EUタクソノミー規制とは?日本の経済に与える影響や現在の課題も
EUタクソノミー規制は、EUが2050年までにカーボンニュートラルを達成するために設けられた基準です。EU域内で事業を営む企業は、EUタクソノミー規制に準拠し、かつ準拠状況に関する情報開示などを行う必要があります。
日本企業でも、EU域内に子会社などがあれば今後対応を迫られることになります。また、取引先や資金調達先など利害関係者にEUの企業があれば、利害関係者がEUタクソノミー規制ヘの配慮を求めるケースも想定されます。この記事では、EUタクソノミー規制の概要と日本経済への影響および今後の課題についてまとめました。
目次
- EUタクソノミー規制とは?
1-1.EUタクソノミー規制の基本的な仕組み
1-2.EUタクソノミー規制の大枠のルール
1-3.EUタクソノミー規制の環境目的
1-4.EUのさまざまなステークホルダーが準拠を求められる - EUタクソノミー規制の日本経済への影響
2-1.EUで事業展開する企業は対応が急務に
2-2.ステークホルダーが準拠を求める可能性も
2-3.EU外でもタクソノミーの活用や規制強化が進む可能性 - EUタクソノミー規制への準拠を見据えた課題
- まとめ
1 EUタクソノミー規制とは?
EUタクソノミー規制は2020年に発効となった「持続可能な投資の促進のための枠組み」に関してまとめられた「EU規則2020/852」を根拠にして整備が進められている規制です。
「EU規則2020/852」では「経済活動が環境的に持続可能かどうかを判断する基準を確立」することが定められています。この「基準」として整備されたのが今回紹介するEUタクソノミー規制です。
EUタクソノミー規制は、2021年4月に一部の項目の基準が公表され、さらに2023年6月に追加部分の基準が定められています。
1-1 EUタクソノミー規制の基本的な仕組み
EUタクソノミー規制は、EU規則 2020/852の枠組みのもと「EUの2050年のカーボンニュートラル目標に貢献する事業」として認められるための基準です。
欧州では2021年に採択された「欧州気候法」において、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた進捗管理や施策などが進められています。EUタクソノミー規制は、実質的に欧州気候法の枠組みに合致しているかを判断するための基準として機能しています。
今後、欧州で円滑にビジネスを展開したり、資金調達をしたりするうえではEUタクソノミー規制を遵守する必要があるのです。
1-2 EUタクソノミー規制の大枠のルール
EUタクソノミー規制を充足するためには、まず次の大枠の基準を達成する必要があります。
- 1つ以上の環境目的に貢献
- 他の環境目的を著しく阻害しない
- ミニマムセーフガード
出所:電力中央研究所「EU規則2020/852に基づく「EUタクソノミー」の確立―スクリーニング基準を定めた2つの委員会委任規則の分析―」、JETRO「欧州委、環境目標のタクソノミー基準規定する法案などの政策パッケージ発表」
この「環境目的」は6つの枠組みで整理されていて、2021年~2023年にかけて各環境目的の詳細な基準の整備が進められています。また、ミニマムセーフガードは次のような項目です。
- OECD多国籍企業行動指針
- 国連ビジネスと人権に関する指導原則
- 労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言
- 国際人権章典
出所:NORDEA「EU Taxonomy Minimum Safeguards: What are they and why do they matter?」
EUタクソノミー規制の主眼は環境保護や脱炭素社会の達成ですが、人権保護についても一定の遵守が必要との考え方です。ミニマムセーフガードは、人権保護の観点から遵守しなければならない項目となっています。
1-3 EUタクソノミー規制の6つの環境目的
EUタクソノミー規制に準拠するために「1つは充足」し、かつ「他を著しく阻害しない」ことを求められる6つの環境目的は次の通りです。
- 気候変動の緩和
- 気候変動への適応
- 水および海洋資源の持続可能な利用と保全
- 循環経済への移行
- 汚染の予防と管理
- 生物多様性および生態系の保全と回復
出所:電力中央研究所「EU規則2020/852に基づく「EUタクソノミー」の確立―スクリーニング基準を定めた2つの委員会委任規則の分析―」
