人口減少の日本でアパート経営をするメリット・デメリットは?エリア選び、リスク対策も

少子高齢化の影響から、日本の人口減少に歯止めがかかる様子はみられません。今後の不動産投資においては、日本の人口が減っていくことを前提として投資戦略を立てることが重要となってきています。

今回の記事では人口減少が進む日本において、アパート経営を行ううえでのメリット・デメリットや有効な対策などを紹介していきます。不動産投資の方向性としてアパート経営を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

  1. 日本では人口減少を前提として投資を考える必要がある
  2. 人口減少が不動産経営に与える3つの影響
    2-1.空室率の上昇による収支の悪化
    2-2.賃料と不動産価格の下落
    2-3.地域や立地によってばらつきが出る
  3. 人口減少社会でアパート経営をするときのメリット
    3-1.空室リスクが分散される
    3-2.不動産価格の下落に強い投資を実行しやすい
    3-3.他の物件との差別化の余地が大きい
    3-4.高齢化にマッチした物件にしやすい
  4. 人口減少社会でアパート経営をするときの注意点
    4-1.急速な人口減少が進む地域を選ぶリスクがある
    4-2.地域全体の需要が減少しているとリスク分散にならない
    4-3.これまでの傾向では価格上昇はマンションに劣る
  5. アパート経営を行ううえでの対策
    5-1.エリア選びが何よりも重要
    5-2.資金はできるだけ潤沢に確保
    5-3.空室リスク込みの実質利回りで判断
    5-4.出口まで想定した長期計画を立てる
    5-5.ダイバーシティを意識した経営
  6. まとめ

1 日本では人口減少を前提として投資を考える必要がある

日本では少子高齢化が社会問題となっています。以前より少子高齢化は人口減少につながっていくと想定されていましたが、2020年前後からこの懸念が現実のものとなり、日本は人口減少の社会に変化してきています。

日本の人口推移と今後の推計値

※出典:国土交通省「我が国経済とこれを取り巻く環境」2015年までの人口推移および2025年以降の推計値、出典:厚生労働省「我が国の人口について」2020年の人口

今後の日本は2040年代の後半~2050年代に1億人を割り込む予想です。2023年時点、この傾向を止めて日本の人口を再び増加傾向に変える政策はなく、投資・ビジネスなどにおいても、人口減少を前提に戦略を立てていくことが大切です。

個人投資家においては賃貸物件を活用した不動産経営が盛んにおこなわれています。住宅の賃貸需要は人口動態の影響を大きく受けるため、個人の不動産経営においては、とりわけ人口減少を意識して対策を取る必要があります。

2 人口減少が不動産経営に与える3つの影響

人口の減少は、賃貸需要の減退による経営悪化や、不動産価格の下落などの要因となります。

現在の日本の地方での過疎化にみられるように、人口減少は一様に進むわけではありません。人口減少の地域差が不動産経営に与える影響も考えておきましょう。

2-1 空室率の上昇による収支の悪化

人口減少が進めば、それだけ日本全体の賃貸需要は減少します。そのなかで物件供給数が変わらなければ、入居者獲得が難しくなり、空室率が上昇します。

空室率の上昇は、不動産経営における収支の悪化要因となることから、空室率を下げる工夫や空室率を保守的に見積もる手堅い経営が重要になるでしょう。

2-2 賃料と不動産価格の下落

空室リスクが上昇すれば、その地域の不動産への魅力が低下します。より安い賃料でなければ入居者を得られなくなることから、賃料の下落につながる恐れがあります。

地域の魅力が低下すれば、地価や物件の資産価値も低下する可能性が高まります。

不動産価格の値上がり益を前提とした投資は難しくなるため、賃料収入で安定的に収益を得られる経営手法を考えることが、より重要になります。

2-3 地域や立地によってばらつきが出る

日本全体で「人口減少」といってもすべての地域で一様に人口減少が進むわけではなく、人口流入が当面続く地域、すでに限界集落・消滅集落になってしまっている地域と、状況は様々です。

都道府県や市町村といった大きな枠組みでもばらつきがでますが、例えば沿線や路線網の変化、物件所在地およびその周辺での再開発の有無、大型の商業施設やランドマークの建設・撤退なども人口動態や賃貸需要に大きな影響を与えます。より狭い範囲でも賃貸需要の地域格差を生み出す要因となるでしょう。

