炭素税とは何か?導入している国々と目的とは

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 炭素税とは
    1-1.炭素税の概要
    1-2.炭素税の必要性
  2. 炭素税導入の利点
  3. フィンランドの炭素税をめぐる動き
    3-1.取り組み内容
    3-2.フィンランドの炭素税の目的
  4. スウェーデンの炭素税をめぐる動き
    4-1.取り組み内容
    4-2.炭素税導入の目的
  5. スイスの炭素税をめぐる動き
    5-1.取り組み内容
    5-2.炭素税導入の目的
  6. まとめ

近年、多くの国が気候変動への対応を強化しています。その中で、注目されている政策の一つが「炭素税」です。

炭素税の歴史を振り返ると、1990年にフィンランドが先駆けて導入したことから、欧州諸国を中心に、スウェーデン、フランス、イギリス、ドイツなどで次々と採用されてきました。日本においても2012年に導入されているものの、他国と比べて低税率であるため再検討されています。

この記事では、炭素税の概要や、採用している国々、そしてその目的について深掘りしていきたいと思います。

1. 炭素税とは

1-1. 炭素税の概要

炭素税は、環境への影響を考慮し、環境保護の取り組みを後押しするための環境税の一種です。具体的には、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出源となる化石燃料や電気の使用に対して、企業や個人に課される税金として位置づけられています。

この税金の主な目的は、「化石燃料の使用やそれを基にした製品の価格を上昇させ、その結果としてその需要を減少させる」ことで、温室効果ガスの排出量の削減を図ることです。これは、急速に進行している気候変動問題への対策として世界的に重要視されています。

さらに、炭素税は「カーボンプライシング」という考え方の中の一つの手法としても認識されています。カーボンプライシングは、企業が排出する炭素に具体的な価格を設定し、その価格を通じて排出行動を変化させることで、温室効果ガスの総排出量を制限する政策アプローチを指します。

カーボンプライシングの導入が全世界で盛んになっている中、日本も遅れを取らず、2023年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。その後、5月12日には「GX推進法」という、脱炭素を目指す経済構造へのスムーズな移行をサポートする法律も成立しました。この動きは、日本国内での環境対策の取り組みがさらに加速していることを示しています。

炭素税のメリットは、環境に配慮した企業や個人が恩恵を受ける一方で、温室効果ガスの排出削減に努めない企業や個人はそれ相応の負担を受ける、という公平なシステムになっています。

1-2. 炭素税の必要性

気候変動問題の深刻化を背景に、炭素税の導入が各国で検討されるようになりました。

専門家の予測によると、現在の進行を放置すると、2100年までに地球の平均気温は5.8度も上昇するとされています。これがもたらす洪水、干ばつ、生態系の変動などの影響は計り知れません。

このような状況を前に、世界中で気候変動への対策が急がれています。過去には、1997年に京都で行われた「国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で「京都議定書」が採択されたり、2015年にはフランス・パリで開催された「国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)」で「パリ協定」が採択されるなど、国際的に協力し合って取り組みが進められてきました。

実際、京都議定書やパリ協定をはじめとする国際的な取り決めでは、参加する各国が自らの温室効果ガス排出削減目標を定めて取り組んでいます。日本もパリ協定においては「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で26%削減する」という明確な目標を掲げて取り組んでいます。

脱炭素化に向けた世界的な流れの中で、炭素税は企業や市民の環境意識を高めるための効果的な手段として注目されています。そして、各国での導入がこの削減目標達成の重要な手段として進められています。

日本でも2012年10月より「地球温暖化対策のための税」として実際に炭素税の導入が始まりました。この税は化石燃料の利用に伴う環境への影響を基に税金が課され、収益はクリーンエネルギーの導入や省エネルギー技術の発展など、新しいエネルギー分野への投資に充てられています。

