ブロックチェーン基盤「Tracified」を使った日本酒「閃光(せんこう)」のトレーサビリティ事例について解説
今回は、ブロックチェーンプラットフォーム「Tracified」を活用した食のトレーサビリティシステムについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- Tracifiedとは
1-1.Tracifiedの概要
1-2.Tracified Technologies株式会社
1-3.日本能率協会コンサルティングとの関係 - Tracifiedの特徴
2-1.企業の内側と外側で相乗的にブランドを強化することが可能
2-2.充実したブランディングツール
2-3.あらゆるサプライチェーンにおいて簡単に実装が可能
2-4.エンタープライズソリューション
2-5.「POE(文書の存在証明)」メカニズム - 「Tracified」の実際の活用事例
3-1.日本酒「閃光(せんこう)」 - 「Tracified」の今後の展開
4-1.対応範囲の拡大 - まとめ
22年11月18日、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)が出資しているTracified Technologies株式会社が、ブロックチェーンプラットフォーム「Tracified」を用いた食のトレーサビリティシステムをリリースしたことを明らかにしました。
楯の川酒造株式会社が11月10日に発売した日本酒「閃光(せんこう)」の原材料の調達から生産までのトレーサビリティをTracifiedで執り行うとしています。これにより「閃光」のブランド価値の向上に寄与することが期待されています。
そこで今回は、新たにリリースされたブロックチェーンプラットフォーム「Tracified」における食のトレーサビリティシステムについて、その概要や特徴などを詳しく解説していきます。
①Tracifiedとは
1-1.Tracifiedの概要
「Tracified」とは、ブロックチェーンをベースとする独自のトレーサビリティ・テクノロジーを開発および提供することを目的として、スリランカに設立された企業のことを指します。
そもそもトレーサビリティとは、商品の生産から消費までのプロセスを追跡することを指し、英語で追跡という意味を持つ「trace」と、能力という意味を持つ「ability」の2つを組み合わせて作られた単語となっています。近年では、製品の品質向上のほか、消費者の安全意識の高まりなどを背景としてトレーサビリティがますます重要視されるようになっています。現在は食品業界のみならず、自動車や電子部品、医薬品などといった幅広い分野において広く使用されています。トレーサビリティでは、「その製品がいつ、どこで、誰の手によって作られたのか」というそれぞれの段階におけるプロセスを明らかにすることで、原材料の調達から生産、さらには消費もしくは廃棄までのすべてを追跡可能な状態にしています。
Tracifiedではこのトレーサビリティにフォーカスし、「ブロックチェーン基盤のトレーサビリティ技術で『本物』の品質を証明する」というテーマのもと、さまざまなプロジェクト展開を行っています。ブランド力の比較的弱い中小企業や生産者などであっても、Tracifiedブロックチェーンプラットフォームで製品情報を共有および証明することによって、消費者に対して品質を担保できることが一つの狙いです。
このように、Tracifiedは現代社会におけるニーズにマッチした需要の高いサービスで、業界から大きな注目を集めています。
1-2. Tracified Technologies株式会社
Tracifiedは、ブロックチェーンをベースとした独自のトレーサビリティ技術の開発/提供を行うため、トップレベルの技術者らを集めてスリランカで設立された企業です。2020年にはTracifiedが持つレベルの高いソリューションを世界中の優れた中小企業または生産者らに届けるため本社機能を東京へと移転し、現在のTracified Technologies株式会社が設立されました。なお、元々スリランカに設立された会社は現在、子会社「Tracified (Private) Limited」として機能しています。
Tracified Technologiesではあらゆる製品の品質を発信するにあたって、「ブランドは主張する時代から証明する時代に」というポリシーを提示。独自のトレーサビリティ技術およびブロックチェーンの証明技術を駆使することで、食品だけでなくファッションや住宅、健康や美容といった分野を含むさまざまな製品に最適化されたブランディングツールの提供を行っています。
このように、Tracifiedでは企業の内側および外側において、相乗的に企業や製品のブランド価値向上をサポートするための包括的なソリューションを提示しています。