このうち「気候変動の緩和」「気候変動への適応」については2021年~2022年にかけてすでに基準整備が進められていました。2023年の6月に、残り4つについても基準が定められています。
この基準は「技術的スクリーニング基準(TSC)」とよばれ、各基準ごとに事業のセクターや経済活動によって細かく定められています。たとえば、気候変動の緩和、気候変動への適応では19の経済セクター、119の経済活動でTSCが規定されています。
EUタクソノミー規制に準拠し、また情報開示を行う場合には、自社の業種や経済活動の内容をふまえて、該当する基準を達成して行く必要があります。
1-4 EUのさまざまなステークホルダーが準拠を求められる
次のステークホルダーは、EUタクソノミー規制への準拠が求められます。
EU加盟国政府およびEU
政府・EUが主導でサステナブルな金融商品に関する施策を出す際に、資金使途が「環境的な持続可能」かどうかをEUタクソノミー規制を基に評価します。
金融市場参加者(資産運用会社、投資商品提供者等)
サステナビリティに配慮した投資を行っていることを示すために、投資先のEUタクソノミー規制準拠率を計測し、情報開示等をする必要があります。
金融機関および事業会社
売上高に占めるEUタクソノミー規制準拠率やEUタクソノミー規制に準拠した活動への投資・出費などの情報開示が求められます。
以上のように、実質的にはEU域内で事業活動や資金調達を行ううえで準拠が必要な枠組みとなります。
2 EUタクソノミー規制の日本経済への影響
たとえ日系企業でも、欧州で事業を展開する企業を中心にEUタクソノミー規制への準拠や情報開示が必要となります。直接開示義務を受けない企業でも、投資先・取引先がEUタクソノミー規制を基に意思決定を行うようであれば、実質的に対応が求められる場合があります。
また、EU外のESG評価機関などがEUタクソノミー規制を参照してサステナビリティや環境へのインパクトを評価するようになれば、さらに多くの企業が対応を迫られる可能性もあります。
2-1 EUで事業展開する企業は対応が急務に
EUで事業展開する企業、特にEU域内に法人を設立している企業の場合は、今後EUタクソノミー規制への準拠率などに関する情報開示を求められる可能性が高いと考えられます。
EUでは、企業サステナビリティ報告指令案(CSRD)にて環境権、社会権、人権、ガバナンス要因などのサステナビリティに関する報告を義務づける企業の基準を設定しています。EUタクソノミー規制の準拠率も、CSRDの枠組みのもとで報告が求められる項目の一つです。
今後、CSRDはEU域内に子会社を持つ海外企業や、EU域内の売上が高い海外企業へ徐々に適用対象を広げていく予定で、日本企業であっても条件に合致すればEUタクソノミー規制に関する情報開示が必要になります。
開示した結果、準拠状況が劣後していると判断されればEU域内でのビジネスに大きな支障が出ると想定されます。欧州で事業を展開する企業は、早急にCSRDの該当有無を確認し、さらに将来開示が必要となる場合には準拠率を高める工夫を進めなければいけません。
2-2 ステークホルダーが準拠を求める可能性も
直接EU域内での事業を展開していなくとも、ステークホルダーの意識変化を通じて間接的な影響を受ける可能性が充分にあります。
たとえば、自社の取引先が欧州系の企業でCSRDの適用を受けるとなると、取引先は事業のEUタクソノミー規制への準拠率を開示しなければなりません。準拠率を高めるために、取引先にもEUタクソノミー規制への配慮を求める可能性があります。
また、企業に資金を投じている機関投資家(金融機関や資産運用会社など)の中には、欧州系だったり欧州で事業展開を行っていたりして、開示が義務づけられるケースが想定されます。
そういった機関投資家が自社に投融資を行っている場合は、投融資先のEUタクソノミー規制準拠率の開示を求められることから、自社にもEUタクソノミー規制への準拠を求めてくる可能性があるのです。
こうした要求に準拠しなければ、取引の縮小や資金の引き上げなどが発生する恐れがあることから、直接EUで事業を展開していなくとも、EUタクソノミー規制を想定した対応を求められるケースが増えると想定されます。
2-3 EU外でもタクソノミーの活用や規制強化が進む可能性
EUタクソノミー規制は、脱炭素化を達成するうえで充足すべきポイントがまとめられた基準となっており、ESG評価機関でも応用する動きが出ると想定されます。
また、EU外の国でも自国のタクソノミーを制定する動きがみられます。