しかしながら、すでに炭素税を導入している欧州諸国と比較すると、日本の税率(289円/tCO2)は10分の1にも満たない低さになっているという現状があります。

(出典)平成29年7月環境省「諸外国における炭素税等の導入状況」

この点について、環境省は税率の見直しや新しい炭素税の導入が必要との意見を示しており、具体的な方針の検討が進められています。

2. 炭素税導入の利点

1.環境保護と気候変動対策
炭素税導入の最大のメリットは、温室効果ガス排出の抑制とそれに伴う気候変動への対策を強化できる点にあります。地球温暖化の進行とともに様々な環境問題が深刻化していますが、炭素税の導入により、市民や企業の環境への取り組みを促進し、行動変容を実現することが期待されています。

炭素税導入の最大のメリットは、温室効果ガス排出の抑制とそれに伴う気候変動への対策を強化できる点にあります。地球温暖化の進行とともに様々な環境問題が深刻化していますが、炭素税の導入により、市民や企業の環境への取り組みを促進し、行動変容を実現することが期待されています。

2.クリーンエネルギーへの転換促進
炭素税は、温室効果ガスの排出量に応じて課税されるため、企業にとっては排出を削減することが経済的なメリットとなります。その結果、企業は税金の負担を軽減するため、クリーンエネルギーへの移行を進め、低炭素の技術やエネルギーへの投資が増加することが予想されます。

3.イノベーションと技術発展の推進
政府は炭素税による税収を増やすことができます。その収益を新しい技術の研究開発やイノベーションのサポートに活用することで、企業はさらなる脱炭素への取り組みを推進しやすくなります。特に、クリーンエネルギーやエコ技術の開発が活性化されることが期待されています。炭素税の導入は、持続可能な社会への変革だけでなく、技術革新の加速にも寄与すると考えられています。

4.省エネルギー製品のさらなる普及
近年、エアコンや冷蔵庫などの家電製品は省エネ化の波に乗っています。多くの企業が、環境への配慮をしつつ、快適さを追求する製品を開発しています。

しかし、どれだけ優れた環境性能を持つ製品でも、それを購入し利用しなければ、温室効果ガスの削減にはつながりません。ここで炭素税の役割が浮き彫りになります。炭素税の導入は、人々が省エネ製品に変えるインセンティブを提供するとともに、その普及を促進する可能性があります。

大きな企業が環境対策を進めることはもちろん重要ですが、消費者一人ひとりが環境への意識を持ち、行動を変えることで、真の脱炭素社会への道が開かれるでしょう。

このように、炭素税は大企業だけでなく、私たち一人ひとりにも関わる重要なテーマとして捉えられています。

さて、次の節では、炭素税を導入している国の具体的な取り組みにフォーカスし、フィンランドを例にその概要や狙いを解説します。

3. フィンランドの炭素税をめぐる動き

3-1. 取り組み内容

フィンランドは1990年に、世界で初めて炭素税を導入した国として注目されています。

フィンランドでは、特に暖房や交通に関連する化石燃料の消費に炭素税が適用されています。2017年の税率は7,880円/tCO2(当時のレートで62EUR)と設定されており、税収は1,702億円に達しています。

具体的な減税や免税措置は以下のようになっています。

・石油の精製、原料としての使用、航空や海上輸送(一般の個人利用を除く)、発電燃料は免税。
・CHP(熱電併給システム)には減税が適用される。
・バイオ燃料は、その含有量に比例して減税が認められる。
・エネルギーを大量に使用する産業には、税金の還付が行われる。

3-2. フィンランドの炭素税の目的

フィンランドが炭素税を導入した背景には、所得税の軽減や、企業の社会保障費の削減による税収減を補填する目的がある。事実、1997年と2011年の税制改革を通じて、これらの目的への取り組みが明確にされています。

また、この税制により、1990年から2015年の25年間で、約22%の二酸化炭素排出量を減少させる成果を上げています。この実績は、フィンランドが脱炭素化に向けた取り組みを真摯に進めていることの証と言えるでしょう。

4. スウェーデンの炭素税をめぐる動き

4-1. 取り組み内容

1991年、スウェーデンはフィンランドに次ぐ炭素税の導入国として注目を集めました。スウェーデンの炭素税は、暖房および輸送用の化石燃料消費に重点を置いて課税され、2017年の税率は1トン当たり15,130円(119EUR)と設定されていました。この税率は世界でも高い部類に入り、2016年の税収は3,237億円に上りました。