1-3.日本能率協会コンサルティングとの関係
株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)は21年より、「Tracified」に対して出資を行っています。JMACでは16年から技術商業化やベンチャーキャピタル業務を手がけている360ipジャパン株式会社と共同で先端技術商業化アクセラレーター合同会の運営を行っており、このスキームを中心として、研究開発型スタートアップの育成やサポートを通した社会課題解決を推進しています。
そして、「Tracified」はそんなJMACと360ipとの共同出資およびサポート案件の第一号となっており、Tracifiedの立ち上げ当初から深い関わりを持っているということです。
なお、JMACは1980年に創立された歴史ある企業で、主に経営コンサルティング事業を展開しています。具体的には、R&D、生産、TPMや、戦略、マーケティング&セールス、サプライチェーン、BPR、組織・人事、ITビジネスなど、クロスファンクショナルなコンサルティングサービスを提供しており、日本の成長をサポートする「総合コンサルティングファーム」として知られています。
また、360ipは世界最大の独立系非営利の研究開発および技術商業化科機関である米国バテル記念研究所、経営陣、バテル傘下のBattelle Ventures およびInnovation Valley Partnersにより設立されました。そして、その後の2012年2月、360ipのグループ企業として360ipジャパンが設立されました。360ipジャパンは日本国内における先端テクノロジーの商業化や投資、商業化ノウハウの地域移転を目的とした事業展開を行っており、企業やアカデミアの技術および知財の商業化、新規事業開発などに関連するさまざまなプロジェクトを手がけています。
なお、Tracifiedへの出資についてJMACは、「長い期間に渡って経済が停滞状況にある日本では、研究開発型スタートアップの活性化によって、現在の状況を打破することが期待されている」と説明しています。
②Tracifiedの特徴
2-1.企業の内側と外側で相乗的にブランドを強化することが可能
Tracifiedのブロックチェーンプラットフォームはその構造から、企業の内側と外側で相乗的にブランドを強化することが可能となっています。具体的には、トレーサビリティ技術を駆使して企業の行動や事実を改ざんが難しい安全な状態で記録することによって、社員のエンゲージメントの向上のほか、ブランドや品質のリスク管理、さらには製品の品質や生産性・技術の向上などを可能にしています。
また、ブロックチェーンの証明技術を駆使することによって、商品の記録を証明し、消費者に本物を体験する機会を提供できるほか、ウェブショップやアプリケーションでのインストアプロモーションも可能になります。これにより、品質の保証効果や他の商品との差別化効果を最大化できるだけでなく、値段が比較的高価でも購買意欲を掻き立てることができる付加価値効果や、世の中にさらに広めたいという社会科効果など、顧客や社会に向けたブランドの強化も可能になるというわけです。
2-2.充実したブランディングツール
Tracifiedでは、農業や食品、ファッションや健康・美容、住宅といったさまざまな製品に対応した革新的なブランディングツールの提供を行っており、消費者が製品を購入する際に、ブランドと品質のルーツを体験できるようなシステムを、それぞれの企業が展開する製品に合わせてカスタマイズしています。
なお、Tracifiedが提供している具体的なブランディングツールは、下記の通りとなっています。
- 製品の品質や社会志向に関する事実を改ざん不可能な方法で記録し証明するパブリックブロックチェーン
- 最先端のトレーサビリティ技術を誰もが簡単に使えるようにするアプリケーション
- 製品を購入される消費者がイーコマースサイトや店舗で「本物」を体験し、購入や奨励につなげるアプリケーション
- これらが一体的にデザインされたブランド・ウェブショップおよびPOS
2-3.あらゆるサプライチェーンにおいて簡単に実装が可能
Tracifiedは、あらゆるサプライチェーンにおいて簡単に実装できます。具体的には農作物や水産物のほか、家畜製品や乳製品など、クライアントのニーズに合わせたさまざまな食品のサプライチェーンに導入することが可能となっているため、かなり利便性の高いサービスであると言えるでしょう。
2-4.エンタープライズソリューション
Tracifiedでは「エンタープライズソリューション」として、サプライチェーンのさまざまな段階において実装が可能なソリューションの提供を行っています。具体的には、Tracifiedの管理者ポータルやトレース構成ポータル、インサイトポータル、フィールドオフィサーアプリケーションなどが用意されています。
