欧州大手行9兆円超の気候変動損失リスク、早急な取り組み強化が必要 7月にストレステストの結果公表
欧州中央銀行(ECB)は2022年7月、気候変動が金融機関に与えるリスクをはかるストレステスト(健全性審査)の結果をはじめて公表した。その結果、損失額は700億ユーロ(約9.5兆円)に達し、大半の銀行に対して気候変動に関するガバナンス、データの利用可能性、モデリングなどの対応改善を求めている。
同ストレステストは104行を対象に質的・量的データを収集し、①金融機関の対応能力、②炭素排出セクターへの依存度、③異なる移行シナリオ下でのパフォーマンスを評価した。
その結果、約60%の銀行が気候リスクをストレステストにくみこむ枠組みを保有しておらず、融資の際に気候リスクを考慮する金融機関は20%にとどまった。銀行収益のおよそ3分の2は、温室効果ガス(GHG)を大量に排出する非金融機関からもたらされているという。
さらに、ECBから直接の監督をうける41行を対象にしたクレジット・市場リスクは約700億ユーロにのぼると試算。利用可能なデータが十分でなく、景気後退などのリスクをおりこんでいないため、実際の損失額はさらにふくらむ恐れがあると指摘する。
ECB銀行監督委員会のアンドレア・エンリア委員長は「ユーロ圏の銀行は気候リスクを測定・管理するための取り組みを早急に強化しなければならない。現在のデータギャップを解消し、業界内で既に存在する優れた取り組み事例を取りいれる必要がある」と述べた(*1)。
各国の中央銀が気候変動対策を本格化している。5月下旬には英中央銀行のイングランド銀行(BOE)が、気候変動ストレステストの結果を公表した(*2)。BOEは気候変動を「最優先」の戦略課題に位置づけており、追加的な政策を実施しない場合には50年までの30年間で3,340億ポンド(約55兆円)の損失が生じる可能性があると試算する。
現在、欧州は厳しい熱波や豪雨にさらされている。ロシアはユーロ圏へのガス供給の主用パイプラインを停止しており、エネルギー価格の高騰がつづく(*3)。英ではトラス首相が辞任しスナク氏が次期首相に就任したが、エネルギー価格の対策に明確な出口は見えていない状況だ。欧州の金融機関各社にとっても、気候変動対策は緊喫の課題となっている。
【参照記事】*1 欧州中央銀行「Banks must sharpen their focus on climate risk, ECB supervisory stress test shows」
【参照記事】*2 イングランド銀行「Results of the 2021 Climate Biennial Exploratory Scenario (CBES)」
【参照記事】*3 「ユーロ圏はより深刻な景気後退に、ロシア産ガス供給削減で-ドイツ銀」
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