バーチャルシティコンソーシアムとガイドラインver1.5の詳細について解説
今回は、バーチャルシティコンソーシアムのガイドラインについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- バーチャルシティコンソーシアムとは
1-1.バーチャルシティコンソーシアムの概要
1-2.それぞれの企業の役割
1-3.バーチャル渋谷とは - バーチャルシティガイドラインとは
2-1.バーチャルシティガイドラインの概要
2-2.策定の目的 - バーチャルシティガイドラインver1.5の詳細
3-1.クリエイター経済の活性化
3-2.メタバース・都市連動型メタバースにおけるNFTの活用
3-3.メタバースにおいてNFTを活用する場合の課題
3-4.今後解決すべき課題 - バーチャルシティコンソーシアムの今後の展開
4-1.ガイドライン第3版の制作
4-2.Metaverse Japanとの連携 - まとめ
22年11月8日、メタバースに関する業界団体バーチャルシティコンソーシアムが国内のメタバースおよび都市連動型メタバース業界のさらなる発展を目的とした「バーチャルシティガイドライン ver.1.5」を発表しました。
21年に設立されたバーチャルシティコンソーシアムは、KDDI株式会社、東急株式会社、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社、一般社団法人渋谷未来デザインが参画しています。
今回は、バーチャルシティコンソーシアムのガイドラインver1.5について、その概要や特徴などを詳しく解説していきます。
①バーチャルシティコンソーシアムとは
1-1.バーチャルシティコンソーシアムの概要
バーチャルシティコンソーシアムとは、日本国内におけるメタバースについてのさまざまな情報発信やガイドラインの制作などを行っている組織です。渋谷区公認の配信プラットフォームとして知られる「バーチャル渋谷」プロジェクトから得た知識や見識をもとにしています。
バーチャルシティコンソーシアムは国内のさまざまな都市における類似モデルの展開および新規ビジネス、技術開発など、メタバースの発展に向けて、オープンな形で議論や調査研究を進めています。経済産業省のほか、渋谷区や大阪府、大阪市をオブザーバーとして迎えており、都市連動型メタバースの運営や実際の都市の街づくりに携わる事業社や専門家といった各分野の精鋭たちが一丸となってプロジェクトを推進しています。
1-2.それぞれの企業の役割
バーチャルシティコンソーシアムを組織する4社は、それぞれに下記のような役割を担っています。
- KDDI株式会社:5Gや先端技術を駆使して、au版メタバースとして知られる「バーチャルシティ」の開発および技術やサービスに関連する知識や見識について、シェアする。
- 東急株式会社:仮想空間との連動を見据え、現実の都市にけるまちづくり活動やビジネスの知識や見識について、シェアする。
- みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社:コンソーシアム運営やガイドライン作成をサポートする。
- 一般社団法人渋谷未来デザイン:行政との民間企業の連携を推進する。
1-3.バーチャル渋谷とは
「バーチャル渋谷」とは、KDDI、渋谷未来デザインおよび渋谷区観光協会を中心とする75社で組織される「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」によって、20年5月に立ち上げられたプロジェクトです。バーチャル渋谷は渋谷区公認の配信プラットフォームであり、自治体公認のバーチャル事業としては日本初の事例となっています。
一般的に、メタバースプロジェクトは事業者によって企画や運営が行われているケースが多いですが、バーチャル渋谷は渋谷区に関連する利害関係者が互いに連携して運営され、現実の都市と連動するメタバースであることが最大の特徴となっています。バーチャル渋谷の運営を通して直面したメタバースの課題は、今後の「バーチャルシティ」の展開に向けた知識や見識として積極的に活用されます。
②バーチャルシティガイドラインとは
2-1.バーチャルシティガイドラインの概要
今回発表された「バーチャルシティガイドライン ver.1.5」はメタバースおよび都市連動型メタバースを対象としたものです。主にプロジェクトの設立や運用時の注意点、検討項目などをまとめています。
バーチャルシティガイドラインは22年4月に初版となる「バーチャルシティガイドライン ver.1」が制作されました。その際にガイドラインの行動指針である「バーチャルシティ宣言」も同時に公開されました。
このガイドラインは、利用者および提供者の双方が安心且つ安全にメタバースを利用できるよう、ほかのメタバース関連事業者もしくは自治体に対して広く公開されており、日本国内のメタバース事業の発展に大きく寄与しています。
2-2.策定の目的