これらの地域や立地の現状と将来の見通しを立てたうえで、物件選びや不動産経営の方針を立てることが大切です。堅実な戦略としては都市部で物件の付加価値が高く、当面は豊富な賃貸需要が見込める物件で経営をおこなうこととなります。

一方で、地方ですでに人口減少が進む地域で割安な価格で物件を獲得し、独自の戦略で高収益を狙う方法もあります。その場合には、隠れた優良物件を安く仕入れるための業者とのリレーション構築が重要です。また、物件の魅力を高めるための差別化戦略を検討する必要があるでしょう。

3 人口減少社会でアパート経営をするときのメリット

ここまで紹介した人口減少の影響をふまえて、アパートを選ぶメリットを考えていきましょう。空室リスクを分散することにより賃料収入を安定化できるなど、アパートは今後の日本社会において不動産経営を営むことをふまえたときのメリットが複数存在します。

3-1 空室リスクが分散される

アパートで賃貸経営をおこなう場合は一棟保有するケースが大半となり、一つの物件を所有するだけで複数の区画を賃貸に出すことが可能です。そのうち一つが空室になったとしても、ほかの区画に入居者がいれば、一定の賃料収入を維持できます。

区分マンションや戸建てで投資をしていた場合は、その区画の入居者がいなければたちまち賃料収入がゼロになります。物件単位で見たとき、アパートの方が空室リスクに対する分散が働くといえるでしょう。

3-2 不動産価格の下落に強い投資を実行しやすい

アパートの一棟投資では、基本的には月々の収支をプラスで推移させるスキームで投資をおこないます。長期にわたり投資を継続すれば賃料収入が積みあがっていきます。

経営が順調であれば、売却時には残債さえ処分できれば投資期間全体の収支は充分にプラスになる可能性もあるでしょう。残債はローン返済とともに減っていくため、売却価格が購入価格より低くても、残債を返済できる水準であれば問題ないということになります。

区分マンションなどではキャッシュフローがきわめて少ない、もしくは月々のキャッシュフローが赤字のスキームがしばしばみられます。この場合は、ローン完済まで数十年持ち続けるか、価格が高いタイミングでマイナス分をカバーする価格で売却できなければなりません。

最終的には物件選びや自己資金の比率などにもよりますが、アパートの方が相対的に不動産価格の下落リスクに強い投資スキームを検討しやすいでしょう。

3-3 他の物件との差別化の余地が大きい

アパート経営では建物とその土地すべてがオーナーの所有となります。(ただし土地については借地権方式の場合もあります)区画内については、建築基準法など法制度を遵守する限りにおいて自由にオーナーが修繕や工事を行うことができます。

省エネ対策やバリアフリー、防犯対策や最新設備の導入、駐車場の設置など、その地域の賃貸ニーズを踏まえてオーナーが物件をリフォーム、リノベーションすることで付加価値を高めることが可能です。ニーズをうまくとらえれば、地方でも旺盛な賃貸需要を集められる可能性もあるでしょう。

その点、区分マンションでは一室の所有権しかないため、共用部分については自分でリフォームできません。それだけ、付加価値を高めるためにできることは限られてしまいます。

3-4 高齢化にマッチした物件にしやすい

多くのアパート物件はマンションより低層です。一階部分は区画の入り口との距離が近く、出入りがしやすい傾向にあります。段差をなくす、手すりをつけるなどバリアフリー対策を行えば、高齢者の一人暮らしや高齢者同士の同居でも暮らしやすい物件を提供できるでしょう。

費用はかかりますが、複数区画をリノベーションで繋げて家族と高齢者が同居できる区画を設置することも可能です。アパートが建つ地域の賃貸需要や人口動態をみて、その方が需要が見込めそうならば検討してみましょう。

戸建て投資でも物件の構造によっては同様のメリットが期待できます。一方で、区分マンションの場合は低層階で投資するくらいしか手だてがありません。低層でもエントランスから部屋までの距離が遠いと高齢者にとって負担になる場合もあるので、小規模な物件を探す必要があります。