2-5.「POE(文書の存在証明)」メカニズム
Tracifiedではブロックチェーン・テクノロジーを活用することによって、Tracifiedプラットフォーム上に記録された情報が非常に信頼性の高いものであることを証明しています。具体的には、「PoE(Proof of Existence)」という「文書の存在証明」メカニズムを用いることによって、ブロックチェーン上に入力されたデータの検証を実施し、そのデータが記録時点から変更されていないことを保証できるようになっています。
このように、Tracifiedではブロックチェーン・テクノロジーを採用することによって、トレーサビリティにおいて非常に重要な要素となる高い信頼性を維持することに成功しています。
③「Tracified」の実際の活用事例
3-1.日本酒「閃光(せんこう)」
22年11月18日にTracifiedは、山形県酒田市に本社を構える国内の酒蔵、楯の川酒造株式会社が11月10日から発売をスタートしている日本酒「閃光(せんこう)」について、原材料の調達から生産までの「トレーサビリティ」を証明する取り組みを開始したことを明らかにしました。
楯の川酒造は、1832年の創業からこれまで徹底した「品質」の追求を行ってきており、日本国内における「酒」、「食」、「農」文化の発展に大いに寄与してきました。そして今回、楯の川酒造が拘っている「品質」に対する責任を、消費者に向けてより分かりやすい形で明示したいという思いから、ブロックチェーン・テクノロジーを駆使したTracifiedの導入を決定したということです。
今回トレーサビリティの対象となった「閃光」は、楯の川酒造が展開している新しい日本酒の時代をつくり、新たなる価値を見出すブランド「SAKERISE(サケライズ)」の一つとして販売されている商品となっています。
楯の川酒造では、このTracifiedサービスを利用することによって、「商品の品質」および「社会施行に関する事実」を改ざんが極めて困難な方法で記録し、証明することが可能になるとしており、品質に対する自身の責任を明確に提示できると説明しています。また、Tracifiedサービスによって消費者の信頼性のさらなる向上につなげるほか、商品の予期せぬリスクに対してより迅速な対応を講じることも可能になるということで、危機管理という面においてもプラスになると語っています。
なお、具体的な利用方法については、「閃光」を購入した消費者が閃光のラベルに表示されているQRコードにスマートフォンをかざして読み込むことで、酒米の生産から実際に閃光が出来上がるまでの一連の記録を、簡単に確認できます。
このように、Tracifiedを活用することによって、消費者は簡単に閃光の高い品質についての詳しい内容を自身の目で確認できるのです。
④「Tracified」の今後の展開
4-1.対応範囲の拡大
Tracifiedは今後の展開として、ソリューションを「食」の領域から「フェアトレード」の領域へと拡張していく方針を示しています。具体的には、トレーサビリティプラットフォームである「Tracified」と、独自に開発したデジタルツインNFTである「®Cross Reality Token」を適用することで、Eコマースを駆使して宝石のフェアトレードを実現する「RURI.shop」を開設するということです。なお、RURIはこれから「ソーシャルベンチャー」として事業化が進められていく予定となっています。
現在、宝石のサプライチェーンは国境を跨いだ比較的複雑なものとなっていますが、Tracifiedではそれを原産地から透明化することによって、消費者の真の幸福と社会的インパクトを創り出すことを目指しています。
Tracifiedでは今後、ソリューションを「食」の領域から「フェアトレード」や「カーボンニュートラル」などといった「SDGs(持続可能な開発目標)」の分野へと拡張することを目指しており、これによってさらなる社会課題の解決や国内経済の活性化に貢献していきたいということです。
⑤まとめ
ブロックチェーンプラットフォーム「Tracified」はブロックチェーンをベースとする独自のトレーサビリティ技術によって、さまざまな領域における製品の「本物」の品質を証明するためのサービスを提供しています。近年特にトレーサビリティに対する需要が高まっている中、企業はTracifiedを導入することで、社内および社外で相乗的にブランドを強化することが可能となっています。Tracifiedは現在すでに日本酒「閃光(せんこう)」で用いられており、今後は食の領域に留まらず、SDGsの分野へとその対応範囲を拡大していきたいとしているため、引き続きその動向に注目していきたいと思います。
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