日銀の金利引き上げ・金融政策の動向は?影響の大きい業種も【2023年1月】
2022年12月20日の午後、金融市場に衝撃が走りました。日本銀行が金融政策決定会合で、長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げました。これを受けて、10年国債の流通利回りは0.25%程度から0.4%台に急騰し、2023年1月5日発行の10年国債(369回債)の利率は0.5%と、368回債の0.2%から大幅に引き上げられました。
国債金利の上昇は、住宅ローン金利や企業の借入金金利を引き上げるため、景気減速の材料となります。そこで今回は、日銀の金利引き上げ・金融政策の動向や影響の大きい業種について解説します。
※2022年1月13日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
- 金融政策の行方
1-1.インフレ率
1-2.ドル円相場 - 金利と株式市場
- 金利上昇の影響
3-1.金利上昇が株価にプラスに働く業種や企業
3-2.金利上昇が株価にマイナスに働く業種や企業 - まとめ
1 金融政策の行方
2023年は、高インフレを背景にマイナス金利政策の転換点となりそうです。ここでは、金融政策のカギを握る中央銀行(日本銀行)の金融政策、インフレ率、ドル円相場について見ていきましょう。
1-1 インフレ率
インフレは、貨幣価値を引き下げ、経済を不安定にします。物価上昇を抑えることで、通貨を安定させることができます。
物価の安定と金融システムの安定を担うのは日本銀行で、その金融政策は物価やインフレ率に影響します。現在、日本銀行のインフレターゲットは2%です。2022年12月20日の金融政策の転換は、インフレを抑えることがひとつの目的でした。
今後は、現在マイナス0.1%に設定している付利預金(銀行が日銀に預ける当座預金金利)の正常化(マイナス金利解除)が想定されます。マイナス金利政策が解除されると、長期金利は1%台に乗せる可能性があります。
現在の物価動向について見てみます。物価を測る物差しには、企業物価指数(CGPI)と消費者物価指数(CPI)の2種類があります。CGPIとは企業間で取引される原材料などの価格推分を数値化したもの、CPIは消費者が購入する商品・サービス価格を数値化したものです。企業物価の変動に消費者物価が遅れて反応する傾向があるため、CGPIがCPIの先行指数となります。
2022年は食料品をはじめ様々な商品の値上げが相次ぎました。11月のCPI(全国)は前年同月比3.8%の上昇となりました。一方、CGPIは前年同月比9.3%上昇でした。CGPIとCPIの伸び率が乖離しているのは、企業側が「モノが売れなくなってしまう」という懸念から、価格転嫁を推し進めることをためらっているためです。
しかし、少しずつですが、企業の価格転嫁が始まっています。2023年も電気料金を始め、飲食料品等さまざまな商品の値上げが予定・実施されています。
2023年1~4月までに値上げを予定している食品は、前年同期比58%増の7,390品目にのぼるなど、CPI上昇率は拡大傾向にありそうです(参照:帝国データバンク「「食品主要 105 社」価格改定動向調査―2023 年 1 月」)。
1-2 ドル円相場
ドル高進行も、輸入物価の上昇に繋がることから最終的にCPIの押し上げ要因となります。
2022年のドル円相場は、ドル高が進みました。2022年1月上旬に約115円だったドル円は、10月に152円近辺まで買われ、12月末時点では131円台でした。ドルの年間上昇率は約14%でした。
背景には、米国利上げによる日米金利差の拡大が挙げられます。2022年1月上旬の2年国債の日米金利差は約0.8%でしたが、米国の利上げが進んだため12月末時点で4.3%に拡大しました。金利差拡大により、日本から米国債に資金が流れたためドル需要が高まりドル高が進んだのです。
また、ドル高に加え、ロシアのウクライナ侵攻による一次産品価格の上昇に伴い、日本国内では輸入物価が高騰し、2022年1月に102.7だった輸入物価指数が9月には189(2020年=100%)まで上昇し、11月時点では178.9と高止まっています。
日米の金利差を縮小しドル高を是正するため、日本銀行は金融政策の転換を迫られています。
2 金利と株式市場
金利の上昇は株価にはネガティブに働きます。金利(割引率)の上昇に伴い企業価値(理論値)が減少します。株価の理論価格の算出方法にDCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法があります。企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に割引くことで、企業価値を算出する方法です。金利上昇は現在価値の低下に繋がります。
3 金利上昇の影響
金利の上昇は理論株価の低下に繋がりますが、金利上昇により収益拡大が期待できる業種や企業も存在します。見ていきましょう。
3-1 金利上昇が株価にプラスに働く業種や企業
銀行や生保は金利上昇局面では利ざや(預金などの調達金利と貸出金利との差)拡大が見込めるためメリットがあります。つまり、銀行や保険会社などは株価が上昇しやすい業種と言えそうです。
また、金融資産を多く保有している企業は、利息が増加することもメリットです。輸入依存度の高い企業でも、金利上昇によりドル安に進めば、輸入コストの低下がメリットに繋がります。
3-2 金利上昇が株価にマイナスに働く業種や企業
不動産業種の株価にとって、金利上昇はデメリットです。住宅ローンの金利は国債の利回りが基準になっているため、国債金利の上昇は住宅ローン金利の上昇に繋がります。そのため、住宅販売の需要落ち込みが予想され、不動産関連企業の業績悪化が予想されます。
みずほ銀行の10年住宅ローン金利は、2022年1月上旬の2.75%から、2023年1月には3.5%に上昇しています。仮に5,000万円を2.75%の元利均等払いで35年借りた場合、月当たりの返済金額は18.5万円で、総支払金額は7,791万円です。3.5%では月当たり返済金額が20.6万円、総支払金額は8,679万円です。金利が0.75%上昇すると、月当たり2.1万円、総支払金額は888万円の負担増となります。
また、金利上昇は企業の資金調達コストを押し上げるため、有利子負債が多い企業(自己資本比率の低い企業)では利払い金が増加し業績の悪化に繋がります。電力・ガス会社、商社などは有利子負債が多いため、金利上昇は株価にとって重石となりそうです。
まとめ
日本銀行の金融政策転換により、10年国債の流通利回りが0.25%から0.5%に跳ね上がりました。消費者物価指数は日本銀行がターゲットとしている2%を上回る水準で推移しています。マイナス金利政策の転換時期が近づいているようです。
国債金利の上昇は、住宅ローン金利や企業のコスト上昇に繋がります。利上げ局面では不動産関連企業や、負債依存度の高い企業にはデメリットです。一方、銀行や保険会社などの金融機関にとっては、長期金利の上昇は、利ざや拡大から増収が期待できるためメリットです。
日本銀行の黒田総裁の任期は2023年4月までとなっており、市場では新総裁の金融政策の舵取りが注目されます。
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