区分マンションの物件はワンルームが多いため、需要を見て家族が同居できる物件にするなどの大胆な対策は取れないでしょう。アパートの方が高齢者にやさしい住宅を供給する余地は大きいといえます。

【関連記事】高齢者を受け入れる不動産投資のポイントは?自治体のサポート事例も

4 人口減少社会でアパート経営をするときの注意点

アパートは都心部の供給が少ないため、立地選びに失敗すると人口減少の影響を大きく受ける可能性もあります。地域全体の賃貸需要が沈滞すると空室リスクの分散効果が働かない点にも留意が必要です。また、過去の価格推移としてはマンションの方が価格が堅調だったという点にも留意しましょう。

4-1 急速な人口減少が進む地域を選ぶリスクがある

アパートはタワーマンションなどと比べると都心部に少なく、また郊外に多い傾向にあります。また、地方都市になるとマンションよりもアパートが多くなるでしょう。

地域差はあるものの、現時点で人口密集地の方が当面は人口が維持され、賃貸需要も高いと期待されます。たとえば東京都心部は2023年時点でも旺盛な流入があることから、地方から転居してきた人の入居需要が多いと想定されます。

これに対して郊外についてはアクセスが悪かったり、その地域全体の経済の衰退が加速していたりすると、人口減少がより早く進む恐れもあります。物件の立地選びには慎重を期し、長期にわたって安定した需要を獲得できる地域を選ぶようにしましょう。

4-2 地域全体の需要が減少しているとリスク分散にならない

メリットのところで紹介した空室リスクの分散は、その地域の賃貸需要が豊富である時に働きます。発生した空室を短期間のうちに埋めることができるからこそ、複数区画を持つことによる分散効果が働くのです。

そもそもエリア全体の賃貸需要が少なく空室を埋めるのが困難な地域では、一か所で複数の区画を所有していても空室率が高くなるので収益のリスク低下につながりません。むしろ多数の区画が空室になって収支が大幅に悪化するリスクもあるため、注意が必要です。

4-3 これまでの傾向では価格上昇はマンションに劣る

2008年末以降の東京の不動産価格の推移は次の通りです。

東京の不動産価格推移(季節調整値)


出典:国土交通省「不動産価格指数(住宅)

こちらの指数ではアパートは戸建住宅に含まれます。過去15年ほどの期間で見れば、アパートはマンションよりも価格上昇で出遅れていたといえます。このような価格傾向をうまくとらえることができたなら、区分マンション投資の方が売却益の獲得が期待できます。

人口減少は長期的に見れば不動産価格の下落要因となると想定されますが、その影響の大きさには地域差や物件タイプによる差が大きく出ると考えられます。

今後もこのトレンドが変わらず都市部のマンション価格が高止まりした場合には、区分マンション投資で価格収益を狙ったほうが投資効果が高いという結果になる可能性もあります。

5 アパート経営を行ううえでの対策

ここまでのメリット・注意点をふまえて、アパート投資をうまくおこなうための対策について紹介します。次のポイントをおさえて、自分の投資スタンスにあったアパート経営を実現させてください。

5-1 エリア選びが何よりも重要

アパート経営においては何よりもまずエリア選びが重要です。少なくとも賃貸需要が将来数十年にわたって期待できるエリアを厳選しましょう。

初心者の場合は都心部へのアクセスがよく、また周辺環境の利便性の良い地域を選ぶのがよいでしょう。

アパート経営で多く見られるワンルームの場合は独身の大学生か会社員がおもな入居ターゲット層となります。駅から近くかつその駅がオフィス街などの都心部に行きやすい、駅の周りもしくは住居の近くに商業施設や医療施設など生活に必要な施設があるといった条件を満たす物件は賃貸需要が期待できます。

ここでいう「都心部」は東京・大阪・名古屋の三大都市圏が候補となりますが、福岡・札幌・仙台なども賃貸需要を見込みやすいエリアが見つけられるでしょう。

さらにリスクを取る場合には地方物件を探すのも一つの選択肢です。地方の物件は空き家化していたり、そもそも地価が安かったりして、安価で仕入れられる場合があります。元値が安い分、低い賃料でも高利回りが狙える可能性もあります。