EU外で進められるタクソノミー策定の動き
国 | 概要 |
---|---|
インド | インド証券取引委員会が、グリーンボンドの資金使途等で用いるための大まかな事業区分を公表。グリーン・ソーシャルタクソノミーを策定 |
オーストラリア | Australian Sustainable Finance Initiativeがオーストラリア版タクソノミー策定を提言 |
カナダ | カナダ規格協会(CSA)が、二酸化炭素の排出量が多い8業種を対象にトランジション基準案を策定 |
マレーシア | 銀行と保険分野の監督当局が、気候変動緩和・適応等を対象とするタクソノミーを作成 |
出所:環境省「国内外の政策等の動向について」
このように、グローバルに、カーボンニュートラル達成に向けた対応や情報開示の圧力がさらに高まると考えられます。EUと直接的な関わりがない日本企業においても、今後はサステナビリティへの配慮や透明性の高い情報開示が必要となるでしょう。
3 EUタクソノミー規制への準拠を見据えた課題
日本企業によるEUタクソノミー規制への準拠を考えたときには、次のような課題を乗り越えていかなければなりません。
- 開示義務の発生時期の情報収集
- 開示が必要なデータの収集
- 企業経営とのバランスを取りながら対策を推進
従来の情報開示を推進する枠組みだったNFRD(非財務及び多様性情報の開示に関する改正指令)適用企業に始まり、CSRDの適用対象企業の範囲は徐々に広がっていく予定です。
適用対象 | 適用時期 |
---|---|
NFRD適用企業 | 2024年1月以降始まる事業年度から |
NFRD適用外のEU域内大企業 | 2025年1月以降始まる事業年度から |
EU域内に上場する中小企業 | 2026年1月以降始まる事業年度から |
EU域外の企業 | 2028年1月以降始まる事業年度から |
参考:日本総研「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要および日本企業に求められる対応」
NFRD対象外の日系企業の場合は早ければ2025年以降、遅くとも2028年以降にEUタクソノミー規制準拠率などの開示が必要になります。まずは、いつから情報開示を義務づけられるのかを確認して、開示時期までに対策を進めなければなりません。
続いて、準拠率を開示するタイミングまでに開示に必要なデータを収集する必要があります。技術的スクリーニング基準(TSC)のなかから、自社が該当する業種や経済活動の基準を特定し、充足していかなければなりません。
EUタクソノミー規制は日本国内の基準ではないため、日系企業ではそもそも必要なデータを収集していないというケースも考えられます。企業によっては、データを収集するための設備投資や調査機関との契約締結などが必要になる場合もあるでしょう。
最後に、EUタクソノミー規制はEUが2050年に脱炭素化社会を達成するために推進される枠組みであり「企業の収益性向上」と結びつくとは限りません。
EUタクソノミー規制への配慮は、多くの企業にとって追加コストの発生要因となる可能性が高く、中長期にわたり収支を圧迫する可能性もあります。
収支圧迫により経営が立ち行かなくなってしまっては本末転倒なので、EUタクソノミー規制への準拠に必要なコストを正しく評価し、経営と両立しながら対策を進めるべく経営戦略を再構築する必要があります。
まとめ
EUタクソノミー規制はEU域内で施行される規制ですが、徐々にEU域内で事業展開するEU外企業にも適用されていく見通しです。また、直接は事業を行っていなくとも、投資家や取引先を通じて間接的に配慮を求められる可能性もあります。
EUタクソノミー規制を土台として、グローバルに脱炭素化社会の達成に向けた規制強化や開示義務の拡大が進むことも想定されます。日本企業においても、EUタクソノミー規制を一つの基準としながらカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを推進していく必要があります。
ただし、EUタクソノミー規制は脱炭素化社会を達成するために推進される枠組みであり、企業の収益性や価値を向上させたり、直接的に貢献するものではありません。日本経済への影響を案じるうえでは、企業経営とのバランスを取りながら経営が維持できる範囲内で早期から対策を進められるかどうかがポイントとなってくるでしょう。
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