NFTマーケットプレイスの「ヴァンパイアアタック」まとめ
今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の太田航志 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
本記事ではNFTマーケットプレイスにおけるヴァンパイアアタックについて、いくつかの具体例を踏まえながらその理解を深めます。
ヴァンパイアアタックは、SushiswapによるUniswapへの事例を皮切りに、一気に類似の新興プロジェクトによるユーザー獲得の手段として一般的になりました。NFTマーケットプレイスの分野においても、王者OpenSeaに対して複数回ヴァンパイアアタックが仕掛けられており、 X2Y2やLooksRareなどはその成功例と数えて良いでしょう。
またNFTマーケットプレイスにおけるヴァンパイアアタックは新たなツールやプロジェクトを生み出す足がかりにもなっており、単純なユーザー獲得の手段として捉えるだけでは、その全体効果を理解できません。本記事では上記でも述べた通り、ヴァンパイアアタックについてその概要や事例、波及効果、問題点などについて詳しく解説します。
ヴァンパイアアタック概要
まずヴァンパイアアタックの概要について解説を進めたいと思います。ヴァンパイアアタックの始まりはDeFiにあり、特にDEXやレンディングなどでプロトコルの競合相手が当該のプロトコルから流動性を奪い取る戦略のことを指しています。
ヴァンパイアタックを戦略たらしめた例はSushiswapのUniswapに対する攻撃です。この例はSushiswapが、流動性提供に対するインセンティブとしてスワップ手数料以外にもガバナンストークンであるSUSHIを提供することでUniswapから当時およそ8億ドル(約880億円)もの流動性を引き抜くことに成功しています。つまりヴァンパイアアタックとは、なんらかの追加インセンティブにより元のプロジェクトからユーザーを獲得する戦略と表現できます。
NFTマーケットプレイスにおけるヴァンパイアアタック
ここからはNFTマーケットプレイスにおけるヴァンパイアアタックの具体例として、業界最大手のOpenSeaに対するLooksRareとX2Y2の取り組みを取り上げます。
事例①LooksRare
まずLooksRareによるOpenSeaに対するヴァンパイアアタックですが、基本的には上記で解説したSushiswapの例と同様です。
ただSushiswapは、Uniswapのフォークプロジェクトでありますが、LooksRareは独自のスマートコントラクトで開発されています。またSushiswapにおけるヴァンパイアアタックにおいてユーザーに対するインセンティブは独自トークンであるSUSHIトークンの分配のみですが、 LooksRareでは、エアドロップによる独自トークンの分配以外に、ユーザーを惹きつける様々な戦略を用意していました。
例えばLooksRareのユーザーは、LOOKSをステーキングしたり、プラットフォーム上でNFTを盛んに取引することで、さらに多くのトークンを稼ぐことができました。当時LooksRareはNFTの売買に対して2%の手数料を課していましたが、ユーザーがステーキングをすることでその手数料の100%を受け取ることができました。また、取引手数料に加えて追加のLOOKSも獲得が可能だったのです。実際にステーキングのAPRが数百から数千パーセントに及んでいた時期もあり、OpenSeaからのユーザーの奪取には十分すぎるインセンティブとして機能したことでしょう。実際にLooksRareの出来高を確認するとOpenSeaの2倍以上を記録したこともあります。
ではこの手法に問題点はないのでしょうか。それがいわゆるNFTのウォッシュトレードと呼ばれるものです。
先ほどLooksRareとOpenSeaの出来高を比較しましたが、一方LooksRareを使うユーザー数はOpenSeaのわずか十分の一にも満たないのです。少しづつカラクリが見えてきたでしょうか。つまりこの莫大なLooksRareの出来高は、インセンティブであるLOOKSを獲得するためにLooksRareを利用している少数のトレーダーによってもたらされたものなのです。つまり同一ユーザーによる実態のない売買が横行してしまったのです。
またこれだけ高いAPRでトークンを排出すれば、独自トークンであるLOOKSのインフレも急速に進行することが予想され、持続可能なインセンティブスキームであるとは言えません。したがってLooksRareの真価は、この極端な報酬の分配が終了した際に試されるものと考えられます。
事例②X2Y2
次の例は同じくNFTマーケットプレイスのX2Y2が昨年の2月にOpenSeaに対して仕掛けたヴァンパイアアタックについてです。こちらも、OpenSeaユーザーに独自トークンのエアドロップを実施したという点では類似していますが、上記で解説を加えたLooksRareとは異なる戦略をとっています。
まずX2Y2のエアドロップ対象ユーザーは、2022年1月以前にOpenSeaで取引したことのあるウォレットアドレスすべてがエアドロップの対象となりました。一方のLooksRareのエアドロップでは、2021年6月から12月までの半年間にOpenSeaで3ETH以上の取引を実行したウォレットアドレスだけが対象となっていました。
その他にもLooksRareで大きな課題となったウォッシュトレードへの対策として、ユーザーへのインセンティブをステーキングリワードのみに限定しています。また独自のトークンのプライベートセールなども基本的に実行されず、Uniswapで初期流動性提供(ILO)を行い、プロジェクトに必要な流動性を確保しています。
ヴァンパイアアタックによる波及効果
何かとネガティブな影響も取り沙汰されがちなヴァンパイアアタックですが、そのことが新しいNFTプロジェクトやツールを生み出したという側面についても確認します。
ヴァンパイアアタックの一応の成功やその他新興NFTプロジェクトの躍進により、特に有名NFTコレクションを中心にNFTの出品が複数のマーケットに分散するようになっています。するとNFTのコレクターにとっては、OpenSeaのフロア価格だけを確認するのでは不十分なほか、目当てのデザインのNFTを見つけられない可能性も懸念されます。
その解決策の1つとして提案されているのが、NFTアグリゲーターです。NFTアグリゲーターは複数のNFTマーケットプレイスでの出品状況をリアルタイムで収集し、各コレクションを一覧表示することで、ユーザーが各NFTマーケットプレイスを確認する手間を省きます。
まとめ
さて今回はNFTマーケットプレイスにおけるヴァンパイアアタックについて詳しい解説を行ってきました。ヴァンパイアアタックは決してNFTマーケットプレイスの分野に特有の事例ではありませんが、NFTマーケットプレイス間の競争を理解する上では、非常に重要な要素であると考えます。
直近では新興NFTマーケットプレイスのBlurがヴァンパイアアタックに近い手法でOpenSeaのユーザーを獲得しており、現にLookaRareやX2Y2では、及ぼなかった段階にまでOpenSeaとの激しい競争を繰り広げており、今後もその動向に注意が必要です。ただBlurの場合にはNFTロイヤリティを巡る問題など、複雑にその競争要因が挙げられるためヴァンパイアアタックという観点からだけではその全体像を把握できない恐れがあります。
またOpenSeaやUniswap側の視点に立てば、仮にヴァンパイアアタックを仕掛けられても、ユーザーを維持できるような、強固なコミュニティ、ネットワークのの形成が重要になっていくのではないかと考えられます。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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NFTマーケットプレイスの「ヴァンパイアアタック」まとめ