バーチャルシティガイドラインは、都市連動型メタバースである「バーチャルシティ」を開発および運営するにあたって、実際の都市とメタバースプラットフォームの開発や運営に携わる関係者、商品やサービス提供者、そしてユーザーやクリエイターなど、マルチステークホルダー間で共通理解を醸成し、開発や運営における各論点に対する考え方の指針を示すことを目的としています。
なお、都市連動型メタバースは、インターネット上における都市とも言えるメタバースと実際の都市を中心とした物理空間とを機能的且つ経済的に連動させることを目指した概念となっているため、「メタバース」と「都市連動型メタバース」に共通する論点と、「都市連動型メタバース」特有の論点とを区別することなく、まとめて整理していると説明されています。また、それと併せて、「バーチャル渋谷」を設立した経緯や二年間の運営を経て獲得した知識や見識などを示すことによって、世界にも類を見ない都市連動型メタバースを、日本発信のプラットフォームとして活性化することを目指しているということです。
なお、バーチャルシティガイドラインはあくまでも、更新時までの議論の内容をまとめ、目的に沿って考え方の指針や参考情報を示したものであると説明されています。メタバースは日々進化を遂げており、急速に成長している領域となっているため、現状のバージョンに固執するものではなく、市場での実態や他の団体や政府のほか、アカデミアなどでの議論を踏まえながらオープンに更新を続けていくということです。
③バーチャルシティガイドラインver1.5の詳細
ここでは、新たにアップデートされた項目を中心に紹介していきます。
3-1.クリエイター経済の活性化
メタバースプロジェクトにおいて、運営によって用意されているコンテンツやサービスをユーザーが一方的に「消費」するというシステムのみを採用する場合、その提供スピードに限界が出てくるため、いずれはユーザーに飽きが来てしまうのではという懸念が伴います。
そのため、運営が一方的にコンテンツやサービスの提供を行うというシステムではなく、ユーザー一人一人の創造性を掻き立て、コンテンツやサービスをそれぞれのユーザーが自身の手で創り出し、プラットフォームを通してほかのユーザーに自由に提供できる環境を用意することが大切だということです。
そして、これを達成するために、ブロックチェーン技術および仮想通貨やNFT、「DAO(分散型自律組織)」などは必要不可欠な要素になるとしています。特に、クリエイターはNFT技術を用いることによって、プラットフォームに縛られることなく、適切な対価や著作権分野の「追求権」と同様にNFTが付与されたコンテンツの二次流通以降の収益分配を得られるようになるなど、「経済的価値」という切り口からクリエイター経済をさらに活性化させることが可能だと説明しています。また、メタバース上で作成したNFT作品を各プラットフォームに持ち込む場合のインセンティブとしても用いられる可能性があるということです。
このほか、ユーザー主体によるインターオペラビリティついても論じられており、これを実現するために「自己主権型ID」または「分散型ID」の利用が期待されているとしています。メタバースにおけるインターオペラビリティの具体的な内容については、業界として議論が始められたばかりであること、事業主体によってプラットフォームにインターオペラビリティを取り入れるかどうかの選択が異なることなどから、具体的にどんな分野やデータを連携させるべきか、その仕様はどうあるべきかといった点についてはまだ明確になっていないとしているものの、ユーザーがメタバース空間において、日常的に何らかの活動を行うモチベーションの向上という視点で考えると、プラットフォームを横断しても統一した「デジタルアイデンティティ」を持つことが可能な環境の構築が重要だとしています。つまり、メタバースプラットフォームを軸として、デジタルの世界における「自己同一性」を認識するための要素が必要だということです。
例を挙げるとすると、アカウント名やアバターのほか、ホールドしているアイテムやソーシャルグラフなどがあるとしており、これらを用いて、プラットフォームにおける活動がユーザー自身に帰属できるようなシステムを構築することが重要だと説明しています。
3-2.メタバース・都市連動型メタバースにおけるNFTの活用
ガイドライン内では、クリエイターの収益化についてや、ユーザーのデジタルコンテンツの「保有」において、プラットフォームに対する依存度を下げることなどをNFTの活用の目的として挙げています。
具体的なNFTのユーティリティとしては「NFTアート」など、NFTが付与されたコンテンツが増加しており、メタバース内で開催されるNFTアートの展覧会、何らかのNFTアイテムのホルダーだけが入ることを許された空間もしくはイベントの提供など、アクセス権のコントロールといったユーティリティがすでに存在していると説明しています。
また、NFTにはホルダーの「公開アドレス」が記録されていることから、NFTアバターがまた別のマーケットプレイスにおいて販売され、ホルダーが変更されるといった、プラットフォームのエコシステム拡大にも用いられているということです。
