮のハッカー集団などがマネーロンダリングに使用したため制裁対象となりました。トルネードキャッシュはミキシングサービスとしては大手であり、2019年の創設以来およそ70億ドル以上の仮想通貨ロンダリングに使用されてきたといわれています。OFACは「犯罪者を支援するミキシングサービスは国家の安全保障に対する脅威となる」と発表し、トルネードキャッシュへの制裁はサイバー犯罪へのリスク対策であるとしています。

2−3. 使用禁止令による影響

トルネードキャッシュの禁止令に対して、仮想通貨業界からは反発する声が多くあがっています。中でも大きな波紋を呼んでいるのが、オランダ当局によるエンジニアの逮捕です。

トルネードキャッシュは2022年7月にはUIのコードをオープンソース化して誰でも開発が可能な状態にしていました。それより前の2020年半ばには、すでにエンジニアが誰でもトルネードキャッシュに手を加えられるようにして分散的に開発をしていくDAO(自律分散型組織)のような形がとられていましたが、オープンソース化によりさらにその毛色を強めた状態だったということです。そのため、逮捕されたエンジニアも誰でも改変できるトルネードキャッシュのプログラムにコードを加えただけである可能性があるといえます。

仮想通貨界隈の著名人はこの動きに対して「今回の逮捕は危険だ」「プライバシー保護をするコードを書いただけで逮捕されている」などとツイートしており、政府の行動が行き過ぎていると批判しています。

また、禁止令が出たあとに、トルネードキャッシュのサービスを使って著名人の仮想通貨ウォレットに少額のイーサリアムが送金されているという不可解な出来事も発生しました。対象となっている著名人には仮想通貨取引所のCEOであるブライアン・アームストロング氏やNFTアート作家のBeeple氏などがいます。

トルネードキャッシュを介していて匿名であるため送金者やその意図は不明ですが、「トルネードキャッシュによる送金・受金は悪意あるハッカーからであったとしても分からず、拒否できない。アメリカ当局による制裁は矛盾している。」というメッセージを伝えたいのではないかと考える人もいました。

また、トルネードキャッシュは主にガバナンストークンとして利用されている「TORN」を発行しています。仮想通貨の匿名性への注目から、2022年以降TORNの価格も上昇傾向にありましたが、今回の禁止令を受けておよそ4分の1ほどに暴落する事態となりました。

③まとめ

トルネードキャッシュをはじめとするミキシングサービスは、仮想通貨の課題の一つであった匿名性を高めることのできるシステムとして大きな注目を集めてきました。

トルネードキャッシュへの制裁や悪意のないエンジニアの逮捕など政府の強硬策に批判が集まる一方で、マネーロンダリングの温床となっていることも事実です。今後政府がトルネードキャッシュのように新しい技術に対して規制を強めるかどうかの動向には注目していきたいポイントでしょう。

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Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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