高い税率は企業経営に負担をもたらす可能性があるため、スウェーデン政府は法人税の大きな軽減を伴う形で炭素税を導入しました。これにより、税収と企業の経営の間のバランスが維持されています。さらに、2001年から2004年に税率が引き上げられた際、低所得者層の税負担軽減も図られました。このような取り組みのおかげで、スウェーデンは1990年から2015年の25年で約29%の二酸化炭素排出削減を達成しています。

スウェーデンの炭素税制度の中で、以下の減免措置が設けられています。
・EU-ETS(欧州域内排出量取引制度)対象企業、発電用燃料や原材料利用は免税とされ、CHPも同様に免税。
・EU-ETS非対象企業には一時期軽減税率が設定されていたが、2018年には通常の税率に統一されました。

4-2. 炭素税導入の目的

スウェーデンが炭素税を採用した背景としては、1980年代後半の高所得税率に起因する勤労意欲の減少や貯蓄の阻害といった問題が指摘されていました。これを解決するため、1991年に「世紀の大改革」とも称される大きな税制改革を実施、その補填として環境に配慮した間接税(炭素税、硫黄税、窒素酸化物課徴金)を新たに導入しました。

この方式により、スウェーデンは他の税金とのバランスを取りつつ、温室効果ガスの排出を抑制する目的を持った炭素税を導入しました。そして、その高い税率により、脱炭素化を推進する国としての姿勢を明確にしています。

5. スイスの炭素税をめぐる動き

5-1. 取り組み内容

2008年にスイスも炭素税の導入に踏み切りました。最初の段階では、輸送用燃料を除く部門に1,400円/tCO2(12CHF)の炭素税が設定されました。この税率は2017年までに約7倍に増加しました。また、2015年の税収は1,171億円に達しており、この収益の約三分の一は建築物の改修や技術革新のための基金に回され、残りの三分の二は国民や企業へ還元される仕組みが採用されています。

具体的な減免措置には、以下のようなものがあります。
・ 国内ETS参加企業には炭素税が免除されます。
・ 環境への貢献を約束する協定を政府と結んだ企業には減税が適用されます。
・ 輸送用のガソリンや軽油は炭素税の対象外とされています。

5-2. 炭素税導入の目的

スイスの炭素税導入は、温室効果ガスの排出を抑えることを主な目的としています。スイスは2030年までに1990年と比べて温室効果ガスの排出を半減させるという目標を立てており、この目的を達成する手段の一つとして炭素税が位置づけられています。更に、国際的な協力の一環として、ペルー政府と「カーボン・オフセット協定」を結ぶなど、パリ協定の枠組みの中での取り組みも行っています。

第6条においては、国際的に取引されるカーボンクレジットを排出削減目標として活用する際のルールが定められています。この中で、環境保全と透明性を確保し、二重計上を避けることが重要とされています。カーボン・オフセット協定は、この条文に基づいて合意され、世界で初めての協定となりました。

その後、スイスはガーナやセネガル、ジョージアなど複数の国とこのような協定を結びました。また、「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、バヌアツやドミニカ共和国とも新たに協定を締結しました。

スイスは国際的に連携を取りながら、カーボンニュートラルを目指すための積極的な取り組みを進めています。

6. まとめ

炭素税とは、温室効果ガスの排出に伴い企業や個人に課される税金のことを指し、気候変動問題の解決策として注目されています。

炭素税の導入は、フィンランドを皮切りに、ヨーロッパ諸国で広がってきました。また、日本では2012年10月から「地球温暖化対策のための税」として、炭素税相当の税制が始まっています。ただ、日本の税率はヨーロッパの国々と比較すると低めであり、今後の増税や新しい炭素税の導入が環境省で検討されています。

多くの国がカーボンニュートラルの実現に向けて動いている中、炭素税は有効な手段とされています。ヨーロッパの成功例を学び、私たち一人一人が環境問題に真摯に向き合い、温室効果ガス削減の意識を高めることが必要です。

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