なお、都市連動型メタバースにおいては、主に現実の都市における関係人口の増加や、「シティプライドの醸成、そして現実の都市が持つ機能との連動を目的としてNFTを用いることが考えられるとしており、「バーチャル市民」のような、会員権としてのNFTを発行し提供する使い方についても言及しています。
3-3.メタバースにおいてNFTを活用する場合の課題
メタバースでNFTを活用する場合の課題として、クリエイターの収益化が触れられており、具体的にはNFTが流通していく過程での中抜き問題および、過当競争という二つの課題が存在するとしています。
このうち、中抜き問題についてはNFTの特性を利用することによって、最大限に直接取引に近いシステムを構築し、取引でのプラットフォームに対する依存度を下げることで解決に寄与することが可能だとしていますが、一方、過当競争に関しては、NFTを制作するツールがますますシンプルで簡単になってきていることや、人工知能(AI)を用いた制作もますます増えていることなどから、NFTだけを持ってしては解決が難しいと説明しています。
また、公開アドレスの個人情報該否についても言及されており、パブリックチェーンにおける公開アドレスの取り扱い方法と、日本の個人情報保護法との整合性に関して、今後議論が必要だとしています。
3-4.今後解決すべき課題
バーチャルシティガイドラインでは、今後議論を継続すべき項目や論点が提示されており、その詳細は下記の通りとなっています。
- メタバースにおける新たな権利保護:具体的には、メタバース内での意匠権および商標権の保護や、バーチャル・プロパティの範囲および内容の類型化など
- UGCにおける「n次創作」を促進するためのオープンライセンスの選定や制作など、より柔軟な権利処理を行うことが可能なシステムの構築
- クリエイターやIPホルダーに対する理解醸成
- Web3.0とメタバースが融合した場合における事業分野毎のライセンスおよび規制の整理
- いくつかのメタバース間でのインターオペラビリティを確保するためのシステム
- メタバースプラットフォーム間の移動にかかる、個人情報の提供に必要なユーザーからの同意の取得、およびユーザー情報の取得経緯にかかる情報についての共通フォーマットの作成
- メタバースのオープンガバナンス
- メタバース特有の権利侵害について、プラットフォーマーが責任を負う権利侵害行為の明確化および類型化
- 利用規約やプライバシーポリシーのテンプレートの制作
④バーチャルシティコンソーシアムの今後の展開
4-1.ガイドライン第3版の制作
前述の通り、バーチャルシティコンソーシアムではこれまでに、「バーチャル渋谷」などをはじめとする渋谷での実例を中心に制作された「バーチャルシティガイドラインver1.0」、そして今回新たに制作された、ほかの都市展開に向けた「バーチャルシティガイドラインver1.5」を世に送り出してきました。
そして、今後の展開として、ガイドライン第3版の制作を計画していることが明らかになっています。ガイドライン第3版では主に、マルチプラットフォーム間における連携などをはじめとする海外展開も見据えた内容を盛り込む計画だと説明しており、その発表時期としては23年度を予定しているということです。
4-2.Metaverse Japanとの連携
今後は、ユーザーのプライバシーの保護やメタバース間のインターオペラビリティの確保、また渋谷以外の都市における適応に向けた論点などについて引き続き議論を進めていくとしています。またこのほかにも、22年3月14日に設立された一般社団法人Metaverse Japanとの連携も図っていくとしており、今後の動きに大きな注目が集まっています。
Metaverse Japanとは、「日本の可能性をメタバースを通じて世界に解き放つハブとなる」という目的を掲げて活動している団体で、メタバースに関するさまざまなプロジェクトの展開を行っています。例えば、定期勉強会やイベントの開催のほか、ワーキンググループ活動やガイドラインの提言などを手がけており、両者の連携によって、今後の国内メタバースのさらなる発展に良い影響を与えるのではと期待されています。
⑤まとめ
バーチャルシティコンソーシアムはKDDI株式会社、東急株式会社、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社、一般社団法人渋谷未来デザインという豪華な面々によって構成されており、日本国内におけるメタバース事業のさらなる発展を目指した活動を行っています。
今回新たに公にされた「バーチャルシティガイドラインver1.5」では、特に都市連動型メタバースに焦点を当てており、クリエイター経済のさらなる活性化のほか、メタバースにおけるNFTの活用やその場合の課題点などといった都市連動型メタバースの開発や運営における各論点に対する考え方の指針が細かく示されています。
バーチャルシティコンソーシアムは今後も「バーチャル渋谷」プロジェクトを通して、日本国内における都市連動型メタバースプロジェクトの発展をサポートしていくということで、引き続きその活動に注目していきたいと思います。
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