リノベーションなどで物件の付加価値を高めるノウハウを持つ方であれば、物件本体の魅力で入居者を呼び込むことも可能です。

ただし、そもそも賃貸需要が全くない地域で経営をするのは困難です。「価格は安いし人口減少も進むが創意工夫次第で客をつけられる」などのような適度なエリアを見つける力が求められるため、相対的に難易度の高い投資方法といえるでしょう。

5-2 資金はできるだけ潤沢に確保

アパート経営は堅実な資金計画のもと実行するのが特に重要です。自己資金が低いと物件の規模に対して収益が低くなるため、空室が発生したときにたちまち赤字化してしまいます。

人口減少のペースや影響度合いには不確実性を伴うため、当初想定より空室が多くなっても収支を維持できるよう、潤沢なキャッシュフローが期待できるスキームを組みましょう。そのためには、自己資金額と物件価格、ローンの条件などを慎重に精査する必要があります。

また、一棟で投資をおこなう分、将来の修繕費用が高額化する恐れも。人口減少に対応するために大規模なリノベーションを行う可能性もあります。投資開始時に支払う自己資金だけでなく、手元の資金も潤沢に残しておくことが大切です。

5-3 空室リスク込みの実質利回りで判断

投資収益を考えるとき、特にアパート経営においては表面利回りや満室を前提とした利回りで判断するのは適切ではない可能性があります。

賃貸経営において空室はほぼ必ず発生します。すなわち将来どこかのタイミングでは、どこかの区画の賃料収入が途切れる時期を想定しておくことが大切です。人口減少のさなかで堅実にアパート経営をおこなうためには、空室リスクを保守的に見積もって収益性を把握する必要があります。

また、アパートは区分マンションと比べて共有部分があり、物件の規模も(所有している部分で見ると)大きいため、管理費用が高くつきます。表面利回りが高くとも、管理費用や空室リスクを加味すると魅力が薄い物件である可能性も存在するため、保守的な利回りで収益性を評価しましょう。

5-4 出口まで想定した長期計画を立てる

不動産投資に精通し、多数物件の運用経験がある方の場合は、不動産の売却・処分など出口戦略を明確化したうえで投資を開始します。初心者の方にとって出口戦略を厳格に決めるのは難しい作業ですが、少なくとも投資期間やローンの支払期間、減価償却や修繕などを盛り込んだ長期的な計画を立てておきましょう。

アパート経営では修繕の規模が大きくなるため、修繕に向けた資金確保が重要に。また、減価償却前後で収支状況が大きく変わる場合があるため、経営を続けられるよう保守的な計画を立てておく必要があります。

さらに、自分の年齢も考えておきましょう。65歳を超えてなおローン返済が続くようなスキームはリスクが高いといえます。退職金で完済してしまうか、そのまえに売却する選択肢も念頭においてみましょう。売却する場合には、どの程度値下がりしても投資全体の収支をプラスに維持できるか把握することも重要です。

5-5 ダイバーシティを意識した経営

人口減少するなかでは、さまざまな人にとって住みやすい「ダイバーシティ」を意識した経営をおこなうことも有効な対策となります。

高齢者の方や障害者の方でも住みやすいバリアフリーに配慮した物件とすることで、入居需要を捉えるチャンスが拡大します。そのほか、防犯性を高めるなどの工夫により女性に人気の物件にする方法もあるでしょう。

今後は日本人が減少する代わりに、外国人の流入が更に積極化する可能性があります。外国人の居住が多い地域でアパート経営をするのであれば、外国人に対応した物件および物件管理をおこなうことで、人口減少の影響を緩和できます。


【関連記事】不動産経営で注目される「ダイバーシティ」の取り組みは?5つの視点から解説

まとめ

将来の政策変化や環境変化が起こらない限り、日本の人口減少は止まらない可能性が高いと見られます。不動産経営においては人口減少を前提に戦略を立てることが重要です。

人口減少の世の中においてアパート経営はリスクが高い印象を持つ方もいますが、健全な経営を心がければ必ずしもその印象は当てはまりません。毎月プラスのキャッシュフローを見込めるできるスキームであれば、不動産価格の上昇を捉える必要がないため、長期にわたり堅実な経営をおこなうことも可能です。

立地選びや資金管理、長期計画の策定などに注意を払って、人口減少に対応できるアパート経営を心がけましょう。

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